「テアトル・エコーがやらねばどこがやる?」~予測不能な不確実性ドタバタコメディ『バグ・ポリス』の魅力とは

SPICE

2019/8/12 12:00



笑いにこだわるテアトル・エコーがおくる予測不能な不確実性コメディ『バグ・ポリス』。予測できない理由は、登場人物たちが、あまりにも不器用な生きかたをしているから。不器用だが、どの人物も一生懸命で、愛すべき人たちである。演出家の永井寛孝、制作の白川浩司を交えて、出演者の池田祐幸、渡邊くらら、沖田愛に、稽古場のようすを語ってもらった。
テアトル・エコー公演『バグ・ポリス』(ポール・スレイド・スミス作、永井寛孝演出)のチラシ。
テアトル・エコー公演『バグ・ポリス』(ポール・スレイド・スミス作、永井寛孝演出)のチラシ。

本邦初演の『バグ・ポリス』


──『バグ・ポリス』の原題は「アンネセサリー・ファース(Unnecessary Farce)」、直訳すると「不必要な笑劇」という意味ですね。『バグ・ポリス』というのは、パソコンなんかにあるバグでしょうか。

永井 はい。バグるにかけてますね。あと、バグパイプのバグにも。

白川 お客さんが「ああ、そのバグね」って。

──どうしてバグパイプにかかるのかは、舞台を見た人にわかる仕掛けになっている。

白川 はい。「『バグ・ポリス』って何?」という疑問が、見た後には合点合点という。

──『バグ・ポリス』は初演が2006年、アメリカのミシガン州ランシングにあるボアーズヘッド劇場で、すでに上演回数は275回を数えるようです。

白川 いろんなカンパニーがやってるみたいで……

──アメリカで上演されたあとは、イギリスで。それから、オーストラリア、シンガポール。スイスではドイツ語で上演されています。それから、アイスランドでアイスランド語の上演。カナダでは英語の上演とフランス語の上演だったようです。すでに3カ国語に訳されています。

白川 それに今度は新しく日本も加わるんですよね。

永井 初演ですからね。

──『バグ・ポリス』を上演してみようと思ったきっかけは、どんなことですか?

永井 本当に笑いがとれなければ、どうにもならない芝居じゃないですか。これは喜劇をずっとやってきたエコーがやらないわけにはいかないところがありますね。

白川 劇団では以前から企画があがっていたんです。いかにもエコーが好きそうな芝居があると、粗訳をしてもらっていたんですよ。

そしたら、永井が「よし、これやるぞ。いまやらなくて、いつやるんだ。ぼくらがやらなきゃいかんだろう」といって。いざ台本じっくり読むと「これ、むずかしいんじゃない?」とか「どうやってやるの?」みたいになる。たしかに、エコーに向きの作品だと思うけど「実際どうなの? キャスティングは?」とか、細かいことを考えるうちに、どんどん時間が経っていき……。

──事前にビデオも作っておかないといけないし、それに合わせて演技をしなければならない。

白川 でも、「やるんだ」と永井が音頭をとってくれて、みんなで「よおし、じゃあ挑戦しよう!」という感じですかね。

テアトル・エコーがやらねば、どこがやる!


──いまやろうと決心した決め手は何ですか?

永井 テアトル・エコーの歴史でいうと、最初の頃は喜劇をやる劇団がほとんどない時代があって、それから、笑いを完全に手段として入れてくる演劇がずいぶん増えて、いまは本当に笑いをうまくとる劇団がいっぱいあるなかで、やっぱり、ずっと笑いにこだわってきたエコーとして、あんまり深くない内容だけれど笑えるよという作品は、すごく勇気がいるんですよね。テーマ性とか社会性とかの大義名分に逃げられないから。でも、そこを逃げちゃいかんでしょうというのが個人的にはあって、これはある意味、真っ向から勝負できるのかが問われる……。

──正面から笑いに挑戦すると……。

永井 それでもうシーンとしちゃったら負け。でも、そういうことをやらないと、テアトル・エコーとしてよくないという、ぼくの個人的な気持ちですよね。翻訳物だし、すごく強引なところがいっぱいあるんですけど……。

