クレイジーケンバンドの『Soul Punch』の雑多な音楽性に横山 剣の原体験を見る

OKMusic

2019/8/7 18:00

“東洋一のサウンドクリエイター”を自称する横山 剣率いる“東洋一のサウンドマシーン”クレイジーケンバンドが8月7日、ニューアルバム『PACIFIC』をリリースした。バラエティー豊か…いや、バラエティー豊かすぎる音楽性を有するバンドなだけに、いい意味で今作も推して知るべしといったところで、我々の期待を裏切らない作品となっているのは確実であろう。当コラムでは最大の売上を記録した2005年の7thアルバム『Soul Punch』から、彼らの特徴を改めて検証してみたい。

■雑多とも言える音楽性を持つ

本稿ではWikipediaからの情報を入れ込む時は概ねカッコ書きで“[]はWikipediaからの引用”との注釈を入れるよう心掛けている。先日、とあるアーティストに取材させてもらった時、「Wikipediaに○○○○って書いてまして…」なんて軽口を叩いたら、「(Wikipediaは)わりと間違ってるんですけどね」と苦笑いしてたのだけれども、そういうことだ。Wikipediaは便利だが、そこにある情報が公式なものとは限らないことは肝に銘じておかなければならないのである。

さて、クレイジーケンバンド。このバンドをWikipediaで調べると、そこの“概要・特徴”に以下のような文がある。[ロックンロール、ポップス、歌謡曲、ソウル、ジャズ、ファンク、ブルース、渋谷系、演歌、ロカビリー、ラテン、ボサノヴァ、R&B、AOR、ヒップホップ、アジア歌謡等、多くのジャンルの要素を柔軟に取り入れた自由奔放なミクスチャー音楽が特徴で、幅広い年代のファンを持つ]([]はWikipediaからの引用)。うん。これは間違いないだろう。ホントそういうことだと思う。

クレイジーケンバンドほど雑多な音楽性を持つバンドはなかなかいないだろう。自称“東洋一のサウンドクリエイター”“東洋一のサウンドマシーン”の肩書は決して伊達ではない。東アジアはもちろんのこと、メジャーなエンターテインメント業界で考えると、そのバラエティー豊かな音楽性は世界的に見ても珍しいんじゃないだろうか。今回紹介する7枚目のオリジナルアルバム『Soul Punch』もまさしくそうだ。全21曲収録という大ボリューム。かつバラエティー豊か。簡単にザッと解説してみる。

M1「男の滑走路」:ブラスとストリングスがゴージャスに配されたビッグバンドジャズ風ナンバー。スケール感はオープニング曲に相応しい。
M3「魂拳 -Soul Punch-」:ヒップホップ要素を感じるソウルナンバー。インド的音階、アフリカンなビート、Cメロはラップ調と、ごった煮感が強い。
M4「逆輸入ツイスト」:文字通りのR&R。サーフミュージックっぽいというか、スパイ映画の劇伴っぽいというか、はっきり言ってしまえば、Barrett Strongへのオマージュを感じるギターリフがスリリングだ。
M5「京浜狂走曲」:ミディアムのシャッフル。…というよりも、“エンヤトット”にも近いリズムも含めて、どこか日本民謡っぽい印象もある。
M6「Sweet Seoul Tripper」:ボサノヴァタッチのスローなナンバー。ヴォーカルの音価があまり変わらないからか、歌がラップっぽい。
M7「37℃」:M6同様スローなボサノヴァで、これも歌がラップ調だが、硬質なスネアの音、淡々と繰り返されるギターリフの効果で、ループミュージックっぽい表情を見せる。
M8「Loco Loco Sunset Cruise」:ミディアム。ヴォーカルはわりと歌い上げているものの、全体的にはさわやかさを感じさせるナンバーに仕上がっている。
M9「American Dream」:個人的にはその跳ねた感じにThe Nolansを思い出したポップチューン。いつぞやの時代のアイドルソングのようでありつつも、ラップを入れたりすることで、しっかりアップデイトしている印象。
M10「横山自動車」:カッコ良いR&R。間奏のサックスと含めて展開はベタだが、イントロとアウトロにシタールが入ってて、ちょっとサイケ。
M11「Almond Jerry」:アップチューン。これもシタールを入れて(シタール風な音色のギターかも?)、フルートも入っているが、あんまりサイケデリックロックな感じがしないのがいいところかもしれない。
M12「ロドリゲス兄弟」:ラテンのリズムを入れて(マンボか? サルサか?)、ムード歌謡のようなメロディーと相俟って独特のテイストに仕上げている。
M13「フジヤマ・キャラバン」:「TABOO」を彷彿させるラテンジャズっぽいインスト曲。後半から転調してアップテンポになる。
M15「Transistor Gramour Girl」:TOKIOに提供した「トランジスタGガール」のセルフカバー。結構ベタなR&Rで、歌い方は完全にElvis Presley。
M16「Summer Summer Freeze」:これもまたボサノヴァタッチのメロウチューン。歌も間奏のギターソロもとてもメロディアス。
M17「Chatango Cha Cha Cha」:歌詞からすると、チャチャとタンゴを混ぜた“チャタンゴ”なるジャンル。NHK『みんなのうた』で流れていても不思議じゃない親しみやすさを有している。間奏のサックスが◎。
M18「タイガー&ドラゴン - 完全版 -」:こぶしの効いた歌唱で知られる、バンド最大のヒット曲。キーボード、フルートが雰囲気を醸し出している。
M20「流星ドライヴ」:さわやかさと疾走感が同居した様子は“渋谷系か!?”と見紛うほど。だが、歌が入るとこのバンドの楽曲以外の何物でもない。
M21「California Roll」:ブラスの入れ方を含めて正調なR&B~ソウルと言えるバラードナンバー。フィナーレに相応しい渋めな印象。

