表現の不自由展 閉ざされていた扉を埋めた“不自由の声”の数々「表現者だけの話にしたくなかった」

AbemaTIMES

2019/10/9 08:00



「自分がLGBTだということ。普通の結婚がしたかった」
「母に、あなたは成功だ、と言われたこと」

閉鎖されていた、あいちトリエンナーレの企画展「表現の不自由展・その後」へ続く扉にびっしりと貼られた紙。「あなたは自由を奪われたことはありますか?」という問いに対する、来場者の答えだ。

「オーディエンス(観客)たちが、自分自身が受けた差別や偏見、もしくは抑圧された経験とか自由を奪われた経験というものを、一人ひとりが書いてこの扉と壁に貼っていくというプロジェクトです」


 そう話すのは、このプロジェクトの仕掛け人、アートユニット・キュンチョメのホンマエリさん。「表現の不自由展・その後」の展示再開をめざすアーティストで結成される「ReFreedom_AICHI」のメンバーだ。

「やっぱり表現の自由・不自由を表現者だけの話にしたくなかったんですよね。これって美術館やアーティストだけの話じゃなくて、もっと本当に日本全体の話だし、生きている人みんなに関わるんだよっていう意味で質問を作った」というホンマさん。なぜこのプロジェクトを立ち上げたのか。


 「インターネットで炎上してインターネットで声が集まってみたいな、身体性がすごく無くって、リアルだけどリアルじゃなかった。でもこの場所だと、本当に人が来て読んで、超考えてそこに座って自分の字を書く。しかも、その後に自分で扉に触って扉に貼る、身体性がずっとある場所なので、それがすごく大事だったなって思います」

コンセプトの元になったのは、不自由展中止を受けてあいちトリエンナーレでの展示をボイコットした、メキシコの作家モニカ・メイヤーさんの作品。“不自由な声”はホンマさんの想像以上の速度で壁を覆いつくし、はじめは扉部分だけだったのが、やがて左右全体の壁も埋め尽くすようになった。


 そして、紙は扉の中にも掲示されるように。騒動以降固く閉ざされていた扉は、この“不自由な声”によってこじ開けられ、抽選制や金属探知機を導入するなどいくつかの条件付きではありながら8日に再開を迎えた。

一方で、ホンマさんにとって展示再開はゴールではないといい、「1500くらいの声が一瞬で集まって、だからこそ1枚目の扉はその声によって開いたということだと思うんです。不自由展が再開したらそれって超うれしいことじゃないですか。私は再開したら『よっしゃ!ハッピー!!』って言うんじゃなくて、この声のことを絶対忘れられないと思うんですよね。書いていってくれた人たちの後ろ姿も絶対忘れられないし、長い時間かけて読んでいる人の後ろ姿も絶対忘れられない。それは私にとってすごい宿題だなって思います」と語った。


 「表現の不自由展・その後」はテロ予告や脅迫のため中止を余儀なくされたが、展示再開でセキュリティや多様性の保障の懸念は払拭されるのか。表現の自由を研究している千葉大学教育学部(芸術学)の神野真吾准教授は「セキュリティがどのように担保されるかは重要。テロを否定する国であるなら、『テロが起こるような事業をやるな!』ではなくテロ対策を国がすべきではないか」「多様な表現に出会うことを保障することは、政府など公的機関こそが腐心すべき」と見解。さらに、「アーティストの一部が目指していた『極端な立場の人たちとの対話』が、どのように可能なのか、そもそも可能なのか、意味はあるのかも問われる。多様性の中からしか新しい価値は生まれない。気に入らないものも許容する寛容性が現在の日本人に問われている」とも指摘する。


 また、この問題は7日の国会でも取り上げられた。立憲民主党の枝野代表は「補助金不交付は萎縮効果が働き事実上の事前検閲では」と指摘し、NHKのかんぽ報道問題も絡めて「報道・表現の自由が機能していない」と質問。これに安倍総理は「安倍政権に対する連日の報道をご覧いただければ、萎縮している報道機関など存在しない」「ありもしない主張をいたずらにあおるのは芸術家に大変失礼。外国からの誤解を生みかねない」「日本国憲法に基づいてしっかり保障されていることは、『立憲』を党名に掲げる枝野議員であればご理解いただけると考えている」と述べた。

では、今後似たような企画展が出てきた時に、国はどこまで責任を負うべきなのか。東京工業大学准教授の西田亮介氏は、「成熟した自由主義国・民主主義国において、表現の内容に国は“お金は出すけど口は挟まない”というのが大原則。芸術表現の中には人の心を逆撫でしたり賛否が分かれたりするものも多数あるが、それに口を挟まないことこそが表現の自由を擁護することになる。野党の質問だが、現実に政府や与党批判もできる日本で報道や表現の自由が“機能していない”とはどのような状態かを示すのは難しいだけに、国は表現の自由を行使できる“環境を積極的に整えているか”を突くとよかったのでは。今回の問題を文化行政の在り方の前例にするのではなく、文化庁の審査の在り方も含めてプロセスを公開するべきだと思う」と指摘。


 また、これはすべての人に関係する問題だとし、「日本はクールジャパンを売りにしているが、その源泉は我々の社会が自由で豊かな表現活動が可能だという点にある。豊かな表現活動というのは、性表現や賛否が分かれる芸術表現も含まれている。それらがいろいろな形で議論できる土壌をどうすれば維持できるのかを、国も社会も考えてみてほしい」と訴えた。
(AbemaTV/『けやきヒルズ』より)

当記事はAbemaTIMESの提供記事です。

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