驚愕の「トルクメニスタン200ドル激安ツアー」 謎に満ちた2泊3日弾丸ツアーの全貌(前編)

Traicy

2019/7/13 14:05

トルクメニスタン航空(ボーイング777-200LR型機)羽田空港に駐機中のトルクメニスタン航空のボーイング777-200LR型機(写真:編集部)

6月9日夜、トライシーに掲載された記事は衝撃的だった。

トルクメニスタン航空、東京/羽田~アシガバート線で6月にチャーター便 東京発往復200米ドル

https://www.traicy.com/20190609-T5charter中央アジアまで200ドルというありえない価格設定「中央アジアの北朝鮮」との異名をとる独裁国、トルクメニスタン。日本からは経由便で片道24時間以上かかる上、航空券代も底値で11万円はくだらない。パッケージツアーにいたっては、ウズベキスタンとセットで9日間22万5,000円から、である(トラベルコで検索した結果)。

それがこの破格である。さらに直行便だから片道8~9時間で行ける。しかもわずか2泊3日の弾丸旅行なので、休みがとれない人間にはむしろ都合がよい。

詳細も分からないままにFacebookで行く人を募ると、瞬く間に参加希望者が9人集まった。みなトルクメニスタンが好きなのか、それとも200ドルであれば行くのか…笑

大使館員に電話をかけてフライトスケジュールを知る

駐日トルクメニスタン大使館今回のトルクメニスタン行きは異例尽くめであった。まずはスケジュールだ。駐日トルクメニスタン大使館のホームページには今回の200ドルのツアーの告知があるが、日付以外何の情報もない。知人がトルクメニスタン大使館に電話で問い合わせたところ、羽田空港に発着することと、おおまかな時刻が分かった。大使館員は参加希望者全員にいちいち電話で答えているのだろうか?

トルクメニスタンの観光ビザ発給には、北朝鮮やブータンと同様、現地でのホテル・車・ガイドの手配が条件となる。航空券が200ドルでもこれが高ければ意味がない。ネット上では1人1,000ドルといった情報もあったが、現地の旅行会社にメールで問い合わせたところ、6人集まれば1人340ドルだということが判明した。この中には、ホテル・車・ガイド・全食事が含まれている。しかも、アシガバードから陸路で片道5時間かかるダルヴァザの「地獄の門」への足を伸ばすという。

トルクメニスタンは「変な国」なのか?

もともと降って湧いたような話なので、トルクメニスタンについては特別の知識はなかった。思いつくことは、世界有数の天然ガスの産油国であること、ニヤゾフ大統領(1990~2006年)の独裁的な政治や個人崇拝くらいだった。

この国について調べてみるとネット上には次のような項目が並んでいた。

・インターネットは禁止

・大規模な病院は首都のアシガバード以外廃止

・首都アシガバード以外の図書館は廃止(大学の図書館は例外)

・電気・ガス・水道がすべて無料

・メロンの日という祝日がある(ニヤゾフ大統領の好物だから)

だが、これらはみなニヤゾフ大統領のころに定められたもの。現在のベルディムハメドフ大統領になってからは穏健化し、上の中でいまでも実施されているのはメロンの日のみ。ただし、インターネットは解禁されても、SNSは禁止(mixiはつながった)であるし、2019年から有料となった電気・ガス・水道もごく少額で利用できるらしい。

旧ソ連の一角をなしていたトルクメニスタンは当然のことながら、ロシアとの結びつきが強い。ロシア語は比較的よく通じるし、天然ガスもロシアのガスプロム社を通じて、そのほとんどがロシアに輸出されていた。だが、両国の金額などの条件が折り合わず、2016年から2019年4月にかけて、ロシアへのガス輸出がストップしてしまう。その間に、トルクメニスタンは中国にむけて天然ガスを輸出するようになった。

内陸国であるトルクメニスタンが天然ガスを輸出するには、パイプラインを使って周辺国へ輸出するしかない。トルクメニスタンは1996年に国連総会で永世中立国であることが承認されているが、地理的なパワーバランスの観点からも、特定の国のみと深く結びついたり、敵対関係を生み出したりすることは得策でないのだろう。

なぜ200ドルのチャーター便が実現したのか?

