椎名桔平、“下剋上あり”園子温ワールドは「気が気じゃなくなる」

dwango.jp news

2019/10/12 07:00


その独創性から“鬼才”とも呼ばれる園子温監督が、Netflixにて全世界に向けて配信する『愛なき森で叫べ』。実際に起きたある猟奇殺人事件をベースにしながら、園自身の青春時代を彷彿とさせるエピソードや、これまでの監督作に出てきた人物と同じ名前のキャラクターを登場させるなど、“園ワールド”を存分に堪能できる作品となっている。

そして、そんな独特の世界観の中で、さらにその世界観を広げる独特な主人公・村田丈を、椎名桔平が彼にしかできない表現で魅せる。撮影期間はタイトで悩むこともあったと言うが、犯罪者となる残虐な一面と、どこか憎めない愛らしさをもつキャラクターを絶妙な加減で見せてくれるのはさすがの一言。

かねてより“園ワールド”に入ることを望んでいたという椎名と、椎名の存在があって今作の制作に入ることができたという園。そんな相思相愛の2人に今作について語ってもらった。

―今作のきっかけは、園さんが6年前にモチーフとなる事件に興味を持たれたことだったと伺いました。

園:6年前はそう思いましたけど、去年、「これ、園さんがやりたいやつでしょう?」って言われたときには、やりたくない、って思いました(苦笑)。

―6年の間にお気持ちが変わられて。

園:前はこういうのが好きだったんですけど、最近は落ち着いて、結婚もして幸せになって(笑)。僕からは「こういう暗い事件はどうかな?」って言ったんですけど、プロデューサーの武藤(大司)さんに口説かれて、「じゃあ、やりますか」って重い腰を上げて始めました。ただ実際にあった事件をそのまま映像化したら誰も観続けられないので、そこは変えていかないといけないな、と。それで少しファンタジーの要素を入れたりもしました。そして、もう一つの理由としては、この作品の企画が上がる少し前に偶然、海外旅行中の椎名さんと会ったんですよ。そこで「今度、一緒にやれるといいね」いう話をしたところだったので、椎名さんに村田をやってもらえたらいいかなと思ったところもありますね。

椎名:微妙(笑)。



―あははは(笑)。確かに犯罪者の役ですからね。

椎名:以前から監督とご一緒したいとは思っていましたけど、まさかこんなキャラでとは想定していなかったので(苦笑)。正直、僕自身はこのモチーフとなった事件のことはあまり知らなかったので、それこそインターネットで調べたくらい。そしたら、とにかく凄惨な事件だったので、「これ!?えー」みたいに思ったんですよ。ただ先ほど監督がおっしゃったように、作品としてはファンタジーの要素も入って、序盤なんてポップ過ぎるくらいポップだったので、「あれ?これはあの事件に基づいた物語?」って、混乱しちゃうくらいになっていて。まあ終盤は、園さんの非常に濃い世界に入っていくんですけど、その崖から突き落とされるような落差っていうのも、やっていながら面喰うところでしたね。僕自身、ありとあらゆるものを頭の中に詰め込んで、毎日どう演じれはいいかっていうことを考えていました。

園:でも村田のポップさは、逆に実話に基づいていたりもするんですよ。例えば、付き合っていた女性をかき集めてコンサートを開くエピソードは、実際にあったことで。そういう笑えるような部分もすごく多かったので、その辺りは絶対に映像化する上でも忘れたくないとは思っていました。今回、最初から映画として撮っていたら、ポップな面をそぎ落として、シリアスな面を強調したと思うんですけど、ドラマ想定していたので笑いに満ちているところはありますね。

―今作は当初は全6話のドラマシリーズとして作られて、結果的に編集を経て現在の映画フォーマットの形で配信されることになったそうですが、そういうところも含めて、Netflixだからこそ良かったことはありましたか?

