純烈のリーダーから見た騒動の裏側「白と黒とハッピー~純烈物語」<第1回>

日刊SPA!

2019/7/13 08:50

 ‘18年大晦日に「紅白歌合戦」出場を果たし「紅白に出て、親孝行」という念願が成就。この世の春を謳歌していた、ムード歌謡グループ・純烈。しかしそのわずか9日後に発覚したメンバーの不祥事で事態は暗転、グループ存続の危機に立たされた。

純烈を結成、リーダーそしてプロデューサーとして苦労の日々を重ねてきた酒井一圭は、元々子役として芸能界にデビューし、戦隊ヒーロードラマなどで名を刻んだものの、その後鳴かず飛ばずとなった過去を持つ。後にプロレスと出会い、実際にリングに上がることで、その表現方法を純烈に昇華させている。その類まれな“人間力”はどこから生まれたものなのか。酒井本人やメンバーの現在と過去を行き来しながら、純烈の裏側を紐解くノンフィクション新連載―――酒井とともに「マッスル」に浸かってきたプロレスライター・鈴木健.txtが緻密な筆致で迫る。

◆白と黒とハッピー~純烈物語【第1回】

“場外乱闘”がおりなすファンとの距離感

緊張と緩和による色気と触れ合える関係

日本列島が令和初の猛暑日となった5月25日、ゆりかもめのテレコムセンター駅から「東京お台場 大江戸温泉物語」まで4分ほど歩いただけで汗がにじんできた。入り口を通るとひんやりし爽快な気分となったが、すぐに息を潜めるようにして列を作る集団が目に入った。みな、受付の前でお行儀よくしている。

この日は14時と19時の二部構成で、館内大広間の中村座にて純烈の「温泉ライブinお台場」がおこなわれる。座席指定の前売券は完売していたが、立見は観覧無料とあり整理券を求めて朝から足を運んだ熱心なファンだった。その数50人ほど。

純烈にとってこの日の“大江戸決戦”は同所における10回目のライブ。そして、夢の紅白歌合戦出場を果たした9日後に当時メンバーだった友井雄亮の女性に対する不祥事が報じられ、天国から地獄へ落ちたあとに初めてファンの前へ立った場所でもあった。

あの日――それまで当たり前のように5人いた風景が、4人に変わった。ステージへ出た瞬間の物言わぬ空気の動きを、リーダーの酒井一圭(44歳)は生涯忘れられないという。いつもなら天国へあるお花畑のように笑顔が咲いている客席は、こみあげては抑えきれぬ涙で濡れていた。

目の前の情景だけではない。畳の大広間に並べられた背もたれつきのイスはいつもなら満席なのに、ポツポツと空いていた。この日は通販番組の収録イベントで、ファンクラブ抽選で当選した者のみが観覧できた。

足を運べばつらい現実を目の当たりにしなければなるまい。でも、せっかく当選したのにいかなかったら落選したほかのファンに悪い気がするし、何よりも純烈の力になれない。「だから、あの日の空席はつらさに耐えられなかったファンの人たちなんですよね」と、いつもはうひゃうひゃと話す酒井が唇を噛み締めながら下を見つめる。

5人から4人になった純烈を受け入れる覚悟で身を置きながら、友井のいない風景をいざ目にすると涙が止まらなかった。座るべき人がいない空席も泣いていた。でも、通販番組だから「ここで拍手してください」とスタッフに指示されたら盛り上げる必要がある。「こんなことを俺たちが言うのは本当におかしいんだけれど、笑ってリアクションをとってほしい」と願った酒井の前で、純烈を応援する人たちがそれぞれ自分と闘い、そして頑張っていた。

楽しんでもらうためのファンに対し、頑張らせてしまった俺ら……酒井は心の中で誓った。「この人たちのために、純烈は絶対にギブアップできない」――。

「昨日は長野にいて、しかも家まで取りにいかなきゃいけないものがあったからいったん自宅に戻って朝ここへ到着したんです。今日も出たり入ったりで……詰め込みすぎだろってなるんですけど、時間的にやりくりできるなら入れてくれって事務所にも言ってあるから」

