小林幸子芸能生活55周年で見えてきた「ホンモノ」の生き方がすごい!~書籍「ラスボスの伝言」を通じた魅力に迫る

SPICE

2019/8/8 12:30

今年芸能生活55周年を迎え、尚も勢力的に活動されるラスボスこと小林幸子さん。勿論知っての通り「おもいで酒」の大ヒットから国民的な演歌歌手として名を馳せ、紅白歌合戦での衣装の豪華さなどでも多くの国民から愛されている。近年ではポケットモンスターの劇場版主題歌や、ニコニコ動画へボカロP楽曲をカバーして動画をアップしたり、はたまたコミックマーケットへも参加し、自身でCDを手売りするなど、大御所歌手としては前代未聞の型破りな活動でも活躍する。そんな小林さんが先ごろ出版した書籍「ラスボスの伝言」はそんな小林さんの歌手人生と、現在の活動を支えている信念であふれた、現代に生きる我々にとっての金言にあふれたものだった。この書籍の中身と小林さんの人柄に迫ってみた。


ーー今年芸能生活55周年を迎えられ、相当色々な活動をされていらっしゃいます。その中の一つとして今回書籍「ラスボスの伝言」を出版されましたが、そちらの内容について沢山伺いたいと思います。まずはこの55周年という活動を振り返っていかがでしょうか。

考えてみると、デビューが前回の東京オリンピックの年でした。そしてまた来年、東京でオリンピックが開催されるということで、その間も歌をずっと歌わせていただき、歌手として2回の東京オリンピックを経験させてもらうというのは、あまり他にはない貴重な経験だなと思っています。

ーーすごいです。そして現在も真っ最中ですが、55周年のスペシャルコンサートを1月の9日からやられていて、まだまだコンサートも決まってらっしゃいますよね。

そうですね。来年を股にかけてやらせていただきます。今はちょうどポケモン関連のお仕事を頂いていて、こちらも98年にやらせていただいた一番最初のポケモン映画が、今年リバイバルするということで、すごく御縁を感じています。エボリューション(『ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』)として新しく3DCGで上映されるにあたって、そこには「是非幸子さんに」とオファーをいただき、主題歌も歌わさせていただき本当に嬉しい。しかも、ポケモンの関連記事で、「あの、名曲『風といっしょに』……」と書かれていたのを見かけて、ビックリしちゃいました。

ーー名曲ですよ。

私は21年前、最初に自分が歌っていたとき、本当に良い曲だなと思いましたし、これを自分なりに歌いました。ただその時に名曲という二文字で残るという想像はなかったのですが、そういってもらえた時にきづいたんです。あ、歌というのはきっと、名曲として作られた作品を歌ったから、名曲になるわけじゃないのだと。例えば当時聴いてくれた方々、子供さん方がもう大きくなって、そして最初の私の主題歌を聴いたことがない今のお子さん方も、この歌を聴くという時間のなかで、総合的にみんなが名曲にしてくれたんだなと思ったのです。こういう経験をすることって、ものすごく珍しいことですよね。

ーーそうですね。幸子さんが歌い継いできたことと、皆さんの思い出がそこにあって、名曲というものになってるんですね。

ぜんぶ思い出だと思います。今回イベントとかキャンペーンをやらせて頂いて感じたのが、人生って、それぞれの思い出の積み重ねというのが人生になるんだなと。だから、なるべくだったらいい思い出をたくさん積んでねという、なんかそんな気持ちを感じました。

ーー本当にそうですね。しかも幸子さんの場合は、ヒット曲が『おもいで酒』ですもんね。

確かにおもいで繋がりになっていますね。でもそう考えると、『風といっしょに』という曲は、まったく演歌じゃないので、自分なりに声楽の先生の所に行って、練習して歌ったんです。だって私は完璧に演歌ですから。そうしたらこういう歌も楽しいな、とおもい、お受けして歌った作品なんです。

「ダメなら辞めればいいじゃん」と思っています。


ーーそれこそ本当に、ニコニコ動画で歌われ出してから、幅が広がられたな、みたいな歌もあるんですか?

