尾上菊之助「ナウシカの物語の深く複雑な世界観に惹かれました」 スタジオジブリ関連作品初の新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』

SPICE

2019/10/4 19:00



『風の谷のナウシカ』が、新作歌舞伎として2019年12月に新橋演舞場で上演される。座頭は、古典歌舞伎でも活躍し、新作歌舞伎『NINAGAWA 十二夜』や『極付印度伝 マハーバーラタ戦記』を経験した尾上菊之助が勤める。尾上菊之助がナウシカを、中村七之助がクシャナ役を演じる。

今回は、尾上菊之助に、新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』への意気込みを聞いた。8月の取材会で冒頭に尾上菊之助自身から、取材陣へのあいさつがあった。

本日はお集まりいただきありがとうございます。12月に新作歌舞伎として『風の谷のナウシカ』を上演させていただくことになりました。5年前から準備をスタートしておりまして、スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーとお話しさせていただき、宮崎駿監督のご了承をいただきながら進めてまいりました。すでに大体の脚本が上がっておりまして、今、衣裳、かつら、そして音楽と準備を進めている最中ですので、ご期待いただければと思っております。よろしくお願いいたします。​

ーー『風の谷のナウシカ』という壮大な作品を上演するということにあたって、率直なお気持ちをお願い致します。

私もジブリファンのひとりとして、作品の世界観を大事にしつつ、日本の古典芸能である歌舞伎と、日本を代表するCOOL JAPANのひとつである『風の谷のナウシカ』の融合に携われることを嬉しく感じています。​

歌舞伎舞台化をご了承いただけたときはとても興奮しました。宮崎監督は「題名を変えない限りはどのようにやっていただいても構いません」とおっしゃってくださったと伺いましたが、それがすごいプレッシャーになりまして。この世界観を大事にしないといけないと改めて思いましたし、宮崎監督が10年以上かかって、1巻から7巻まで描き上げた重みを大事に理解して、通し(昼の部、夜の部を通してひとつの演目を行うこと)を創りたいと思いました。​

ーー『風の谷のナウシカ』のどのようなところを、歌舞伎でやりたいと思われたのですか?

私がはじめてアニメ映画の『風の谷のナウシカ』を見たのはテレビの再放送でしたでしょうか。映画は原作中の1巻~2巻の部分で終わっていますが、以降も宮崎監督は描き続け、より深く複雑な世界観を10年以上かかって完結されました。​

『風の谷のナウシカ』は文明が滅んで1000年後の未来から、現代を照らす作品だと思います。環境問題、エネルギー資源、それから、核や遺伝子操作の問題など、宮崎監督がこれを描かれたのは1980年代で、日本が成長していくときに「このままでいいのか」と思いながら描かれたとおっしゃっていました。その当時、日本はこれからバブルに突入していく頃であまり環境問題などは取り沙汰されていなかった。今の日本は、『風の谷のナウシカ』の世界観に追いついてしまった気がしています。​
尾上菊之助
尾上菊之助

歌舞伎の古典演目も、古典として残っているものは、その作品に「普遍性」があるから時代が変わっても残っています。​

『風の谷のナウシカ』も「普遍性」のあるテーマです。歌舞伎ではエネルギー資源や環境問題などを取り扱うことはないので、そんな世界を歌舞伎としてやってみたい。それから歌舞伎では、『仮名手本忠臣蔵』ですとか『菅原伝授手習鑑』『義経千本桜』などの通し狂言は、壮大な話を昼の部夜の部通して上演します。『風の谷のナウシカ』の1巻から7巻という大きなスケールは、通しでできるのではないかと思いまして、この世界観を歌舞伎にしたいと思いました。​

ーー『風の谷のナウシカ』の世界観を大事にしながら、古典歌舞伎で使われているような江戸の言葉も使われる形ですか?

そうですね。なるべく平易な言葉を使うようには心がけつつ。

衣裳なども、ナウシカやクシャナに関しては、お客様がパッと見た瞬間に「ナウシカだね」「クシャナだね」と理解していただけるように原作に寄り添っていこうと思いますが、ほかの土鬼(ドルク)や、トルメキア、蟲使いの人々には日本の雅楽の衣裳や、沖縄の紅型染めなど日本の特色ある配色を用いつつ、様々なキャラクターごとに使い分けようと思っています。​

ーーナウシカは少女の役柄ですが、役柄の印象は?

