世界中にその名を知らしめた名曲「ラウンドアバウト」を含むイエスの傑作『こわれもの』

OKMusic

2019/10/4 18:15

イエスの最高傑作は『危機(原題:Close to the Edge)』(‘72)だと言う人は多いだろう。でも、僕にとってイエスの最高傑作は『こわれもの(原題:Fragile)』(’71)である。中学生の時、本作に収録された「ラウンドアバウト」のシングル盤をリアルタイムで聴いた衝撃は大きかった。キング・クリムゾンの『クリムゾン・キングの宮殿(‘69)』やピンク・フロイドの『原子心母』(’70)はすでに聴いていて、もちろん大きな事件だったけれど、「ラウンドアバウト」のパワーはもっとすごかったのである。シングル「ラウンドアバウト」にハマった人は、誰もが「もっと長く聴いていたい」と思ったはずだ。お金を貯めて『こわれもの』を買い、家に帰って聴いてみると、1曲目の「ラウンドアバウト」はシングル盤の2倍以上の長さ(シングル盤=3分27秒、アルバムバージョン=8分36秒)があり、2度目の感動を得たのだった…。そんなわけで、今回はイエスの4作目となる『こわれもの』を紹介する。

■多くのサウンドを盛り込んだ 初期のイエス

イエスはクリス・スクワイア(ベース)とジョン・アンダーソン(ヴォーカル)が中心となって、69年に『イエス・ファースト・アルバム(原題:Yes)』でデビューしている。この時のメンバーは上記ふたりの他、ピーター・バンクス(ギター)、ビル・ブルフォード(ドラム)、トニー・ケイ(キーボード)が在籍していた。イエスはアメリカのレーベル『アトランティックレコード』がイギリスのアーティストとして初めて契約したグループである(2番目がレッド・ツェッペリン)。

2ndアルバムの『時間と言葉(原題:Time And A Word)』(‘70)までのイエスは、サイモン&ガーファンクルに似た美しいコーラスワークを売りに(まだ発展途上ではあるものの)、ジャズ寄りのサイケデリックロック(ビートルズの影響はかなり多いが)を聴かせる技術力の高いグループだった。この時期の特徴はピーター・バンクスのジャズっぽいギターワークで、『イエス・ファースト・アルバム』はロックの中で、ギターのオクターブ奏法を使った最初期のアルバムだと思う。2ndアルバムではオーケストラと共演するなど、1stよりも多彩なサウンドを聴かせてはいるのだが、詰め込みすぎというかポイントが絞りきれていなかった。何より、アルバムの核となる決定的な1曲を生み出せていないのが、リスナーに散漫な印象を与えたと思う。

■スティーブ・ハウの加入

グループをもう少しジャズ寄りにと考えていたピーター・バンクスは、2ndでのストリングスとの共演に不満感を表し、『時間と言葉』のリリース前にグループを脱退する。その後、オーディションを経て加入するのがスティーブ・ハウである。彼の加入で、以前と比べてグループの表現力は大幅にアップする。クラシック、ジャズ、フォーク、カントリー、ブルース、スパニッシュなど、どんなスタイルのギターでも弾きこなす彼の力量は、多くのスタープレーヤーを擁した当時のブリティッシュロック界の中でもトップクラスに位置するものだ。

ハウの加入後にリリースされた『イエス・サード・アルバム(原題:The Yes Album)』(‘71)は、それまでの2枚のアルバムと比べると、コーラスの重厚さをはじめ(ハウの影響だろうが、この頃からCSN&Yの影響が感じられる)、楽曲の深みや構成の巧みさなど、演奏力は格段にスケールアップしており、メンバーが鼓舞されたことがわかる。ただ、マール・トラヴィスやチェット・アトキンスに影響されたギャロッピング・スタイルのカントリーギターはイエスにはそぐわないと僕は思う。この頃のハウは英カントリーロックグループのヘッズ・ハンズ&フィートに在籍していたアルバート・リーに影響されていたようで、リー風のフレージングが随所に見られる。また、当時としては珍しく、ペダルスティールを模したギター奏法を披露していて、成否は別として彼の先進的かつ実験的な取り組みは、後進のギター奏者への大きな刺激となったことは間違いないだろう。

