叶わぬ恋に涙!小林明子「恋におちて~Fall in love~」意味

UtaTen

2019/7/14 15:01

80年代の伝説的ドラマ「金曜日の妻たちへ」



「金妻(きんつま)」の略称で知られるドラマ「金曜日の妻たちへ」は、1983年から1985年にかけて、合計3シリーズが放映された、昭和の人気ドラマです。



小林明子が歌う『恋におちて~Fall in love~』は、1985年(昭和60年)の第3シリーズ「金曜日の妻たちへIII 恋におちて」の主題歌でした。

新興住宅地に住む「核家族」という、当時の「今どき」の家族の姿を描いた「金曜日の妻たちへ」。

おしゃれな舞台設定もさることながら、このドラマで何より視聴者を釘付けにした点は、許されない恋、今で言う「不倫」を扱ったストーリーでした。

それまで世間でタブー視されていた不倫は、このドラマによって「大人の恋」という新たなイメージを得て、主婦のハートをワシ掴みにします。特に、第3シリーズは女性の社会進出と時を同じくしたこともあり、シリーズ最高視聴率を獲得。

テーマ曲の『恋におちて~Fall in love~』も、大ヒットを記録しました。

電話が表す昭和の恋愛事情



「金妻」で描かれた昭和の恋。

スマホもSNSも存在しない時代に、恋人たちは一体どうやって連絡を取り合っていたのか、スマホネイティブ世代には気になるところですよね。

「金妻」が放映された1980年代の恋人たちのコミニュケーションツールは、ズバリ電話でした。



今では「家電」と呼ばれる固定電話と、今や絶滅危惧種である公衆電話です。

とは言え、1980年代前半までは、電話は基本的に一家に一台。と言うことは、好きな人に電話をかけてもその人が確実に出てくれると言う保証はありません。

電話をかける時には、“誰が出るかわからない”という緊張感が常に伴いました。

一方、電話を受ける側も、好きな人からの電話に自分が出られる訳ではありません。両親ならまだしも、弟や妹が出ようものなら、家族全員の前で、“姉ちゃん、男から”と言ってからかわれるのがお決まりのパターンでした。

そういう事態を避けるため、当時の恋人たちは“今日、夜の7時に電話するから、絶対出てね”とか、“1回コールして切ったら私からだからかけなおして”と言う涙ぐましい約束を交わしていたのです。

また、家電での会話はどんなに小声で話しても周囲の家族にまる聞こえ。とても長電話などできません。少しでも長く話したいがゆえ、冬の寒さや夏の暑さも辛抱して電話ボックスで長話。しかし、それも十円玉の枚数×3分間という限られた時間でした。

電話一本かけるのにも一苦労だった昭和の恋人たち。

今から考えれば“なんて不自由な時代だ”と思われるかもしれませんが、その代わり、既読スルーや着信拒否などで心が病むこともありませんでした。

昭和の恋愛は、不自由だけれどある意味、健全でもあったのです。

たった一行に集約された恋の絶望感



携帯電話もSNSもなかった昭和の恋人たちには、今の恋人たちより1人で考える時間がありました。それが普通の恋愛ではなく、人に言えない不倫となると、なおさら多かったはずです。

『恋におちて~Fall in love~』は、そんな人に言えない恋におちた女性が、恋人と会えない有り余る時間に、恋の行方を想う姿を描いた曲です。

「吐息」は「溜息」のことで、逢えない時間にあなたを想って吐いた溜息で、部屋中を飾れるほど逢えない時間が長いこと、また、そんな空想しかできないくらい、今の恋に行き詰まっている女性の現状を現しています。

そして「もしも願いが叶うなら」の「もしも」という表現が、この女性の願いが叶わない夢であることを意味しています。

この歌詞は、この女性の恋に、既に未来がないことを前提に描かれているのです。

(和訳)

毎晩あなたの事を考える
そして、気がつくの
あなたの心に私の居場所がない事に

----------------

この曲は、歌詞のほぼ半分を英語歌詞が占めることで、ドラマの雰囲気にマッチしたスタイリッシュな曲になっています。また「金曜日の妻たちへ」の前2作が、主題歌に洋楽を使用していたため、そのイメージを崩さないよう英語歌詞を多用したとも考えられます。

とても詩的で美しい日本語歌詞の流れに乗って、続く英語歌詞も同じような気持ちで聴いてしまいますが、よく聴けば、日本語歌詞とは真逆の胸が痛むようなストレートな表現に驚かされます。

この曲の前半部分では、恋人と会えない女性の気持ちが歌われていますが、それがどんな恋なのか、はっきりとは描かれていません。しかし、普通の恋人たちがデートする「土曜の夜と日曜」、いわゆる週末に、あなたに会いたいと口に出せない恋、となると、それは妻子ある男性との恋に他なりません。



ここで初めて、リスナーはハッと気づかされるのです。これは「不倫」の曲なのだと。

1980年代前半、電話はまだダイヤル式電話でした。

ダイヤル式電話とは、丸いダイヤルにつけられた0から9までの番号を回して電話をかけるタイプのものです。そのため、番号を一つ回せば、ダイヤルが元に戻るまで次の番号は回せません。そのたった数秒間に、人々の心には様々な想いが去来しました。

ちなみに、緊急電話が「110番」に設定された理由には、緊急時に慌てて「11」と回した後、ダイヤルを回す時間が最も長い「0」を回すことで、その間に電話をかけた人の心を落ち着かせるためもあったと言われています。

この曲に描かれた女性は、恋人に会いたくてついダイヤルを回してしまいますが、ダイヤルが戻る間に冷静さを取り戻し、“この恋に未来はない”という現実を再確認して手を止めます。

叶わぬ恋におちた女性の絶望が、この動作一つで、日々ダイヤルを回していた昭和の女性たちには痛いほど伝わったのです。

この女性の恋のお相手が既婚男性であることはわかりますが、女性がどんな女性かは描かれていません。

男性の会社での部下かもしれないし、学校の生徒かもしれない。もしかすると、女性の方も家庭のある主婦かもしれない。

恋とは、ある日、予告なしに突然おちてしまうものです。そして恋におちればどんな女性もただの女。

今この瞬間にも、スマホのアドレスをタップしようか、LINEを送信しようか、思い悩んでいる女性はたくさんいるはずです。

どれだけ技術が進歩しても、結局、恋とは思い通りにいかないもの。

ダイヤル式電話を知らなくても、恋する女性はこの曲に共感せずにはいられません。

スマホを駆使する現代女性たちも「just a woman」なのだから。

TEXT 岡倉綾子

当記事はUtaTenの提供記事です。

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