今回は演出専念の松尾スズキを独占インタビュー 4度目の進化を遂げる、ミュージカル『キレイ―神様と待ち合わせした女―』

SPICE

2019/9/9 19:00



劇作家、演出家、映画監督にして小説家、エッセイスト、そして個性派俳優でもある大人計画主宰・松尾スズキ。彼が手がけた初めてのミュージカルが、『キレイ―神様と待ち合わせした女―』だ。初演は2000年、その後2005年、2014年にも配役、演出を大胆に変えて上演を重ね、進化させ続けてきたこの名舞台がこの冬、5年ぶり4回目の再演を果たす。

物語の舞台は、近未来を思わせる“もうひとつの日本”。三つの国に分かれ、100年にもわたる民族戦争のさなかに、誘拐監禁されていた少女が地下から脱出してくる。それまでの出来事はすべて忘れた少女は自らを“ケガレ”と名乗り、過去と未来、現と幻が絡み合うような混沌とした世界でさまざまな人に出会いながら、新たな人生を歩んでいく……。

出演陣は、生田絵梨花、神木隆之介、小池徹平、鈴木杏、皆川猿時、橋本じゅん、阿部サダヲ、麻生久美子という豪華かつ新鮮な顔ぶれに加え、村杉蝉之介、荒川良々らお馴染みの大人計画の劇団員も大活躍する。

ダークなのに笑えて、醜さ満点なのに美しさにも溢れる、この唯一無二の世界は令和元年の締めくくりとして観る作品としても抜群に似合いそうだ。これまでは強烈なキャラクターのひとりとして登場し観客の目を奪ってきたが、今回は演出に専念するという松尾に、4回目の『キレイ』はどう変化しそうか、そしてこの作品への想いを語ってもらった。

ーー4度目の『キレイ』となりますが、こうして公演を重ねることで感じる面白さとは、どういう点にあるのでしょうか。

この作品の場合は面白さというより、やってもやっても、やり足りない部分がどうしても毎回見つかってしまう、という感覚があるんですよね。毎回、終わった直後にはこれで完成だと思うんですが、時間が経つと自分の中に澱のように「あそこはこうできたんじゃないか」とか「ここはもっと短くできた」という想いが生まれてくるんです。僕は基本的には、そういうことをあまり思わないほうなんですけど。あまりにも世界観が大きく、たくさん登場するキャラクターのバックボーンも細分化もしてきている複雑な物語でもあり、その中でも音楽の部分と歌唱の部分に関しては特に、毎回「こうすればよかった」と思ってしまうので、そこは今回もさらに深めていきたい。もう、こうなると4回目で完成することもないんだろうなという予感があります。​
松尾スズキ
松尾スズキ

ーー期間があいていることもあって、前回の上演時から自分自身が変わったり、世の中自体が大きく変化していることもありそうです。

自分自身ということでは年々、ミュージカルというものに対して距離を詰めてきているという意識があります。それと同時に、今、世の中でやられているミュージカルというものに対する違和感も強く持つようにもなっていて。僕はもともと、日本人の矜持をきちんとしたためたミュージカルというものを作っていかなければならないのではないかと思っていたんです。ただ、自分はミュージカルの専門畑から出てきた人間ではないからどうしても傍流から、という形にはなってしまうのですが。だけどそれでも、4回重ねてやってきた中で生まれるオリジナリティと完成度というものはあると思うんですね。そこの精度を、今回はより高めていきたいという気持ちがすごく強いです

ーー初演時には、ミュージカルの持つイメージとは全然違うものを作りたい、そのイメージを壊したいとおっしゃっていましたよね。

そうです。だいたい、歌声を聞いたことがない俳優をキャスティングしたり、稽古ピアノも歌唱指導も入れずに稽古していましたからね(笑)。自分も制作側も当時はお互いに怖いもの知らず、もの知らずだったんだと思います。だけどやっぱり、やればやるほど怖くなってくるんですよ。たとえば、本当にミュージカルをやっている人たちの完成度を目の当たりにした時には「アチャー!」と思ったり、「自分たちだってもっとできたのに」と思ったりすることもあるし。

ーーでもその後もミュージカルを演出したり、ミュージカル俳優たちと近しくなったりしているということは、松尾さん自身がミュージカルを好きになってきたから、なんですか?

