『みんなのレオ・レオーニ展』で出会える豊かな想像の世界 絵本『あおくんときいろちゃん』『スイミー』から架空の植物誌まで

SPICE

2019/8/15 18:00


2019年7月13日(土)~9月29日(日)まで、東京・東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館で『みんなのレオ・レオーニ展』が開催中だ。『あおくんときいろちゃん』『スイミー』などの名作絵本の作者として高名なレオーニだが、絵本は仕事の一部であり、デザイナーや彫刻家、画家などマルチな活躍を見せた。そして彼の仕事は根底でつながっており、一部を見れば、その世界観や価値観が伝わってくる。

偶然から生まれた物語がベストセラーに
子どもから大人まで楽しめるストーリー


レオ・レオーニの作品で最も有名な絵本のひとつは『あおくんときいろちゃん』だろう。この作品は、レオーニの幼い2人の孫が電車の中でおとなしくしているように、雑誌の青・黄・緑のページから丸い形を切り取って話を作ったことから誕生した。この本は出版当初、建築家やデザイナーが贈りあうにはすばらしいものの、子どもにはアピールしないだろうと言われていた。しかし、予想は外れ、数十年後の今でも世界中の子どもたちが夢中になっている。抽象的な形を用いてストーリーが展開される本書はカラフルでかわいらしく、なおかつシンプルで洗練されており、何度も眺めたくなる魅力がある。
至光社公式サイトより(http://www.ehon-artbook.com/books/search.php?product_id=164)
至光社公式サイトより(http://www.ehon-artbook.com/books/search.php?product_id=164)

レオ・レオーニの4冊目の絵本『スイミー』は、レオーニが初めて読者を意識したとされる作品だ。赤い魚の群れの中で1匹だけ黒いスイミーは、ある日大きなマグロに襲われて命からがら逃げ、さまざまな生き物に出会う。そして兄弟たちと再会し、力を合わせて問題を解決する。コミカルな展開と抒情的な絵で構成される本書は、日本では国語の教科書にも採用されているほか、企業広告に使われるなど、大人も学ぶところが多い内容だ。

敏腕デザイナーと自由なアーティスト
揺れるアイデンティティと無二の個性


国や年齢を越えて受け入れられる絵本を作ったレオ・レオーニとは、いったいどんな人物だったのだろうか。レオーニはオランダのアムステルダムに生まれ、公認会計士の父とオペラ歌手の母を持ち、両親の仕事の関係で欧米諸国を点々とした。美術の専門教育は受けなかったが、アートコレクターだった叔父との交流や家にあるシャガールの絵などを通してアートの素養を身につけた。

成人してからは会計係の助手や文房具のサラリーマン、建築雑誌の編集者などのさまざまな職を経た後に大手製菓会社の広報部に入り、デザインの仕事に就くことを決意。しかし、その頃イタリアはファシスト政権が権力を握りはじめており、ユダヤ系だったレオーニはアメリカへ亡命する。

ニューヨークのデザイン界で成功したレオーニは、絵本『はらぺこあおむし』の作者であるエリック・カールやブルーノ・ムナーリとの親交などを経て、アーティストとして自由な生活を謳歌するアレクサンダー・カルダーのような生き方に惹かれるようになった。そしてまったくの偶然から『あおくんときいろちゃん』が生まれ、絵本作家としてのデビューを果たす。

『あおくんときいろちゃん』では、カラフルなキャラクターたちが隣人の色を意識する中で自分の色を自覚していく。詩のような文章とハッピーエンドのストーリーの背後から、コミュニケーションのあり方や自己探求などのテーマを読み取ることができる。そして根底には、欧米諸国を行き来して数か国語を操ったレオーニの複雑なアイデンティティが流れているように思う。
好学社公式サイトより(http://www.kogakusha.com/book/187/)
好学社公式サイトより(http://www.kogakusha.com/book/187/)

また『スイミー』では、スイミーが集団の中でただひとつの「目」になる役割を買って出ていることから、レオーニが個性を尊重しつつ、他とは違う視点や俯瞰的な視点を持つことを重視していたと解釈できる。『スイミー』に説得力があるのは、気持ちにスッと入ってくるわかりやすい文章で書かれているせいもあるが、作者が努力しながらキャリアを重ねたことも大きいのではないだろうか。クライアントの意向を汲む敏腕デザイナーでありつつ、アーティストとしての気質を持っていたレオーニは、皆で力を合わせることの重要性とともに、自分らしくあることの価値や、唯一無二の個性を持ち続けることの大切さを実感していたのだろう。

摩訶不思議な平行植物、人生に必要なものは想像力


レオ・レオーニの作品の中でもとりわけユニークなのは、本やブロンズ彫刻の形で表現された「平行植物」だろう。真面目な植物学者による学術書といった体裁を取っている書籍『平行植物』は、「想像上の空間に静止した不滅の植物」と形容される、実体がない虚構の植物群・平行植物について記載している。レオーニはイタリアのトスカーナ地方に移住した際、周りの自然からインスピレーションを受けてこの謎めいた植物を生み出し、複数の平行植物を組み合わせて「幻想の庭」を作りだした。
工作舎公式サイトより(https://www.kousakusha.co.jp/BOOK/ISBN978-4-87502-435-4.html)
工作舎公式サイトより(https://www.kousakusha.co.jp/BOOK/ISBN978-4-87502-435-4.html)

平行植物の例を挙げると、眺める者に思念を送り込み、さまざま音を鳴らす「タダノトッキ」、中国の碁の名人の対局とほとんど同じように分布する社会的な植物「森の角砂糖バサミ」、螺旋状のこぶが楽譜のように見える「夢見の杖」など、常人には到底思いつかないものばかりだ。

幼少時のレオーニは、ガラスなどでできた生物飼育器であるテラリウムに親しみ、自分だけの庭を作り上げていたという。『平行植物』中で「塀のこちら側」の現実ではなく「塀の向こう側」にあるとされる平行植物は、レオーニ少年がテラリウムのガラスの向こうで育て上げたイマジネーションそのものなのだと思われる。

空想や想像は精神に強靭さを与え、現実の中で困難に立ち向かうときの支えとなる。例えば『スイミー』において、スイミーたちは新しいアイディアによって敵に立ち向かい、勝利することができた。恐らくレオーニは、想像力によってさまざまな問題を解決し、社会を泳ぎ渡ってきたのだろう。

東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館の『みんなのレオ・レオーニ展』では、絵本には採用されなかったスイミーの幻の原画や、平行植物の彫刻など、レオーニの手による多彩な作品を鑑賞できる。無二の想像力に満ちたレオーニの世界を味わうことができる本展、是非足を運んでみてほしい。

当記事はSPICEの提供記事です。

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