もともと演歌というもの自体が、明治維新の頃くらいから始まっていて、だからある意味では歌舞伎とか落語などの文化に比べると、歴史としてはそんなに長くはないんです。

ーー:なるほど。

歴史は長くないけど、演歌の世界が、演歌ってこういうものであるみたいな域から出ないんですよね。30年前の曲と、「新曲出しました」って歌い手さんの歌を比べると、テーマもメロディラインもあんまり変わってない。それはそれとしていいと思いますが、私はそうではない歌を歌いたいなと。勿論私は演歌で育ててもらったので、これはこれ。でも別の歌を聴いちゃうと、体の中の回路が、「え、ええええっ、こここ、こんなのあるの!?」という作品がたくさんあって(笑)。それを面白がっているのだと思います。

ーーわかります。

だから先ほど言った、私は演歌の歌手だからという思い込みを、捨ててしまえば、なんでも歌える。指をさされて「なんだよ!」と言われても、やってみてもいいじゃん? という風に(笑)。ニコニコ動画に関してはそこからスタートしました。

ーーたぶん幸子さんの好奇心が、そういう固定観念を打ち破ったんでしょうね。

でも本当に、「ダメなら辞めればいいじゃん」と思っています。

ーー今回の書籍「ラスボスの伝言」にも書いてありましたね。素敵な言葉でした。

辞める勇気はとっても必要なことだと思います。でも、辞めるにも、やらないと辞められないですから。とりあえずやってみるということをやった。それだけなんです。でもそれにしても皆さん、怖いもの知らずで曲を持ってきますよね(笑)。

ーー確かに!

『脳漿炸裂バーサン』おいおい(笑)

ーー本当怖いもの知らずです(笑)。でも、それも書籍に書いてありましたけど、信頼されてるスタッフの方が面白いって、言ったから「まずやってみる」みたいなところが。

ポケモンの主題歌のお話いただいたときだってそうでした。私、「ポケモンって何?ポケットモンキー?」とか、わけのわからない話をしてたんです(笑)。でも「そんなに面白いの?」と聴くと「子供が夢中になってます」「これ歌うと、子供は喜ぶ?」「喜びます」「じゃあ歌う!」と本当にそんな流れでした(笑)。

そのときの仲間の中に、なんとしょこたんのお母さんがいたんです


ーーそんなところからだったんですね。そしてポケモンもその後長くやられて、今回はしょこたん(中川翔子さん)と一緒に歌われています。しかも前回はソロでしたが今回はデュエットで。

そうなんです。しょこたんが、子どものころお爺ちゃんと一緒に映画館で観に行ったときの思い出があって、その時に、目から「ハイドロポンプ」だったそうです。

ーーしょこたんっぽい表現で号泣だったと。

そのときに「この曲を歌ってる幸子さん、神だと思います。」と。会ったときに、「神」って言われた(笑)。でもそのときにそれを思った彼女と、いま私がデュエットしてるって、これはすごく、楽しくありません?

ーーそうですね。その巡り会わせが一番グッときちゃうし、楽しいですよね。しかもポケモンの劇場1作目でしたし、いまだに破られてない興行成績の、伝説の作品ですもんね。今回試写会にも行かれていて、涙の嵐だったという話を。

そうですね。最初の試写会もそうでしたし、「大人試写会」といって、18歳以上の試写会があったのですが、こちらにサプライズで伺わせていただき、後ろでずっと観てたんです。上映後に「実は小林幸子さんがいます」と、客席の後ろから登場して歌い始めたら、皆様タオル持って泣いてました(笑)。

ーーそれはそうなりますね。

その方たちは21年前の作品を観てるから、色々重なってそうなったのだと思います。

ーーラゾーナ川崎では、イベントにも参加されたとのことで、どうやら色々な記事に、しょこたんがその際に言った「宇宙最強同士が並んでる」みたいな表現がありました。(笑)。

