東田 有智 (とうだ ゆうぢ) 医師/医学博士/近畿大学病院 病院長 1980年近畿大学医学部卒業、1991年~アメリカ Mayo clinic Research Fellow、2002年近畿大学医学部呼吸器・アレルギー内科教授などを経て現在に至る。専門は、喘息、呼吸器疾患、アレルギー性疾患。認定内科医、日本内科学会指導医、呼吸器専門医・指導医、アレルギー専門医・指導医、気管支鏡専門医・指導医、気管食道科専門医。日本アレルギー学会監事、日本職業・環境アレルギー学会理事・評議員、日本気管食道科学会理事・評議員、日本アレルギー協会関西支部支部長など。
寒暖差アレルギーはアレルギーと無関係!? ――寒暖差アレルギーとは、そもそもどんな病気なのでしょうか? 寒暖差アレルギーは、寒暖の差によって鼻粘膜の自律神経のバランスが崩れ、くしゃみや鼻水、鼻づまりといった症状が出る鼻炎の一種です。アレルギーと名前にありますが、実は
アレルギーは関係ありません 。医学的には「血管運動性鼻炎」といいます。
――アレルギーではないんですか? アレルギーではありません。主に寒暖差が原因となって起こるので、そういった名前がつけられたんでしょうね。血管運動性鼻炎だとちょっとわかりにくいですし。アレルギーが関与するのは、花粉やハウスダストなどが引き金となって起こる「アレルギー性鼻炎」です。
寒暖差アレルギーとアレルギー性鼻炎の違い 寒暖差アレルギー アレルギー性鼻炎 主な症状 くしゃみ、鼻水、鼻づまり くしゃみ、鼻水、鼻づまり (抗原によっては、目や皮膚などに症状が出ることも) 主な原因 寒暖の差やストレスなどによる、自律神経のバランスの崩れ 花粉やハウスダスト、ダニなどの抗原
――アレルギー性鼻炎のほかに、寒暖差アレルギーと似ている病気はありますか? いわゆる「風邪」が近いですね。ただ、アレルギー性鼻炎は抗原と呼ばれる異物の侵入が原因となりますし、ほとんどの風邪はウイルスによって起こります。また、風邪だと熱が出たりしますし、アレルギー性鼻炎だと目のかゆみや肌あれなどの症状も一緒に出ますよね。そのあたりが寒暖差アレルギーと異なります。
7℃の温度差が寒暖差アレルギーを起こす引き金に ――寒暖差アレルギーはどんなときに起こりますか? 秋から冬、冬から春など、温度差が出やすい時期によくみられます。あとは、冬だと暖房で暖められた室内と外の寒さとの違いで症状が出ることもありますね。一般的には、
7℃以上の温度差で起こりやすくなる といわれています。寒いときに熱いラーメンを食べていると、鼻水がズルズル出ませんか? あれも寒暖差アレルギーのひとつなんです。
――寒暖差アレルギーを起こしやすいのはどんな人ですか? 寒暖差アレルギーは自律神経と深い関わりを持っているので、自律神経のバランスが崩れやすい人は症状が出やすくなります。寒暖差のほかに、
ストレスによる影響も大きい と考えられているんです。
自律神経のバランスが崩れる主な原因 ・ストレス
・寒暖差のような環境の変化
・不規則な生活
・睡眠不足
・栄養バランスが偏った食生活 など
あとは、体に冷えを感じやすい人ですね。脂肪や筋肉が少ないと、どうしても体温を保ちにくくなって、寒暖差による影響を受けやすくなります。一般的に、女性は男性よりも筋肉量が少ない傾向があるので、
ストレスをためやすい痩せ型の女性 は特に寒暖差アレルギーを起こしやすいと思います。
症状をおさえるポイントは温度差とストレス対策 ――症状をおさえる対策について教えてください。 まずは、体が寒暖差を感じにくくすることです。対策のポイントは「首」。首と名のつく部位から温度を取られるんです。マフラーや手袋、靴下などで
首や手首、足首を冷たい外気から守って 、体の冷えを防ぎましょう。加えて、
自律神経のバランスが崩れないようにする ことも大切です。規則正しい生活を送り、栄養バランスのよい食事をとること。あとは、ストレスへの対策ですね。
――ストレスってなかなか避けられないものだと思うのですが…… 生きている以上、ストレスがかかるのは仕方のないことです。人間関係や勉強、就職活動、仕事など、悩みが多いとストレスがたまりやすくなりますよね。
ストレスの原因を取り除けたら手っ取り早いのですが、なかなかそう簡単にはいきません。ですので、なにか打ち込めるような趣味を見つけるとか、一日の終わりにリラックスした時間を持つとか、心が不安定なときは深呼吸をするとか、
気持ちがラクな方向にいくように工夫する といいと思います。
症状が長引くときは病院の受診を考える ――病院を受診するタイミングについて教えてください。 寒暖差アレルギーの症状は一時的なものなので、寒暖の差が落ち着けば自然におさまります。ただし、
いつまでも症状が続いたり 、呼吸が苦しくなったりして
生活に支障を来す場合 は、病院を受診したほうがいいでしょう。もしアレルギー性鼻炎なら、喘息をはじめとするほかのアレルギー症状につながる可能性もありますし、
診断 をつけておいたほうが安心できます。
――病院ではどんな治療が行われるのでしょうか? 基本的には、いま出ている症状をおさえる「対症療法」が中心になります。具体的には、抗ヒスタミン薬を内服したり、抗ヒスタミン点鼻薬や副腎皮質ホルモン(ステロイド)点鼻薬を用いたりします。
――寒暖差アレルギーは治りますか? 寒暖の差が激しい時期は、誰でも鼻水やくしゃみなどの鼻炎の症状が出やすくなります。ですので、治すというより、症状が出ないように工夫することが大切です。また、
寒暖差アレルギーの症状をおさえる対策は、そのまま毎日の健康維持にもつながります 。季節の変わり目だけでなく、一年を通して自律神経のバランスを整えることで、健やかな心身を保つよう心がけましょう。
(終わり)
取材・文:藤田幸恵
イラスト:九月タロウ
企画・編集:
人間編集部