豊作!振り込め詐欺ドラマ「サギデカ」「僕らは強い者から奪っている」木村文乃は加害者も被害者も救えるか

エキレビ!

2019/9/7 09:45

振り込め詐欺のドラマが豊作だ。

8月31日(土)、土曜ドラマ『サギデカ』(NHK)がスタートした。NHKスペシャル『詐欺の子』(NHK)、ドラマイズム『スカム』(MBS/TBS系)に続き、2019年3作目の「振り込め詐欺」ドラマだ。『スカム』の原案本『老人喰い:高齢者を狙う詐欺の正体』(ちくま新書/筑摩書房)の著者でルポライターの鈴木大介が、『サギデカ』でも取材協力で参加している。

本作は、ドラマ『透明なゆりかご』(NHK)、『きのう何食べた?』(テレビ東京)で、生きづらさを抱える人の生き方を見つめてきた安達奈緒子によるオリジナル作品。演出を、朝ドラ『あさが来た』(NHK)の西谷真一と、大河ドラマ『おんな城主 直虎』(NHK)の村橋直樹が務める。主人公の刑事・今宮を木村文乃が、振り込め詐欺の掛け子・加地を高杉真宙が演じている。


振り込め詐欺ドラマに横たわる、日本の「自己責任」の呪い
特殊詐欺捜査を担当する警部補・今宮(木村文乃)は、地道な捜査からある振り込め詐欺の箱(詐欺の電話をかける「掛け子」がいる場所。「店舗」「店」とも)を突き止めた。慎重に準備をし、警部補の森安(眞島秀和)、巡査長の戸山(清水尋也)らとともにガサ入れに入る。多くの掛け子をその場で取り押さえたが、箱で一番偉い店長の男(玉置玲央)はクローゼットに開けた穴から取り逃がしてしまった。

拘留させている掛け子の中に、絶対に名前を言わない男(高杉真宙)がいた。防犯カメラを追って自宅を突き止め、家の中を調べても何も出てこない。

男が何者なのかを調べ続けている間に、今宮が繰り返し会いに行っていた振り込め詐欺の被害者・三島(泉ピン子)が亡くなった。騙された自分を責めて自殺をはかり、自殺は失敗したものの寝たきりとなってそのまま逝ってしまった。

「僕らの仕事は社会の役に立ってる」と、名前のない男は言う。三島の死を経て感情的になった今宮は、振り込め詐欺を苦に自殺した老人が2名いることを挙げ、男に問う。

今宮「何も悪いことをしていないのに、騙されたほうが悪い。悪いのはバカな自分だって、自分を責めて命を絶ってしまった人の数です。これでも、詐欺は社会の役に立ってるって言える?」
名前のない男「勘違いして勝手に死んで、それを僕らのせいにされても困ります。その人たちが弱かっただけでしょ」

弱いから、生きていけない。「社会の役に立っている」と信じて振り込め詐欺をおこなってきた男は、そう思っている。死ぬのは自分のせい。自己責任だと。

同じ「振り込め詐欺」のリアルを扱っているから当然といえば当然だが、『詐欺の子』、『スカム』と同様に、『サギデカ』の若者=名前のない男からも「自己責任」の呪いが匂う。

店長「彼らは、右肩上がりの良い時代に生まれたというだけで『富を独占』している。私たち下の世代がどれだけ困窮しているか、見えていない」

「富の再分配」と書かれたホワイトボードの前で、店長は掛け子たちにこう演説した。「彼ら」というのは、70歳以上の老人たちのことだ。

名前のない男「弱いものから奪うのは悪ですよ。でも僕らは、強い者から奪っている」

『スカム』では、掛け子(プレイヤー)たちが上司(番頭)から「老人は日本のガンだ」と教わっていた。心身を破壊されるほど真面目に働いても自分たちが一生豊かにならないのは、老人たちが富を独占しているからだと、若者たちは詐欺の先輩から教育されるのだ。

最近の香港での「逃亡犯条例」の改正案の撤回を求めるデモのニュースを見るたびに、日本で生きづらさを抱える若者との違いを思う。

生きづらさや不利益をデモや選挙で政治や社会に訴えて、世の中全体を変える。香港の若者と比べると、日本の若者にはそうした発想が乏しい。なぜなら、「自分やその周りのことは、絶対に自分で何とかしなければいけない」という美徳があるからだ。