うーん、でも、愛憎、両方の気持ちがありますね。ただ外国でやっていたものを写し取っただけみたいな舞台も、多いじゃないですか。そういう舞台を観て満たされているというのは、ちょっとディズニーランドに行く感覚に近いんじゃないか、とか。別にそういう楽しみ方ももちろん、あるんですけど。だけどそれで本場の人に勝てるかというと、微妙と言うしかない。だったら他に日本人なりの勝ち方というものがあるんじゃないか、と思うんです。それで僕としては歌舞伎の人たちと付き合ってみたり、ミュージカルの人たちと付き合ってみたりして、そこから答えの入口が導き出していけそうな気がしていて。だって日本なんて下手したら西洋よりも、三味線とかの楽器や踊りが入ることが演劇のあたりまえとしてやってきた民族だといえるわけで。だから、その矜持を忘れちゃダメでしょって思うんですよ。演劇の中にしゃべりがあって、歌があって、曲が入ったら、もうミュージカルみたいなものですからね。その伝統も忘れることなく、どこかに取り入れてみたくて、今までシアターコクーンでの公演では2回ほど試してきているんです。

ーー『ゴーゴーボーイズ ゴーゴーヘブン』(2016年)と『ニンゲン御破算』(2018年)で、和楽器や長唄を取り入れたりされていました。

そういった経験も、今回はもしかしたら活きてくるかもしれないと思っています。要するに、和の楽器と西洋の楽器のミクスチャーというか、融合ですね。どちらも既にあるものなんだけど、融合することで新しいものを作り出す、これは僕が昔からやってきたことでもあって。今回も、アイドルでありミュージカル女優である生田(絵梨花)さんの存在だとか、映像畑の神木(隆之介)くんがここで初舞台を踏むことだとか。(橋本)じゅんさんにしたって、前回出てもらった時にはミュージカル俳優ではなかったのに『レ・ミゼラブル』を迂回して、ミュージカルを背負ってから再び出てもらうことになりましたし。小池徹平くんもまさに前回の『キレイ』が初ミュージカルだったのに、この5年でいまや立ち位置はほとんどミュージカル俳優ですもんね。そうやって本物の仕事を通ってきた人たちと松尾が再び関わることで、新しいものができるんじゃないかと、そういうことです。
松尾スズキ
松尾スズキ

ーーその方々とまた新しい『キレイ』を作るにあたって、たとえばどんなところが変わりそうでしょうか。

生田さんが出ることで、まずはミュージカルとしての何かが、底上げされる気がします(笑)。それと今回は阿部(サダヲ)がマジシャンという役を初めてやるんですが、回を重ねるごとに僕が、このマジシャンという役を重くとらえるようになってきていまして。主人公にとってのボスキャラというか、ラスボスというか。

ーーケガレと敵対する立ち位置の人物でありつつ、物語のキーマンにもなってきていますよね。

そうそう。初演の時は、もっとワチャワチャした登場人物たちの中のひとりだったはずなんですけど。再演で宮藤(官九郎)がやり、再再演で田辺誠一くんがやって、役がどんどん深くなっていったんです。すべてはマジシャンの中の物語だったのかもしれない、みたいな複雑さも現れてきているくらいで。それで、これまでマジシャンにはソロナンバーがなかったんですけど、今回はあえて作ろうかなと思っています。

ーーますます、マジシャンが占める部分が大きくなりますね。

まあ、阿部が演じることによって、必然的に大きくなってしまうだろうとは思いますけどね。

ーーとなると、その部分の台本は書き換えることに。

そうですね、そこは変わると思います。

ーー生田さんと神木さんのほかにも初参加キャストとしては鈴木杏さんと、麻生久美子さんがいます。

杏ちゃんとは前に一度、ご一緒しているので(『マシーン日記』2013年)、その実力は目に焼き付いておりますから。今回は、コメディエンヌぶりをどういう風に発揮してくれるかということに期待しています。麻生さんとは初顔合わせで、ご本人はどえらく明るい人ですけど(笑)、とにかくお美しいですし、どこかに儚さを出せる方なのでその点も楽しみです。

ーー劇団員の方々、お馴染みのキャストもそれぞれ大活躍してくれそうです。

前回と同じ役をやるのが、皆川(猿時)、荒川(良々)、猫背(椿)、宮崎(吐夢)、そして伊藤ヨタロウさん。今回、コンちゃん(近藤公園)が初めてマキシ役(鈴木杏演じるダイダイカスミの婚約者)になりますが、歌は下手じゃないほうだと思うので大丈夫でしょう。これまで、そのマキシを三度演じてきた村杉(蝉之介)くんが後ろに引っ込んで……って、後ろじゃないやや横にズレる感じで(笑)、僕がずっと演じていたカネコジョージ役に挑んでもらいます。

