『サ道』五箇公貴Pが意識する「テレビをゴール地点に置かない」番組作り


●「極力バスタオルを巻かない」ゆえの苦労
注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、現在放送中のテレビ東京系ドラマ『サ道』(毎週金曜 24:52~)のプロデュースを手がける五箇公貴氏だ。

30分間まるまるサウナを描く今作や、史上初のバーチャルYouTuber((VTuber)ドラマ『四月一日さん家の』(19年4月期)など、振り切ったチャレンジングな作風の印象を受けるが、話を聞いてみると、そこには“テレビだけで完結しない”仕掛けの狙いがあった――。

○■「絶対ウチの局には出ないから」

――当連載に前回登場したテレビ美術制作会社、コラムニスト、小説家の燃え殻さんが「物書きとして、五箇さんと一緒に仕事をしたいというのをモチベーションにしてやっています」とおっしゃっていました。

出た! プレッシャー(笑)

――燃え殻さんとはどのようなご関係なのでしょうか?

僕は、燃え殻さんの最初の小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)が大好きで、「cakes」での連載から読んでいました。僕らは同年代なんですよね。彼はテレビ美術制作会社、僕はテレビ局ですけど、同時期に業界に入ったから、彼の小説に描かれている当時の状況をよく知っているわけです。バラエティ番組のADだったし、まだコンプライアンスのない時代だったので、本当に家に帰れないし、蹴られたりしていましたから(笑)

――2000年代初頭のテレビの世界はそういうものだったと。

その中でも美術の会社の駆け出しって、本当にしんどかったと思います。紙のテロップがまだあった頃で、それを美術センターから子会社に発注する。そこでは何百枚とテロップを用意しないといけない。その大変さってすごく分かるんです。

――なるほど。

僕もサブカル的なものに憧れて、テレビ局に入ったひとり。当時のテレ東は、今ほどの勢いはなくて。入社当初、新入社員研修の企画書を皆で作るんですが、そこで先輩に言われたことでよく覚えているのは「お前らが考えるようなタレントの名前書いても、絶対ウチの局には出ないから」って(笑)。そんな時代でした。燃え殻さんとは、聴いてきた音楽などの文化的なバックグラウンドも、働いている業界という物理的なバックグラウンドもシンクロしていた。これは面白いな、話したら仲良くなれそうだなと声をかけたんです。

――燃え殻さんは、「僕が小説を書いて最初に接触してくれたテレビの人」だとおっしゃっていました。実際に一緒にお仕事をされるプランはあるのでしょうか?

いつか彼の小説を実写化したい気持ちはありますね。
○■「タイミングが合って」企画が通った

――現在、プロデュースを手掛けるドラマ 『サ道』が放送中ですが、この企画がスタートした経緯を聞かせてください。

『サ道』って企画的には一見キャッチーじゃないですか。漫画版(『マンガ サ道』(講談社モーニングKC刊)がスタートした2013年頃から、企画自体は何度も出てきてたんです。僕は若い頃から原作者のタナカカツキ先生の『バカドリル』や、『トンコちゃん』をずっと愛読していましたし、過去に伊藤隆行Pと立ち上げた『やりすぎコージー』のアートワークを任せられたときも、カツキさんにお願いしたことがあったんです。もちろん、11年に出たエッセイの『サ道』単行本も初版で持っています。だけど、当時は企画が成立しなかったし、僕もやれるとは思えなかったんです。

――それはなぜでしょうか?

その時は僕の中で、この作品をどう映像化したらいいのか、ビジョンができていなくて。今回のドラマに関しては、イーストの長島翔監督から「『サ道』一緒にやれませんか?」と、企画を持ち込みに来てくれたことがきっかけです。『世界は言葉でできている』などの演出を手がけていたんですが、音楽や言葉にとてもこだわりのある人で、燃え殻さんと同じように、文化的な造詣もある方で。趣味も共通していて話が早かった。だから「この人に演出を任せたら面白くなる」と直感的に思ったんです。

