仕事で「女性だから」の理不尽な抑圧、現実とオーバーラップするミュージカル

wezzy

2019/10/10 17:15


 劇場へ足を運んだ観客と演じ手だけが共有することができる、その場限りのエンタテインメント、舞台。まったく同じものは二度とはないからこそ、ときに舞台では、ドラマや映画などの映像では踏み込めない大胆できわどい表現が可能です。

一億総活躍の名のもと、長時間労働の是正など働き方改革が掲げられている昨今。女性の社会進出が進んだ現代日本にとっても、男女の賃金格差に代表される労働環境の改善は大きな課題であり続けていますが、個人の尊厳と自己実現のために、労働が人生の満足度にもたらす影響は計り知れないものです。女性だからと当然のように担わされる役割に、理不尽さを感じたことがないというひとは、おそらくいないでしょう。
女性初の労働組合を設立!
 日本は近年、社会現象化するほどのミュージカル映画のヒットなどで、空前のミュージカルブームだといわれています。歌って踊って恋や夢を語るゆめゆめしさから、その観客の大半は女性ファンですが、主人公の性別でいえば、男性が圧倒的。恋や愛にではなく自己実現や成長のために戦う女性を取り上げた作品は決して多くはありません。

しかし日米合作ミュージカル「FACTORY GIRLS~私が描く物語」は、女性が家庭の外に出て働くようになった草創期に、自身の権利を求めて立ち上がった女性たちを描く群像劇。元宝塚トップスターの柚希礼音と、ミュージカル女優としてファンから信頼の厚いソニンをダブル主人公に、上演されています。

舞台は19世紀半ば、産業革命により大規模な紡績工場が生まれ、好景気に沸くアメリカ・マサチューセッツ州ローウェル。工場を支えるのは若い女性工員のファクトリーガールズで、父の残した借金の返済のため、田舎から出てきたサラ(柚希礼音)もそのひとり。機械の歯車のような長時間労働や男性工場長らによる理不尽な抑圧に驚きながらも、自身の労働により収入を得ることで、病気の家族の治療費を工面するアビゲイル(実咲凛音)、大学へ進学し作家への夢を見るルーシー(清水くるみ)や、孤児院出身だけれど歌手を目指すグレイディーズ(谷口ゆうな)、素敵な男性と結ばれるためにおしゃれに余念がないマーシャ(石田ニコル)たちとともに、ガールズの住む寮の寮母で女手ひとつでルーシーを育てるラーコム夫人(剣幸)に見守られながら、新しい生活になじんでいきます。

彼女たちのなかには先進的な考えを持つ女性も多く、女性たち自身による寄稿集「ローウェル・オウファリング」の編集長を務める才媛のハリエット(ソニン)は、ガールズの憧れの存在。文才を発揮するサラとハリエットは深い絆で結ばれますが、同業他社との競合から勤務時間はじょじょに長時間化。1日14時間にも及び、悪臭を放つ油の明かりや埃のせいで体調を崩すガールズも増え、声高に改善を訴えるサラと、周到な準備を要したいハリエットがすれ違う中、工場で事故が起きアビゲイルが犠牲に。サラは、ペンの力を武器に、女性初の労働組合を設立、労働争議へと身を投じ、女性を食いものにする会社と社会の欺瞞に立ち向かっていきます。

紡績工場の女性工員が不遇な目にあうのは、著名ミュージカル「レ・ミゼラブル」の薄幸のシングルマザー、ファンテーヌも同様です。アメリカとフランス、また約30年の年代設定の違いはありますが、ファンテーヌは身を持ち崩し死んでいくのに対し、アメリカでは欧州の厳しい産業システムを踏まえて工場システムが構築されたため、ファクトリーガールズは時間を見つけて学び、寄稿集をつづることが可能だったそう。とはいえ女性にはまだ参政権すら認められない時代、ただ長時間労働するためだけに生きているのか、日の出など自然の摂理を無理してベルで生活を管理されるのかという嘆きや葛藤の声は「ローウェル・オウファリング」にもつづられます。

サラとハリエット、そして作家の夢をかなえたルーシーは実在した人物(しかし資料が少ないため、人物造形には手を加えられているそう)で、「ローウェル・オウファリング」も、実際に存在しています。労働争議のリーダーとして女性たちを率いたサラを演じる柚希は宝塚時代、カリスマ的な存在感で絶大な人気を集めるトップスターであり、型破りな大人物であるサラはさすがにぴったり。しかし、男女関係なく、観客の共感を一番集めたのは、ソニンの演じるハリエットだったように思います。
無理解のなかでの孤軍奮闘
 「ローウェル・オウファリング」が好評なため、ハリエットは工場労働から離れて編集長職に専任になりますが、それは女性を厚遇しているとアピールしたい工場長やスポンサーからの見せ玉半分の処遇。編集方針に口出しされることもあれば、スポンサーたちとのお酒の場でお酌を強いられることも。それでもアメリカ全国への講演活動で女性の地位向上への意識改革を推進しているのに、力業で突破しようとする親友のサラとは分かり合えず、ハリエットは隠れて孤独感に涙します。上司や周囲の無理解のなかでの孤軍奮闘は、現代社会における企業のなかでの戦いとも完全にオーバーラップしてみえるほど。

世間一般のソニンのイメージは、いまだに元アイドルという印象が強いかもしれませんが、現在はミュージカルを主戦場に活動。東宝制作の「モーツァルト!」など人気作や「ミス・サイゴン」などの歴史大作、「RENT」など熱狂的愛好家のいる作品の数々でヒロイン役を演じ、ソニンが演じるならばと“ご指名”で観に来るファンも多い人気ミュージカル俳優です。

人気の理由は、歌のうまさもさることながら、表現力です。ハリエットの背負っている孤独やこれまで歩んできた道の苦労、そして自分を犠牲にしてでも果たしたい使命……。歌詞の中に具体的につづられていなくても、ハリエットの歩んできた人生が、歌声とたたずまいから雄弁に表現され、でも姿はあくまでも知的で、気高く。ミュージカルは歌って踊れば成立するわけではなく、歌の中に歌詞以上の背景を盛り込むことも可能だからこそ愛されている表現なのだと、改めて実感させられました。

ところで、労働環境といえば、昨今なにかとやりだまにあげられるのは、芸能事務所です。「FACTORY GIRLS」を制作したのは大手芸能事務所のアミューズ。大規模ミュージカルの制作は長年、東宝、劇団四季、宝塚、ホリプロあたりが定番でしたが、近年はアミューズの存在感が目立っています。

「FACTORY GIRLS」の元になったのは、クレイトン・アイロンズとショーン・マホニーというアメリカの若手クリエーターが大学の学位のために書いた作品。それをブロードウェイの大物プロデューサーが優秀な作品としてホームページに掲載しており、それを見つけたアミューズにより、演出の板垣恭一による上演台本化などを経て実現した、とてもめずらしい上演行程です。

アミューズは過去、韓国のミュージカル作品を専門で上演する劇場を運営して失敗したこともありましたが、最近はブロードウェイの新作のライセンスをいち早く買い付けて上演するなど、業界内からの見る目も変わりつつあるそう。「FACTORY GIRLS」は上演行程も作品の内容もなかなかチャレンジングなものですが、こういう挑戦を行う企業努力ももう少し世間にも認められてほしいと個人的には感じます。

当記事はwezzyの提供記事です。

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