ーー演出面では新たにこういうことをやりたいとか、考えていることはありますか。

舞台装置はあまり変える気はないんですよ。そこに関しては、一回目でほぼ正解を出していると思うので。あと今回は、ミュージカルでアンサンブルと呼ばれていた中から二人、今回は役づきで入ってもらっているんです。そういう道筋みたいなものもつけたいんですよね。要するに、ミュージカルの舞台でずーっとアンサンブルをやっている人たちの中にもやはり光る人っているので、そういう人たちをちゃんとメインに引っ張り上げられる道筋を自分としてはここでつけておきたくて。

ーー今回の中では、乾直樹さんと香月彩里さんですね。

そうです。『キャバレー』(2017年)と『ニンゲン御破算』にも出てもらっていたんですけど、とても力がある二人なのでイケると思います。そういうチャンス、希望もあるんだということを見せないとね。

ーー音楽的には、和のものも取り入れるんですか。

いや、今回は和楽器を入れることはないかな。でも旋律としては、いわゆるミュージカル的なクラシックとジャズとロックが混ざったものだけではない、という風にはしたいなと思っています。ヨタロウさんは民族楽器をよく使うということもありますしね。オリジナリティもありながらクオリティもちゃんと響かせつつ、多くの人に届かせる音楽にするというのが最大目標です。もうね、志が高すぎて、自分が役者として舞台に出られなくなっちゃいました。
松尾スズキ
松尾スズキ

ーー今回、松尾さん自身が役者としては出演されない理由のひとつがそこだと(笑)。

そうです、そうとしか説明ができない。だって本当は、すごく愛着のある役だったのでね。

ーーその、松尾さんが初演から前回まで演じてきた役である、皆川猿時さん演じるカネコキネコの夫・カネコジョージは今回、村杉蝉之介さんに。

はい。譲りました(笑)。でもこれで演出に専念できることで、より細かいところまで神経が行き届くだろうし、僕が他人の足を引っ張るということもなくなりますし。

ーーそんなこともないでしょうけれど(笑)。

いやいや、そういう場合もありますよ。だけど今回はその心配がなくなることで、これまで他人の足を引っ張るかもしれないからと遠慮してきた言葉がズケズケと出てくるようになるかもしれません。

ーーなるほど! ではキャストのみなさんはビクビクしているかも?(笑)

そうですね。今回は徹底的に演出家だぞ、ということでおそらく遠慮しなくなるでしょうからね。やはりミュージカルだということを考えると芝居はもちろん、それに加えて踊りも見なきゃいけないし、音楽も見なきゃいけないし。37人の出演者に加え楽隊も入ってくるので、その全員を統率した上に、自分も演者として出るのかと思ったらクラクラしてきちゃって。

ーー演出だけ、のほうが集中できるし。

そのほうが、自分も楽しめると思いますね。

ーーそして今回もさらに完成度をまた一段階高めていく、と。

そういうことです。あと心配なのは上演が冬になりますから、誰もインフルエンザにかからないでほしい、ということですね。稽古後に飲みに行くことを禁止しようかなあ。その代わり稽古場の一角に居酒屋を作って、そこでしか飲ませないとかね。うん、そうしよう。俺が居酒屋を開いたら、儲かるんじゃないかな?(笑) 稽古が終わったらすぐさま、そこでコップ磨いてたりしてね(笑)。​

ーーそれはそれで、楽しそうです(笑)。そして今回は初参加のキャストもいますから、その分、初・松尾作品、初・大人計画という新規のお客様も増えるかもしれないですよね。

特に生田さん、神木くんは新しいお客さんを連れてきてくれそうな予感がバンバンします! だからというわけではないけど、今回は“大人計画性”みたいなものはちょっと薄めで、さらにいろいろなものを複合した僕の作品、という感じになるのかもしれない。そういう意味も含めて、今までに観たことのないミュージカルがおそらく観られるのではないかと思います、どうぞご期待ください。
松尾スズキ
松尾スズキ

取材・文=田中里津子 撮影=山本 れお

当記事はSPICEの提供記事です。

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