――そこからドラマ化企画が動き出したと。

企画って、通るものは一瞬で通るんですよね。通らないものは何かしら足りていない。そういう意味で、「タイミングが合った」のかもしれません。

――数年前に比べて、SNSなどを通じてサウナや「交互浴」(サウナと水風呂に交互に入ること)を楽しむ人も増えているように感じます。

弊社のドラマでいうと、『孤独のグルメ』や『ワカコ酒』といった「ひとりで楽しむもの」がジャンルとして成立するようになったこともあります。ドラマとして起承転結があって、1話から最終話まで話を追うために見るものではなくて、『孤独のグルメ』なら飯、『ワカコ酒』ならお酒。ドラマを通してライフスタイルを提案するもの。そういう流れが会社の中で生まれて定着していたことも大きいですね。先人の積み上げがあったからこそ、今回「サウナ」というニッチなジャンルのドラマが実現したんだと思います。

――満を持してのドラマ化ですが、反響はいかがですか?

先日もラクーアで「サウナイト」(サウナ好き文化人が集まって、サウナの明るい未来についてトークをするイベント)さんとコラボした前夜祭を行ったんです。チケットは完売して、しかも8割くらいが女性客で驚きました。(出演する)磯村勇斗さん効果もあると思いますが、基本的にサウナ施設って男性専用の施設が多い。その点、ラクーアは女性も入れる貴重な施設ということもあるのかもしれません。番組を通じてサウナを広めることで、女性も行けるサウナも増えてほしいですし、業界も活性化してほしいです。

――では、他のサウナ施設とのコラボも?

ドラマは上野の「サウナ&カプセルホテル北欧」という男性専用サウナが舞台になっているんですが、そこで女性解放デー「北欧女子会~サ道ドラマ化記念~」というのも開催されました。

――フィンランド大使館で会見も行いましたよね。

はい、サウナの本拠地であるフィンランド大使館さんは「一緒になにかやりましょう」とおっしゃっていただきまして、フィンランド大使館で、番組の記者会見とフィンランドサウナアンバサダー授与式も実現することができました。みなさん、番組を通じてサウナを盛り上げようとしてくださって、テレビ番組のあるべき姿としてすごく理想的な状況だと大変ありがたく思っています。

○■サウナ英才教育を受ける磯村勇斗

―――制作にあたって、なにか苦労した点はありますか?

笑い話で言うと、今回は監督の意向もあって、「極力バスタオルを巻かない」ことにしています。

――言われてみると、大抵のドラマの入浴シーンは、腰にバスタオルを巻いてますね。

普段お風呂に入るとき、そんなことをしないじゃないですか。その不自然さってすごいよねという話になり、(股間部分に)タオルを置くことはあっても、巻くのはなるべくやめようと。エキストラの方も20~30名ほどいますが、彼らも同じく巻いていないので、チェックも大変ですね(笑)

――放送事故になってしまいますから(笑)。ちなみに、俳優さんたちで「露出NG」の方はいなかったのでしょうか?

事務所さんもご本人も、趣旨を理解してくださって、そこに関しては全任されていましたので、逆に気が重い。冗談ですけど(笑)。マネジメントさんがそういうところを嫌うこともありますので、ありがたかったです。主演の2人、原田(泰造)さんと三宅(弘城)さんは、サウナ道のクラスでいったら有段者です。磯村さんもこの撮影期間でどんどんサウナにハマってますね。若いからフットワークも軽いし、吸収も早いんですよ。周りから教えてもらった温浴施設にどんどん行ってて。素晴らしい師匠に囲まれているから、サラブレッド、英才教育ですよ(笑)

●サウナで30分「振り切るからこそ面白くなる」

――先ほど名前の出た『孤独のグルメ』だと、食堂の楽しみ方を主人公・五郎のモノローグで表現していますし、『ワカコ酒』ですと「ぷしゅー」というセリフでお酒の気持ちよさを表現しています。原作漫画同様にサウナの気持ち良さをテレビ画面で伝えるために意識したことはありますか?

