再再演!劇団チョコレートケーキ『治天ノ君』開幕インタビュー ~平成から令和にかけて上演され続ける大正天皇

SPICE

2019/10/3 15:15



暗君であった……そう語られる悲劇の帝王、大正天皇嘉仁を描いた舞台『治天ノ君』が、2013年初演、2016年再演をへて、2019年10月3日(水)に再再演・東京公演の幕が開く。初演は第21回読売演劇大賞の選考委員特別賞・優秀演出家賞・優秀男優賞・優秀女優賞、CoRich舞台芸術アワード!2013第1位などを受賞。今回2019年の東京公演初日には、ハヤカワ演劇文庫でも『治天ノ君』を含めた戯曲集が出版となる。また、今回の公演期間中、「SPICE優良舞台観劇会」と冠するイープラス貸切公演も10月9日(水)19時の回に実施する。

大正天皇とはいったいどんな人だったのか……。すでに地方公演を終え、東京公演初日の直前、今あらためて本作を上演することについて、古川健(脚本)、日澤雄介(演出)、西尾友樹(大正天皇役)、松本紀保(皇后節子役)の4名に話を聞いた。

■青森・長野・新潟・福島公演をへて、東京開幕へ


──3度目の上演ですね。再再演と聞いてどんな思いでしたか?

西尾 まさかやるとは思ってなかったですよ! 再演では海外公演もあって「ひとつのピリオドをうったかな」というところにもう一度スタートすることになったので、さあどうしようかな、と。改めて今回もひとつの集大成にしたいなと紀保さんとも話しました。

松本 それぞれやりたかったけどできなかったことがあるだろうから、なにかチャレンジしたい気持ちになりましたね。だから初演とも再演とも違う作品の色が出ていると思います。

──すでに青森・長野・新潟・福島公演を終えられましたが、反響は?

松本 みなさんしっかり見入ってくださいました。土地によって反応が違っていて、すごく笑ってくださったところもあれば、一方でピッと集中して最後に大きな拍手をいただいたところもありました。

西尾 福島では初めて爆笑を体験して、むしろ動揺した(笑)あと、どこでだったか……大正天皇が身体を悪くして歩くのが大変になるところで、客席から「あぶない!誰か車椅子持ってきて!」って……そこまでのめり込んでくださったのはありがたいですけど、驚きました(笑)。

──地方公演を経て、東京公演にあたって稽古中ですが、どんなことを大事にしていますか?

日澤 東京公演の会場はほかと比べて小さいので、関係性を密にして、目線ひとつでわかってもらえるような作品にしようとしています。俳優さんは大変だけどね。

西尾 大変ですよ……クッタクタ!昨日の稽古は9時間ぶっ通しでしたからね!本番よりもキツいんじゃない?新しい立ち位置がどんどん生まれているんですよね。

日澤 そうそう、地方公演にはなかった花道を客席の間につくりました。そうなるとまたいろいろ変えたくなっちゃってて……みんな、段取り覚えてるかな?

西尾 いや~~~~、もうわかんない……(笑)。


■2013年初演、2016年再演からの変化


──再再演にあたってのお話の前に、まずこの作品がどのような思いで書かれたのか伺ってもいいですか?

古川 2013年に書いた時は、「大正天皇って近代天皇制の天皇なのにぜんぜん知られてないよね」という思いからでした。悪いうわさの方が多いけど、調べてみたらそんなことない。しかも悪い噂が流れる理由もあったとを知って、そのイメージのギャップを描くことで、観た人が「大正天皇ってそういうことだったんだ!」「治世は短かったけどそんな素敵な人がいたんだな」と知ってもらえたらいいなという気持ちが強かったです。今でもその思いは変わってないし、少しでも大正天皇のイメージをとらえなおすきっかけになってくれたらいいな。国のトップではあるんだけど、それほど実権もなかった。なにもかも自由になったわけでもないし、いろいろしんどい思いもしただろうなということが伝わればいいなと思っていましたね。

あと『戦前』とひとくくりで語られがちな時代だけど、いろんなことがあったことが単純明快にわかる話にしたかったです。明治と大正と昭和前期にはどれも違う空気があったことを、それぞれの天皇のキャラクターに当てはめることで描こうとしました。

再演を重ねるごとに物語が俳優さんの血肉になって、「そうそう、こういうことが見せたかったんだよ」と思うことが増えていきましたね。いまでは自分が込めたメッセージ以上のものを作品が持つようになってきていると感じるので、作家として幸せです。

──では、再々演にあたって変化したことは?