そのトルクメニスタンのベルディムハメドフ大統領は親日家らしい。アシガバード郊外で世界初の天然ガスをガソリンにする大型プラントが川崎重工の主導で進められてきた。その完成式典が6月28日に行われる。プラントの総額は1,500億円という大型プロジェクトであるが、こうしたプロジェクトも大統領の鶴の一声で決まる。今回のトルクメニスタンのチャーターフライトは、

(1)トルクメニスタンから日本へ政府要人や旅行会社関係者を送り、東京プリンスホテルでトルクメニスタン旅行のプロモーションを行うとともに、ツアー客を日本に送る。

(2)このフライトの利用者が東京に滞在している間に日本からトルクメニスタンを往復し、式典に参加する政治家や企業関係者、メディア関係者を運ぶ。

というのが主目的だったようだ。(2)の人数は100名強で、チャーターに使用するボーイング777-200LRでは、かなり席数が余る。そこで

(3)格安料金でツアーをつのり、トルクメニスタンへ観光客を送り込み、同国の観光振興に結びつける

といった事情があったようだ。このツアーが企画されたのは、確認できる範囲では、トライシーに掲載される1週間ほど前で、トライシー掲載後に急激に参加者が増え、最終的には80人以上の旅行者が集まった。200ドルというのはもちろん採算度外視だが、このツーリストがいようがいまいが、飛行機は飛ばすわけだから、そもそも損はしないという見方もできるわけだ。

日曜も休日返上で働く大使館員

結局、申し込み手続きが完了したのは出発2週間前だった。当初は大使館と現地の旅行会社の両方に連絡していたが、大使館員いわく「これからはすべてこちらで管理する」との一言で一本化される。ビザ業務だけでなく、航空券の手配も大使館で行うのだから前代未聞である。しかもこれらのやりとりの多くは電話である。書類に不備があって、日曜の午後、大使館員から携帯電話に電話が入った。大使館員が日曜にも働いているのか。

ちなみに大使館からの連絡は日本語ができる男性1人がすべてを受け持っているらしい。電話をかけるたびに疲れた声になっていったので心配になるがどうすることもできない。

全員の生年月日やパスポート番号がダダ漏れのインビテーション

出発4日前にメールでインビテーションが届いた。このメールにまたもや驚かされた。

我々は9名で申し込みをしていたのだが、添付されたPDFには、旅行会社に登録された44名分のフルネームのほかに誕生日とパスポート番号が記入されていたのだ…。日本の感覚では個人情報の観点からありえないのだが、送られてしまったものは仕方がない。また、大使館員は旅行会社のようなプロではなく、一人で背負い休日返上で働いていることも知っているので責める気も失せてしまう。

そして、当日は朝6時30分に集合という連絡がメールで来た。10時出発のフライトなのになぜ3時間30分前なのか。もっと遅くできないだろうかと思い大使館に電話する。とにかく何か分からないことがある度に大使館に電話をするしかない。すると、大使館員の男性の声は例の疲れた声で「そのほうが安心だと思うからです」。いや、安心かもしれないが、こちとらそんなに早く空港に行っても…と思い、「では8時過ぎくらいに行きます」と答えると、次に大使館員から参加者全員に来たメールの文面にこうあった。「時間があるからといって220名も同時に8時過ぎから来ますと、チェックインに間に合わない可能性があります。」

全席自由席のトルクメニスタン航空

その脅し?を真に受けるほどウブではないので当日8時過ぎに行くと、羽田空港国際線ターミナル1階にあるSカウンター(チャーター便や訓練などで利用するらしい)はガラガラだった。そこでまた衝撃を受ける。”座席はすべて自由席”であるという。

いつもなら最後に搭乗しているのだが、自由席ともなればそうもいかない。出発1時間前にはSKY LOUNGE ANNEXを出て136番ゲートに向かった。空港の電光掲示板にトルクメニスタン航空の表示はない。ゲートの地上職員に確認すると「手書きのボードみたいなものならご用意はできるのですが…」とのことだ。まるでシークレットフライトである。

ゲートからバスで移動すると、沖止めのトルクメニスタン航空のボーイング777-200LRが姿を現した。LRはロングレンジの略。最大航続距離は15,843キロと超長距離を飛べるタイプなのだが、世界中で60機程度しか存在していない。そのうちの3機がトルクメニスタン航空の所有で、6月のパリエアショーでもう1機購入することが明らかとなった。

トルクメニスタン航空、ボーイング777-200LR型機を1機発注

https://www.traicy.com/20190625-T5772この機材、現在は北京線やイスタンブール線に投入されているが、航続距離の観点からは宝の持ち腐れという気がしなくもない。将来、超長距離線の運航を視野に入れているのだろうか。