ドラマでもカツキさん作のCGで、漫画を完全再現しています。サウナのことを知らない人は、どうして熱い場所に入った後に、冷たい水に入るのか意味分からないとなるじゃないですか。それを映像とナレーションを駆使してひたすら説明するという。サウナってどこでも同じと思われるかもしれないけれど、サウナストーブにも色んな種類もあるし、水風呂も温浴施設によって温度がぜんぜん違う。ご飯もあるし、それぞれにこだわりがあるんです。

――そういえば、サウナにはテレビがあるところも多いですし。

僕も「サウナ&カプセルホテル北欧」や、錦糸町の「ニューウイング」でリアタイ視聴をしました。最初はリアルを求めてサウナ室で観たんですけど、やはり熱くて水風呂との行き来がせわしなかったんで、次からは休憩所で見ることにしました。ちょっと考えればわかると思うんですが、なんかサ室で見たかったんです。そのほうがととのいそうなだなって。バカですよね(笑)

――パブリックビューイングですね(笑)。近年のサウナの盛り上がりの要因は、何だと思われますか?

今って、ストレスが溜まりやすい時代じゃないですか。それを手っ取り早く解消する手段として、サウナはすごく有効だと思うんです。これは記者会見でも言ったんですけど、「働き方改革」がどこでも叫ばれている中、「休み方」に関しては語られてこなかったことも背景にあります。なにかとコンプライアンスと言われがちで、SNSで炎上したりだとか、そういうところから一度遮断されて、ひとりになる時間を過ごす。それは1日の終わりでも、仕事の合間でもいいと思いますし。「スカイスパYOKOHAMA」には「コワーキングサウナ」といって、仕事やミーティングをするスペースもあったりするんです。

――本当にサウナがお好きなんですね。

私なんてまだまだです。ご覧の通り今回のドラマは本当にサウナしか描いていないんです。普通のドラマなら、例えば「錦糸町のサウナ」の回があるとすると、周囲にもいい飲み屋がたくさんあるから、そこも紹介して「幸せな1日だった」って、やりたくなると思うんで。でもやらないことにしました。駅を降りたらサウナ施設に一目散に行き、そこから出ない(笑)。それで30分やりますから、気が狂ってますよね。でも、振り切るからこそ面白くなると思いました。これは監督とも早い段階で一致していましたね。『サ道』ですから。

○■コミュニティ作りまで設計していくべき

――春に放送された史上初のバーチャルYouTuber(VTuber)ドラマ『四月一日さん家の』も、VTuberが女優としてドラマ出演するという、ある意味振り切った挑戦だったと思います。こちらの視聴者の反応はいかがでしたか?

VTuberは限定されたファン層に向けられたものという印象が強く、衣装も男性が好みそうな露出の高いものが多いんです。でも、今回は女性の視聴者にも見てもらいたかったんです。だから彼女たちが、年頃の女の子のスタイリングで、女優としてドラマに出演したら間口が広がるのではと思ったんです。実際に『四月一日さん家の』は、20代女性やお子さん、お年を召された方など幅広い方々が面白がって見てくれてました。「伝わった」と手応えを感じました。その上で、ファンの方たちの熱量がすごかったですね。最終回の際にイベントをやったときも、チケットは即完。愛されている気がしましたね。

――ファンの熱量が高いことによって、何が変わっていくのでしょうか?

既存のドラマって1クールの放送を終えたら、外に広がっていくことってあまりないんですよ。『四月一日さん家の』は、このあともイベントなどをやろうと思っていて。そこでうまく熱量を持続させていけたら、シーズン2もやりたいですし。最近自分がやっているドラマは、テレビというメディアをゴール地点に置かないようにしています。

――テレビを起点にして、さらに広げるような形でしょうか。

『四月一日さん家の』でしたら、VTuber業界全体の底上げになれたらいいし、IP(知的財産)を使ってテレビ以外のライブやイベントや、エピソードを皆でコメンタリーつけながら観るだとか、いろいろな発想ができますよね。実写ドラマの場合、撮影が終わってしまったら、俳優さんは次の作品に入っちゃいますから、そういうことには付き合ってくれないですよね。

――スケジュールの問題もあるでしょうし。

VTuberならではの特性があるじゃないですか。たとえば、池袋の映画館でイベントをやる場合でも、タレントさんの場合はその時間帯に全員実際に池袋に集まる必要が出てきます。でも、彼女たちの場合はやりようによっては別の場所から1つの場所に集まったりすることも可能です。今まで生身の人間が普通にやっていたことの延長線上でない、新しいことが広がっていく。それもすごく可能性を感じますよね。

