「岡野陽一のオジスタグラム」16回。ライターを貸してくれた健男さんの切ない秘密にオジスタグラマー涙!

エキレビ!

2019/9/28 12:00



(→前回までの「オジスタグラム」)


人生とは思ってもない事が起きるから面白い。
僕にも最近凄く小さな思ってもない事が起きた。

その日、僕は仕事帰りに駅の近くの喫煙所で煙草を吸いながら珍しくエゴサーチをしていた。
普段は余りやらないのだが、何の気なしに帰りの電車でやってみたら止まらなくなってしまったのだ。
エゴサーチとは読んで字の如く、ツイッターなどで己の事に関する呟きのみを調べるエゴイズムに満ちたサーチである。

エゴイズムの化け物
「岡野陽一」での検索を終え、次は念のため「岡野」で調べる。
そこには岡野界の重鎮、ポルノグラフィティ岡野さんと、野人岡野さんが立ちはだかる。

失敗だ。

しかし、エゴイズムの化け物と化した僕はもう誰にも止められない。
スペースを活用する。

「岡野 芸人」「岡野 面白い」「岡野 おもしろい」「岡野 最高の息子」「岡野 糞」「岡野 肉」………。

ありとあらゆるエゴを尽くし、そうか!僕はピン芸人だった! と思い「岡野 ピン」で調べた時だった。

一個引っ掛かった!

「岡野さんのネタ初めて見たけどピンと来なかった」

僕が思ってた「岡野 ピン」の引っ掛かり方じゃない!
外にも関わらず僕は声を出して笑ってしまった。
やはり人生思ってもない事が起きると面白い。
暫くエゴサーチはやめよう。

健康な男と思いきや
さてさて、どうでもいいお話はこの辺にして、今回のオジスタグラムは健男(たけお)さん。
この日エゴサーチをしていた僕に、ライターを貸してくれと声をかけて来たおじさんである。


健男さんはただライターを借りたかっただけなのだろうが、相手が悪かった。
ライターを借りた相手は、オジスタグラム第16回を迎え、慢性的なおじさん不足に悩んでいるエゴスタグラマーだ。
こんなチャンスを逃す訳ない。

「乾杯ー!」
「かぁー! うまいっすね!」
「お兄ちゃんうまそうに飲むな? こっちは痛風の味方ハイボール!結局うまい! ガハハ!」

健男さんは、読んで字の如く健康な男と思いきや、痛風で肝臓もやっているお茶目な50歳だ。

「痛風て痛いんですか?」
「痛いってもんじゃねーよ! 足がとれたかと思うぞ」
「えー!」
「結局人間なんてバカな生き物よ。病気しないとわかんないんだから」
「確かにそうっすね」
「そんで病気しても飲むんだから。バカな生き物だよほんとに。ガハハ!」
「ケケケケ!」

健男さんは凄くいい人だ。
とにかく優しい。
健男さんのジョッキが空いて、何を飲むか聞くと

「ありがとな。大丈夫自分で頼むよ。無理してないか?気遣ってないか? 自然体で飲めよ」
と仰る。

ほんとの自分?
そして優しさの矛先は僕だけに留まらない。
その日の居酒屋は店員さんが全員めちゃくちゃ元気いい系で、名札にあだ名が書いてあるパターンの店だった。
注文をとる時にも爪痕残そうとしてくるタイプの店員さんと言えばわかるだろうか。
その一律に機械のように明るい店員さんにも健男さんは優しい。

「お待たせしました!!!こちら!獲れたての!!!今日獲れてほやほやの!!つぶ貝でございます!!」
「ありがとう。大丈夫?」
「え?」
「無理してない? ほんとの自分?」
「……もちろん!僕は!普段から!こんな感じでーす!!」
「ほんと?辛くなったらこのテーブルは無理しなくていいからね。ほんとの自分じゃないと疲れちゃうでしょ?」

……なんかおかしい。

誘拐犯が誘拐前の子供に見せる優しさのように、何かを優しさコーティングしている気がする。
そもそもこれは優しさなのか?
健男さんは無理をしてるのをとにかく嫌う。
ほんとの自分かどうか凄く聞いてくる。


