ヒップホップの歴史は、三国志だガンダムだプロレスだ。Netflix「ヒップホップ・エボリューション」

エキレビ!

2019/8/9 09:45



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ヒップホップのこと、ぶっちゃけどのくらい知ってます?
2013年のW杯のとき、DJポリスという警察官が話題になった。混雑する渋谷駅前でサポーターに向かって軽妙かつユーモラスにマイクで喋りかけ、混乱を起こすことなく交通整理をするおまわりさんである。そのニュースを見て、おれはなんとも納得のいかない気持ちになった。あの人、全然DJやってないじゃん……! どう考えても、あれはDJではなく「MC」の方が正しいはずである。

ことほどかように、ヒップホップのことは知られているようで知られていない。「なんかマイクを持ってわーってダジャレみたいに喋る人が出てくる」というのはイメージとして共有されているけれど、それがDJなのかMCなのかすら曖昧である。そんなよくわからないヒップホップのことを理解する上で有効な番組が、ネットフリックスで配信中の『ヒップホップ・エボリューション』だ。

例えばシーズン1の第1話では、1970年代の初頭にさかのぼってヒップホップの黎明期が振り返られる。当時のニューヨークはディスコ全盛期。だが同じニューヨークでもブロンクスは保険金目当てで古いアパートを燃やす火災が頻発、紛争地帯のような様相を呈していた。ヒップホップが生まれたのはそのような土地だったことが、番組のインタビュアーで自身もラッパーのシャドラク・カバンゴによって語られる。

しかし、そこに現れたのがクール・ハークというDJである。自分でパーティーを主催していた彼は、本来違うレコードを乗せて曲をスムーズにつないでいくものだったターンテーブルに同じレコードを2枚乗せ、ドラムソロなど客が盛り上がる部分を人力でループさせ続けるという技法を生み出す。大げさでもなんでもなく、このテクニックからヒップホップは生まれたのである。番組ではハークがパーティーを開いていたというセジウィック通り1520番地に足を運び、ハーク本人がインタビューに答える。「どんな曲をかけていたんですか?」と聞くカバンゴに、「曲名は教えない主義だ。みんながそのレコードを買ったらパーティーに来なくなる」と答えてニヤリと笑うハーク。し、痺れる……!

『ヒップホップ・エボリューション』は全編この調子で、当時第一線で活躍していたプレイヤーたちがバンバン出てくる。クール・ハーク、アフリカ・バンバータ、グランドマスター・フラッシュの3大DJ(日本史でいうと織田信長と豊臣秀吉と徳川家康、プロレスでいえば力道山と馬場と猪木くらいの存在感がある人たち)は元より、コールド・クラッシュ・ブラザーズのグランドマスター・カズ、カーティス・ブロウ、メリー・メル、DJレッドアラート、ファブ・ファイブ・フレディ、クール・モー・ディーといった錚々たるメンツが当時のことを語ってくれる。ハークのパーティーのことを喋るメリー・メルのテンション、最高です。

特に、ヒップホップにおけるDJのテクニックを確立したグランドマスター・フラッシュが「俺、電化製品を解体するのすげー好きだったんだよね。あと乾燥機とか自転車のタイヤとか、クルクル回るものを眺めるのもめっちゃ好きだった」と語るシーンはとてもいい。回転するものが好きな人がそのままレコードを回すDJになったという、この天職感!

ヒップホップの「面白がり方」がわかるドキュメンタリー
さらに番組は「ラップ」がどうやって発生したのかも解説。その起源として1930年代のキャブ・キャロウェイやゴスペル・カルテットによる韻を踏んだ歌唱やマルコムXの演説、さらにモハメド・アリのトラッシュトークを引き合いに出し、バンバータ自らが「ラップは昔からあった」と説明する。その上でヒップホップ的なラップスタイルの始祖としてニューヨークのラジオDJであるフランキー・クロッカー、そして当時ディスコで活躍していたDJハリウッドを紹介。DJハリウッド本人が「なんでDJの合間に韻を踏んで喋り始めたのか」という疑問に答えてくれる。

そんな『ヒップホップ・エボリューション』を見ていてしみじみ思うのは、歴史というものは何にでもあるのだな……という単純な事実である。特にヒップホップは「いつ誰が何をやったのか」「誰と誰がケンカしたのか」「それがどのような影響を与えたのか」が比較的しっかりと記録されており、この人のおかげで後にこういう曲やムーブメントができたということが可視化されやすい。

そういう歴史自体の蓄積や因果関係が楽しめるジャンルなので、実はヒップホップは三国志やガンダムやプロレスのような楽しみ方ができる。年表を眺めたり、列伝的なものを見聞きするのが好きな人、つまりオタクの人たちにとっては、ヒップホップはけっこうオススメの音楽なのである。『ヒップホップ・エボリューション』は、そんな「ヒップホップの歴史を眺める」という楽しみ方をする上で絶好のテキストだ。インタビューに答えるのは当事者。映像も楽曲もガンガン出てくるし、当時どのようなパフォーマンスが行われていたのか即わかる。とっても親切だ。

文字数の都合でこのレビューではヒップホップ黎明期のことしか書けなかったが、なんせヒップホップにはその後も現在まで続く長大な歴史がある。「史上初のヒップホップのレコードはなにか」「なぜヒップホップの人たちはサイズのでかいコーチジャケットやパーカーを着ているのか」「どうしてヒップホップでは不良っぽい人たちが不良っぽいことを歌っているのか」などなど、世間であんまり理由が理解されてなさそうな謎も多い。『ヒップホップ・エボリューション』は、そのへんの疑問に大体答えてくれるので、「そうだったんだ~」となること請け合い。現時点ではシーズン2、90年代ごろの話で止まっているので、ネットフリックスは是非とも折を見て続きを作って欲しい。待ってます……!


(文と作図/しげる タイトルデザイン/まつもとりえこ)

当記事はエキレビ!の提供記事です。

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