中村吉右衛門と中村歌六『秀山祭九月大歌舞伎』取材会で意気込み語る「追善も百年経つとおめでたい」

SPICE

2019/8/10 05:00


歌舞伎俳優の二代目中村吉右衛門五代目中村歌六が、2019年9月1日(日)に初日を迎える『秀山祭九月大歌舞伎』(歌舞伎座、~25日千秋楽)に向けて、合同取材会で意気込みを語った。

「秀山祭」は、吉右衛門の養父である初世吉右衛門の芸と精神を受け継ぐべく、2006年9月にはじまった。今回の「秀山祭九月大歌舞伎」では、三世中村歌六の百回忌追善狂言も行われる。三世歌六は、初世吉右衛門の父であり、歌六の曽祖父。9月の興行には、吉右衛門と歌六に縁ある演目が並ぶ。

吉例の秀山祭、三世歌六の追善も


はじめに挨拶をしたのは、吉右衛門。昼の部『沼津』と夜の部『寺子屋』に出演する。

「今年の秀山祭は盛りだくさんです。私の養父である初代吉右衛門の父、三世歌六の百年を追善させていただきます。夜の部では、孫の尾上丑之助と、その父の菊之助くんとも共演いたします。『沼津』では又五郎くんの孫であり歌昇くんのお子さんが、初お目見え。おめでたいことが重なります。追善も100年たつとおめでたいものですね。祖父にも養父にも孝行できたと喜んでおります」

二代目中村吉右衛門
二代目中村吉右衛門

続いて歌六が挨拶をする。歌六は昼の部『沼津』と、夜の部『松浦の太鼓』に出演する。

「吉例の秀山祭で、私の曽祖父・三代目歌六の追善を催させていただきます。『沼津』では、吉右衛門兄さんと私、歌六で勤めさせていただきます。夜の部は、三代目歌六のために書き下ろされたと言われ、秀山十種の一つでもある『松浦の太鼓』の松浦鎮信。初代吉右衛門の大おじさま、十七代目勘三郎の大おじさま、そして当代の吉右衛門のお兄さまへ、連綿と続いてまいりました役です。一生懸命勤めさせていただきます」

五代目中村歌六
五代目中村歌六

沼津の魅力、演じる難しさ


『沼津』は、ひょんなことで出会った呉服屋十兵衛と雲助平作の物語。平作が荷物持ちを引き受けたところから物語がはじまり、実は二人が親子であり、それぞれに仇同士の立場だと分かる。本作の劇中で、追善の口上も行われる。歌六の甥、歌昇の長男・小川綜真くんの初お目見得の舞台でもある。

——吉右衛門さんと歌六さんのコンビで上演されます。

吉右衛門:このところずっと共演させていただいています。主演をやる人間にとっては、芝居だけで手いっぱい。だからこそチームワークができていると、余計な神経を使わず集中できます。助かっております。今回はお互いに息は分かっている分、そこからどうハズすかが課題です。

歌六:『沼津』の前半は、捨て台詞(アドリブ)の応酬です。そこでお客様にいかに喜んでいただけるか、いつも苦労しています。前半で喜んでいただければ、その分だけ、後半の悲劇が盛り上がります。吉右衛門のお兄さんは、何をやっても「どんとこい」という方です。色々試してみたいです。

——“捨て台詞の応酬”は上方のイントネーションになりますね。

吉右衛門:私が演じる呉服屋十兵衛は、「鎌倉出身の、関西で育った人間」。義太夫弁といいますか、上方弁で演じる方が多いです。初めて演じたの時、平作役は河内屋のお兄さん(實川延若)でした。上方の方なので捨て台詞でもスラスラ言葉が出てきますが、私はそれができずに苦労した記憶があります。歌六くんは東京の人間ですが、お母さんが京都の方ですね。

歌六:「歌六」という名前が、上方の役者の名前なのですよね。(三世歌六の息子の)3人兄弟のうち、初世吉右衛門のおじさまと十七世勘三郎のおじさまは東京で生まれましたが、私の祖父・三世時蔵だけは大阪生まれ。私にも2、3滴くらいは上方の血が入っているかもしれません。



