配信中毒的台風の備え「アフター・マリア」37分ちょっとの短いドキュメンタリーで気を引き締めろ

エキレビ!

2019/10/11 09:45



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めちゃくちゃ強力だと言われている台風19号が近づいている。「強い台風、ついこないだも来たじゃん……」と愚痴の一つも言いたくなるが、今回はそんなめっちゃひどい台風、というよりハリケーンの被害に遭ってしまった人々のドキュメンタリー『アフター・マリア 見捨てられた家族』を紹介したい。

被災したプエルトリコの家族、アメリカに避難! しかし思わぬ苦労が……
『アフター・マリア』はタイトルの通り、2017年9月にドミニカとプエルトリコを襲ったカテゴリー5のハリケーン、マリアで被災した人々を題材にしたドキュメンタリーだ。このハリケーンがふたつの国にもたらした被害は甚大そのもので、劇中でも説明されるように死者数は4645人に上る。また通信網や発電などインフラにも凄まじい被害を与えた他、壊滅した住宅も多数。ほとんど怪獣が上陸したような被害を与えた。

で、プエルトリコという国はちょっと変わった国である。というか、独立国ではなくアメリカの自治領だ。より正確には米国自治連邦区(コモンウェルス)ということになり、内政においては自治が認められるが外交や国防はアメリカが行うという仕組みである。つまり、自治政府はあるものの基本的にはアメリカ領なのだ。

というわけで、災害対応はアメリカの政府機関である連邦緊急事態管理庁(FEMA)が取り仕切ることになる。なんせ家がぶっ壊されたりインフラが破壊されたりして、プエルトリコに住むことができなくなった人が多数出てしまっている。緊急避難的な措置として、FEMAはアメリカ本土のホテルを住宅として期限付きで被災者に提供。プエルトリコの人々はそこに移住し、復興して自宅へと帰ることができる日までアメリカで過ごすことになった。

と、ここまでがマクロの話である。『アフター・マリア』は実際に被災した人にカメラが貼り付き、どのような暮らしぶりなのかを撮影したミクロ視点のドキュメンタリーである。登場するのはグレンダ、シーラ、ケニア、それにケニアの娘のニルダという、プエルトリコの女性たち。ニューヨークのブロンクスに用意された同じホテルに移住した彼女たちに、カメラが密着する。

ホテルといっても、豪華なスイートなんてものではない。というか、ほぼビジネスホテルのツインルームくらいのところに、被災した家族がぎゅうぎゅう詰めになって暮らしている。プライバシーはほとんどない。それでも故郷を懐かしみつつたまにパーティを開いたりして、それなりに楽しく過ごそうと工夫する彼女たち。しかしホテルからの退去日は2018年の7月1日。その日が来れば、強制的にホテルからは出なくてはならない。

にも関わらずプエルトリコの復興はちっとも進まず、アメリカで安定して暮らす仕事もない。だいたい、アメリカ政府は「二級市民」であるプエルトリコの人々を相手にした支援に本腰を入れているように見えないし、トランプ大統領は自分たちの政策を自画自賛することしかしない。そんな状況で必死に仕事を探すグレンダや娘を気遣うケニアだったが、退去日が迫るにつれて次第に追い詰められていく。

災害がきっかけの各種トラブル、実際のところ万国共通です
当然のことだが、台風や地震を制御するのは不可能である。しかしその後の保障や復興に関しては、これは人間の領分だろうと思う。だが、プエルトリコの人々が苦境に立たされているのを見ると、災害に遭った人を立ち直らせるのがあんまりうまくいかないというのは、人類普遍の法則なのではないかという気がしてくる。

ケニアやグレンダの訴えを、結構冷淡に突っぱねるFEMAの職員たち。そもそも英語すらろくに話せない彼女たちにできる仕事は、アメリカにはそう多くない。さらに悲しくなってしまうことに、11歳のニルダがアメリカの学校でいじめられてしまうのである。「プエルトリコには友達がたくさんいたのに……」と塞ぎ込み、誰が見てもわかるくらい表情が暗くなっていくニルダ。これ、疎開先で地元の子供にいじめられるやつじゃん! 考えてみれば当たり前かもしれないが、疎開してきた人間をいじめるのは日本人の専売特許ではなかったのである。アメリカ人もやるんだ、あれ……。

一事が万事この調子、しかも今もって全然解決していない問題を扱ったドキュメンタリーなので、正直見た後スカッとしたり、「面白かったな~!」という気持ちになったりはしない。しかし「割とどの国でも災害に遭った人のことを忘れがち」「インフラが根本から破壊されると、回復するまでにめちゃくちゃ時間がかかる」「政府機関に関係がない僻地の災難だと、割と簡単に公的支援は打ち切られる」という、災害対策に関する万国共通のシビアさを突きつけてくる作品でもある。

しかしほっといてもハリケーンは毎年やってくるわけで、その都度インフラが破壊されたら、直しても直してもいたちごっこだ。だいたい、プエルトリコ人が二級市民扱いされてるのは、災害とは別問題である。災害をきっかけにして発生する差別という別種の問題も、『アフター・マリア』は浮き彫りにする。アメリカ人やアメリカ政府の行動にも影響するわけで、場合によってはハリケーン自体よりもそっちの方が深刻である。

つい先日も、台風15号で千葉県などに大きな損害が出た。ネットで見ただけでも、屋根が吹っ飛んだり停電したりと、「こんなにやべえのかよ……」としか言えないような被害に絶句したのを覚えている。しかし、自分が関係ないとなんだかんだで「そんなこともあったね……」と忘れがちなのも事実である。しかし現に今ものすごい台風が近づいてきているわけで、明日は我が身、プエルトリコの話は全然他人事ではないな……という感じもする。37分ちょっとと短いドキュメンタリーでもあるし、台風が来る前にさっと見て気を引き締めておくのをおすすめしたい。

(文と作図/しげる タイトルデザイン/まつもとりえこ)

当記事はエキレビ!の提供記事です。

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