“あの頃”を卒業できない僕たちの『間男の間』



永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン・チェリーで『卒業をさせておくれよ』を連載中の善雄善雄さんの主宰する『ザ・プレイボーイズ』。4年半ぶりの復活公演『間男の間』がステージ下北沢亭にて9月5日より上演中。以下は、初日公演を観劇したチェリー編集長・霜田明寛によるコラムです。
善雄さんに連載をお願いしたきっかけは松居大悟だった。
善雄さんも所属する劇団ゴジゲンの主宰・松居大悟とは同い年で、週に1度、サウナ付きの銭湯にいき、恋の悩みや、人生への不安を吐き出し合う。
悩みはありきたりなようで、33年の時と、それぞれが通ってきた、ありふれているとはいえない道を経て、奇妙なとがった形になっているから、ぶつけられる相手を選ぶ。
大悟は、それをぶつけても、優しく、安全な形に加工して、僕に戻してくれる“きっと友達”だ。

昨年の冬、大悟が「霜田くんの好きそうなやつ」といって、善雄さんのブログを僕に送ってきた。

松居大悟の「霜田くんの好きそうなやつ」は口説き文句みたいだ。
この言葉は、単なる作品のレコメンドではなくて、そこに「俺はお前のことをわかっている」という意味がのっかっている。
友達としての理解に加えて、“松居大悟という感性に、自分の感性を理解されている”という事実は、曲がりなりにも表現の世界に関わっているものとしては、ちょっとした高揚感を与えてくれる。
ずるい。女子には使わないで欲しい。

僕にも、乱発はしない。乱発すると口説き文句としての精度が落ちる。
『スイートプールサイド』を初日に劇場で見て、その才能に興奮して、インタビューを申し込んだのが出会いだったから、その延長線上で、その言葉を発する作品を選んでいるのかもしれない。
それから5年、ドラマに映画にと作品を積み上げ続ける間も、自分の作品に対してあの言葉を適用せずにいた彼は、舞台『君が君で君で君を君を君を』のときは久々に「今度のゴジゲンは、霜田くんの好きそうなやつ」と言っていた。

そして初めて、文章に対して「霜田くんの好きそうなやつ」が発動されたのが善雄さんのブログだった。
それは、未来の自分が今の自分に会いに来たら、という設定の文章だった。
設定だけ聞くとよくあるように思えるかもしれないが、僕がずっと抱えてきていた「もうあの頃には戻れないと思うと悲しくてしょうがないけど、でも決して今が嫌なわけじゃない」という感情が、描かれている気がした。そして「これは、チェリーだな」と思った。


大悟に引き連れられて、会社まで来てくれた善雄さんは、“オトナ童貞”というコンセプトが、自分よりハマるんじゃないか、という雰囲気の持ち主だった。
喋りは決してうまくないけれど、僕が“社会性”という名目のもと、どこかに落としてきてしまったものを、まだちゃんと持ち続けている人な気がした。


かくして連載『卒業をさせておくれよ』は始まった。
初の連載に不安がる善雄さんに「参考になるもの」を聞かれ『東京シモダストーリー』という僕がnoteに書き連ねていた、平成の“あの頃”の東京の街とカルチャーを綴った文章を送りつけるという不遜なことをした。
ただ、同い年の善雄さんには、“あの日”へのピンポイントの鮮明な記憶を綴って欲しかった。他のことはぼやけていても、なぜか昨日のことよりも、鮮明に思い出してしまうような“あの日”の記憶を。

送られてきた原稿の始まりには「通っていた高校から卒業できない、という夢を見る」と書かれていた。
お願いしてよかったな、と思った。
富山と東京で場所は離れているし、起きたことも違う。でも、同じ時代に、善雄さんと同じ体験をしたような気がした。
あの頃、自分しか悩んでいないような気になっていたけれど、遠く離れた場所に、オトナ童貞になる予備軍のような悩みを抱えていた人が、生きていたんだ。



善雄さんの、久々の作・演出の公演となった『間男の間』は、設定自体は「浮気中の男が飛ばされる異空間がある」という“オトナ童貞”とは真逆のような舞台だ。
善雄さんが浮気の話を書くのか?という疑心暗鬼のもとに行ってみると、最初は男たちの会話劇のような始まりだった。

GLAY派かラルク派か、という何気ない会話に、同い年の人が書いた脚本であることを確信する。ひとりの男が熱弁を始める。

「GLAYの『誘惑』と『SOULLOVE』が同時発売したときがあってさ」

そう、1998年、CDの売れまくっていた時代、ラルクもGLAYも、CDを2枚、3枚と同時発売していた。

「『誘惑』のほうが売れたんだよ」

僕は『SOULLOVE』派だった。13歳の僕には『誘惑』がよくわからなかった。

「『誘惑』は『SOULLOVE』に勝っちゃうんだよ」

やっぱり善雄さんの脚本だな、と思った。
33歳になっても、“誘惑”より“魂の愛”を信じる世界に、僕たちは生きてきた。
“誘惑”を好む人が、多数派だとしても。

中盤、あのブログを想起させるようなシーンがあった。
突然やってくるそのシーンは、演劇でしかできない表現方法で、あのブログに描かれた感情を立体化させたように思えた。
文章だけではなく、善雄さんの脳の中は「霜田くんの好きそうなやつ」だった。
そして、偶然だと思うけど、最後に流れた曲のタイトルに、ちょっと運命を感じた。

(文:霜田明寛)

<公演情報>

ザ・プレイボーイズ「間男の間」
作・演出:善雄善雄
出演:板倉武志 おなか☆すいたろう 十河大地 村田和明 善積元 善雄善雄
公演日程:2019年9月5日(木)~9月10日(火) 
★アフタートークあり
9月5日(木)19:30公演…松居大悟(ゴジゲン 主宰)・奥村徹也(劇団献身 主宰)
9月6日(金)19:30公演…爪切男(作家)・結城洋平(結城企画 主宰)
会場:ステージカフェ 下北沢亭
HP:https://theplayboys2.web.fc2.com/
Twitter:@the_playboys2
<作・演出:善雄善雄 コメント>

おかげさまで復活公演、最高の初日を迎えることができました!本当にありがとうございます。
この作品は、間男、つまり旦那や彼氏のいる女性と関係していたという共通点のある男達が、異空間に閉じ込められてしまうお話です。
不倫等をした人に対する社会的制裁が、ある意味アルカトラズ監獄よりも厳しくなったように思える昨今。間男を擁護する気なんてゼロですが、本当にその罰は正当なのか。誰かを好きになることだって、ときには事故みたいなものなのに。
そんなことを考えながら、個性的豊かな俳優陣と豪華なスタッフ陣と共に作り上げました。
偶然この文を読んでいるあなたにも、ぜひ見届けていただきたい。
10日まで、下北沢にて待ってます!

当記事はソーシャルトレンドニュースの提供記事です。

あなたにおすすめ

ランキング

ランキングをもっとよむ

注目ニュース

注目記事をもっとよむ

あなたにおすすめ