「降らねばよいがな」に込めるもの


——『沼津』の作品としての魅力をお聞かせください。

歌六:前半はお客様にワーっとのってきていただき、それが悲劇に繋がり、クライマックスは親子の別れ。実によく書かれた台本です。義太夫狂言の中の時代世話物、写実的なところもあり、歌舞伎っぽいところもあります。私ごとですが大変好きな芝居です。

吉右衛門:仇討ちの話からちょっと外れた、周りの人たちの悲喜劇ですね。私も歌六くんに負けず、好きな芝居の一つです。

——吉右衛門さんは、十兵衛を演じる上で、どのようなことを意識されますか?

吉右衛門:十兵衛が、平作と親子だと気づくも親子だと打ち明けられない。平作の家を去る時、空を見上げ「降らねばよいがな」という一言の台詞がございます。初代吉右衛門はその一言で、お客様に悲劇を予感させたと聞きました。

それをなんとか僕も、と考えるのですが難しいものです。初代の型を消化することはもちろん、役の気持ちを込めることでお客様の気持ちをつかむ。それが大事だと実父からも聞きました。お顔がきれいで愛される役者さんもたくさんいらっしゃいますが、僕は役に気持ちを込めることでなんとかお客様の心を掴みたい。いつもいつも努力はしておるのですが、なかなかそこまでいくのに苦労しています。



——歌六さんは、平作を演じる上で、どのようなことを意識されますか?

歌六:仇討ちの物語には、仇を討つ人と討たれる人がいるものですが、この幕に出てくるのは、それぞれに仕える人や世話になった人です。お兄さんもお話しの通り『伊賀越道中双六』のメインキャストは一人も出ません。そのような中で、仇同士の立場であると気づく。さらにそれが、2歳の時に養子にやってしまった、息子の十兵衛だと気が付きます。そこからの平作ですね。「親なんだから情報を教えなさいよ」と言葉では言えない。けれどもどうにか仇の情報を聞き出したい。十兵衛にも平作にも義理があり、親子の情愛で秘密を聞き出そうとするせめぎ合いが、眼目になるのではないでしょうか。

——歌六さんは、年を重ね、平作役をやりやすくなりましたか? あるいは難しくなったところはありますか?

歌六:どうでしょう。歌舞伎のおじいさん役は、大変な役が多いです。本当に年をとってから初役でやるよりは、若いころに経験させていただけると、体も多少慣れます。平作が今回初役だったらもっと大変だったと思います。



菅原伝授手習鑑「寺子屋」


上演頻度の高い人気演目だが、吉右衛門の松王丸と、幸四郎の武部源蔵の組み合わせは初。吉右衛門の孫・丑之助が菅秀才、その父の菊之助が千代を勤める。

——丑之助さんが、菅秀才を演じられます。

吉右衛門:外食に出た際、七夕の短冊を書く機会がありました。彼はおばあちゃんに字を聞きながら「菅秀才ができますように」と書いておりました。稽古がはじまるとどうなるか分かりませんが、よかったなと思いました。

——吉右衛門さん自身、かつて演じられた役ですね。

吉右衛門:はい。『寺子屋』でよく覚えているのは、戦後間もない頃のことです。養父の初代吉右衛門が「寺子屋」を映画に残すということで、名古屋へ行きました。兄(当代白鸚)が菅秀才、僕が小太郎の役です。河文さんという豪華な割烹旅館に泊めていただき、お料理や寝具が素晴らしく喜んでいたら、おやじが「情けないなあ」と言ったのを覚えております。肝心の舞台ですが、映画のライトをすごく強くあてられ、気分を悪くしてしまい、散々な思いをしました。



——去年の秀山祭で舞台復帰した福助さんが、今年も出演。園生の前を演じられます。

吉右衛門:リハビリは大変で苦しいもの。それを乗り越え舞台に出演されています。本当にうれしいです。ずっと一緒にやっていける女形さんだと思っておりましたから、(お休みされた)一時は残念に思っておりました。けれど復活され、共に喜んでおります。