しょこたんは話が上手ですよね。言葉を紡ぎだす天才だと思います。彼女はとてもマルチな才能の持ち主ですよね。可愛いのは勿論のこと、絵は描く、漫画描く、歌も上手、お芝居もミュージカルもやる。しかも、そして実はすごい縁があることがわかったんです。

ーーそれはどんな。

私、子供の頃デビューしたのですが、その時少女雑誌の「マーガレット」とか「少女フレンド」の、小学生や中学生の洋服を着るモデルをやらせて頂いてたんです。そしてそのときの仲間の中に、なんとしょこたんのお母さんがいたんです!

ーーえーーーー!そうなんですか!

縁というのは本当にあるのだなと、とてもビックリしました。しょこたんのお母さんとしてお会いした時に「初めまして、しょこたんママ」と私が言ったら、「初めまして……何言ってんのよ! 一緒に仕事したじゃない」「え?」という感じでした(笑)。

ーーそうなんですね、そんなことあるんですね!

あるんですよ! 世の中本当、不思議だなって思いますね。

ニコニコ生放送に出演させて頂いた時に、いきなりコメントが「歌うめえ」でしたから


ーーそんなポケモンも、ちょうど節目の今年にあり、本も出されて。これ多分、幸子さんでしか迎えられない55周年だと思うんです。「普通の」って言ったら、何が普通って定義かわからないですけど、本当に、演歌歌手の方が55周年をたどってきたら、こういう55周年にはならないんじゃないかなって。

けっこう、私おもしろい人生歩んでるなって自分でも思います。自分の出す本で、『小林幸子の伝言』ならわかりますが、『ラスボスの伝言』というのも。本を出すとなったときに「『ラスボス』ってタイトル付けたいです」といわれて、「随分、斬新なことを考えるな」という感じでした。

ーーいや、そうですよね(笑)。でも、「ラスボス」という言葉で認知が広がってる時点ですごいなと。

「ラスボス」と検索したとき「小林幸子」と出てきて、そのときビックリしました。でも今でもご年配の方からは「幸子ちゃん」とよばれ、かたや若い子たちの間では「ラスボス」と言われるようになり、名前がいくつもあるのは嬉しいです(笑)。

ーーでも、それだけ様々な価値観を持ってる方が「良い」とするってことじゃないですか。年代の価値観も超えて。それって本当にすごいことだなって思うんです。特にやっぱり、今の時代って、ものすごくセグメントされていく時代じゃないですか。

そうそう。みんな細分化されてますよね。

ーー細分化がけっこう増えてますけど。逆にこんなオールラウンダーはあまりいないんじゃないかと。

そういうつもりで生きてきたわけじゃないですけど、気が付いたらそうなっていました(笑)。そう考えてみると、やはり面白がってるのかもしれません。それが結果的に後からくっついてきてるのかなと思います。

ーーそうですよね。そこにつながるのですが、この本の中の話もちょっと触れさせてもらうと、すごい印象的な言葉として「型破りと型無しは違う」というのがあります。やはり基礎、幸子さんの場合は演歌という基礎があって成り立つ言葉ですよね。

そうですね。ジャンルとしては演歌です。それで育って、生きて来たわけで、育ててもらったということだと思います。

ーーその基礎があって、他のことを積み重ねてらっしゃるうちに、オールラウンダーになったんですね。

どうなんでしょう。でもこの時代に、私より歳が上の方は「幸子ちゃん」とよく知っていただいてるし。この間のラゾーナの時は、幼稚園の子たちがやっぱり「さっちゃん」って言うんです。この時代に、そんな人って、他にいるのかなとは思います。