古川 脚本は書きかえてないんですよね。

日澤 もともと完成していたものをカットしていましたからね。でも再再演にあたって、脚本の切りとり方を変えました。これまで古川が一番好きなシーンを僕がカットしてたので、今回復活させたら「ああ、このシーン入ってて嬉しい」って言うから、やっぱりやりたかたんだな、って。

古川 (笑)。書き上げたらできるだけ意見を言わないようにしてるんですけど、今回の上演台本が一番やりたかったことに近い切り取り方になってるなって内心思ってますね。

松本 新たにシーンが加わることになるので、登場人物像も変わりましたね。やっぱりシーンを復活するってすごく大きいです。


──追加があったぶん、無くなったシーンもある?

西尾 それが、無くなったシーンはないんですよ。

日澤 ちょっと細かな台詞をカットしたりはしましたけど、シーンは減らしてないので全体は増えてます。でも時間は短くなっているんですよね。

西尾 大変ですよ!動き回って転んで汗かいて……登場しただけでもエネルギー使います。

松本 隣にいたら西尾さんが汗だくで……。

西尾 あははは(笑)。

──シーンを増やしたことで、初演•再演とくらべてどんな変化がありましたか?

日澤 焦点の当て方が変わりました。前は、大正天皇・明治天皇・昭和天皇それぞれの考え方の違いが、どう戦争に向かっていくかを一番に考えていたんです。それは今回も大事にしているんですけれど、さらに大正天皇と節子(さだこ)の夫婦関係と、息子である昭和天皇をふくめた3名の家族愛をより色濃く出しました。……紀保さんには感情的なことを強く演じるようにお願いしたよね。

松本 そうですね。

日澤 前はピシッと『皇后様』だということを大切にしていたんです。大正天皇がすごく自由な発想の人だったので、逆に節子さんには重しとして押さえてもらっていました。でも今回は、二人がノリ良く楽しむシーンとかを増やしました。

松本 会話のかけあいが楽しいですね。

日澤 二人だけでなく、全体的に人間味を強くしましたね。というのも、2013年の初演の頃はみんな若かったんですよ。西尾君は20代だったんじゃないかな。だから僕は「ちゃんとしなきゃ」って思ってた。

西尾 僕は逆かも。初演の時は「どうなってもいいやい!当たってくだけろやい!」みたい気持ちだったのが、ちょっと慎重派に寄ってきています。

日澤 え、そうなん……?

西尾 そうなんです(笑)たぶん当時は『社会派』と言われる劇団があまりなかった。今はすごく増えたの「じゃあうちでやる時は……」と深く考えるようになってきたかも……すごく消極的な理由だ……。

松本 あはは(笑)

──人間的なものを強くしたのには、どういう意図が?

日澤 一番は、「見てみたい」かな。これだけ何公演もやってると俳優さんが作品をわかってきてくれているので、僕が「様式をちゃんとしようよ」と言わなくてもやってくれる。そうなると、形式的じゃないところも見たいという欲が出てきたんですよね。たとえば大正天皇と節子さんには「もっと愛情深いところ見たい」「もっといちゃついてほしい」と思って、人間的な心の通い合いを大事にしました。

まぁ、前回は皇室の方々の感情を強く出すことを怖がっていたんですよ。天皇陛下の前で声を荒げるのは失礼じゃないかな……なんて考えていたんです。でも、皇室の内側を考えていくならもっとプライベートな個性のある表現をしていいのかな、と思えるようになりました。僕のなかで「天皇陛下の前だけど声を荒げざるをえないくらい憤ってるなら、声を出しちゃおうか」と考え方が変わったいったんですね。


松本 初演の時は皇室のマナーから勉強していましたもんね。みんなでマナーブックを見て、お辞儀の角度から勉強してたなぁ。

西尾 アキレス腱が切れそうになりましたよ(笑)

松本 そうそう(笑)。そういう形式的な部分はずっと積み重ねてきたので、今回は、家族や人間的な部分をつくっていく自由さがありました。ちょっとはみ出してもいいかな、と。

──初演から6年、再演から3年も経つと、俳優さんの変化もありますよね?