JALの新・間隔エコノミーよりもゆとりのある機内

「ピシメ」という揚げ物を出して歓待するトルクメニスタン航空の客室乗務員(写真:橋賀秀紀)

タラップを上がると三角形の小さな揚げ物を載せたお盆を持った客室乗務員が待ち構えていた。揚げ物はトルクメニスタンで人を歓待するときに出すピシメとよばれるものらしい。この後、あらゆる局面でピシメに遭遇することになる。

ブルーを基調としたシートは落ち着いた雰囲気であり、ビジネスクラスは2-3-2の配列で4列の計28席。エコノミークラスは3-3-3の配列で計261席。合計289席だった。乗客は計218名なので、搭乗率は約75%だったことになる。

トルクメニスタン航空のエコノミークラスはシートピッチにゆとりがあった。全席にパーソナルモニターが付いているが映画プログラムはなかった。(写真:橋賀秀紀)

エコノミークラスのシートピッチは不明だが、シートピッチにゆとりがあることで知られる、日本航空(JAL)のボーイング777-300ER(W63/W64)でも2番目のドア以降に配置されるエコノミークラスが286席あることを考慮すると、かなりゆったりとしているといえる。

全席にパーソナルモニターと電源が備わっていた。若干の音楽プログラム、「トムアンドジェリー」などのショートプログラム、ゲーム、3Dマップは利用できたが、映画はプログラムがなかった。また、ヘッドフォンは配布されなかった(復路は配布があった)が、全席にポーチ入りのアメニティグッズは配布された。

エコノミークラスでもポーチ入りのアメニティグッズが提供された。(写真:橋賀秀紀)

そして、全席のポケットに日本語の機内食メニューが入っている。手作り感満載ではあるが、このわずか1便のためにメニューを作ったのだから敬意を表さなければならないだろう。

テーブルクロスが敷かれるのにコーラは常温

機内食の日本語メニューがあった。(写真:橋賀秀紀)

離陸から1時間強で機内食の準備が始まった。各席に白いテーブルクロスが敷かれる。エコノミークラスでテーブルクロスを出すエアラインは過去あっただろうか…。トレイに載せられた機内食に続き、リンゴを丸ごと手渡しで渡される。そして、ドリンクの注文が来た。

イスラム教が中心を占める国家であるトルクメニスタンではあるが、ワインも生産しており、アルコールを飲むことも一応認められている。だが、機内食でアルコールは提供されなかった。仕方がないのでコーラを頼むと缶をそのまま渡してきた。常温では飲めないので氷をくださいと頼むと、客室乗務員が何やらほかのスタッフに確認に出かけた。

そして戻ってきて一言、「氷はありません」。確認したということはビジネスクラスでは氷を提供していたのだろうか。コーラを常温で出されたのは1990年代前半のベトナム航空以来である。ともかく氷なしでコーラは飲めないのでりんごジュースにした。ちなみに機内食は飲み物も含めて日本で積まれたものなので、特別に変わった味はしなかった。

機内には大統領の写真が

トルクメニスタン航空の機内にはベルディムハメドフ大統領の写真が飾られている。(写真:橋賀秀紀)

機内はいたって普通と書いたが、ビジネスクラス・エコノミークラスともにキャビン最前方のパーティションにベルディムハメドフ大統領の写真が飾られている。また、最後部の座席では、客室乗務員が客席に座り、食事をとっていた(後にクルーレストのカーテンが敷かれたが)。

キルギス上空では氷河によって削られたU字谷が望めた。(写真:橋賀秀紀)

機内食後、疲れから眠りに落ち、目が覚めると機体は天山山脈上空を飛んでいた。キルギスの山々の氷河地形が美しい。山々が穏やかになり、次第に平らな乾燥地形となり、定刻より30分程度早く、トルクメニスタンの首都、アシガバード国際空港に着陸した。

最近は世界中の平準化がすすみ、南米やアフリカにいっても、物事はスムーズに進むことが多くなった。そして、多くの出来事はどこかで既視感があり、驚くべきことも少なくなった気がする。だが、このトルクメニスタン行きは国に到着するまで、過去経験がないことばかりが続く。果たして入国後、どんなことが待っているのだろうか。期待しないわけにはいかなかった。(続く)

当記事はTraicyの提供記事です。

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