なぜネット上には男親のコミュニティが少ないのか?『こうして俺は父になる(のか)』対談

ウレぴあ総研

2019/9/23 09:41

8月17日に刊行された、『こうしておれは父になる(のか)』は、30代会社員兼業ライターの「本人」さん(※「本人」が筆名です)の身に突如訪れた、「大切なお知らせ」という名の妻の妊娠、そして始まる怒涛の育児生活にまつわる実感を綴るエッセイ本です。

臨場感あふれるライブレポートが人気でTwitterフォロワー1万人を超える本人さんらしく、そのスピード感あふれる文体は、まさに「育児ライブレポート本」ともいえるでしょう。

「イクメン」というには気恥ずかしい、とはいえ自分なりに育児をやっていくという、等身大の父親1年生ぶりに共感を覚える人も少なくないのでは。

今回は本書の刊行を記念して、同じく30代会社員兼業ライター、そして3児の父親であるレジーさんとの対談を行いました。

■全教科100点は無理!

本人「レジーさんのところは、今お子さんは何人ですか?」

レジー「3人ですね。上が4歳で下が双子の1歳。全員女の子です。」

本人「うわあ~(感嘆)。」

ーー今回、対談をセッティングしたのは、お二人は会社員兼業のライター、そしてフェスやライブに足を運ぶ、熱心な音楽リスナーでもあり、共通点も多いと思ったからです。

本人「今日は本当に色々お話を伺いたくて……。子育てって、とにかく自分のキャパを試されている気がするんですよね。

僕らって日中の仕事に加えて副業というかライターの仕事もある。その上で、妊娠中や出産直後ってパートナーの健康状態は良くないし、そこに新しい命がいて……。これに全教科100点とれって!マジでやべぇってなりました。」

レジー「『こうしておれは父になる(のか)』の本文にも書いてありましたけど、仕事の現場がきつい上に、家に帰って子どものケアもしなくては!となる、その板挟みの感覚はすごくわかります。」

本人「それなのに、妻からは『家事やった気になってるだけ』と言われたりして、よくSNSでディスられる『わかってないパパ』って俺のことじゃん!って自己嫌悪になったり……。」

レジー「『こうしておれは父になる(のか)』は、描写の細かさで思い出すことが多くて、それが積み重なって面白い本になっている。

さっきの仕事との板挟みっていうのはほんの一例で、子育てには大変なこともたくさんありますけど、大変なことだけではなく、ある種『面白がれる』ポイントもあると思うんですよね。

「そんな対立を見せる両陣営のはざまで、子供は慣れない寝返りを打っちゃ手足を浮かせて横ばいで『うー!』と叫んだりしている(これマジで何)」(本書P186)ってくだりがあるじゃないですか。

僕も以前、三女だけ寝てくれなくて仕方なく自分の布団に連れてきたときに、あのポーズを繰り返しながらひたすら愛想を振りまいてきて何なんだよ!って思ったりしたんですけど(笑)、そんな風に『ちょっとしたこと』を慈しめる視点って子育てにとって大事というか、そこを面白がることは、決して不謹慎じゃないと思うんです。」

本人「そんなときでも、レジーさんは自己発信でブログ記事をコンスタントにアップしたり、本を書いていたじゃないですか。どんなメンタルでやってきたんだろう?と。」

レジー「それをすること自体がストレス発散になっていたんだと思うんですけど、さすがに執筆の仕事は減らしました。よく『効率的に時間を使いましょう』とかいいますけど、「効率」でなんとかするのには限界がありますよ。」

本人「それは自分も今回本を書いていて思いました。」

レジー「今年の4月から妻が職場に改めて復帰して、双子も保育園に行き始めたので、この4月~6月で生活スタイルが急に変わって大変でしたね。

これまでは、僕が上の子だけを保育園に連れて行って、妻は休みで双子を見ていたのが、保育園に3人連れて行くことになって、妻も仕事が始まり、その上会社の仕事もこれまでで一番ってくらいに忙しくて……。

さっき『全教科100点』っておっしゃってますけど、とれなくていいというか、とれるわけがないですよ!(笑)」

本人「ああ~!本当に、こういうときに共有することができない孤独感があったんです。今日の場は本当に嬉しい(笑)。」

■なぜネット上には男親のコミュニティが少ないのか

ーーそういえば、育児の悩みや情報を共有する、父親のコミュニティはあるのでしょうか。あまり見かけないような。

レジー「父親のコミュニティが少ないのは、『関わり方』の差がありすぎるからだと思うんです。母親のコミュニティだったら、すべての人に『出産』という共通体験があるからこそ繋がりやすいところもあるんじゃないかなと。

