新型日産スカイラインの手放し運転はヒットしないと考える理由

日刊SPA!

2019/7/21 08:50

 7月17日の新聞各紙には、「新型スカイライン 高速道 手放しOK」(朝日新聞)といった見出しが躍った。新型車の発表が一般紙でこれほど大きく扱われるのは珍しい。

「手放し運転ができるのは高速道路の同一車線を走行する場合。速度を設定しておけば、ハンドルやアクセル、ブレーキといった操作を自動で行う。車内の赤外線カメラでドライバーが前方を注視していることが確認されれば、ハンドルから手を放した状態でも走り続ける。ドライバーが目をそらしたり閉じたりし続ければ、警報音を鳴らす。それでも目線が戻らないと、ハザードランプを自動でつけ、少しずつ減速して停止する。」(朝日新聞)

実は、メルセデスベンツやボルボ、テスラなどのレーンキープアシスト機能付きのクルマも、高速道路に限らず、ACC(自動前車追従機能付きクルーズコントロール)をONにすれば、事実上手放し運転がかなり可能だった。ただ、一定時間以上ハンドル操作をしないと、「ハンドルを操作してください」という警告が出て、それも無視し続けると自動状態が解除されるので、たまに少しだけ動かしてやる必要があった。つまり、ハンドルから手を放しちゃいけないけど、一定時間はできちゃう、というものだった。

◆自動運転の実現をみんなが望んでいるという思い込み

新型スカイラインは、その手放し運転が堂々とできる。ただし、クルマがドライバーの目の動きを監視して、ちゃんと前を見ているかどうかをチェックし続ける。手放し運転中にスマホを見たりはできないってことですね。

また、これまでのレーンキープアシスト機能は、あくまで「アシスト」だったので、高速道路であっても、首都高のきついカーブを曲がり切るのはやや難しかった。しかし新型スカイラインは、ゼンリンの3D高精度地図データと連動しており、首都高の急カーブも、設定速度が速すぎなければ自動で曲がれるのだろう(たぶん)。

今後日産は、手放し運転機能を他の車種にも広げる予定で、「その売れ行きは、日産の今後にとって重要な意味を持ちそうだ」(朝日新聞)とも評されている。

で、この手放し運転機能、ヒットするだろうか? 私は「しない」と断言する。

大手メディアは、「自動運転」というワードに過敏に反応する。政府も支援しているし、時代はそっちに向かって動いている、高齢化問題や人手不足もあり、1日も早い自動運転の実現が望まれている、という思い込みがある。

◆自動ブレーキは欲しいけど、自動運転はいらない

確かにユーザー側の認知度や期待も、年々高まっている。しかし実際には、現時点で自分のクルマに自動運転機能が付くことを望んでいるドライバーは、ごくわずかだ。

昨年、日本自動車工業会が発表した市場動向調査(2017年版)によると、「自動ブレーキは欲しいけど、自動運転はいらない」というのが、ユーザーの多数意見だった。同調査によると、自動ブレーキを「装着したい」と考えているユーザーは5割を超えていたが、ACCは31%とかなり低くなり、完全自動運転まで望んでいる人は、わずか8%だった。

この調査の後、高齢者によるペダル踏み間違い暴走事故がますます社会問題化したので、自動ブレーキや、踏み間違い防止装置に対する要望はぐんと高まったと推測されるが、完全自動運転への要望度は、そう変わっていないだろう。

実際のところ、一般ユーザーにとっては、ACCでも立派な「自動運転」だ。私の経験では、ACC初体験の女性は、「これは絶対に自動運転よ」と断言する。また、アクセルやブレーキの操作をクルマにまかせるのは、はじめの一歩に大きな勇気がいるもので、初体験時は非常に怖がるし、慣れても「もう使いたくない」となったりする。

私自身は、高速道路ではACCをフル活用しているが、愛車は5年落ちで、技術的にやや古いこともあり、割り込みへの対処は非常に心もとない。どこまでクルマ側が対応してくれるかを見極めるのは、自分で運転しているよりはるかに技量(とっさの時の操作やその判断能力)が必要だと感じる。

2016年の調査で、新車へのACC装着率は38.7%。現在は5割を超えているだろう。そこから推測すると、現在の普及率は1割弱程度と思われるが、高速道路で周囲を見渡しても、ACCをONにして走っていると思われるクルマは、100台に1台もいない。機能はあっても、あまり使われていないのだ。

◆自分に責任があるのにクルマに運転を任せることは怖い

スカイラインの手放し運転も、とっさの時はドライバーが操作しなければならない点は変わらないし、万が一の事故の場合、その責任がドライバーにある点も同じだ。多くの一般ユーザーは、「自分に責任があるのに、クルマに運転を任せるなんて怖い」と考えている。

つまり、スカイラインの手放し運転機能を使いこなせるのは、新技術への興味や運転技量の高いクルマ好きに限られるだろう。決して運転弱者を救うものではない。

自動運転が真剣に求められているのは、人手不足が深刻な運送業界だ。大型トラックの隊列走行による完全自動運転(先頭のみ有人で、2台目、3台目が無人追従)はすでにテスト中で、政府がその開発を支援している。新東名高速の御殿場-浜松いなさ間の全線6車線化が決定したのも、来年から始まる予定のトラック隊列走行に対応するためだ。

しかし、一般ユーザーはそこまで求めていない。一般ユーザーに必要なのは、自動ブレーキ機能が進化した「ほぼぶつからないクルマ」ではないか。

たとえば、現在の自動ブレーキは、衝突が予測されても、アクセルを踏み込むと、ドライバーの意思を優先して自動ブレーキがキャンセルされる。そういった機能の制限を外して、とにかく事故の発生を”ほぼ防止(絶対は不可能)”してくれるクルマの開発こそ、第一に望まれている。それにはまず、現在は許されていない「赤信号での自動停止」解禁など、国の規制緩和が必要になるが。

スカイラインの手放し運転解禁もひとつの規制緩和であり、技術的進歩の一過程だが、個人的には、目の動きをクルマに監視されてまで、手放し運転をしたいとは思わない。

取材・文/清水草一

【清水草一】

1962年東京生まれ。慶大法卒。編集者を経てフリーライター。『そのフェラーリください!!』をはじめとするお笑いフェラーリ文学のほか、『首都高速の謎』『高速道路の謎』などの著作で道路交通ジャーナリストとしても活動中。清水草一.com

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

あなたにおすすめ

ランキング

ランキングをもっとよむ

注目ニュース

注目記事をもっとよむ

あなたにおすすめ