ーーいや、いないんじゃないですか?しかもそれって、いま幸子さんにたどり着くための入口が、様々なところにあるということですよね。まずニコ動もそうですし、コミケもそうですし。それって、いろんな「好き」の形があると思うんです。例えば、「面白がってる人」もいますが、「本当に好きな人」、「本当に、幸子さんの歌に救われた人」、もいる。浅いところから深いところまでいろんな「好き」の形が幸子さんにはあると思っていて。これがさっきの基礎の話に照らし合わせると、「ちょっと面白いな」と思って幸子さんのことを「ラスボス」と言うぐらいの認識でいたかたも、「歌、うめぇ!」ってなると思うんですよ。

それは嬉しいですね。

ーー結局、そこに帰結するんだろうなって思っていて。

でも本当ですね。初めてニコニコ生放送に出演させて頂いた時に、いきなりコメントが「歌うめえ」でしたから。

ーーそうですよね。いろんな興味の形を、結局、歌でゴソッと持っていけるパワーがある。

みんながそういう風に面白がってくれるから、私も面白がることが出来るんです。ただ、面白いからって言って、チャラけてるわけでもなくて、本気でやらないと皆さん見抜きますからね。でも見抜かれるから本気でやってるんじゃなくて、結果的に本気でやってると、みんながその本気についてきてくれるのかなと思います。

ーー全員が全員音楽に詳しい方ということではないのだとおもいますが、ホンモノかそうじゃないかはわかりますよね。

即ですよ。皆さんはすぐわかります。小林幸子のことを「ラスボス」として「がんばって」と言って好きな人もいるし、そうじゃない人も当たり前だけどいると思います。でもそこの中でずっと変わらずやっていくことが、大切なんだと、それでいいんだと思うんです。別に押し付けなんか必要もないし、かと言って迎合する必要もない。ある意味で自然体なんですよ私は。「わざとらしい!」って言う人もいるけど。でも、わざとらしいと言われても、このままが私なんです。それを続けていくだけなんです。

ーー本を読んで、それこそ本当に「あ、幸子さん、やられてることは変わってないな」と思うんですよね。だって結局、歌を歌うっていうことを、形を変えてやってるだけであって。

そうですね。なにか楽しいことを一緒にやりませんか、というだけの話なので(笑)。

「ラスボス」といっても、べつにそんなに強いわけじゃないんですから(笑)



ーーそれで今回の書籍ですが、全編通してすごく良かったのは、前向きに人生を生きていくということが書いてあるじゃないですか。また、ある種思い込みを捨てていく、常識を打ち破っていくというか。おそらくすごくいろんな人がここで悩んでるんですよ、きっと。

そうですね。思い込みを捨てろって言うけど、それも、「思い込んでることは捨てることができないこと」これも事実だし、これはこれでいいんです。でも常にこっち側を考えていきましょうね、ということであって。「捨てろよ」って言ってるわけじゃない。捨てられない。

ーーそうですよね。思いも執着もなかなか捨てられないのが人間ですから。

捨てられないですよ。やっぱりね。

ーー僕としては、パラダイムシフトが起こせるきっかけになるような本だなって感じているんですけど。受け売りでもいいからこの言葉をみんな吐けばいいのにって思いました。それだけでも日本変わるのになって

ははは。いいです、いいですね。吐けばいい。吐けー!(笑)

ーーいやでも、ホントそうなんだと思います。無理矢理にでもこういう言葉吐いて、無理矢理にでもこれに従ってやってみたらいいと思う。それこそ毎日鏡見て自分の事褒めてあげればいいと思うし。

だんだん自分を、一生懸命鏡に向かってヨイショしてると、もう一人が出てきて、「おまえ、何ウソついてるんだよ」と言って。それを誰か人に見られたら、どうしようと思うのですけど(笑)。鏡って不思議だなと思います。

ーーすごく刺さったところで、「自分の機嫌は自分で取れ」って。

この間、大竹まことさんの『ゴールデンラジオ』に出演させて頂いた時も、同じこと言っていただきました。「これ刺さるなあ!」って。「自分の機嫌は自分で取る」というのは、「え、なんで?」と思うんだけど、「まいったなぁ! そうだよなぁ!」と大竹さんはおっしゃってました。