父親の場合、あまり関わってない人から専業主夫の人まで様々で、同レベルで育児に関わっている人を見つけるのは、なかなか難しいのかもしれないです。」

ーーたとえば、男性の方が育休は取りづらいと言われていたり、制度面でも男性の方が差はありそうですね。

レジー「本にも書いてありましたが、本人さんは育休をとられていたじゃないですか。僕も職場では育児にコミットするというのを周りに認めてもらいながら仕事をしているんですけど、今思えば『言ったもん勝ち』だったなと。

上司も保育園に迎えに行くような人だったので、そのあたり理解があってラッキーでもあったんですけど。」

本人「うちの会社も、そのあたりに関してはかなり恵まれていて、社長に子どもが複数いることもあってか『男性も育休を積極的に取っていこう』という雰囲気が定着していたんです。

『育児休業』だから、本来は会社からお金はもらえないんですけど補助があって。自治体からの給付金とは別に。これは育休を取らない手はないだろうと。」

レジー「それは素晴らしい!」

本人「正直、育休とらないとやってられませんでした。

このあたりは会社によって、まちまち過ぎますよね。さっきの父親コミュニティもそうですけど、『これだ』っていう標準がない。

今働いているIT業界は働き方改革もすすんでて、育休取得に抵抗ないけれど、たとえば古い気風の会社だと、子ども生まれたら『お祝いに飲みに行くぞ~』みたいなのもザラじゃないですか。」

レジー「そんな気軽に行けるか!みたいな(苦笑)。仮に育休をとれたとしても、周りとの温度差みたいなものを感じるケースは結構あるんだろうなと。

本当に育休は義務化した方がいいというか、有給休暇だって5日取得することが義務化されたから急に浸透してるじゃないですか。育休も法で縛るくらいでちょうどいいように思います。」

本人「世の中には『じぃじ』と『ばぁば』に頼れない家庭もあるんだよ(苦笑)。」

レジー「うちは、それも見越して妻の実家の近所に家を買ったんですけど(笑)。もちろん毎回手伝いに来てもらえるわけじゃないし、僕の実家も関東ではありますがまだ働いていることもあって急なトラブルの場合になかなか頼むこともできない。

職場の時間の制約がゆるいから、なんとかなっている感じです。」

本人「うちもリモートワークOKでフレックスです。」

レジー「フレックスとリモートOKじゃないと成り立たないですよ。『働き方改革』とか言うなら、国はまずこの辺の融通をどこでも効かせられるようにしてほしい。」

本人「妻の職場は働き改革前夜というかリモートワークもなくて……、正確にいうと「なかった」というか、部署では彼女が初めての出産ケースだったらしく、今ルールを切り開いていってますね。」

レジー「本にもありましたけど、ギリギリまで働いていたと。読みながら大変だろうなと思っていました。」

本人「出産2ヶ月前くらいまで、ずっと働いていて、かつ深夜にタクシーで帰宅する日もあってみたいな生活で……。どちらも親は遠方に住んでいて頼れないし、僕も何もわからないしで。」

レジー「ネットで調べてみても、謎のキュレーションサイトばかり出てくるし(苦笑)。」

本人「そうなんですよ、これまで重度のネットユーザーだと自覚していて、ネットの知識には全幅の信頼を寄せていたのに、検索しても『シャインマスカットは妊婦が食べても大丈夫? 調べた結果、よくわかりませんでした!』みたいな記事しか出てこない!」

レジー「あんなに好きだったインターネットに裏切られた!と(笑)。」

■子育てで趣味との関わり方が変わる

本人「今年は子供と一緒にフジロックに行ったんですけど、外から流れてきた音楽にあわせて『ノッて』いたんです。『おお、音楽を知覚したんだ!』と感慨がありました。

家に帰ってからも、Eテレでやっている歌にあわせて動くようになって、『この子は今後どんな音楽を聴くようになるんだろう』と楽しみになりました。」

レジー「じぶんだけじゃなく、子どもが色んな音を楽しんでいるのを観るのもいいですよね。そういえば、毎年『フェスに子どもを連れて行くか否か』もSNS上で議論になりますよね。」