■天才リック・ウェイクマン

ハウの加入によってグループの演奏技術は大きく前進したわけだが、当時格段の進歩を遂げていたモーグやメロトロンなどシンセサイザーの導入を巡ってグループ内で衝突が起こり、否定派のトニー・ケイが解雇されることになる。そして、後任としてストローブスにいたリック・ウェイクマンが加入するのだが、彼の加入でイエスは最強の布陣となる。ウェイクマンはピアノやシンセサイザーを駆使し、ブリティッシュトラッドからクラシックの豊富な知識をイエスの音楽に応用できる、まさにプログレッシブな天才アーティストであった。これまでのイエスの良いところを残しつつ、ウェイクマンの新しいアイデアを具現化するべく、メンバーはリハーサルを重ねる。この時点のイエスのメンバーたちは、ウェイクマンのハードルの高いアイデアを形にできるぐらいの力量を持ったミュージシャンの集合体に成長していて、一気にその能力を開花させる時がやってきた。その集大成が4作目となる本作『こわれもの』なのである。

■本作『こわれもの』について

本作は演奏面ではウェイクマンが主導権を握り、クラシックの様式美とジャズが持つインプロビゼイションの自由さ、そしてロックの重厚なグルーブ感を併せ持つサウンドに仕上がっている。収録曲は全9曲で、バンド編成のものが4曲、メンバーのソロユニットが5曲という構成であるが、各楽曲のコンセプトが統一されているせいか散漫な印象は受けない。この統一感こそ、これまでの作品には感じられなかったところで、そのあたりはウェイクマンの参加によって修正したものだろう。

ハウのギターワークは前作で見られたようなカントリーリックはあまり出さず、あえてクラシック的およびスパニッシュ的な要素を前面に押し出しているのだが、これがアルバムの統一感を醸し出すのに大きな役割を担っている。おそらく、これはウェイクマンの助言をハウが受け入れたからだろう。また、バンド編成の「ラウンドアバウト」でのコーラスは完全にCSN&Yのコピーと言っても過言ではないが、この曲のサウンドイメージに過不足なく合っている。アンダーソンのヴォーカルを多重録音した「天国の架け橋(原題:We Have Heaven)」を聴けば、アンダーソンがビートルズ的なコーラスを目指していることが分かるだけに、CSN&Y風のコーラスを取り入れたのはハウのアイデアだと思われる。

イエスの曲の中でも「ラウンドアバウト」は異色のナンバーだ。これまでになく、ブルフォードのタイトで重厚なドラムとスクワイアのヘヴィなベースが絡み合い、ウェイクマンの考え抜かれたシンセサイザーの多重録音と、曲の間を縫うように張り巡らされたハウの緻密で大胆なギターワークが混じり合い、まさに神がかった演奏が繰り広げられている。イントロとアウトロでのハウのギターや後半のウェイクマンの熱くドライブするオルガンプレイなど、何度聴いてもゾクゾクするような陶酔感を味わえる名曲中の名曲に仕上がっている。

最後にロジャー・ディーンのことに触れておきたい。本作でアルバムデザインを手がけたディーンのファンタジーなイメージは『こわれもの』のサウンドを表現するのにぴったりで、その意味ではディーンはイエスのメンバーの一人と言っても良いかもしれない。ディーンは本作以降もデザインを手がけることになるが、最高作は間違いなく『こわれもの』のデザインである。ただ、CDはLPのような豪華な感触が再現できないのが残念だ。

TEXT:河崎直人

アルバム『Fragile』

1971年発表作品

\n1. ラウンドアバウト/Roundabout
2. キャンズ・アンド・ブラームス (交響曲第4番ホ短調第3楽章) /Cans and Brahms
3. 天国への架け橋/We Have Heaven
4. 南の空/South Side of the Sky
5. 無益の5%/5% for Nothing
6. 遥かなる想い出/Long Distance Runaround
7. ザ・フィッシュ/The Fish
8. ムード・フォー・ア・デイ/Mood for a Day
9. 燃える朝やけ/Heart of the Sunrise

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当記事はOKMusicの提供記事です。

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