ーーいや、参ったな、って思いました、僕ちょっと、この言葉は。いや、すごく甘えてたなって思いましたね。でも、みんなそうだと思います。

人から慰めてもらいたいですからね。

ーーでも解決にならないのも知ってるんですよね。

知ってるんですよ。でも慰めてもらうんですよいっぱい。でも鏡に向かって、「今のは違う」って(笑)。だから自分で自分の鏡見てると、ものすごい残酷。だって自分が一番知ってるんですから。

ーーなるほど。やはり幸子さんでもそうですか。

みんな変わりません。「ラスボス」といっても、べつにそんなに強いわけじゃないんですから(笑)。

ーーあ、いい言葉! それ(笑)。

ラスボスなんてそんなに強いわけじゃない、ゲームの中じゃ強いけど。

ポケモン全然関係ない歌詞で泣いちゃってるという、そういう歌の力ってすごいなと思います。


ーー「ラスボスなんてそんなに強いわけじゃない」(笑)。なるほど。それこそ、これも本に書いてありますけど、いろんな方に幸子さんも言葉をいただいて、気づいて、みたいなことではあると思うんですが、どうしてそんな心持ちでいれるのかなと、心持ちってどう生まれてくるのかなって。

それは、なんでしょうね。私は、売れていない時期がすごくあったんですね。それこそいろんなことがあった。そこには戻りたくない。これはありますね。だから、よく「マイペースでいい」とか、「今のまんまでいい」とか、あれは間違いだと思ってます。今のまんまなんかありえない。「今のまんま、このまんま、自分らしく生きる」とかよく言われることですけど、一歩先へ出ていないと、みんなが先へ一歩出るから、一歩先に出ようと思ったときには、やっぱりまたスタートラインになる。二つ出ないと、出てないんですよ。という考えかな。忙しくてしょうがないですね。あはははは!

ーーそうやって最後に笑い飛ばせることが素敵です。

さだまさしさんに作ってもらった楽曲で、歌の力ってすごいと思った曲があるんです。さださんに作ってもらった『約束』という歌の歌詞の中で、「思いどおりには 生きられないけれど 一生懸命」 という一節があります。「思いどおりには 生きられない」これ、当たり前です。それで、それを聴いた方がガンを宣告されて、それでも一生懸命生きている人がいらっしゃいました。本当は「こんな思いして、なんで俺がガンになるんだよ……」「私がこんな目に……」となってしまうけど、人はみんな思い通りには生きられないってことを歌にした、そこのフレーズだけがパーンって残ってるんです。そしてそれで頑張れたって言う人がたくさんいたんです。そのとき、歌の力ってすごいなとおもいました。

ーーそうですね、それは誰でも与えられる物じゃないし、(本に)ありましたけど、「言霊」ですね、やっぱり。

言霊ですね。

ーー歌も言霊じゃないですか、結局。責任持って吐いてるか、無責任に吐いてるかでだいぶ変わるだろうと思いますし。

だから、ヤマちゃん(山寺宏一さん)が、前述のポケモンの歌(『風といっしょに』)を聴いて号泣するんです。「ダメだ、昔の自分を思い出して」なんて言ってくれまして。それで「どこの歌詞で泣く?」と聴いたんです。そうしたら「『いくつものであい いくつものわかれ』これ、いっぱい経験してきたから」と。そういうなんかもう、ポケモン全然関係ない歌詞で泣いちゃってるという、そういう歌の力ってすごいなと思います。

ーー重ね合わせる部分っていうのが人それぞれなんだろうから。そこが歌の面白いところですよね。こっちが意図していないところに引っかかっていたりとか。

そうです。黒澤明監督の映画じゃないけれど、自分の好きな台詞とかってみんなそれぞれ違って、自分の好きなシーンがみんな違って、それで当たり前ですよね。それでいいんです。

ーー本当に、素敵な商売だなって思いますね。

だから私たち、とっても恵まれていると思っています。やりたいことがやりたくてもできない状況の方もいる中で、少なくともやりたいことができている。自分の好きなことを職業としてちょっとでもできているってことは、感謝ですよね。

