不思議。犬のがんは個体を超えて感染するらしい

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Image: Ammit Jack/Shutterstock.com

宿主から宿主にホップホップで数千年。

そんな世にも不思議ながんが、ワンコにはあるんだそうで、一大研究班が進化のルーツを調べてみたところ、想像以上に奇妙な病であることがわかりました。

がんは体の壁を超えられない


遺伝子の突然変異で制御不能なまま体細胞が増殖する病=がんは基本的には感染しません。乳がん、肺がんなど、細胞の増殖は似ていますが、Aさんのがん細胞はAさん固有のものであり、Bさんのがん細胞とは似て非なるもの。どんなに体を寄せ合ったところで人から人にうつることはありません。他人の体細胞が入ると普通は、免疫系が異物と感知して破壊するからです。

まあ、人体から人体にうつるレアケースがないわけではないですけど、あったとしても、臓器ドナーががん患者でたまたま免疫系の弱い人に移植されたり、妊娠中に赤ちゃんにうつったりするものであり、単発ですし、当事者以外に感染することはありません。

超えることを学習したがん


ところが、です。動物の間では、個体の壁を越えて増殖するがんなるものが存在するのです。それはあたかも細菌やウイルスのように宿主の体を脱け出す術を「学習」して広まっていきます。そのひとつが「CTVT(canine transmissible venereal tumor:犬性感染型腫瘍)」で、読んで字の如く、性交を通して広まるがんというわけ。

その謎に迫る論文がこのほどScienceで発表されました。2003年から2016年にかけて43カ国の犬から集めた腫瘍550種近くの遺伝子データを比べ、CTVTの進化の系統樹をつくる、というものです。

さっそく論文主著者の英ケンブリッジ大学生物工学博士課程の学生Adrian Baez-Ortegaさんにメールで話を伺ってみたところ、発生源の特定が主目的の研究ではなかったのだけど、今から4000~8500年前にアジアで生まれた病であることが判明した、と教えてくれました。

これは昨年発表された別の研究成果(CTVTはアジアからアメリカに同時期渡来した最初の犬の系統につながる唯一の遺伝子の痕跡だとするもの)ともぴったり一致します。

それは想像以上に奥が深かった


Baez-Ortegaさんのチームが関心を持ったのは、最初の個体の壁を超えてからのCTVTの進化の旅です。特に過去数千年、世界中に広まった伝播経路。でもいざ調べてみたら、いろんな意味で独特で、驚きの連続だったと話しています。

少なくともここ1000~2000年は、人間のがんとCTVTは、もはや似ても似つかないまでに進化が分かれています。人間のがんは、環境適応力に優れた突然変異のがん細胞が生き残ることの繰り返しで進化してます(正の淘汰)。しかしCTVTにはそんなものは何ひとつ見られず、進化の「方向性」を投げ出して、ほぼどこも目指さない進化というか、なんというか、「行き当たりばったり(遺伝子浮動)」になってしまっているんですよ。

要するに、千年足踏みで、これといった進化も退化もなく、生存率を高めるという明確な意思もないままのべつまくなしに広まっている、ということですね、はい。ちなみに化学療法に耐性がついた痕跡も見つからなかったそうです(耐性っぽいものが検知されたという報告も海外にはあるので、近い将来現れないともかぎりませんけどね)。

遺伝子浮動で長生きする生き物はいないので、犬のがん細胞もいずれは滅びる運命なのかもしれませんね。

まあ、滅びるとしても何万年も先の話だとBaez-Ortegaさんは言ってますけどね。室内飼いが主体で不妊手術が義務の米英みたいな国ではすでに減少傾向ですが、放し飼いで風土病のままの国もまだ90カ国ある模様です。

最大の謎


それにしても一番不思議なのは、なんでうつるようになったか、ですよね。

これについては、「いくら調べても、CTVTには遺伝子的には何の特異性もないんです」と、Baez-Ortegaさんもサジを投げています。

発現および初期の進化に関わっていると研究班が見ている突然変異は、ごく一般的にあるもので、人間のがんの多くで直接的な原因となる「ドライバー変異」というもの。感染化のメカニズム解明につながる手がかりは何も見つかりませんでした。

というわけで、「なぜ感染?」という謎は振り出しに。たぶん、ひと筋縄で解けるようなものではないよとBaez-Ortegaさんは言ってます。免疫系のシールドを破ったのはただの偶然の産物なのか、それとも力を獲得する何かがあったのか…。CTVTは生殖器にとても近い場所に出るのでたまたまうつりやすかったのかもしれないし、犬は遺伝子の個体差が少ないので、宿主が変わってもそれほど不自由なく生き永らえてしまうのかも…。

研究班では今後も遺伝子の手がかりに当たってCTVT発現の謎に迫る予定。Baez-Ortegaさんは「CTVTの原始ゲノムの姿、続く数年、数十年の進化、腫瘍が多種多様な犬の免疫系を破るメカニズムも明らかにしていきたい」と張り切ってますよ。

当記事はギズモード・ジャパンの提供記事です。

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