山下達郎『希望という名の光』がたどった数奇な運命

UtaTen

2019/7/19 16:01

元々は映画の主題歌だった


『希望という名の光』は、2010年にリリースされた山下達郎にとって45枚目のシングルです。

2010年に公開された映画『てぃだかんかん~海とサンゴと小さな奇跡~』の主題歌として書き下ろされました。



人工による養殖サンゴの移植と産卵に成功した金城浩二氏の自伝を原作とした映画で、ナインティナイン岡村隆史が主演をつとめました。

それでは、歌詞を見ていきましょう。

様々な困難を経て養殖サンゴの産卵に成功した主人公の物語です。

その勇気や、サンゴという希少な命の大切さを訴えるような歌詞が映画の雰囲気に合っていると思います。

さらに、この「希望という名の光」のメロディーも美しい曲で、映画のエンディングに流れてくれば感動せざるをえないでしょう。

しかしこの曲は単なる映画の主題歌、タイアップ曲のひとつでは終わらなかったのです。

震災をきっかけに新たな意味を持つ


2011年3月11日に発生した東日本大震災。福島第一原発の事故も含め、いまだ大きな傷跡を残していますし、復興に向けてまだまだ多くの課題が残されています。



多くの人が大切な人を亡くし、住む場所や故郷を追われました。

大震災の後、多くのアーティストが被災者を励ますための曲を作りました。それと同時に、被災者も自分たちを励まし、癒し、未来への希望を抱かせる曲を求めていたのです。

その中でDREAMS COME TRUEの『何度でも』が取り上げられることがありました。それと同じように、この『希望という名の光』も被災者の希望として多くの人に聞かれることとなったのです。

今となっては震災があったから作られた曲と言われてもおかしくない歌詞に見えてきます。

この曲がリリースされたのは震災が発生する前の2010年ですから、もちろん山下達郎にそうした意識があったはずはありません。

作者である山下達郎の意図や想いを超え、聞き手が自分たちのための曲として新たな意味をこの曲に与えたのです。

曲というものは世の中に出た瞬間から作り手の手を離れ、聞き手のものになります。

そして優れたポップソングほど聞き手の想像力を膨らませ、新しい意味を手にすることができるのではないかと思うのです。

アルバムの表題曲に


震災当時、山下達郎はアルバム制作の真っ最中でした。当初アルバム全体のテーマとしては明るいものになる予定だったと言われています。しかし、震災によってそのテーマは方向転換せざるをえなくなりました。

山下達郎はもちろん、多くのアーティストが震災を機に自分が音楽をやる理由や意味に向き合うことになったのです。



山下達郎は『希望という名の光』が被災者の心の支えとして聞かれているという話を聞き、この曲を中心に傷ついた人々の心に寄り添うアルバムを作ろうと思ったのです。そして完成したのが、2011年の傑作『Ray of Hope』なのです。このアルバムタイトルも『希望という名の光』から取られています。

数知れぬ人々の魂に届く様に


山下達郎の『蒼氓』という曲があります。1988年のアルバム『僕の中の少年』に収録されている曲です。



ライブで『希望という名の光』が演奏される際には間奏部分で『蒼氓』の一節が歌われることが多いのですが、それには理由があります。

『蒼氓』の冒頭の歌詞を見てみましょう。

『蒼氓』は山下達郎というアーティストがなぜ曲を書いて歌うのか、その問いに向かい合って生まれた曲です。彼の人生観やアーティストとしての矜持が凝縮されているのです。

山下達郎は「音楽は人の心や世の中を変えることなどできない」と言います。「その代わり、人の心に寄り添い、ささやかな癒しを与えることくらいはできるかもしれない」とも言っています。

1988年に彼が書いた「数知れぬ人々の魂に届く様に」という想いは、時を経て『希望という名の光』として結実したのです。

ぜひ歌詞と向き合い、山下達郎の想いを感じていただけたらと思います。

TEXT by まぐろ

当記事はUtaTenの提供記事です。

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