「Heaven?」が飯テロにならない理由「役に立たないことに誇りを持とう」お気軽コメディのメッセージ

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石原さとみ主演の火曜ドラマ「Heaven? ~ご苦楽レストラン~」。墓地の裏にあるフレンチレストラン「ロワン ディシー」(この世の果て)を舞台にしたレストランコメディー。
物語も終盤に入ってきたはずだが、まったく“終盤感”がないあたり、このドラマのお気楽な感じをよく表している。先週放送された7話の視聴率は少し持ち直して8.1%。

今回のテーマは「レストランの存在意義」。なんだか難しそうだが、非常にシンプルかつ、「Heaven?」というドラマそのものにも直結するメッセージを放っていた回だった。


役に立たないことの何が悪いの?
1周年を迎えた「ロワン ディシー」はなかなかの繁盛ぶり。けっこう広めな店で、あれだけお客さんが入っているのに、よくこれだけの数の店員で回しているものだと感心する。オーナーの仮名子(石原さとみ)が利益分を食べてしまっているから、新しい店員を雇えないのだろう。きっとそうだ。

そんな中、妊娠中の客のひとりが産気づく。常連客の小枝(矢柴俊博)が医者(耳鼻科)で事なきを得るが、シェフドランの伊賀(福士蒼汰)は自分たちの仕事に疑問を持つ。

「緊急時には必要ないというか、余裕があってこそ成り立つ仕事かと思ってしまいまして……」

伊賀の疑問に対する仮名子のアンサーは明快だ。

「なくて済むこと、役に立たないことの何が悪いの? 嫌なら畑耕すなり、牛でも飼うなりすればいいじゃない」

仮名子の意見に、シェフの小澤(段田安則)も同意する。

「役に立たないことは悪いことじゃない。文化や芸術はそういうものだ」

さすが長年、フレンチのシェフをやってきただけのことはある。カッコいい答えに能天気な川合(志尊淳)も感心しきりだ。

「言ったでしょ? 私たちは平和の上澄みに生きているって」という仮名子の声に、小澤もさらに意を強くする。

「とにかく我々は、役に立たないことに誇りを持って、頑張っていこうじゃないか、伊賀くん!」

日本人のフランス料理離れ
役に立たないといえば、フランス料理そのものがそういう存在だ(フランス料理に従事している方、ごめんなさい)。ラーメンや牛丼などは日々の生活に直結している食べ物だが、フランス料理はそうではない。
ドラマの中では「ロワン ディシー」に大勢の客が詰めかけているが、フランス料理というものが庶民の口からずいぶん遠ざかった印象がある。

バブルの頃から90年代、00年代ぐらいまでは、20代や30代でもデートで気張ってフランス料理を食べに出かけたものだが、最近はそういう話もめっきり聞かなくなった。石材店主の鱸(田口浩正)が毎日のようにフランス料理を食べに通う姿にも、ちょっと違和感を抱く。ちなみに原作のマンガが連載されていたのは99年から03年にかけて。

マイボイスコムによる「好きな料理ジャンル」アンケートによると、フランス料理は07年の調査では「好き」と答えている人が36.0%いたのに、15年の調査では23.4%まで下落している。しかも、アンケートの回答者は50代以上が中心なので、収入が少ない若者にとってフランス料理はさらにハードルが高くなったはずだ。
「Heaven?」に続々と登場する料理はどれも本当に美味しそうだが、ツイッターなどを見ても「飯テロドラマ」と呼んでいる人がほとんどいないのは、そのせいだと思う。日本は本当に貧しくなった(一部の富裕層以外)。

少なかった「生首演出」
それでも気張ってフランス料理を食べに来る客がいる。「火曜日の君」こと香宮瑠璃子(相武紗季)もそんな一人。エレガントな令嬢風の出で立ちで、従業員一同からも大人気だったが、普段はボロボロの格好をしているマンガ家だった。従業員たちに目撃されたショックで、あわてて立ち去ってしまう香宮さま……(そう呼ばれていた)。

もう香宮さまは二度と「ロワン ディシー」に来てくれないだろう。落ち込む従業員一同に仮名子は発破をかける。
「お客様はねぇ、来たければ来るし、来たくなければ来ないものよ。プロフェッショナルとして、いま私たちがすべきことはいったい何かしら?」
仮名子の言葉に感銘を受ける店長の堤(勝村政信)。伊賀も「すべてのお客様に誠実でありたいです」と同調し、従業員一同やる気になるが、実は仮名子自身が最高のおもてなしを受けたいだけだったというオチがつく。

そんな折、常連客の一人、古瀬妙子(加賀まりこ)が実は引退した伝説の大女優、久世光代だということが発覚する。久世光代の若い頃を演じた山本舞香はたしかに加賀まりこの若い頃に似ているが、いかんせん演技がすさまじかった。黙っていたほうが良かったと思うが、あれもギャグだったのだろうか?

いけ好かない俳優の湯浅(「ラジエーションハウス」にも出ていた丸山智己)が仲間のパパラッチを呼びつけて久世の素顔を盗撮しようとするが、湯浅のたくらみに気づいた従業員たちがそれを妨害する。すべてはお客様にディナーを心ゆくまで楽しんでもらうため。

盗撮の危機を久世光代の機転で切り抜けた後は、香宮さまも帰ってきてくれて、いつも通りのハッピーエンド。香宮のホラーマンガが掲載されている「バイブス」は同枠のドラマ「重版出来!!」の舞台になった雑誌名で、香宮のペンネーム「海苔野佃煮」は実在のホラーマンガ家、御茶漬海苔のパロディ。今回は「生首演出」も少なくて、ずいぶん見やすかった。

「Heaven?」というドラマは、とりたてて人生や世の中の役に立つようなメッセージを持っていない。まさに「平和の上澄み」の中で気軽に楽しめるコメディーだ。ドラマの質は置いておくとして、世の中に余裕がなくなるほど、笑えなくなるドラマでもある。

「とにかく我々は、役に立たないことに誇りを持って、頑張っていこうじゃないか」という小澤の掛け声は、「Heaven?」製作陣の声のようにも感じる。
役に立たないものが、存在できる世の中はすばらしい。できれば、そんな世の中が続いてほしいものである。
(大山くまお)

「Heaven? ~ご苦楽レストラン~」
出演:石原さとみ、福士蒼汰、志尊淳、勝村政信、段田安則、岸部一徳、舘ひろし
原作:佐々木倫子 『Heaven?』(ビッグスピリッツコミックス刊)
脚本: 吉田恵里香
音楽:井筒昭雄
主題歌:あいみょん 「真夏の夜の匂いがする」
演出:木村ひさし、松木彩、村尾嘉昭
プロデュース:瀬戸口克陽
製作著作:TBS

当記事はエキレビ!の提供記事です。

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