要介護5の神足裕司さん、車椅子でハワイへ。誰もが自然に手伝ってくれるハワイ

日刊SPA!

2019/8/18 08:30

―[神足裕司さん、車椅子でハワイへ]―

いま、「ユニバーサルツーリズム」の促進が叫ばれている。ユニバーサルツーリズムとは「すべての人が楽しめるよう創られた旅行」「高齢や障がい等の有無にかかわらず、誰もが気兼ねなく参加できる旅行」のこと。どんな人も旅を楽しめたら素敵だとは思うけれど、そこには何が必要なのか?

7月上旬、コラムニストの神足裕司さんがハワイ旅行を敢行したという。神足さんは週刊SPA!の連載陣だった2011年9月に、くも膜下出血で倒れ要介護5となった。そして、2016年には大腸がんも見つかり、以降、入退院を繰り返している。

そんな彼の旅はどんなものだったのか? 神足さんと妻の明子さんに話を聞いた。

◆それでも旅に行きたい理由

現在、朝日新聞デジタルなど複数の連載を抱える神足さん。取材や会食など外出の機会も多く、国内旅行も何度か経験している。しかし、車椅子での海外旅行ははじめてだ。

「7月中旬に胆嚢の切除手術が決まっていて、大変な手術になることもわかっていました。だから、その前に旅行でも行こうかって。あと、いま、裕司は撮影したくて仕方ないんですよね」と明子さん。

じつは神足さんは現在、VRにハマっている。月に2~3回、東京大学で行われているワークショップに参加し、360度カメラでの撮影テクニックを習得中なのだ。ワークショップを主宰する登嶋健太さんは、施設の高齢者らにVR旅行を提供しつつ、元気な高齢者に映像の撮影者になってもらうというプロジェクトを進めている人物。

その活動に刺激を受けて、神足さんも「思い出の地を自分で撮影しておきたい」という夢を抱くようになったのだそう。ハワイはかつて、家族で毎年のように訪れた思い出の地のひとつなのだ。

「本当に大丈夫?」「無理なのでは?」という周囲の心配はあった。が、脳外科と消化器内科の主治医は「いいね~」と拍子抜けするほどあっさりOK。

「私一人では不安」という明子さんをサポートすべく、娘の文子さんと明子さんの友達、VRの先生・登嶋さんも同行。5泊7日のハワイ旅行が決まった。

◆「万が一」「念のため」で膨れる荷物

とはいっても、要介護5で車椅子、がんサバイバーの旅行は、事前準備から大変だ。

まずは飛行機。ハワイアンエアを予約し、車椅子であることを電話で伝えた。機内でも車椅子が必要なのか、心臓にペースメーカーは入っているかなど詳細を聞かれたというが、承諾書はとくに必要なかった。

続いてホテル選び。条件は「バリアフリールームがあること」と「プールにリフトがあること」。そして、「シャワーチェアが完備されていること」。シャワーチェアは自立歩行が難しい神足さんにとって、入浴時の必需品。バリアフリーを謳っていても、シャワーチェアがない施設は多い。

日程が独立記念日と重なったためホテルはどこも満室。選択肢が少ないなか、口コミを丹念にチェックして、ホテルの予約も完了。

レンタカーも手配し、忘れてはいけないのが現地で障害者専用パーキングに停めるための許可証(パーキングプラカード)の申請だ。

「たしか、以前は日本の許可証で大丈夫だったんだけど、今はちゃんと用意しなきゃダメだと言われて。ハワイ州観光局のサイトから情報を見つけて警察に申し込むと、10日ぐらいで郵送で自宅に届きました」

そしてなにより、大変だったのが荷物だ。とくに、薬の量がとんでもないことに。

「赤ちゃん連れの旅行も同じですけど、向こうの薬で合わなかったとき、私たち以上に大変になるので。普段飲んでいる薬に加え、腹痛や発熱、下痢やアレルギーなど、想定しうる体調に備えて、裕司に合った薬を揃えたら山盛りになっちゃって」

さらには、手動の吸引カテーテルとパルスオキシメーター(指につけて血中の酸素の量を見る機械)と血圧計も用意。

「往診の先生があらゆることを想定して万全を期して下さいました。『念のため』と、頭に水頭症のバルブが埋め込まれていること、大量の薬が必要な理由、くも膜下出血の治療歴とガンの治療中であるということを英文で書いてくださったんです。出発前日に自宅に来てくれて、一通りチェックして『これなら大丈夫』とお墨付きをいただきました」

おむつに防水シーツも詰め込んで、荷物は機内持ち込みも含め大小スーツケース4個!