歌舞伎では若衆や可憐な少女の役などを、実年齢に近い俳優が演じる面白さと、経験を積み、見せ方を分かったうえで演じる面白さがあります。歌舞伎での古典の蓄積がナウシカを演じる上の手掛かりになると思っています。​

『風の谷のナウシカ』はナウシカの成長物語だと思っています。腐海の謎解きから始まり、戦争に直面し、トルメキア、土鬼の人たちと関わっていくことによって、ナウシカは地球という星と人間の付き合い方について考えていく。1巻から7巻までの間に彼女は腐海の謎から地球全体について考えるところまで成長していきます。​
尾上菊之助
尾上菊之助

ーー『風の谷のナウシカ』には世界中にファンを持つ作品です。

この『風の谷のナウシカ』の世界観が好きだし、いつか……歌舞伎に…いや、いつかなんて思っていなかったです、正直、ただ『風の谷のナウシカ』が好きでした。​

今までは蜷川幸雄先生の『NINAGAWA 十二夜』や、宮城聰先生と『極付印度伝 マハーバーラタ戦記』を作ったりと、シェイクスピアでイギリス、マハーバーラタでインドというように、海外の作品と歌舞伎を融合させてきました。​

そんな中、きっかけのひとつになったのが、2020年のオリンピックです。海外の方にも、日本の文化を知っていただく機会になると思っており、何かできないかと考え始めたのが5年前でした。​

勿論、海外の方に『風の谷のナウシカ』を通して歌舞伎を知っていただきたいという気持ちもありますし、また、日本の方にも古典芸能を知っていただく機会になればいいなと思っています。

ーー演出のG2さんと組まれるのははじめてですよね?

普段歌舞伎というものは演出家が存在しないので、中心となる俳優がいろいろ考えるのですが、演出家の方がいらっしゃると、俳優だけでは考えられないような広がりや世界観を提案してくださいます。​

また、G2さんは『風の谷のナウシカ』にお詳しく非常に頼もしいですし、楽しみにしています。​

ーー『風の谷のナウシカ』には様々な動物や建造物など大道具的な部分の苦労もありそうですね。

あくまでも古典の技法でやろうとは思っています。古典歌舞伎でもキツネや猪が出てきますので、その延長線上で王蟲などの表現方法を考えています。​巨神兵などかなり大きなものになるので、劇場に入るのか心配しています(笑)​

ーー印象的な劇中歌の多い作品です、音楽はどのようにされる予定ですか?

古典歌舞伎の黒御簾音楽をベースに、映画の曲も一部和楽器の編成で演奏させていただく予定です。​

ーークシャナ役の七之助さんとどのように話されてますか?

七之助さんはコクーン歌舞伎など創造的な現場が多く、前回の『極付印度伝 マハーバーラタ戦記』もかなりアドバイスを頂いて一緒に場面を創り上げていきました。七之助さんの力は本当に大きかったです。​

『風の谷のナウシカ』にとっては、ナウシカだけではなく、クシャナも非常に大事な女性です。本当に重要なキャラクターだからこそ七之助さんと一緒に創りたいと思い、出演をお願いしました。​
尾上菊之助
尾上菊之助

ーー同じ女方としての歌舞伎界における七之助さんへの印象などをお願いします。

私も七之助さんも女方でいうと、玉三郎のお兄さんにご指導いただくことが多く、そういう意味では同門のようなものです。ナウシカ、クシャナを演じることで、お互いの関係性が表現につながっていくと思っています。​

ーー新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』を通して、今に伝えたいことをお願いします。

ナウシカは、人間の運命は世界に委ね、自分はこの世界でいきなくてはと決意します。生きていけばきれいなままではいられないし、清濁併せ吞むようなところもある。でもそれを理解したうえで、人間として進むべき道というものがあるのではないかな、と。人間というものを見つめなおす機会になればと思っています。​

ーーはじめて歌舞伎を見る方へのポイントやメッセージはありますか?

古典の歌舞伎でもそうですが、すごく敷居が高いと思われる方もいらっしゃいます。でもいざ劇場に足を運んでみると「意外とすんなり楽しむことができた」という感想をいただくことも多いです。ある程度あらすじを理解してきてくだされば、あとはもうお楽しみいただける自信がありますので、そこまで創り上げたいと思ってます。​

ーー最後に、意気込みをお願いします。

新作歌舞伎でさらに通しですので、場面も多いですし、例えば音楽などにしても、しっかり考えて選択をしていかないといけない要素がとても多い。そんな時助けになるのはやはり古典の蓄積だと思うので、先輩方、同輩後輩のお力を借りながら、古典の力を信じて、今まで育ててくださった古典歌舞伎への敬いと、古典歌舞伎を蓄積してくださってきた先人たちへの敬意をこめて、一座の皆様のお力添えをいただいて新作歌舞伎を創り上げたいです。​
尾上菊之助
尾上菊之助

取材・文=森 きいこ 撮影=iwa

当記事はSPICEの提供記事です。

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