本人「僕はフジロック・フェスティバルが大好きで、毎年行っているんです。運営側も子連れ客を歓迎しているし、どのルートを行けば安全かというのもなんとなく頭にある。

だから大丈夫と思って、今回1歳児を連れて行ったんですけど、天候もあって、屈指の難易度の高い年でしたね。」

レジー「僕は2年前、上の子が2歳半のときにフジロックに家族で行きましたけど、結構たいへんでしたね。妻も下の子を妊娠中だったのでヒヤヒヤすることが多かったです。」

本人「前々から準備して、バギーも丈夫なものにしたにもかかわらず、人がパンパンになったらステージからステージへの移動は無理!そこに悪天候が加わるからほぼ動かずでした。」

レジー「僕は逆にフジロックには、強度より軽さを重視して、最悪壊れても仕方ないという覚悟で西松屋の安モノのバギーを持っていきました。意外と壊れなかったんですけど(笑)。逆に雨具はパタゴニアのガチなやつを揃えました。」

本人「軽さ重視か悪路対策かで変わってきますね。いや~本当に勉強になります。子連れフェスに関しては、行くならば子どものこと中心に考えて動く必要があるんだなと思い知りました。キッズエリアにずっといるとか。」

ーーフジロックは子供向けの遊具エリアがあったりと、大自然の中で子どもが遊べるような施設もありますしね。

レジー「『親の目当てのものを全部見る!』みたいなことをやりたいのであれば、もうお子さんを預けて一人で観に行ったほうがいいとは思います。本当に見たいアクトを1つ2つ見れたら御の字、という感じでしょうか。」

本人「ですね。そもそもこういう子連れフェスみたいな話に関しては、なにがなんでもとにかく反対って考えの人もいる。SNSでそういう人と是非を話そうとしても……。」

レジー「ずっと平行線になってしまうんですよね。育児に対する関わり方はバラバラという話は、さっきもしましたけど、趣味に対しての距離のとりかたも、本当に千差万別ですよね。

僕は子どもが生まれてからも、なるべく音楽とは関わっていたいと思っているけれど、趣味だったサッカー観戦と映画鑑賞の時間をとるのはかなり難しくなりました。

その一方で、娘と一緒に子供向けの番組を見るようになって、今まで全然目を向けてなかったものも楽しめるようになりました。」

本人「おお~。」

レジー「上の子は日曜日は『プリキュア』を観て、そのあとテレビ東京で『ひみつ×戦士 ファントミラージュ!』という特撮番組を観ています。

『LDHってこんなこともやってるのか』『子供向けの番組だけど関口メンディー(EXILE/GENERATIONS)も本田翼も出てるのか』とか、そういう発見があるのもいいんですよね。」

本人「まだうちの子は自分の好みはわからないものの、Eテレをよく観ています。たとえば、世界一のDJを目指すために仲間たちと頑張るという番組があるんですよ(※『オトッペ』音から生まれた妖精・オトッペと世界一のDJを目指す少女の物語)、あれがおもしろくって。

それに田渕ひさ子がギターを弾いてる番組もあったし(今年6月の『シャキーン!』にて、田渕ひさ子とMOROHAのUKが、ギターの振動で紙相撲をするコーナーに出演)。」

レジー「Eテレ、人選がいいですよね。『みいつけた!』のエンディングテーマを森山直太朗が歌っていたり。」

本人「最近だと米津玄師の『パプリカ』も流行ってますけど、Eテレつけているだけで、色んなジャンルの曲が入ってくるじゃないですか。」

レジー「上の子も4歳になったので、赤ちゃんの頃とは関わり方が変わってくる。ご飯も自分で食べられるようになって、そういう部分では楽になってくるんですが、ちょっと口答えもしたりして、生意気になってもくる(笑)。

でも、『プリキュア』の映画に2人で行ったりだとか、一緒に楽しめることが増えてくるんですよね。こういうのって、話の通じない頃から接していた方が、成長したときの喜びが大きいんですよ。

本当に赤子の頃におむつを替えたりお風呂に入れたりとかそういう時間があったからこそ、今一緒に遊べるのが楽しいんです。」

ーーインディーズ時代から応援していたアイドルがメジャーデビューしたら、喜びもひとしお的な……。

レジー「そうそう(笑)、それのもっと身近な感覚です!」

本人「うちの子も、そのうち自分が好きになったものを、僕に紹介してくる時期があるのかな。」

レジー「いずれ来ると思いますよ。」

本人「それは親としても嬉しいし、音楽ファンとしても、そういう外から入ってくる新しい情報が増えるので楽しみですよね。」

■そして、2度目の「大切なお知らせ」

ーー他に変わったと思うことはありますか?

