「岡野陽一のオジスタグラム」10回。びちょびちょおじさんと、京都で大学生だった僕。夏休み特別編

エキレビ!

2019/8/15 10:30



(→前回までの「オジスタグラム」)




この時期になると毎年思い出す事がある。

今回のオジスタグラムは、記念すべき第10回目とゆう事で特別編。

僕の人生で一番思い出に残ってるおじさんの話をしたいと思う。

20歳の夏、僕が京都で大学生をやっていた頃。

正確には、京都で大学生の皮を被って365日パチンコ屋に通っていた頃の話だ。

僕の今までの人生であんなにパチンコに狂っていた時期はない。
あの頃の写真を見ると、僕は目ん玉は銀色だ。
恐らくパチンコのオバケみたいなのに取り憑かれていたのだろう。

その後、オバケのせいで大学を4年間行って0単位で辞めるとゆう地獄のような事態に陥るが、それはまた別の機会に。


その日僕は友人の稲垣君と一緒にバイクで福井県の実家に帰っていた。

今日くらい糞暑い日だった事を覚えている。

途中、滋賀県の琵琶湖の見える国道沿いのセブンイレブンで休憩して、各々のバイクに腰掛け、サクレを食べていた時だった。

「かっこええバイクやなぁ」

身長150センチ、60歳くらいだろうか。小柄で小太りのの汗びちょびちょのおじさんが声をかけてきた。

静岡帰れば金はあるんだ
本日のオジスタグラムのおじさんは、このびちょびちょおじさん。


僕達は余りのびちょびちょさに目をあわせる。

おじさんが言うには、おじさんは静岡に住んでて、こっちに遊びに来たはいいが、財布と携帯を落として途方に暮れて、この国道沿いを炎天下の中ずっと歩いて来たらしい。

どうりでびちょびちょな訳だ。

とにかく、びちょびちょおじさんはフラフラだったので、僕達はコンビニで水とおにぎりを買ってあげた。

びちょびちょおじさんはコンビニを出るや否や、水をびちゃびちゃ飲み干して、おにぎりをむしゃむしゃ貪る。

「ほんとにありがとな。助かったよ。お礼に1000万あげるよ」
「えっ!?はっ!?」
「ずつな!」
「1000万ずつ!?」
「もう命の恩人だよ。お礼させてくれよ。今は何にも持ってないけど、おじさんこう見えても社長なんだよ。静岡帰れば金はあるんだ」
「いや!!え?え?」
「車も好きでね、車庫にいっぱいあるんだ。ベンツだろ、ポルシェだろ、後はアルファロメオと…」

そう言うとおじさんはポケットから鍵の束を出す。

べ、ベンツの鍵!ポルシェも!

おいおい、とんでもない事になったぞ稲垣君。
びちょびちょのおじさん助けたら昔話みたいな事が起こってるぞ。

目を見合わせた稲垣君の瞳孔は完全に開いている。

日本人はこうゆう時は
無理もない。
その当時、一万勝った負けたで一喜一憂してた我々からしたら、1000万なんて今で言う10億だ。

落ち着け!稲垣君!もう少しだ! ほぼ1000万は手に入っている!へまだけはするなよ!

「な!? だから受け取ってくれよ。1000万」

稲垣君!まだだ!我慢だ!
日本人はこうゆう時は2回くらい断るんだ!

「いやいや、さすがに」

そうだ! いいぞ!稲垣君!

「遠慮すんなって。ほら車も欲しいんだろ?」

だめだ!稲垣君!我慢だ! もう一発!

「いや、こんな水とおにぎりだけでおかしいですよ」

「いや、受け取ってくれよ!わしの気持ちだから!金には困ってないから! な!?」

GO!!!! ここだ稲垣君ー!いくぞー!!!

「え? ほんとにいいんですか?」
「当たり前だろ!好きな車買って、余った金は好きに使えばいいよ」
「ありがとうございます!」

うおー!!!!もはや漫画だ!

