兵動大樹、桂吉弥が主演の舞台『はい!丸尾不動産です。』観劇レポート ーー何一つとしてシェアできていなかった愛すべきダメ人間たちの物語

SPICE

2019/7/19 12:00


芸人・兵動大樹、落語家・桂吉弥という関西お笑い界を代表する「しゃべくりの達人」が初共演を果たした舞台『はい!丸尾不動産です。~本日、家をシェアします~』の公演が7月1日、大阪・ABCホールで終幕した。

SPICEでは、兵動、吉弥ら出演者のインタビューだけではなく、稽古にも何度か潜入するなどその動向を追いかけてきた。そのため、同作について事前に展開面を把握できていたし、作品の世界についても理解が深まっていた。それでも本番を観劇した際、稽古では味わえない新鮮さと驚きに包まれた。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家をシェアします~』
『はい!丸尾不動産です。~本日、家をシェアします~』

物語は、兵動扮する不動産営業マン・菅谷が、元銀行員・林田にシェアハウス「幸福荘」をプッシュするところからはじまる。順風満帆にキャリアを積み上げたエリートで、なんの不自由もなく余生を送れるほどの蓄えを持ち、50歳にして銀行を早期退職した林田。そんな彼がなぜ、しがない不動産屋の菅谷が管理する、ふきだまりのような物件への入居を考えているのかーー。その謎があかされていく。

非常に興味深かった点は、「シェア」というテーマを題材とした人間ドラマが非常に強靭だったところだ。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家をシェアします~』
『はい!丸尾不動産です。~本日、家をシェアします~』

シェアハウスにもともと住んでいたのは、自称ミュージカル女優・亜美(青山郁代)、司法浪人生・沢田(三好大貴)、花屋・守屋(宮下雄也)のたった3人。それぞれ皮肉を言い合うなどいがみあって生きているが、他人の領域にずかずかと入り込んで遠慮なく話をする様子は、人間関係の距離としては非常に近い。今風なシェアハウスに漂う「意識高い系」な雰囲気やスタイリッシュさは皆無だが、その分、昔ながらの寮的な汗臭い感覚が密封されている。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家をシェアします~』
『はい!丸尾不動産です。~本日、家をシェアします~』

人間関係が近くて少々面倒くさく、各自の将来図も不透明ではあるが何となく「幸福そう」に見える、このシェアハウス。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家をシェアします~』
『はい!丸尾不動産です。~本日、家をシェアします~』

しかし先住人の3人それぞれの特性を見てみると、亜美は言いたいことがあるときはいちいち歌ったり芝居をしたりして相手に伝えようとするし、沢田は司法書を常に手に持って理論的に話そうとし、守屋は仕事で使っているピエロの衣装を着ている。で、リビングに集まっても、核心めいた話になると気まずそうに自室に帰っていく。実は3人は、脆いながらも武装をして自分自身を守り、わずか3人の共同空間で距離が近そうに思えて、実は他者をうまく遠ざけている。「幸福そう」なだけで、結局は何一つとしてシェアできていないのだ。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家をシェアします~』
『はい!丸尾不動産です。~本日、家をシェアします~』

そんな物件へ、林田があらわれる。菅谷のリクエストで、先住人の3人は新居者歓迎会を開くことになるが、そこで林田は3人にこう言う……。「お前らが飲んだ酒、そこには毒が入っている」と。林田には一人娘(高岡凛花)がいるのだが、彼女はシェアハウスで暮らしたのちに失踪。林田は、3人の誰か、もしくは全員共謀して娘を殺したと考えていた。その真相を暴いて復讐を遂げるために、亜美、沢田、守屋の素性を調べ上げ、幸福荘にたどりついたのだ。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家をシェアします~』
『はい!丸尾不動産です。~本日、家をシェアします~』

林田は、3人の背景について綿密に語っていく。亜美は、かつてはそこそこモテてはいたものの、年齢を重ねるたびに需要が薄らぎ、すっかり売れない女優に。そんなおり林田の娘と出会い、その若さへ嫉妬する。沢田は、娘がアルバイトをしているガールズバーの常連客。落ちこぼれの自分の心を癒してくれる存在として、彼女に惚れ込んでストーカーまがいの行為を働く。守屋は、真面目そうな見た目とは裏腹に実は元ヤクザ。誰の優しさも受けることなく育ってきたが、ある出来事を機に娘にかくまってもらうことになり、何日か共同生活を送っていた。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家をシェアします~』
『はい!丸尾不動産です。~本日、家をシェアします~』

さらには、林田自身も、素晴らしいキャリアの持ち主でありながらも娘との関係に悩みを抱えていて、それが原因で彼女が親元を離れてしまったことが分かっていく。つまりそれぞれが、娘という存在をシェアしていたのだ。そして、彼女の前でみんな自分の弱さをさらけだしていた。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家をシェアします~』
『はい!丸尾不動産です。~本日、家をシェアします~』

菅谷は、各自の内実を知り、叱責するわけでもなく、同情するわけでもなくただただ話を聞いて、全員を広い心で受け止めていく。そして、将来への見通しが立たない全員に対して「まだまだ、これからじゃないですか」と背中を押し、抱きしめてあげる。そして、安心感を与えてあげる。

SNSでハッピーな写真やコメントを投稿すれば幸福そうに見えるし、リツイートやいいねのボタンを押せば誰とでもシェアができる時代。でも、それだけでいいのだろうか。私たちが本当に欲しいものは、菅谷のような生身の言葉や行動ではないだろうか。物語を観ながら、そんなこと考えさせられた。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家をシェアします~』
『はい!丸尾不動産です。~本日、家をシェアします~』

兵動、吉弥が主演とあってもちろん笑える部分は多々あり、ラストはしんみりならずに爆笑で終幕する。でもそれは、稽古を見学していく中である程度の想定ができていた。だが、本番さながらの緊迫感と相まったシリアスかつエモーショナルなドラマ性は、期待以上に訴えかけてくるものがあった。


好評を博した同舞台は、次回作『はい!丸尾不動産です。~本日、家に化けて出ます~』の上演も決定した。11月30日から12月2日まで大阪・ABCホールで公演が開催される。第2弾には、兵動、吉弥らはもちろんのこと、吉本新喜劇の佐藤太一郎の出演も決定。幸福荘の個性的な面々が、佐藤とどのように絡むのか楽しみだ。

取材・文=田辺ユウキ 撮影=田浦ボン

当記事はSPICEの提供記事です。

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