災害派遣で被災地入りした自衛隊員の一番の「苦悩」とは?

日刊SPA!

2019/10/12 08:54

―[自衛隊ができない100のこと/小笠原理恵]―

その65 災害派遣で自衛隊が困っていること

◆災害派遣時の自衛隊員の「休養状況」は改善されたか?

令和元年も自衛隊は台風や豪雨、山林火災、はては豚コレラの対処にまで東奔西走しています。東日本大震災以降、自衛隊への災害派遣出動要請が一般化している様子は、防衛省の災害派遣ページの実績数でも一目瞭然です。度重なる災害派遣により、自衛隊が国民に信頼される好感度の高い組織になったことは間違いないでしょう。しかし、災害派遣に充てた時間の分だけ、自衛隊の本来やるべき訓練や演習の時間が削られていることは頭の隅に置いておかねばならないと思います。自衛隊はあくまでも国を守るための組織です。災害派遣への対処に感謝しつつ、その能力が損なわれないように予算や人員、法令の問題を監視したいものです。

以前、この連載で災害派遣時の自衛隊員が寝具もないところで雑魚寝をしている状況をリポートしましたが、その後、防衛閣僚や自衛隊TOPが動いて派遣自衛官の休息用に多数のエアマットが調達されました。夏場の災害派遣で熱中症を発症した現場もあったため、冷風機も購入されました。休養が取れる環境はかなり改善されつつあります。

インスタグラムやツイッターで、災害派遣で疲れ果てた自衛隊員が見えないところで休息している画像が話題となっています。「自衛隊さんに感謝です」とか「こんなに疲れ果てさせていいのだろうか」「感謝で涙が止まらない」といったコメントを見かけました。災害派遣時だけでなく、自衛隊員や警察官、消防、公務員などは、休息を取っていると非難され、時には通報されることすらあります。

自衛隊員も人間ですから、肉体作業が続いて疲れ果てると体が重くぐったりして、眠くなることもあるでしょう。冷房のない蒸し暑い自衛隊車両の中で汗だくになりながら眠っても疲れは取れません。疲れ果てた自衛官が人目のつかない日陰で休んでいるときは、どうかそっとしておいてあげてください。「サボってる!」と言わないでほしいです。

◆被災地入りして一番困るのは「トイレ問題」

エアマットが調達され災害派遣時の雑魚寝問題は改善されつつありますが、災害派遣から帰ってきたばかりの自衛官に「今、何が困りますか?」と聞いてみました。

ここでもトイレが問題となるようです。自衛隊は屋外設置型の簡易トイレを持っています。予算があれば簡易トイレをリースすることもできます。でも、移動しながら救助や捜索をする場合にはトイレを持ち歩けません。あの分厚い迷彩服を着たまんまの重労働ですから、水分は大量発汗で消え、「小」はほとんど出ないようです。しかし、「大」のほうは抑えられません。最近では「缶飯」は姿を消し、「パック飯」と呼ばれる「糧食Ⅱ型」のレトルトパウチ包装のご飯やおかずが支給されています。さらに野菜ジュースやカップ麺などの増加食もあります。肉体労働には高カロリーが必要なのでたくさん食べないと力が出ないのです。するとね。自然が呼ぶわけです……。え? 「大」ですよ。「大」。

迷彩服を着ているとそれだけで目立ちますから、被災者がいる避難場所やコンビニなどの商店で簡単にトイレを借りるわけにもいかないようです。

自衛隊や消防、警察、公務員などが災害派遣の現場で店に立ち寄ると、たちまち写真を撮られて「サボっている」と糾弾されます。結果、トイレ問題をどう処理しているのかを書くことは自粛しますが、困っていることは容易に想像できますよね。

「災害派遣で自衛隊は必要なものを自分で運んでくる」という神話がありますが、それは現地で気軽にコンビニに入ったりできないからです。買い物はできないから何もかも持ち歩かないといけないと自衛隊員は考えます。「バンドエイドがほしい」とか「靴下が汚れて替えが一つもない」というようなとき、コンビニで買い物したくても、人の目があるから我慢しているわけです。もちろん、地震や豪雨災害で交通インフラが完全に途絶えて、物資が不足するような被災地での買い物は遠慮すべきです。が、豚コレラや停電、断水の現場ではそういった物資は普通にあったはずです。そういうときは自衛官もコンビニに寄ってもいいのではないでしょうか? 疲れたときは甘いものがほしくなるんですよ。旧日本軍でももっとも喜ばれた補給物資は「ようかん」でした。スイーツを買えたら自衛官だって嬉しいと思いますよ。

そんな話をしていたところ、知り合いの娘さんが素敵なことを考えました! 自衛隊員側からトイレを貸してくれと言えないのなら、自衛官や働く制服公務員さんたちに向けて、「お気軽にお立ち寄りください」ポスターを貼ってはいかがでしょう! と。「制服での入店を歓迎します」と表示されている店なら、災害派遣で働く自衛官、警察、消防、公務員など人達が安心して買い物できます。これは被災地に限らず、全国どこの店舗でもやってほしいと思います。「制服で働く公務員たちを歓迎するお店ポスターがあったらどうかしら?」と現役自衛官に聞くと、「最高に嬉しいですよ! 被災地では買い物はできないからすべて準備させていますが、足らないものは必ずありますから、助かります!」と言っていました。

◆災害派遣時の高速道路とSAについて

自衛隊の大型車両には他の輸送用トラックなどと同様にタコメーターに速度制限装置がついています。80km/hオーバーするとその運転手は処分の対象になります。災害派遣時にはたくさんの自衛隊車両が一度に同じ方向に走行しますから、80km/hの速度でのろのろ走る長い車列には追い越しもかけにくく「イラッ」とするかもしれません。けれど、災害時の高速道路における自衛隊車列の法定速度運転にはそういう事情があることを理解してあげてください。この法定速度は今のところ「有事でも」守ることになっています。シンジラレナイ話ですが、法令遵守の自衛隊に法定速度を超えていいという法律はないのです。

SAでの休憩時、自衛隊車両は固まって駐車します。「集団で止めるな!」という抗議もありますが、これも自衛隊車両の警備のためです。こちらもご理解をお願いします。自衛隊はどんなときも法律や規則にガチガチに縛られているのです。

しかし、自衛隊に優しい人ももちろんいます。最近はSAで差し入れをいただいたという話も聞きます。災害派遣の撤収時に、現地の多くの人が涙を流してお見送りをする感動の動画も公開されています。厳しい人も温かい人もいます。もし厳しい(寛容でない)理由が自衛隊の事情をよく知らないということなら、この機会にぜひ知っていただきたいのです。被災地で復興、救助に働く人々の陰の頑張りに報いてあげられる優しい人、温かい社会でありたいと思います。

<取材・文/国防ジャーナリスト 小笠原理恵>

―[自衛隊ができない100のこと/小笠原理恵]―

【小笠原理恵】

国防ジャーナリスト。関西外語大卒業後、広告代理店勤務を経て、フリーライターとして活動を開始。2009年、ブログ「キラキラ星のブログ(【月夜のぴよこ】)」を開設し注目を集める。2014年からは自衛隊の待遇問題を考える「自衛官守る会」を主宰。自衛隊が抱えるさまざまな問題を国会に上げる地道な活動を行っている。月刊正論や月刊WiLL等のオピニオン誌にも寄稿。日刊SPA!の本連載で問題提起した基地内のトイレットペーパーの「自費負担問題」は国会でも取り上げられた。9月1日に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)を上梓

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

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