明るく見せようとしてる人が心配
何? ほんとの自分て。
僕の怪訝な表情に気付いたのか健男さんが仰る。

「お兄ちゃんほんとに無理してない?ほんとの自分?」

もはやホラーだ。

「いや、全く無理してないですよ!」
「じゃ、いいんだけど」
「……」
僕は精一杯膝の震えを隠す。


「ガハハ! 聞きすぎだよな!?」
「え?」
「違うんだよ、俺よ、無理して明るく見せようとしてる人がとにかく心配になるんだよ」
「な、なぜですか?」

ここから話が思ってもない方向に向かう。

「俺が昔そうだったからよ」
「え?」

「俺よ、中、高、大学と暗い青年だったの。教室の隅で太宰とかばっかり読んでてさ」
「えー! そんな感じに見えませんね!」
「明るい奴らにずっと憧れててさ。で、半導体を売る会社受かって、入ったタイミングで周りに俺の事知ってる奴がいなくなったんだよ」
「ほう」
「そこで俺、ここだっ!って思ってさ、明るい奴になろうと思ってさ、最初の歓迎会でめちゃくちゃ頑張ったのよ。割り箸鼻と口にはめてさ、裸になったり、盛り上げてさ」
「えー! 急に! ケケケ!ウケたんですか?」
「これがウケたんだよ」
「凄い!」
「初めてだったからさ。これが明るい奴の見る景色かって 最高だったね!ケケケ」
「ケケケ。極端ですねー」
「でもそっからだよ。人生変わったよね。周りは完全に俺をめちゃくちゃ明るい奴として扱うのよ。あんなに暗かったのに」
「良かったじゃないですか!」
「最初はね。念願の明るい奴になれたんだから。でも、もう1ケ月もたたない内に辛くなってくるんだ。暗い奴に戻りたいって ケケケ」
「ヘケケケ」
「初めて思ったよ。明るい奴も楽じゃないんだなって。でももう、実は暗いんです。とも言えないじゃない?」
「どうしたんですか?」
「40歳で会社が潰れて転職するまで明るい奴をやりきったよ」

「えー!!!」

瞬間、僕はこの店のどの明るい店員さんより大きな声を出してしまった。

「おかしくなるかと思ったよ。会社ではめっちゃ明るくして、家に帰ったら家族と誰とも口聞かないんだから!ガハハ!」


もはやコント
今のこの話しやすい健男さんからは想像も出来ない事だ。
恐らく本当に暗かった健男さんは18年間の明るい奴としての生活で、丁度いい明るさになったのだろう。

人の人生とは本当に面白いものである。
健男さんの話はもはやコントだった。

18年間明るい奴のフリをしてた暗いおじさんのコント。

「探偵!ナイトスクープ」に「実は暗い事を社員に告白したい」とゆう相談を送っていれば、間違いなく神回になっただろう。

潰して潰して残ったのが
本当に元が暗かったのかと疑う程、健男さんは喋る喋る。

「転職して入った会社の最初は緊張したね。やっぱり最初でほとんど決まるからね」
「暗い奴として入ったんですか?」
「もう何も考えずほんとの自分として入ったよ」
「ほんとの自分ってなんなんすか!ヘケケ」
「若いうちはほんとの自分なんてわからねー。ほんとの自分が知りたきゃ何でもやってみる事だ。やりたい事やって可能性をどんどん潰して行くんだ」
「潰すんですか?」
「そうだ。無理なんてしなくていいんだ。潰して潰して残ったのがほんとの自分だ。俺も明るい奴やってなかったら、今も明るい奴に憧れてたんだろうし」

健男さんはなんか凄くいい事を言っていたような気もしたが、喋り過ぎてよく覚えていない。

僕もほんとの自分を探す為に、貯金でもしてみよう。


(イラストと文/岡野陽一 タイトルデザイン/まつもとりえこ)

当記事はエキレビ!の提供記事です。

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