──かなり技術が必要な……。

永井 上演台本で、細かく指定されているので、下手すると、ト書きに溺れちゃう。

──動作についても、ト書きで綿密に指定されています。

永井 それを埋めるだけでアップアップになるんじゃ意味がない。やりましたというだけになっちゃうから。その結果、もっと面白くなりましたというところまで行くために、どう作ったらいいのか、稽古場で悩みながら進めています。

アプローチの順番としては、まず、ト書きを満たして、埋めていき、さらにその先までという方法……道具の発注もあるので、まず、この道具で行けるかどうかを確認しなくちゃいけない。

──ただ上演するだけではなく、ちょっと余裕をもって自然な感じで、さらにプラスアルファも付け加えつつ……。

白川 最初からハードルを上げて、覚悟を決めてやるぞという思いはあります。

熊倉一雄さんが亡くなって、3年が経つんです。劇団の第一世代が亡くなって、ぼくたちの柱みたいなものがポロポロ取れたとき、でも、まだ劇団員は役者も100人以上いるし、「おれたちで何ができるのか」という思いも、ありますね。また、エコーの伝統をちゃんと継承してるよという姿が見せられたらいいなと。

ドジで間抜けな、やる気満々の警官ふたり


──今回は警官役がふたりで、エリック・シェリダンを演じる池田祐幸さんと、ビリー・ドワイヤーを演じる渡邊くららさんのコンビ。警官役のおふたりは、素質として最も警官に向かないと思われるふたりが、大抜擢されて大事件を担当します。台本を読んでみて、どうでしたか。

池田 ぼく個人のことでいうと、もともと警察官になりたくて、実は警官の試験を受けて一回合格して、内定をもらってたんですけど、諸事情でそういう職業には就かず、いま役者をやってるんです。あのまま警官をやっていたら、こうはなりたくはなかったという人物がエリックなんですけど、どこかすごく愛せるというか、どんどんこの話のなかで成長していくというか、そういうところを表現して、お客さんに伝わればといいなと思っています。

──では、エリックよりも、さらに不器用な警察官ビリーを演じる渡邊さんはどうでしたか。

渡邊 わたし自身もすごい不器用なんですけど……。

永井 それでキャスティングしたからね。

──そういった資質もお持ちなんですね。

渡邊 それがなかなか心配……舞台上だと、それをやろうとすると難しい。というのを常々、稽古で痛感しているところです。

──このビリーのボケかたはすさまじく、いきなり警官の服を着て、覆面捜査にやってくるところから始まります。ここから、すでに破壊的ですよね。

渡邊 そうですね。

永井 とにかく一生懸命なんだけど、その方向が間違っている。この登場人物はふたりとも、警官にはいやいやなったわけじゃない。そこがよくて、やりたい仕事とやれる仕事はちがうじゃないですか。たぶん、このエリックとビリーは、やりたい仕事なんだけど適してない。

──性格的には向いてないけど、ふたりとも自分がやりたい仕事で、理想の警官像も持っていて、それで職務に励むんだけど、必ず空まわりしてしまう。

永井 そんなふたりに、ある日、いきなり大きな仕事が来て、ある意味、崖っぷちの状態でがんばる。がんばるけど、なかなかうまくいかない。そうこうするうちに、最終的には、瓢箪から駒というか、棚から牡丹餅というか、意外な結末へと展開していく。気がついたら、以前のダメな警官じゃなくて、ちょっと成長したんじゃないという、今後のふたりがどうなるのかへの希望も見えたり。そういうことがお客さんにも伝わって、お客さんもいいねという感じで、自分の人生も含めて希望や元気を出してもらえれば……。