――たしかに。

テレビというものは、あくまで「皆さん、こういうものがありますよ、これを見てください」と伝える機能がある。そこをスタートとして、いかにその後のストーリーを作ることができるのかを考えるほうが、実は大事なんじゃないかと。最近は番組を作るとき、そこまで考えて企画を出しています。『サ道』も、サウナ業界全体の底上げに寄与してほしいですし、1クールだけだとまだまだ伝えきれないし、3人がフィンランドに行くスピンオフも作りたい(笑)。今後はSNS中心としたプロモーションもやっていきたいし、このドラマによって、サウナ好きのコミュニティができるから、そういうことを大切にしていきたいんです。そこからシーズン2の可能性も出てくると思いますし。

――“画面の外”まで考えての番組作りが重要になってくると。

そうですね、やっぱり今はコミュニティが大事で、『サ道』を見た人たちで語り合える空間がほしい。それを作ることが、結果的にビジネスにもつながっていく。そこまで設計した番組作りをしていくべきだと思っています。

●最新テクノロジーをいかに番組に融合させるか

――これまで五箇さんが手掛けてきた番組は、テレビだけで完結していないという印象があります。たとえばEXILE/三代目 J SOUL BROTHERSのNAOTOさん本人が、夜は悪を倒すヒーローになる『ナイトヒーローNAOTO』など、設定が現実とリンクしたドラマもあります。

メタ構造が好きというのはありますね。『電影少女-VIDEO GIRL AI 2018-』もそういった部分はあります。自分だけのアイドルだった西野七瀬さん演じる天野あいが社会的に有名になっていく。たまたまですが乃木坂46の卒業の時期に特番を放送することができ、結果的に内容もリンクすることになりましたし。『四月一日さん家の』も、ある種のメタで、キャラクターたちを「演じさせる」というところがミソだったりします。

――今後、こういう番組を作ってみたいという構想はありますか?

興味のあるジャンルで言うと、VTuberやVR、3DCGもそうですが、テクノロジーは日進月歩、どんどん進化しているじゃないですか。それをいかにテレビ番組、ドラマに融合させるかに一番興味があります。Netflixでやってる『ブラック・ミラー:バンダースナッチ』は、主人公がインタラクティブにAかBかで選択を迫られていくんですが、タイムラグがなくシームレスにB選んだらすぐそのシーンに進むんです。そういうインタラクティブなエンタテインメントが主流になっていくだろうなと。そのときに第一線で仕事できるように、知見を積みたいと考えていて、そのためには『四月一日さん家の』のような試みを恒常的にやっていきたいですね。
○■最終的な起爆剤にテレビを

――「若者のテレビ離れ」と言われることについては、どうお考えでしょうか?

結局テレビって、オールドメディアの宿命ですが、視聴者の方々の中心は年配の方々です。けれど、影響力はまだまだ大きいので、若い人に「テレビってこういう使い方をしたら面白いのに」と思ってもらいたいし、何かを広げることの最終的な起爆剤的に、うまく使ってもらえたらいいな。ウェブから広げても親の世代には届かなかったりする、「それならテレビで」みたいな。僕はいい年なので、そういう風に考えて、テレビで表現をする若い人たちの手助けをしたいと思っています。

――ご自身が影響を受けた番組を1つ挙げるとすると何ですか?

難しい質問ですね…(笑)。影響を受けた番組は、ドラマ『演技者。』(2002~04年、フジテレビ)でしょうか。松尾スズキさんをはじめとする、小劇場の名戯曲を映像化する番組です。この番組を見て、「自分がやりたかったことをテレビでやっている人がいる!」と思い、初めての自分の企画『30minutes』を『演技者。』の監督に直談判して、演出してもらうことになりました。それが、後にたくさん作品ご一緒することになる、大根仁監督との出会いでした。

――いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、気になっている“テレビ屋”をお伺いしたいのですが…

酒井健作さんですね。『トリビアの泉』(フジテレビ)をはじめとする、名だたる番組を手掛けてきた頼れるベテラン構成作家です。『電影少女-VIDEO GIRLシリーズ』『四月一日さん家の』の構想は、健作さんとの雑談から始まりました。特撮をはじめとする圧倒的な知識量とプロとしてのバランス感覚を併せ持つ、僕にとって稀有(けう)で大切な存在です。

当記事はマイナビニュースの提供記事です。

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