僕と稲垣君は激しく心の中で抱き合った。

「振り込みにするか? 静岡遊びに来て渡してもいいし」
「えー? どうするー?」
「まぁ、どっちにしろ振り込み先とか、わしの住所とかも交換しないと…紙と書くものある?」
「あ、買ってきます!」

僕達はコンビニでペンと紙を買うついでに店内で激しく抱き合った。
人間幸せな時は人の目など気にならないものである。

「買ってきました!」
「ごめんな、兄ちゃん達」
「いえいえ、とんでもないです!」

そう言うとおじさんは達筆な字で、住所と名前と電話番号を書いた。正にそれは社長の字体だった。

細谷覚さん。聡明なお名前である。

小さな黒い手帳
その紙を受け取り、僕達も振込先を書いて渡す。

「よし、これで大丈夫だな?」
「はい!」
「兄ちゃん達、ほんとに悪いけど静岡まで帰る前に取引先に寄らないといけなくて、念の為10万くらい借りとく事出来るか?」
「え? 10万ですか?」
「大事な取引先で、いや、全然なければ兄ちゃん達が困らない範囲で大丈夫だから。どうにかしてみるから、無理しないで」
「あ~1人5万なら…おろせば…あると…思いますが…」

僕も稲垣君も10万とゆう大金に少し怯む。

「勿論その分は1000万にプラスして返すから。ほら、これ全部取引先」

我々の不安を察したのか、細谷さんはポケットから小さな黒い手帳を見せる。

ボルボ兄貴……プリメーラ姉さん……。
とゆう文字しか見えなかったが、中にはびっしりと名前と電話番号、住所が手書きであった。

「まだ心配なら借用書書くよ」
「借用書?」

そうゆうと細谷さんは、借用書を書き始めた。
甲が乙に5万みたいな事を書いて、自分の住所、名前、電話番号を書く。そして最後にこれで安心だろ? と拇印を捺してくれた。

20歳の我々にとって拇印の効力は大きかった。

確かにこれで安心だ。

稲垣君の瞳孔がまたぱっくり開く音がした。


そして僕は雲ひとつない青空の下、駅に向かってバイクを走らせる。

前には琵琶湖が広がり、

後ろには、子泣きじじいのように僕に掴まった、びちょびちょじじい。

汗の臭いが凄かったが、1週間後に1000万入る青年には何でもない事だった。


途中郵便局で5万おろし、駅に着く。

「ほんとにありがとな」
「いやいや、こちらこそです」
「じゃ、一週間後には振り込むからそれまで何使うか考えとけよ!」
「ありがとうございます!」
「じゃ!」
「お気をつけて!!!」

地元に着いた僕達は、家には帰らずに夜通し海で1000万の使い道を語り合った。

とりあえず稲垣君は新型のランドクルーザーを買い、余ったお金は親にあげるらしい。

僕は思いきってクルーザーを買う事にした。

もう恥ずすぎて
詐欺だと気付くまでにそう時間はかからなかった。

次の日帰って親にこの話をしたら、バカだと言われたからだ。

慌てて電話するも、勿論電話番号は使われてなかった。

住所も存在しなかったし、もはや細谷覚なんてただの三文字の漢字に過ぎない。

あの時の感情は至ってシンプルだった。

「恥ずい」

ただそれだけだ。

僕達には拇印があったが、もう恥ずすぎて警察に行く気にもなれなかった。

後で思えばおかしな事だらけだ。

びしょびしょで取引き出来るわけないだろ。
稲垣君のバイク、ダサいだろ。
なんだプリメーラ姉さんて。

我々は大きめの石で動物を叩いて狩りをする時代くらい原始的な詐欺にひっかかったのだ。

これが17年前の夏に起きた世にも恐ろしい「5万貸したら1000万くれる詐欺」の全貌だ。

おい!細谷覚(仮)!

あんたももう80くらいか?

これ見てたら連絡しろ!

もう5万はいいから、一緒に飲みに行ってよ。

僕、オジスタグラムってやつやってるんだ。


(イラストと文/岡野陽一 タイトルデザイン/まつもとりえこ)

当記事はエキレビ!の提供記事です。

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