本人「ショッピングモールに行くことが増えましたね。」

レジー「わかる!うちの近所にもファーストフード店、100円均一ショップ、子供の遊べるゲームセンターまでが揃っているショッピングセンターがあるんですよ。通路も広くてベビーカーも動かしやすいので、子供いなかったらこんなにありがたがってないですね。

若い頃はそういうショッピングモールに対して抵抗があったというか、文化の敵くらいに思っていたのに……(笑)。」

本人「そういう部分でも、物の見方が変わったと思います。あんなに子どもが騒いでも怒られない、包容力のある場所はとても貴重だった。本当にすいませんでした、みたいな。子どもが生まれてから、やってみないとわからないことばかりです。」

レジー「子供連れていると、すごい話しかけられますし。僕だけで子供3人と歩いていると、100%と言っていいくらい年配の方から声をかけられますね(笑)。

本人さんも本の中で『吸引力の強さ』と書いていましたけど、地域のつながりが減ってる中、絶対『あら~~!』(※高い声)って(笑)。」

本人「『大変だけど、可愛いわよねぇ~!』(※高い声)って。ありがたいことです。子どもが生まれる前は、自分以外のことをシャットアウトしているような生き方をしていたところもあるけれど、子どもを通じて、自然と引き寄せられるようになってきた。

そうしないとサバイブできない部分もあるし、それが楽しいですよね。」

ーーこの本の根底にあるのは、そういう「面白がる」ことの大切さですよね。

レジー「育児だけじゃないんだと思うんですけど、『大変じゃないといけない』みたいな風潮ってあるじゃないですか。

だから、育児を面白がるみたいなことに対して、『そんな軽い気持ちで男が育児に関わることが問題』みたいに反発する人たちもいると思うし、実際それに近いことを言われたこともあります。

もちろん子供の命を預かる責任はありますが、それは当たり前としたうえで、気軽に楽しく育児に関わるやり方や考え方がもっと語られてもいいと思うんです。」

本人「本当に出産育児に関しては『大変であること』が何よりの価値みたいな信仰はまだまだ強いですよね。

『無痛分娩なんてとんでもない、痛みを我慢した命こそ尊い』みたいな。……んなわけあるか~!『育児代行やら金を使って楽をするのは愛を注げてない』みたいな。じゃあ言ってるアナタたちが、俺のの『じぃじ』や『ばぁば』になって面倒見てくれるんですか?って。

昔とは状況が違うんだという風潮を作っていかなきゃいかんですよ。

だから、まず自分でできることというか、自分たちの世代の育児の記録を残していかないと。SNSを見ていると、そういう考えでやっている世代も、増えてきているのは希望ですよね。」

レジー「本当にそう思います。」

本人「そして、ここで『大切なお知らせ』なんですけど、今妻がセカンドチルドレンを……。」

レジー「2人目ですか!おめでとうございます!年子ですか?」

本人「に、なるのかな?子どもがひとりの時とは、違う人生が始まっていくのかと。出たとこ勝負でなるようにしかならないですが、レジー先輩にはこれからも学んでいきたいなと思いますね(笑)。」

【プロフィール】

本人:都内在住の30代男性。家族構成は妻、子、猫。一般企業のWeb担当、ニュースサイト編集記者などを経て、現在は平日にサラリーマンをしつつ、さまざまなライブやフェスに足を運んで記録するインターネットユーザーとしても活動している。2015年にtogetterでまとめられた「ありのままに長渕剛オールナイトライヴ富士山麓ふもとっぱら現場で起こったことを話すぜ!」は190万viewを記録した。Twitter:@biftech

レジー:1981年生まれ。会社員兼音楽ブロガー・ライター。会社勤務と並行して2012年に「レジーのブログ」を開設。作品論のみならず、社会における音楽の位置づけ、音楽ビジネスの変遷、ファンカルチャーのあり方など音楽シーンを俯瞰した分析が話題に。現在の主な寄稿先は「MUSICA」「Real Sound」「M-ON! MUSIC」「Yahoo!ニュース 個人」など。著書に『夏フェス革命 -音楽が変わる、社会が変わる-』(blueprint)、『日本代表とMr.Children』(宇野維正との共著、ソル・メディア)がある。Twitter:@regista13

当記事はウレぴあ総研の提供記事です。

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