「岡野陽一のオジスタグラム」13回。7人の知らないおじさんのテーブルに合流「掟の街・京成立石」前編

エキレビ!

2019/9/6 09:45



(→前回までの「オジスタグラム」)


皆様は好きな四文字熟語はあるだろうか?

一期一会、一石二鳥、五里霧中、初志貫徹、温故知新、雲外蒼天…。

もしかしたら疑心暗鬼なんて人もいるだろう。

僕が一番好きな四文字熟語は断トツで
「京成立石」である。

本日は僭越ながらこの糞袋が、大好きな街「京成立石」の魅力をお伝えしたいと思う。

「オジスタグラム」第9回で潜入取材したのだが、日曜日で多くの店が閉まっていて、今回はそのリベンジに来たのだ。

ど平日の13時20分に京成立石
初めての方に京成立石を簡単に説明すると、蛇口を捻れば焼酎が出て、回覧板の代わりにのしイカが回ってくる。写真を撮る時の掛け声は勿論ハイ、ボール。
雨の代わりに黒ホッピーが降り、寒くなると白ホッピー混じりの黒ホッピーが降る。

そうゆう街だと思って頂ければ誤解はないだろう。

とにかく昼間からお酒が飲める最高の街なのである。

今回は前回の反省を生かし、ど平日の13時20分に京成立石駅に友人と3人で集合して、14時開店の目当ての店へと向かう。

噂が正しければ居酒屋の開店待ちのおじさんが列を成してるはずである。

頼む……いてくれ……。

出たー! おじさんムカデだ!

ネットでは見ていたが、いざ生で見ると圧倒的な光景である。


「うわー!この感覚あれだ!初めて修学旅行で生金閣寺を見た時の感覚とおんなじだ!」

と言って誰にも共感を得れずスベった感じになる事件はあったが、我々は無事におじさんムカデのお尻と化す。

それも束の間。

次から次におじさんがやって来て、我々はあっと言う間に巨大ムカデのお腹を形成する一員となる。

さすが東京5大煮込みの一つを出すもつ焼きの名店だ。
暫くすると大将みたいな人が出てきて、何人組か聞き出して手際よく列を分けていく。
そろそろ入場の時間だ。小躍りするおじさん三人組。

僕らの前で大将っぽい人が立ち止まる。

「ごめんな兄ちゃん達。折角並んでくれたのに。開店で第一陣で入れるのここまでだわ」

僕は産まれて初めて「がびーん」と声に出した。

……あと10分早く来ていれば。

恐らく次に入れるのは一時間後くらいだ。
先に他の店で一杯ひっかけてからと思ったが、京成立石はそんな軟派な街ではない。
飲んでる人は入店禁止の店が多いのである。

これは泥酔した人はとかではなく、一杯でも飲んだ人は入れないとゆう意味だ。
つまり一軒目に入らないと入れない店が多いのである。

これは脅しではない。

この前、別の店に行った時にわざわざその店目的で横浜から来たと言う女性二人組を、毅然とした態度で追い返すおばちゃん店員を見たのだ。

恐らく大昔、この辺りの村は酒をちょっとだけ飲んだ妖怪にでも壊滅させられたりしたのだろう。
二度とその事件を繰り返さない為の鉄の掟なのだ。

それを見て僕はこの街の虜になった。

京成立石は街全体に何か意志を感じるのだ。

我々は街の意志に身を委ねて、一時間待つ事にした。


開店の瞬間、空いたドアの隙間から液体のように店内に雪崩れ込むおじさん達。
予行練習をしたんじゃないかと思う程無駄のない動きで、40席くらいの店内は一瞬でぎゅうぎゅうになる。

着席と同時に飲み物、もつ焼きが配られる様は圧巻の一言である。

最高だ。早く入りたい。

僕が、店先のショーケースのトランペットを見る少年のように、ガラスに張り付きもつ焼きを食べる先輩方を見て目を輝かせる横で、友人二人はずっと注文の練習をしている。

友人のネット情報によると、この店には独自の掟がたくさんあるらしい。
もつ焼きの注文の仕方にも掟があるようだ。

飲んで入らない事。鞄を後ろに背負ったまま入らない事。食べた皿は絶対重ねる事。自分から店員さんを呼ばない事。

その辺の主要な掟は聞いたが、注文は友人に任せればいいと、僕はたかをくくっていた。

その時、席が空いたのでとりあえず先頭の人、1名入って下さいと言われる。
まず一人で飲んで、後で他の席が空き次第3人一緒に飲めるようにしてくれるシステムらしい。

店員さんはどう見てもトランペット少年の僕を呼んでいる。

いや、でも僕は一人で入っても注文すら出来ないんだ。何だ? 自分から店員を呼ばない事って? 無理だ。いやだ。怖い。

そもそもあんだけ並んで、なんで30分で店を出るんだ? さすがに粋過ぎるだろ!
粋が人を追い込む事なんてあるのか?
帰ってきてくれ!粋! 頼む!

友人に助けを求めたが、奴らはいたずらが成功した少年のようにケラケラ笑っている。

注文の練習をしておけば良かった……もっと親孝行しておけば良かったな……もっとパチンコやりたかったな……ごめんな、お父さんお母さん……。

こうして僕は獰猛なおじさんだらけの檻に一人投げ込まれるのだった。


どう見ても常に連ねて来る方々
案内された先は7人のおじさんが座るテーブルだった。

一人で飲みに行って、カウンターでおじさんの横になった事はあれど、7人の知らないおじさんのテーブルに合流するのは初めてだ。

とりあえず軽く会釈をして、小さな声で「宜しくお願いします」と自分でも訳のわからない事を言って席に着く。

オジスタグラマーとしては夢のような状況だが、今回は勝手が違う。
僕はこの店の掟を何も知らないのだ。

しかも、このテーブルの方々はどう見ても常に連ねて来る方々「常連」である。
常連は絶対に掟に厳しい。

外から見て狭いのはわかっていたが、いざ席に着くと一人一人の距離が思った以上に近い。
どのおじさんからも一撃で喉元を掻っ切られる距離である。

絶体絶命だ。

すると席に案内してくれた店員さんが、

「兄ちゃん飲み物どうする?」

と聞いてくれる。
よし!飲み物ならあれを言えば間違いないはずだ。

「ビ、ビ、ビール下さい」

「……中瓶? 大瓶にしとく?」
「お、お、大瓶で」
「いいね! 大瓶一丁~!」

よしっ!助かった! これでもう友人と合流するまで何も頼まなければ大丈夫だ。

ビールだけ飲みに来た客を装う。

「カシラスヤキワカヤキ!シロタレヨクヤキ!タンナマアカイトコロオス!」

店では呪文みたいな言葉が飛び交っている。

これがさては注文だな?
確かにこれは無理だ。

いいんだ。僕はビールだけ飲みに来た客だから。
ここから合流するまでだんまりを決め込むんだ。

「はい!大瓶ねー!」

タイミング良く大瓶が届く。
キンキンに冷えてやがる。

「お兄ちゃん、食べ物どうする?」

終わった。

「あ、えっと…あのー」

「兄ちゃん、初めてならカシラタレヨクヤキ食ってみ!」
とゆう事で今回のオジスタグラムはゆきおさん。
呪文で僕を救ってくれた63歳の魔法使いだ。

本来ならここから、ゆきおさんのお話をしたかったのだが、京成立石が好きすぎて長くなりすぎたので、今回はここまで。

次回はゆきおさんと最高の街、京成立石完結編。


(イラストと文/岡野陽一 タイトルデザイン/まつもとりえこ)

当記事はエキレビ!の提供記事です。

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