秀山十種の一つ、『松浦の太鼓』


『松浦の太鼓』は、『忠臣蔵』の外伝として、三世歌六のために書き下ろされた狂言。初代中村吉右衛門の秀山十種の一作でもある。

——其角も近習も過去に複数回演じられていますが、松浦鎮信侯は初役なのですね。

歌六:近習役はうまいですよ! 其角も数回やりました。

吉右衛門:なのに彼は、僕に(役を)教えてくれだなんて殊勝なことを言ってくれる。けれど、彼はもう、わかっているんですよ! 同じ舞台で見てきたんですから。

歌六:見るのとやるのは違いますし、うまくできるよう努力はしたい。ですから、吉右衛門のお兄さんにお話だけでも伺って、教えていただく予定です。だってこれは、難しい役ですよね?

吉右衛門:全然難しくないですよ!(一同、笑)。松浦侯は「人のことなんかどうでもいい」というお殿様。他人の気持ちを推し量って……といったことはしなくて良く、自分の気持ちだけでいい。あれほど簡単な役はありませんよ! 長く続いているお家のお殿様の、弱いものに味方したい、お殿様の義侠心。彼にぴったり!

歌六:(いやいやいや、としつつ)『松浦の太鼓』は、忠臣蔵のバックボーンがわかっていると面白い。忠臣蔵さえ分かっていれば、これほどにわかりやすい話はありませんよ。



三世歌六は松浦侯?


——三世歌六さんは、どのような方だったのでしょうか。

吉右衛門:存命の頃、私はまだ生まれていませんが、『松浦の太鼓』鎮信侯は、おっとりとしたところもあるけれど気が短いお殿様です。三世歌六自身が松平侯のような方だったのでは? と思っています。

芸は達者でプロ意識がある。『沼津』で平作を演じていた際、花道の照明が切れていたことがあったそうで。花道で足を怪我するシーンの芝居の流れで、普段通り芝居をしながら面明かりを直したそうです。気の短さでいえば、三代目歌六は女形もやっていたそうで、赤い珊瑚の玉かんざしを「練り物(偽物)だろう」といわれ、よせばいいのにその場でかんざしを割ってみせ、「ほんもんだよ」と見せた逸話も残っています。当代歌六さんはその血を引いておりますから、なるべく怒らせないよう、公演中も気をつかおうと思います(笑)
新著のタイトル『夢見鳥』にかけて「夢」を問われると「初代に並ぶ役者に。そして80歳で弁慶」と吉右衛門。冗談まじりの答えで盛り上げる一幕も。
新著のタイトル『夢見鳥』にかけて「夢」を問われると「初代に並ぶ役者に。そして80歳で弁慶」と吉右衛門。冗談まじりの答えで盛り上げる一幕も。

歌六:(笑)。初代吉右衛門のおじさま、三代目時蔵、十七代目勘三郎と、子供3人がすべてキャラクターの異なる役者になりました。親の守備範囲が広かったのだろうと思います。100年前なので、想像ですが。

吉右衛門:それにしても初代吉右衛門と(三世)歌六の『沼津』、拝見したかったですね!

「夢」を聞かれ、しばらく悩んだのち「役者は皆、少しでも良い役者に。というのが夢ではないでしょうか」と歌六。
「夢」を聞かれ、しばらく悩んだのち「役者は皆、少しでも良い役者に。というのが夢ではないでしょうか」と歌六。

取材会の中では、先日、人間国宝に認定された竹本葵太夫が『沼津』に出演することも語られた。100年後の歌舞伎ファンが、きっと「拝見したかった!」と悔しがる当代吉右衛門と歌六の『沼津』は、『秀山祭九月大歌舞伎』昼の部で、9月1日より上演される。

昼の部は『沼津』の他にも、幸四郎が初役で幡随院長兵衛に挑む『極付幡随長兵衛』、中村梅玉の鳶頭と中村魁春の芸者で『お祭り』が上演され、夜の部は『寺子屋』と『松浦の太鼓』に加え、『勧進帳』で仁左衛門と幸四郎が、ダブルキャストで武蔵坊弁慶を勤める。昼夜ともに充実した並びの25日間の公演、ぜひ歌舞伎座に足を運んでほしい。

当記事はSPICEの提供記事です。

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