白川 このふたりは愛されるといいですよね。

永井 もちろんです。お客さんにとって愛すべき存在じゃないといけない。頼りないけど、がんばってるよねっていう。

で、リアルな動きでもないし、台本どおりにやると、本当にとんでもない動きが出てきたりするので、それを成立させるときには漫画にしなきゃいけないところがあって、そこまで飛ばさなきゃいけない。でも、台本に書いてあったからやりましたでは意味がないので、やっぱり、そうなってしまう必然性をお客さんといっしょに納得できて、それが楽しいっていうふうにね。嘘だけどいいねというところまで行かないと、今回の喜劇の醍醐味はないので、それが稽古での目標です。
テアトル・エコー公演『バグ・ポリス』(ポール・スレイド・スミス作、永井寛孝演出)左より、根本泰彦、池田祐幸、渡邊くらら、瀬田俊介。
テアトル・エコー公演『バグ・ポリス』(ポール・スレイド・スミス作、永井寛孝演出)左より、根本泰彦、池田祐幸、渡邊くらら、瀬田俊介。

過激で過酷な場面の連続


──では、会計士のカレン・ブラウンを演じられる沖田愛さん。今回は舞台上でかなりの時間、下着姿のままという体当たりな役ですが……。

白川 チラシのあらすじに「会計士ブラウンのひと肌ぬぐサポート」と記しました(笑)。

——「一体この捜査はどこに不時着するの?!」という紹介もいいですよね。想定外の連続で、最後まで結末が見えない。

沖田 ぜんぜん自信はないですけれども、大胆に脱いだ姿が面白いって思ってもらえたら。

永井 彼女はいやらしくないんですよ、健康的というか。見ていて、いいねと思える下着姿で、しかもコメディに似合う女優さんを考えたら、彼女になりました。

──今回はモーテルにあるポリス部屋とおとり部屋が舞台で、ふたつの部屋を行ったり来たりしなければならないし、隣室で録画しているビデオ映像など、いろいろなきっかけを合わせないといけない場面も多いんですが、実際にやってみてどうですか。

池田 いやあ、大変ですよ。部屋にドアがいくつもあって、そのドアの鍵のどこがいま開いて、どこが閉まって入れないかとか、ちゃんと覚えておかないと。それをいまやってます。

渡邊 もうそこは練習して。

永井 育ちがいいからドアを閉めちゃうんですよ。開けたままにしておかないと、次に入ってこられないのに。

池田 次の場面の都合のために、妨げにならないように演じないといけない。

白川 役を演じる以外の約束事が、たくさんあるからなあ。

池田 あと、ふたつの部屋で同時に交錯する台詞の場面も難しいです。

──渡邊さんが演じるビリーは、何度もドアを勢いよく開けて、殺し屋のトッドを気絶させる場面があります。あれも思いきってやらなければ、それっぽく見えないけど、やりすぎると、相手に怪我をさせてしまう。

渡邊 そこも難しいですね。ドアをぶつけるところもそうですし、わたしもかなりドアに挟まれるので、まだまだスムーズにはできなくて……。

永井 拘束されてるしね。

渡邊 だから、やっぱり、お客さんが笑えるシーンにならないと……。

──エリックは何度も衣裳を変えますよね。着替えることで、気持ちも変わってくるものなんでしょうか。トッドの服装にもなりますね。

池田 衣裳合わせで、初めてスコットランドの民族衣装を着て、ちょっと気分があがりました。男なんでスカートをはいたことがなくて、ああ、こんな感じかと思って。

──今回の登場人物は、どの人たちも自分が就いている仕事にそれほど向いていないから、逆に、それが高じて役に立ったみたいな、災い転じて福となすじゃないけど、そんなお話ですよね。

白川 それが日本の観客にどう受けとめてもらえるのか。作者のポール・スレイド・スミスは役者でもあるから、相当面白がって、ふざけて、演劇的なこともよくわかったうえで書いた台本だと思うんです。このファルスをいまエコーがやるんだとわかってもらえたらいいなと。

──テアトル・エコーの観客は、舞台でやってることにうまく乗ってくれるお客さんが多く、そういう意味では、芝居の波を受けとめる感度が高いから、きっと笑いが増幅して、舞台と客席のおたがいで盛りあがる気がします。
テアトル・エコー公演『バグ・ポリス』(ポール・スレイド・スミス作、永井寛孝演出)チームワーク抜群の7人の出演者たち。
テアトル・エコー公演『バグ・ポリス』(ポール・スレイド・スミス作、永井寛孝演出)チームワーク抜群の7人の出演者たち。