園:僕、前にAmazonでドラマ(『東京ヴァンパイアホテル』)をやって、それでドラマ形式は二度とやるもんか、って(笑)。

椎名:これは書かないでくださいよ(笑)。

園:いや、違うの。ドラマを全話監督するのがどれだけ疲れるのか、っていうのがわかったから(笑)。脚本も監督も編集も全部を自分でやるのは、もうあり得ない。二度とやらないっていうくらい大変だったんです。それなのにまたこんな企画が来て。だから、これはまたきついと思ったんだけど、刺激のあるキャスティングを夢見ながらストーリーを書いていたら、これは他人には任せられないな、と。ホントにこれが最後の最後のドラマだって思ってやり始めました。

―園さんはこれまでも実際の事件をベースとした作品を手掛けられていますが、その点で心掛けていることはありますか?

園:実際にあった事件をもし忠実に映像化したとすると、息が詰まってどうしようもなくなることが多いと思うんです。例えば『冷たい熱帯魚』の吹越(満)さんの役(社本信行)みたいないい人は実際の事件にはいなくて、ひたすら非情な人ばっかりなんです。でも映像化するなら、ああいう観客に近い、普通の人をフィクションで出すことで、ガス抜きになる。今回の(満島)真之介の役とかもそうですね。でもまあ、何を言いたいかっていうと、実録ものは怖いですよ。あんまり好きじゃない(苦笑)。血も怖いし、人が死ぬのも観たいとは思わないから、今はなんでこんなの作ったのかな?って思いますね(笑)。

椎名:ふふふふ(笑)。

―ただ今作は凶悪事件を描くとともに、園さんの青春時代を反映したような若者の映画作りの話も絡めていますよね。

園:映画の現場でも役者がどんどん権力を持って、監督が存在感をなくすようなことがあるっていう話を聞いたりするんですけど、それと今回の事件が似ているところがあると思って。事件の方は、なんか勝手にひょろりと入ってきた男が、彼女の両親にまで権力をふるって、家で王様のようになるんですけど。そういう意味では、そこをうまくシンクロさせられたというのはありましたね。

―椎名さんが演じられた村田丈という人物は、犯罪者ではありますが、人を引き付ける魅力を持っていたりと、複雑なキャラクターだと感じました。役作りはどのようにしていったのでしょうか?

椎名:まずはもう、監督の言われることをどれだけできるか、っていうことしか考えてなかったというのはありますね。ただ(当初は6話のドラマだったこともあり)尺も長いし、事件的な意味からもただの悪い奴だけではつまらないので、多面性を見せないといけないな、っていうのは思っていました。その中には監督をモデルとするところもありましたよ。監督は撮影現場でいろいろ変わる人ですから(笑)。とにかく大きく考えてカラーを作っていくというか。人から見たときに、どういう人なんだろう?って思ってもらえるような、謎めいた部分を持つようには意識していましたね。監督もそのようにおっしゃっていましたし。

―改めて、今回、園さんのオリジナル作品でご一緒してみていかがでしたか?

椎名:楽しかったですよ。まあ苦しいんですけど、ホントに充実した撮影期間でしたね。以前から“園ワールド”に入ってみたい、っていう気持ちがすごくありましたので、今回、そのオリジナルの世界観の中にどっぷり入れたのでね。現場はとにかく疾走感というか、撮影の仕方が普通とは違うんですよ。いつもだったら何時くらいまでにこのシーンを撮るっていうのがあって、それまでにテストを重ねて、意見交換をして、本番に挑むっていうスタイルなんですけど、園さんはそういうのは全く関係なく、勢いのあるときにバーッと行く。園さん自身も自分で脚本を書いているんだけど、これがどうなるか見てみたいと思うみたいで、そういうときは何ページもあるシーンの本番を一気に回しちゃったり。だから、演者としては事前にどこまで準備していけばいいかがはかれないし、そのときのテンションにすぐに入らないといけないので、大変と言えば大変でした。ただそれだけに他の現場では味わえない、ライブ感みたいなものを感じられた気はします。

園:もうテストとかしませんから。本番ばっかりなんで(笑)。

椎名:毎日、どうなるかが読めないんですよね。差し込みも結構入ってきたりしますし。その日の監督の思考の方角っていうのがあるんですけど、それが想定じゃない方向を指すことも多くて。現場に行ってその場に立つまで監督がどういう指示を出してくるのかわからない。今思うとエキサイティングな時間でしたね。