短めのインタールードと言える“eye catch”の3トラックは除いて、本当に思い付くままに書いてみた。ジャズとかヒップホップとかR&Rとかサイケとかラテンとかボサノヴァとか、重なるジャンルがないわけではないが、これだけ別れれば十分にバラエティー豊かと言っていいだろう。そもそも“eye catch”を含めて全21曲だ。これでひとつもジャンル被りがなかったとしたら、それは単独アーティストのアルバムではなく、コンピレーションアルバムやオムニバス盤だろう。

■極めて個性的な歌詞も特徴

歌詞もまたバラエティーに富んでいる。その内容はやはりラブソングが多く、サウンドほど多岐に渡ってはいないものの、少なくとも当代ではクレイジーケンバンドくらいしか扱わないであろう歌詞が見受けられる。その最たるものは、当然と言うべきか、M18「タイガー&ドラゴン」であろう。

《俺の話を聞け!  5分だけでもいい/貸した金の事など どうでもいいから》(M18「タイガー&ドラゴン - 完全版 -」)。

サビのインパクトが強いヒット曲なのでファンならずとも耳に馴染んでいる人は多いだろうし、その内容を知っている人も少なくなかろう。《愛》という言葉は出てくるものの、この歌詞を見ただけではこれが恋愛のことを綴っているのかどうか分からない。もっと言えば、《お前》と言っているので第二者=相手は居るのだろうが、その性別も歌詞の主人公との関係も分からない。《あの頃みたいに ダサいスカジャン着て》や《貸した金の事など どうでもいいから》という辺りから推測するに、過去に金の貸し借りをするくらいの間柄であったということと、舞台が神奈川県横須賀市にある三笠公園であることが辛うじて分かるくらいだ。個人的には今回改めて聴いて、その内容が抽象的なほどに、物語を限定していないことにちょっと驚いた。そう言えば、最近、こういうタイプの歌って流行ってないなと思ったりもした(ていうか、流行歌自体が少なくなってるんだろうけど…)。M18「タイガー&ドラゴン」以外の歌詞もこんな感じ(↓)。

《アクシデント! 思わぬ出来事に/もし巻き込まれても/人を笑わせる男になりたい/人を泣かせて生きて来たから》《My Way シナトラのように/わたしはわたしの道を行こう/その先に何が待ち受けていようと/すべて蹴飛ばし生きて行くぜ》(M1「男の滑走路」)。

《セカイニホコレルニホンノヘイワケンポウ/ツクッテクレタノハアメリカ》《眩し過ぎて何も見えなかったんだ/Sunny Days どこへ行ってしまったんだ?/Woo大好きだったはずのAmerica/Why? どうなってしまったんだろ?》(M9「American Dream」)。