「都合のいい未来を期待しない」とは。そういう内容の意味なんです


ーーでも、幸子さんがやってることって、この本を読んでまた改めて思いましたけど、寄り添ってます。歌が寄り添ってる。だからいろんなところを、いろんな人が勝手に切り取っていくんだろうなと。

うまいこと言うね。いま、感心しちゃった。いい言葉。

ーーいやいやいや(笑)。だって、歌って生活に寄り添うものだって思うんですよ。それこそ、音楽って、あってもなくても実は、生きていけるのかもしれないけれど。

ありがとうございます。

ーーそんな寄り添いをすごく感じたし、これを読んで改めて僕、ちょっと幸子さんのパーソナル、ちょっとわかった気になれるっていうのがいいと思うんです。

嬉しいです。そうだといいな。

ーーだから純粋にこの本は、多くの方に凄く手に取ってほしいと思います。それこそ全年齢的に。あと、その本の中でもう一つお聞きしたいことがあるんですけど、「自分に都合のいい未来を期待しない」とあって、理想の未来像をしっかり描いちゃうと、そうならなかったときにマイナスになっちゃうという部分。

私の歌に、中島みゆきさんに書き下ろして頂いた楽曲があるんです。『幸せ』という曲なんですが。この詞には、幸せになるには二つある、一つは自分の思っていることがその通りうまくいくのが一つの幸せ。何が欲しい、こうなりたい、ああなりたい、自分が欲しいものがぜんぶ叶うという、一つ目の幸せ。でも幸せってもう一つあるんだって言うんですよね。二つ目はね、願いを捨てる。

ーーほうほう。

願いを捨てることがいいってことじゃなくて、この二つを選べるということが、ものすごく幸せなことなんだというそうです。私、それを聞いて目からウロコでした。つまり、客観的に欲しいものを欲しがらない、欲しいものがあってもそれを欲しがらなければ不幸にはならないということではなく、その二つを自分で選べるっていうことが幸せだという。例えば対象は好きな人のこと。自分が大好きな人だけど、その人は自分のことを見てくれなかった。結局、最終的に別れて、あの人の住んでいるところを遠ざかっていく、汽車、電車の中でずっと見てるんだけど、「さよなら、でも私は幸せなんだ」という。あの、「幸せになりたいね」なんです、最後は。でも、自分はどっちかを選んだわけです。結局、別れるっていうことを選んだことって幸せなことなんだよということ。そして、みゆきさんに、その後に手紙をもらったんですよ。「もう一つ、裏に込められてるこの詞のこと、幸子さんに一応伝えておきます」と。ビックリして読んだら「その人が誰と付き合っていようが、どっかで幸せになって欲しいって願う自分は幸せだ」と。なんだかぐるぐるになりましたけど、そんなことまでぜんぶ考えて歌詞が出てくるんだなと思ったんです。

ーーすごいです!

今も、私の大事な手紙です。なので、「都合のいい未来を期待しない」とは。そういう内容の意味なんです、私の中では。

ーー改めて本当に、今日お話を伺っても、本を読んでも、嘘なく生きてきてらっしゃったんだろうなっていう感じがすごいするし、なんというか、「応援書」なんですよね、この本は。

「がんばれ!がんばれ!」と言っているのは、みんな拒否すると思うんですけど、こういう形であればと。

ーーある種、成功されてるっていうのがわかっている状態で、そういう人がこういう風に、こんな心持ちで生きているんだって思ったら、やっぱり励まされます。

冒頭に書きましたけど、本当にすっぴんですから。

ーーこれって、親しみに繋がりますよね。「小林幸子説明書」じゃないですけど。

あはははははは。トリセツ。

ーー最後に、来年は56年目となりますが。やはりここからは60周年に向けてということになりますか。

私、100まで歌えそうな気がする!それはちょっと無理か(笑)

取材・文=秤谷建一郎

当記事はSPICEの提供記事です。

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