さらに、砂浜でも車椅子を引きやすい「JINRIKI」(けん引式 車いす補助装置)も加わって大荷物に。しかし、これで準備万端。出発となった。

◆ハワイでは車椅子も「普通」

「飛行機を降りるとき、私が裕司を座席から車椅子に移したら、客室乗務員の方に『エクセレント!』『アメージング!』『うちで働かないか?』ってスカウトされちゃいました(笑)」と明子さん。とにかく、皆が皆、フレンドリー。

ハワイはバリアフリー化が進んでいるとは知っていたけれど、実際、車椅子で旅をしてみると、その充実っぷりは想像以上だったという。

ビーチはワイキキもアラモアナも、車椅子やベビーカーで波打ち際近くまで行けるようシートが敷いてあり、砂浜を走ることができる車椅子も無料レンタルできる。

「道路は老朽化しているところもあるけれど、段差に困ることはまったくありませんでした。どんな小さな路地でもフラットになっていたし、『さすがにここにはないだろう』というような町外れの寂れたジューススタンドでもスロープがあって驚きました」

車椅子だから行けませんというところはなく、行けなかったとしても、誰かが行けるようにしてくれた。

たとえば、楽しみにしていたホテルのプールでのこと。リフトがあるからこそ選んだホテルだったが、行ってみるとまさかの故障中。

ショックだが仕方がない。人力でなんとかしようとしていたとき、ホテルの下働きの男性たちが「手伝うよ!」と声をかけてくれた。

「彼らは長ズボンのままジャボジャボと水に入って、裕司をプールの中へ入れてくれたんです。笑顔で『いつでも言ってね!』って。感動して一緒に写真撮影をお願いしたら、『僕らも撮っていい?』ってうれしそうに言ってくれて、それにまた驚いてしまって。その後、会うたびに『今日はいいのか?』って気にかけてくれました」

これだけではなかった。

独立記念日夜、ビーチ沿いのオープンテラスのレストランで食事をしていたが、花火が見えずらかった。砂浜なので外に出ることは無理と諦めた。

すると、お店の人が「どうぞ!」とビーチへと続く裏扉を開けてくれ、砂浜へと降りる階段は、花火を見ていた人が車椅子ごと持ち上げて砂浜に下ろしてくれた。

花火が終わると今度は、近くにいた別の人たちがこぞって「もう戻る?」「僕たちが手伝うよ」と声をかけてくれた。

「カイルアのパンケーキ店も印象的でした。順番を待って案内されたのが、店の奥の席だったんです。店内は混雑しているし、車椅子では無理だって思ったのですが、お店の人はずっと、『平気! 平気! こっち!』って呼ぶんです。迷惑かけちゃうな……と思いながら進むと、お客さんがみんな、スッスッって立ち上がって通してくれて。あぁ、お店の人が言う『平気』っていうのはこういう意味なんだって」

車椅子での外出はどうしても制約がある、というイメージがある。レストランではだいたい入り口近く。でも、ハワイではどのレストランに行っても「席はどこがいい? 外にする?」と聞いてくれる。そんな「普通」の扱いが新鮮だったそう。

「私たちが申し訳なさそうにしていると、笑顔で『私たちも一緒に楽しんでいるのよ』『Enjoy!』と声をかけてくれるんですよね。専用駐車場がいっぱいのこともよくあったし、街やビーチで車椅子の人をよく見かけたし。なんていうか、特別な存在じゃなくて、車椅子もここではノーマルなんだなって」

この後、神足さんはハワイでVRを使って、さらなる「やりたいこと」を実現させる(次回)。

【神足裕司(こうたり・ゆうじ)】

1957年、広島県生まれ。コラムニストとして週刊SPA!などに連載をしながらテレビ、ラジオ、CM、映画など幅広い分野で活躍。2011年9月、重度くも膜下出血に倒れ、奇跡的に一命をとりとめる。現在、リハビリを続けながら執筆活動を再開、朝日新聞デジタル、RCC中国放送のウェブサイトや介護ポータル「みんなの介護」などで連載中。

復帰後の著書に『一度、死んでみましたが』(集英社)、『父と息子の大闘病日記』(息子・祐太郎さんとの共著/扶桑社)、『生きていく食事 神足裕司は甘いで目覚めた』(妻・明子さんとの共著/主婦の友社)、『コータリンは要介護5 車椅子の上から見た631日』(朝日新聞出版)

<取材・文/鈴木靖子>

―[神足裕司さん、車椅子でハワイへ]―

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

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