《アメ車の季節だドキドキするぜ (My Heart is Beating)/今年は絶対アメ車を買うぜ (Na Na Na…)》《アメ車を買うならBayside Motors (a.k.a.横山自動車)/屋号は横山自動車(有)(a.k.a. Bayside Motors)》(M10「横山自動車」)。

《ココロの一番深いところに/RODRIGUEZ様が棲んでいる》《今夜は誰もがみんなヒゲ野郎 (BIGOTE)/REDHOTな夜が始まる (CALOR)/でも夜が明けたら そう もぬけの殼/魔法が溶けたら更地の本牧原》《だけど忘れるな 亜細亜人のプライドを》(12「ロドリゲス兄弟」)。

文字通りのクレイジーケンバンド流「My Way」。当時のアメリカ政府への批判。アメ車愛を綴ったものから、コロンビアの犯罪組織の名前が出てくるものまで(私はこの歌の真の意味を知らない)。これ以外にも、ラブソングにおいても言葉のチョイスが独特であるとか、地元である神奈川の地名が多いとか、とにかく歌詞は個性的だ。でも、それこそがクレイジーケンバンドであり、このバンドの大きな魅力のひとつであると断言できる。

■子供の頃の原体験をそのままに

過去に一度、横山 剣(Vo)にインタビューをさせてもらったことがある。いつのことだったか完全に失念したが、仕切っていただいたのがPヴァインで、まだテレビドラマ『タイガー&ドラゴン』は放映していなかったと思うので、2003年か2004年だったろうか。取材年を覚えていないくらいだから、そこで話した細かい内容も思い出せないけれど、ここまで述べてきた“雑多”と言うべきクレイジーケンバンドの音楽性はいかに生まれて来たのかを尋ね、その質問にとても丁寧に答えてもらったのはよく覚えている。

ご存知のファンも多いことだろうが、氏は子供の頃、中古レコード屋の手伝いをしていた。お金をもらっていたそうだからアルバイトだろう(たぶん昔の話なので、労働基準がとかは言いっこなしね)。露店だったというので、今で言うフリーマーケットに近いものであったと思われる。段ボール箱には(もしかすると木箱だったかも)、あらゆるレコードがあったそうだ。それこそ[ロックンロール、ポップス、歌謡曲、ソウル、ジャズ、ファンク、ブルース、渋谷系、演歌、ロカビリー、ラテン、ボサノヴァ、R&B、AOR、ヒップホップ、アジア歌謡等]([]はWikipediaからの引用)があったのだろう(※渋谷系、AOR、ヒップホップはその頃なかっただろうから、除く)。それらをジャンル分けすることなく聴いていたそうである。その話を聞いて完全に腑に落ちた。門前の小僧習わぬ経を読む。氏の音楽の原体験がそうであるのなら、クレイジーケンバンドの雑多性にも十分にうなずけた。

クレイジーケンバンドのすごさは、そうした横山 剣が雑食的に吸収してきた音楽をスポイルせずに自らの音楽に取り込んでいるところだろう。加えて言えば、しかも、それら雑多な音楽を懐古的に原盤のままに──例えば衒学的に演奏するとかではなく、あくまでもポップに、大衆的に披露している点にあると思う。

TEXT:帆苅智之

アルバム『Soul Punch』

2005年発表作品

\n1.男の滑走路
2.本牧パレード -eye catch-
3.魂拳 -Soul Punch-
4.逆輸入ツイスト
5.京浜狂走曲
6.Sweet Seoul Tripper
7.37℃
8.Loco Loco Sunset Cruise
9.American Dream
10.横山自動車
11.Almond Jerry
12.ロドリゲス兄弟
13.フジヤマ・キャラバン
14.本牧通りのCKB -eye catch-
15.Transistor Gramour Girl
16.Summer Summer Freeze
17.Chatango Cha Cha Cha
18.タイガー&ドラゴン - 完全版 –
19.本牧埠頭に車を捨てないで! -eye catch-
20.流星ドライヴ
21.California Roll

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当記事はOKMusicの提供記事です。

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