日澤:まぁ、みんな歳とったよね(笑)フレッシュじゃなくなって、体力的に落ちてる。

西尾 キツいっすよ……。

日澤 でも3年間の経験値が作品に乗っています。みんないい感じに歳を重ねて、新しい空気を入れてくれました。誰も初演・再演でやったことを持ち込まなかったんですよ。「これ前にやったよ」というのがないのはすごく良かったです。たまに「それは前のままでもよかったんだけど」ということはあったけど(笑)。

──天皇家を演劇で描くことについては、初演から変化はあったんでしょうか?

古川 うーん……初演の時は、そもそも強い関心がなかったからこそ書けたのかもしれないです。小劇場でしかできないことってなんだろうと考えて、この題材を取り上げました。怖い気持ちはありながらもタブーを破ってみたかった。天皇陛下であっても一人の人間として描きたかった。今の自分なら書かないかもしれない。でもまさか3回目をやらせてもらえるとは。


──皇室の方を演じることについてはいかがですか?

西尾・松本 うーん……。

日澤 紀保さんは初演から持ち込んでくる空気が抜群だったよね。

松本 そんなことないですよ! 初演では話し方ひとつどうしたらいいかわからなかったです。

西尾 僕、いまだにわからないです(笑)。

松本 でも想像すると、皇室の方々も、家族だけの時には私たちからは見られないやりとりがあるだろうな、と。今はだんだん皇室という存在が身近になってきていますから、ひょっとしたらどこかでは感情が出ることはあるんじゃないかな。もちろん想像なんですけれども。でもお芝居だからこそ、自分達の想像をもとに描けるという強みがあるかもしれないなと思って、自由になってきました。

西尾 大正天皇についていろいろ調べると、思っていた以上に人間らしくてすっとんきょうなエピソードがいっぱいあるんですよね。皇太子時代に、トラブルがあったらすぐお金でなんとかしようとしたり、地方に行った時に警備の都合でルートが決まってるのに勝手にあちこち行ってしまったり、山で鉄砲を撃って近くの住職に殴られたり……どこまで本当かわからないんですけどね。やんちゃボーイなエピソードが残っているんです。


松本 節子さんはけっこうやきもきしてたみたい。

西尾 でもいい歌も残してるんですよね。『武夫(もののふ)の いのちにかへし 品なれば うれしくもまた 悲しかりけり』……戦争から戦利品持って帰ってきたのは嬉しいけど悲しいね、という意味だそうで、すごく優しさを感じる言葉も多い。その人間味は大切にしたいですね。

台詞で、節子が息子(昭和天皇)に、「父上はその定め(さだめ)から逃げませんでした。あなたも逃げてはなりません」と言うんですが、その言葉はどのまま節子にも返ってくるなと、今回聞いていて思いました。

松本 たしかに……!その台詞は、初演・再演を経てすごく自分のなかでぐっとくるものなんです。物語のなかで「定め(さだめ)」「逃げない」とつねに言ってることについては、再再演でものすごく意識しました。大正天皇の言葉をそばで聞いて、それを受け止め、昭和天皇に渡していく……そのときには自分自身にも言っているし、芝居のひとつの大きなテーマでもあることは意識しています。

西尾 やっぱり、天皇家を繋いでいくって、町中の家業をつぐのとは違うでしょうからね。

──では最後に、ご覧になられる方にメッセージをお願いします。

古川 書いた僕が言うのもなんですけど、演じるのは大変な脚本ですよね。役の生き様とともに、俳優としての生き様も見せてくれているので、ぜひ舞台で体感してほしい。

松本 いろんな登場人物の視点で観てみると面白いかもしれないですね。皇室だけでなく、政治家たちのやりとりもドキドキする。人それぞれ思いがあるし、彼らから見た天皇家はまったく違う見方になるかな。

西尾 家族に焦点を当ててはいても、そこに深く関わる政治家や、政治の思惑がありますからね。それがダイレクトに日本の話になるのはこの作品の面白いところ。個人の関係の先に、どうしても戦争がある。

松本 そうですね。人間関係が歴史と直結していますよね。むしろ、政治や歴史に影響されて個人の関係性が変わっていくのは、心が痛むシーンもあるし、ちょっと感動するシーンもある。

日澤 好き嫌いでは動いてないですからね、みんな。そこに感情移入してもらえたらすごく楽しめると思いますよ。


取材・文・撮影/河野桃子

当記事はSPICEの提供記事です。

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