頭を抱える稽古場が、笑いを大きく育てる


──会計士のカレンは下着姿が多いように、エリック巡査もズボンをはかない時間が長い。ちょっと落ち着かなくないですか。

池田 そうですね。2幕に入ってからは、ずっと。スカートをはいても、スースーしますし。

──ずいぶん風通しのいい時間が……。

池田 1時間ほど続きますかね。最後、警官とスカート野郎で終わるのも、なんだかおかしい。

永井 今回は運動量が多い舞台になるので、やっぱり若くて元気な人じゃなきゃできないと思って抜擢したんですが、ふたりともかつて陸上をやっていたということもあって……。

──いわゆる体育会系ですね。

永井 だから、このふたりはポリスに向いてるんですよ。しかも、さっき、警官になろうとしたという話もあったし……。

──エリックを演じる池田さんは、身長が180センチもあります。

永井 でも、やっぱり、役作りで苦労してもらなくちゃいけない。本当は素質がある部分を極力なくしていって、自分の本当に弱い部分とか小さい部分を増幅して、この役になってもらう。それでいて、動く体をもっていてくれるというのが、ぼくとしては狙いどころなんですけど。

白川 演出家から本質的な言葉がでたところで、出演者の皆さんは、どんな意気込みですか?

池田 まず、第一には、さっき永井さんもおっしゃったように、体力がすごく必要で……ただでさえ汗かきなんですけど、滝のような汗で。ぼくはカレンとくっつく場面が多いんですけど、先輩なので、心の奥底ではごめんなさいと思っています。あとは、笑い……なんとか笑える舞台にしたいんですが、あんまり狙いすぎてもダメなので……そこといま闘っているところです。ちょっとかっこいい風に言いました。

白川 もっとかっこいいことを、沖田さん。

沖田 かっこいいこと……わたしの役はコンプレックスもあるし、割とふつうの人で、なんか巻き込まれちゃったぐらいの感じなので、なんかやってやろうということはないんですけど、今回は、ひさしぶりに恋をして、それでちょっと幸せなところを見せられたらいいなとは思っています。だから、なんか共感してもらえたり、かわいいとこ、あるじゃんとか思ってもらえればいいなと思いながらやってますね。

──会計士のカレンは、前日から警官と打ち合わせをして、面倒な役割を引き受けてくれるように正義感が強い性格ですよね。危険だけど、市長の不正をあばくために、おとりを引き受ける役ですし。

白川 それが思わぬ火がついてしまい……。

──ひょんなことから想定外のことが次々に起きて、それが連鎖し、信じられない結末に流れ込むという……。

白川 最初は『バグ・ポリス』じゃなくて、『アンビリーバボー・ポリス』にしようかと思っていたんです。あまりに信じられないことの連続だから。では、渡邊さん。

渡邊 こういうドタバタの喜劇がやりたくて、わたしはエコーに入ったので、昨年、この台本を本公演でやることが決まって台本を読んだとき、「この役、すごいやりたい」と思って、永井さんに連絡したんです。できるとは思っていなかったんですけど、結果、この役に選ばれたときは、このビリーと同じ気持ちだったんですよ。「まさか自分がこの役につけるとは」っていう。だから、そういうところでは本当に重なってる部分があります。ただ、なかなか体と心がついていかず、稽古では本当にもう……。

永井 そのために稽古があるからね。

渡邊 ありがとうございます。ビリーがこのおとり捜査に賭けているのと同じくらい、この公演を成功させたい気持ちがあるので、がんばります。

白川 やっぱり、笑いだけでなく、ハラハラドキドキもしたいし、どこかで作品にお客さんが入れないとついてこられないから、そのバランスは、たぶん演出家がいちばん頭を抱えてると思います。だから、みんなで頭を抱えていて、役者もこれ、どうしようみたいに頭を抱える稽古場なんですが……。

──きっと頭を抱えた分だけ、たくさんの笑いが生まれて、より深まる舞台になるんじゃないでしょうか。試行錯誤の末の「不時着」地点がどこになるのか、楽しみにしています。

取材・文/野中広樹

当記事はSPICEの提供記事です。

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