―なかなか他の現場ではない経験をされたんですね。

椎名:僕も20代からこの仕事を始めて、年齢ももう若手じゃないし、そこそこキャリアもあるので、自分なりの役の作り方とか、見方っていうのがあるんですよ。でも今回はそれを真っ白にして、“園ワールド”に自分を放り投げるような感覚で作業をしようと思って。気持ちはほとんど新人のような。右って言われれば、右ですね、ってすぐに向くようなピュアなハートを持って、ただ目の前の課題に対して向かっていくっていう気持ちでやりました。そんな気持ちを持つ現場がもうあまりないですからね。どちらかと言うと「こういう役を責任持ってやってください」と言われる方が最近は多くなっていましたから。今回は逆に責任は持たなくていいんだね、あとは監督が責任を持ってくれるんだよね、っていう(笑)。

―今回はまだキャリアが浅い共演者の方も多かったと思いますが、その辺りはいかがでしたか?

椎名:先輩という立場から、経験値が足りないところが見えたりはしました。それは映像には映っていない、現場で悩んでいる姿とかで。ただ今回は僕も相当に悩んでいるくらいだから、悩むのは当然だと思うし、僕はほとんどアドバイス的なことは言わなかったんですよ。それは今回の役柄的にその方がいいかなというものあって。そんな中で、彼らがとにかくすべてをかけて演技をするんだっていう姿に非常に感銘を受けて。自分の20代の頃を思い返したりもしましたね。もがきながら、模索しながらも、役に向かっていく、そういう現場でした。我々には経験値っていうものも持ち出さなきゃいけないという役割があるように、彼らにはフレッシュさとか、うまくなくても気持ちから向かっていくこととかが求められていたと思うので、それに応えようと頑張っている姿を毎日見ていました。

―ベテラン勢も気を抜いたら食われかねないような?

椎名:ホントに下克上が起きるくらいの気持ちで向き合っていたと思います。監督もそのやる気を感じるとそれなりの撮り方をしますし。逆にわからないな、見えないなってなると、画面の中央には来れないとか。そういうのが日々現場で変わっていくのも珍しいんですけど、それが園組なんですよね。そうすると僕も含むベテラン組も気が気じゃなくなるというか、活力を与えてもらえる、そういう現場でしたね。

―村田が多面性のある人物ということで、お互いに相手の二面性や意外点はありますか?

椎名:監督は男同士で言うのも変かもしれないんですけど、かわいいというか、チャーミングなところがありますね。初見の方の前ではあまり出さないんですけど。例えば、監督の中にリズムというのがあって、たくさんあるシーンの中で、今日、これを撮りたかったんだ、っていうシーンになると、子供のような陽気さを持った演出をされたり。そういうところはぜひ皆さんにも見てもらいたいですね(笑)。

園:椎名さんとはそもそも撮影に入る前のオフの旅行先で会っちゃってますから。そのときにかなり陽気な姿を見ました。(海外の)海辺だったんでね。

椎名:お酒も飲んでるし。

園:その姿が意外でした。オフはやっぱり楽しいんだなって(笑)。

―さすがにそれは現場では見られなかったですか?

園:あそこまでのんびりとした顔は見られなかったですね。だから先に見ておけて良かったです。逆に撮影中はよく我慢してくれた、という思いが大きくて。さっき言ったように、撮影しながらシナリオを書き足すので、どんどんシーンが追加されるんですよ。さすがにそろそろ怒るんじゃないか、ちょっと怖いな、って思ってたんですけど、そんなことはなかったので助かりましたね(笑)。

文・瀧本幸恵

写真・稲澤朝博

<椎名桔平>

ヘアメイク:遠藤真稀子(UM)

スタイリスト:中川原寛(CaNN)

Netflixオリジナル映画『愛なき森で叫べ』

2019年10月11日より全世界独占配信中

監督・脚本:園子温

出演:椎名桔平、満島真之介、日南響子、鎌滝えり、

YOUNG DAIS、長谷川大 / 真飛聖、でんでん

プロデューサー:武藤大司

撮影:谷川創平 美術:松塚隆史 照明:李家俊理

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