日本人の美徳が閉鎖的な強迫を生み、ある地点で破裂して、詐欺をおこなう理由として立ち上がってくる。だから、社会を変えるよりも詐欺で自分が豊かになった方が、合理的で効率的な「自分で何とかする方法」に感じられる。

名前のない男「いいじゃないですか。自分の正義だけ信じて、身内だけ愛して生きていくことの何が悪いんですか。あなただってそうでしょ! こんな風に話してるけど、あなただって、俺なんか生きようが死のうがどうでもいいはずだ!」
今宮「そんなことはない!」
名前のない男「じゃあ、俺はどんな人間ですか。あなたは、俺の名前すら知らないですよね」

今宮は、被害に遭った老人たちだけでなく、社会に見捨てられた名もなき若者たちをも救わなければ「振り込め詐欺」の問題は解決しない、ということに気付きはじめる。


心温まらない展開にドラマの誠実さを見る
今宮は、名前のない男が持っていた古い音楽プレイヤーで、最も再生数の多かった曲を手がかりに静岡県山内市に向かう。「夜中の逃走」というインディーズバンドが作った曲を、男は1万回以上も聴いていた。バンドのメンバーに接触してわかった男の名前は、加地颯人(はやと)だった。

加地は、10歳までに父親も母親も消息不明になり、そのせいで面倒を見ていた弟を衰弱死させてしまっていた。18歳まで児童擁護施設で暮らし、高校を卒業したあとに上京したといわれていた。近所の人や施設の手を借りていたとはいえ、困難も多いであろう生い立ちだった。

今宮「高校、ちゃんと卒業するの大変だったでしょう。今日まで一人で、よく頑張ってこられたと思います。だけど、同情も共感もしません。自分が社会的弱者で酷い目に遭ったからって、それより弱い者を叩いていいはずがない」

家族を失った孤独なこどもと振り込め詐欺被害者の老人、どっちが弱者かなんて比べられるものだろうか。弱者比べゲームをしているから、振り込め詐欺グループに「老人は強者である」と言わせる隙を与えるのでは。

今宮の正義感にそんな疑問を感じた瞬間に、加地が「俺は弱者じゃない」と言い切った。あなたのことをちゃんと見ていますという今宮のアピールに心折れることなく、加地は詐欺の店長などの情報を何も警察には話さず拘留期間を終えた。

見守っているアピール程度では和解しないし、感動の展開にもならない。それほど、加地の諦念は深い。加地を簡単に救われる人にしなかったことが、ドラマが被害者だけでなく加害者へも誠実であることをうかがわせていた。

安達奈緒子が見せる救済のかたちは
手塚「上を挙げなきゃ話にならんでしょ。振り込めは」

2009年を舞台にしたドラマ『スカム』では、警察は末端の掛け子を捕まえて得意になっていた。しかし、『サギデカ』の舞台は『スカム』の10年後、2019年。いくら掛け子を捕まえても、店長、番頭、金主、首魁と、どんどん上に迫っていかなければ「振り込め詐欺」は終わらないことに、警察もちゃんと気付いている。

警察として“上”を捕まえることはできるのか。人として加地ら若者を救うことはできるのか。そして、被害者を減らすことは。5話という短い作品の中で、今宮は多くの課題の解決に向かう。安達奈緒子は、彼らにどんなかたちの救済を用意するのか。

第2話は、今夜9時から放送予定だ。

(むらたえりか)

■作品情報■
土曜ドラマ『サギデカ』

総合:2019年8月31日(土)スタート 毎週土曜 よる9時から9時49分<連続5回>
BS4K:2019年8月28日(水)スタート 毎週水曜 よる7時50分から8時39分<連続5回>
再放送:総合 毎週木曜 午前0時55分から1時44分(水曜深夜)
配信:NHKオンデマンド https://www.nhk-ondemand.jp/program/P201700161900000/

出演:木村文乃、高杉真宙、眞島秀和、清水尋也、足立梨花、玉置玲央、長塚圭史、鶴見辰吾、香川京子、青木崇高、遠藤憲一、ほか
脚本:安達奈緒子
音楽:谷口尚久
制作統括:須崎岳(NHKエンタープライズ)、高橋練(NHK)  
演出:西谷真一、村橋直樹(ともにNHKエンタープライズ)
制作:NHKエンタープライズ

当記事はエキレビ!の提供記事です。

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