写真家・上田義彦の作品から「多様性」を学んだ


写真家・上田義彦さん。写真好きはもちろん、そうでない人には「無印良品」や「サントリー 伊右衛門」の広告写真やCMを手掛けている人物といえば分かるだろうか。

商業写真だけでなく、写真作家としても活動する上田さんの作品を軸とした展覧会「風景の科学展 芸術と科学の融合」が、東京・上野の「国立科学博物館」で9月10日~12月1日に開催される。

上田さんが長年にわたり撮影してきた世界各地の風景写真に対して、国立科学博物館の自然史や科学技術史を専門とする研究者が、解説と関連標本を紐付けて展示した内容だ。

○芸術と科学をつなぐ

当然、作品には上田さんが感じたこと、伝えたいと思ったことが込められている。

撮るときは一切考えないで撮る、選ぶときに徹底的に考えよう、と口を酸っぱく言っています。
出典:キヤノン「写真新世紀」インタビューより

そこに研究者の視点を通し、作品の解像度を上げることで、より重層的な意味を付け加えるという「思考実験を具現化したような取り組み」が、今回の展覧会なのだ。

展示のアートディレクションを担当したグラフィックデザイナーの佐藤卓さんは、「世の中すべてのことは分けられています。その分けられたものを『つなぐ』ことができないか? と考えたのがこの企画の始まりです」と話す。

既にある風景写真に対して、研究者が意見を加え、つなげていく。その成果である展示を通して、風景を科学の視点で見る目を養うきっかけになってほしいという。
○作品の解像度を上げる

例えば、インドの風景を写した作品「ガンジス川」。極めて日常性が大きい場所を、自然光を取り込むことで、どこか透明度の高さを感じる作品だ。この作品に対して、研究者は「ガンジスカワイルカ」「多様な人類集団の混合」という視点を付与。風景に動物学と人類学をつなげることで、解像度を上げているようだ。

また中国の情景や人々を撮影した別の作品では、「稲作発祥の地」という人類学の知見をつなげ、情緒あふれる写真に異なる視点を持たせている。

そしてペルーの人々を撮った作品では「高地に暮らす」とし、人類学の視点で、アンデスにおけるジャガイモ栽培とヨーロッパのジャガイモ飢饉について語られている。

○デジタル空間がリアルへ影響を及ぼす

また、会場には京都造形芸術大学教授の竹村眞一さんが開発した、デジタル地球儀「触れる地球」も展示されている。これは、インターネット経由で更新される、リアルタイムの気象情報や地震・津波、渡り鳥など生物の地球移動情報などを、1,000万分の1の球体に映し出せる。

展示された作品と研究者の解説に、別の大きな視点をつなげるのが、このデジタル地球儀の展示目的だという。

竹村さん「テクノロジーの進化により、オンライン上にある知識が、現場性を持ってタグ付けされて確認することができます。今回の展示でいえば、研究者が持つこれまでの研究成果の蓄積や知見を作品とむすび付けることで、デジタル空間がリアル空間の経験の仕方をバージョンアップすることができます」。

こうした情報革命により、地球と人類の関わり方の密度が変わってくる。今回の展覧会がその良いきっかけだろうと話す。

旅や写真撮影が当たり前となっても、今までは、自分の知識や感情を通して世界を見たり、撮影したりしていた。そのスタイルが大きく変わる節目にいるようだ。

自分の認知力だけでは届かない部分を知ることで、物事の別の見方に気付くことができる。多様性が必要となる現代、この展覧会で「つなげる」経験を得てほしい。

当記事はマイナビニュースの提供記事です。

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