宝塚・男役スターのビキニ写真流出騒動に見る、宝塚に根付く男尊女卑的価値観

wezzy

2019/9/12 07:05


 今月4日、宝塚歌劇団の男役スターのプライベート写真のネット流出が文春で報じられ、話題となった。来月、星組の新しい男役トップスターに就任予定の礼真琴(れい・まこと)が、ギャル風メイクにビキニ姿でビーチで遊んでいる様子や男友達と飲酒している写真で、それが原因でファン離れが起きているというものだ。

しかし、成人女性がごく普通の休日を楽しんでいるだけにも見えるために、宝塚ファン以外からは「それの何が悪いの?」という疑問の声もあがっている。ビキニギャル批判の理由を解説するとともに、宝塚の、女性だけで構成される集団でありながら寝深い「男尊女卑」について触れてみたい。
「清く正しく美しく」
 ビキニギャル姿が報じられた礼真琴は、2009年に95期として宝塚歌劇団に入団した。首席入団であり、父親はサッカー元日本代表の浅野哲也氏であることから早くから注目を浴びる存在だった。

男役としてはやや小柄で愛らしすぎる容姿であるが、低音の発声の完成度が高く、特に歌にうまさに定評がある。

ダンスと芝居も技術も高く、2013年には入団5年目の若さで、将来のトップスターへの登竜門である入団7年以内の若手だけで演じられる「新人公演」で「ロミオとジュリエット」に初主演。その後も劇団の抜擢やファンの期待に着実に応えてきた。

流出した写真は、新人公演に初主演した頃のもの。“仕事”で成果を出しており、本来ならプライベートの服装などにまで言及されるいわれはないはずだ。

ではなぜ、批判されているのか。それは、宝塚歌劇団に所属するタカラジェンヌたちと、ファンとの距離の近さに一因があるだろう。

宝塚のモットーといえば「清く正しく美しく」。タカラジェンヌとしての品のある行動をせよという教えだが、“夢の世界のフェアリー”として「ファンの持つイメージを損なわないことが求められる」という方が具体的かもしれない。

男役であるならば普段からスカートは履かず、フェミニンな服や女性らしい体形があらわになる露出度の高いものもアウトだ。背は高い方が望ましいのでヒールのある靴はOKだが、胸の大きな男役はそれが敬遠されることも多いため、矯正下着の着用や夏でもスカーフを巻くなどの工夫は義務。もちろん、ビキニ姿は論外だ。

長髪もだめで、唯一の例外は、OGの真矢ミキ。花組トップスターとして隆盛を極めていたからこそ認められたものだったが、基本的には髪が襟足にかかる長さ以上は劇団から認められない。

劇団内外への報道や言動には、タカラジェンヌのイメージを守るための「すみれコード」と呼ばれる規定が存在する。実年齢は非公開で、男性との交際がオープンになることも厳禁だ。

宝塚の運営の主体が興行である以上、観客であるファンの支持は絶対だ。ジェンヌにはそれぞれ、私設ファンクラブが存在する。日々の劇場入りでの声援や、チケット、グッズを大量に購入してくれるだけでなく、公演のたびには「お茶会」と称するファンミーティングが開催され、集められた会費は、薄給のジェンヌの文字通りの給料にもなっている。

ファンクラブの幹部は自宅への送り迎えするなど、マネジャーのように公私、そして物心両面でジェンヌを支える。劇団は表向き、私設ファンクラブが存在することを世間に認めてはいないが、海外滞在中の生徒への連絡をファンクラブ幹部に依頼するなど、“仲良く”やっているのが実態である。
男役と娘役の歴然とした差
 AKBグループなどのアイドルと違い、宝塚では恋愛自体は禁止されていない。かつて関西では、劇団の養成学校である宝塚音楽学校できびしく教育されているタカラジェンヌたちは理想の花嫁候補ともいわれていた。寿退団は、劇団からもファンからも祝福される最高の卒業だ。

しかし前述のとおり、男性との交際がばれることは、男役か娘役の“性別”を問わず「すみれコード」に違反する。ジェンヌの女性としての幸せを否定するわけではなくとも、現役タカラジェンヌである間は、男性との交際は「清く正しく美しく」ない。

会いに行けるアイドルたちが疑似恋愛をふりまくのに対し、ファンの大半が同性である宝塚は、ファンの愛する世界観をいかに体現するかが推しの理由だが、“処女性”を強硬に求められる点では同じ、といえるかもしれない。

礼は男役で、宝塚の顔であるトップスター就任間近という立場もあり、批判も大きなものとなったが、もしこれが、娘役だったならばどうだろうか。

宝塚歌劇団は未婚女性のみで構成されているが、“男尊女卑”傾向が非常に強い。ファンからの人気は圧倒的に男役の方が高いからであることがその理由の大半ではあるが、それ以上に「すみれコード」は、頼れる男性に寄り添いかしづく年少の女性、という構造こそを良としている。

宝塚には「男役10年」という言葉がある。男役としての技術が習熟するのには長期間必要で、10年たってやっと一人前という意味だ。

対し娘役は、入団から10年経てば、年増扱いをされてしまう。2017年に花組の娘役トップスターになった仙名彩世(せんな・あやせ)はトップお披露目時に入団10年目という異例の遅さの就任であったが、それまでに培った技術や努力よりも、年齢のみでネガティブな見方をされることも多かった。
ファン目線の「幸せな卒業」
 容姿の美しさも宝塚の大命題である以上、年齢を重ねることによる外見の変化をマイナス視されることは、致し方ない面は大きい。娘役の場合は特に、俳優としての技術よりも初々しさや愛らしさを重視される傾向が顕著だ。

しかし、ただかわいいだけの未熟な娘役の抜擢は、長期的な視点に立てば、歌劇団というブランド価値を損なうことにつながる可能性がある。

宝塚では時折、「性転換」と呼ばれる男役から娘役の転向が発表される。先月、君島十和子の娘である月組の男役、蘭世惠翔(らんぜ・けいと)の娘役への転向が発表された。

身長のかねあいや本人の個性により、娘役トップスターへの就任含みでの発展的な転向も過去には例があるが、“性別”が逆の娘役から男役への転向は、一度も存在しない。これは、娘役の技術の軽視といえはしないだろうか。

娘役はトップスターであっても、インタビューでもまず男役トップへの感謝と愛を述べる。相手の荷物を持ったり手料理を作ってきたり、男役の三歩後ろを下がって歩くことが、相手のファンからも認められるための必須行動。そして退団時には、自身の人生設計とは別に、トップコンビがそろって卒業することが喜ばれる。

テレビで活躍するあるOGは自身の不祥事で卒業することになったが、トップコンビのメンツだからと、実際は不仲だった相手役に同時卒業を強いたことがあった。それでもファンの目からは、それは「幸せな卒業」に他ならない。

処女性を守り、“女性”が“男性”に殉じることが「清く正しい」とされるのは、令和の時代には明らかにそぐわない古臭い思想だ。それでも、ときに理不尽な不文律を守り続けているからこそ宝塚は、その独特の魅力を保ち続けている。SNS全盛の昨今だが、乙女の花園のベールを無理やりめくるようなことは、野暮というもの。宝塚の広報は「舞台上のパフォーマンスで通して信頼を回復する」としている。その言葉を信じて、トップスターに就任した礼の、男役としての姿を楽しみに待ちたい。

(鈴木千春)

当記事はwezzyの提供記事です。

あなたにおすすめ

ランキング

ランキングをもっとよむ

注目ニュース

注目記事をもっとよむ

あなたにおすすめ