なぜ『moon』は伝説と呼ばれるのか?アンチRPG『moon』が奇跡の配信スタート

日刊SPA!

2019/10/6 08:30

―[絶対夢中★ゲーム&アプリ週報]―

『moon』

Nintendo Switch/Onion Games/1980円(税込)/10月10日配信開始

10月10日にNintendo Switchで、1997年に発売されたPS1用RPG『moon』の完全移植版の配信が始まります。配信元は『moon』のスタッフが立ち上げ、『Million Onion Hotel』『BLACK BIRD』などアーティスティックなゲームで知られるインディースタジオのオニオンゲームス。

そもそもの開発元だったラブデリックが解散し、アーカイブ化は絶望的と言われていたタイトルだっただけに、移植が発表された9月5日のニンテンドーダイレクト直後は、名だたる大作を押しのける勢いで『moon』がトレンドワードにあがりました。なぜ『moon』は伝説と呼ばれるのでしょうか。

◆個性際立つ新鮮なプレイ感

『moon』には、それまでのゲームではあまり見られなかった新鮮な仕掛けが数多くありました。舞台は一見、典型的なRPG世界。しかし、ジャンルとしては謎解きアドベンチャーに近く、ゲーム内の曜日や時間帯に沿って決まった行動を取る住人たちや、出没するアニマル(モンスター)の魂をよく観察し、違和感のある行動を取ったらその謎を解いていきます。

つまり『moon』は観察するゲーム。何か起こるかもしれない、そんな期待を抱きながら、変わらない画面をずっと見続けることもしばしば。ただ待つという無意味な時間が、ゲームプレイの本質に取り込まれているのが印象的でした。

今となっては当たり前になりましたが、住人たちがモゴモゴと何語ともつかない言葉をしゃべるのにも驚かされました。『指輪物語』のトールキンがエルフ語を創造したように、言葉による異世界性が確かにそこにありました。

また、ゲーム内で入手する数々のMD(ムーンディスク)をBGMとして流せるのも画期的な仕掛け。音楽のジャンルはクラシック、テクノ、ジャズ、アンビエント、津軽三味線……と多岐にわたり、いずれも尖っていてセンスの塊。この『moon』のMD群が収録されたサントラは数万円で取引されるプレミアとなっています。私もゲーム内で「宇宙のお祭り日」「I’M WAITING FOR THE NIGHT」「月アカリじょんがらロード」あたりをよくかけていました。

◆『moon』の世界観・シナリオから受けた衝撃

こうした外側のユニークさに加え、『moon』が伝説となったもうひとつの理由はシナリオの深さ。ゲームはこのように始まります。

月の輝くある夜、ひとりの少年が『FAKE MOON』というRPGを遊んでいました。勇者になってタンスを探って伝説の装備一式を手に入れ、邪悪なモンスターたちを倒す……。すると、「ゲームなんかやめて早く寝なさい」というお母さんの叱り声が。寝ようとしたとき、少年はゲームのなかの世界「ムーンワールド」に吸い込まれます……。

少年がムーンワールドで実際に見た勇者は、レベルアップのために罪のないアニマルを殺して回る困り者。少年はさまようアニマルたちの魂に触れて、「キャッチ」することで救い、お礼に「ラブ」をもらって行動できる時間を増やしていきます。

登場人物も癖の強い変わり者ばかり。関西弁で喋る自称インテリの鳥・ヨシダ、出生の秘密(?)があるパン屋の主人ベイカーさん、各々の衝動に突き動かされる大工コンビのニッカとポッカ、城下町の公園で暮らす世捨て人のガセ、キノコ洞窟に住む原住民・カクンテ人……。

彼らが抱える問題を解決しても「ラブ」がもらえます。勇者の行動は正義なのか? この世界はいったい何なのか? 住人たち各々の幸せとは? そしてエンディング……。

よく『moon』は“アンチRPG”と評されますが、それ以上に愛や人生、世界の意味について考えを巡らせたくなる哲学的、文学的な内容になっています。『moon』発売から22年。自分も年を重ねたことで、また新たな想いが生まれるのか。プレイが楽しみです。

※画像はPS1版のものです

―[絶対夢中★ゲーム&アプリ週報]―

【卯月鮎】

ゲーム雑誌・アニメ雑誌の編集を経て独立。ゲームの紹介やコラム、書評を中心にフリーで活動している。著作には『はじめてのファミコン~なつかしゲーム子ども実験室~』(マイクロマガジン社)がある。ウェブサイト「ディファレンス エンジン」

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