前日、公式ブログを通じライブ終了後におこなわれる対象CD&DVD購入者特典撮影会に関し、酒井が不参加になることが告知された。リンクを張ったツィッターには続々とリプライがつき「お仕事の関係であればよいのですが……体調不良ではないかと心配です」といった声が並んだ。

◆純烈名物「ラウンド」はプロレスがモチーフ

じつはこの日、酒井は第1部が終了するやフジテレビへ移動し、リハーサルなしのぶっつけ本番で喋りの仕事をこなしてから大江戸温泉物語にUターン。そして第2部が終わったあともまた別の出演へと向かうスケジュールだった。さすがにこういうことは純烈結成以来、初めてだったという。

ムード歌謡グループ・純烈としてだけではなく、酒井にはそのトークスキルが買われた仕事も殺到する。「あとは頼んだから」とリーダーがタクシーに飛び乗った頃には、残ったメンバーの小田井涼平(48歳)、白川裕二郎(42歳)、後上翔太(33歳)がステージ上で撮影に応じていた。450人のオーディエンスのほとんどが列をなし、3人の中へ溶け込んでいく。メンバーはなんらかの形で、ファンの体を直接的に触れるようにしている。

肩を組む時もあれば、握手をしながらシャッターを押してもらう人もいる。撮影が終わったあともプレゼントを手渡したり、しばしの会話を楽しんだり……それらを一つひとつ流すことなく平等に心をこめてこなしていく。

この日のような健康センターでのライブとなると、最前列はステージと目と鼻の先。そして純烈には名物の「ラウンド」がある。一本のライブにおいて、必ず歌いながら客席を練り歩くようにしているのだ。酒井によるとこれはプロレスの場外乱闘がモチーフらしい。

「初期の頃から欠かさずやっています。場外戦って、投げた方よりも自分に近づいてきた投げられた選手の方が印象に残るじゃないですか。ずっとプロレスを見てきたんでこれだ!と思いましたよね。無名だった頃の僕らは、健康センターに来ていてたまたま見るようなお爺ちゃん、お婆ちゃんに憶えてもらわなければならなかった。それはただ唄を歌っているだけじゃダメなんです。

それで僕らの特色を考えたら、背だけでなく手も大きい。直接触れ合って、握手することで『大きな手をしているなあ』と印象に残る。だからラウンドは純烈にとって三種の神器ですよ。トーク、ラウンド、唄……いや、順番的にはラウンド、トーク、唄かもしれない」

ライブの中盤、4人はステージを降りると畳の上を黒い靴下でゆっくりと歩き始めた。待ってました!とばかりにオーディエンスの顔が笑顔に包まれる。娘と一緒に来たお母さん、年甲斐なくちょっとだけ色気づいた五十代のおばちゃん(酒井の言い回しにならう)、杖をつきながら座るお婆ちゃん、十代の若いお姉ちゃん、そして男性客も……まさに老若男女まんべんなく、たった一つの表情で一体化していた。

ファンにとっては、あこがれのメンバーが自分のところまでやってきてくれるのだから、ここぞとばかりに思いのたけを伝えようとする。つまり、会話を投げかけられる。ただ、言うまでもなくメンバーは絶賛歌唱中。つられてしまい、歌詞を間違えることはないのだろうか。

「最初は、目が合っただけで歌詞が飛びました。ましてや喜んでくれているのが嬉しくて、そっちに気がいって飛んじゃうんです。だから、お客さんとお客さんの間を見るようにしましたね。今は慣れたんで、ちゃんと歌詞と歌詞の間に会話ができるんですよ」

この日は3曲分ラウンドで回ったのだが、確かにマイクを通じてファンとの会話が聞こえるところは一切なかった。でも、よく見ると自分のパートではないところでちゃんとコミュニケーションを図り、しかもその内容でしっかりと一人ひとりを笑わせている。

小田井にいたっては、汗拭き用に差し出されたタオルを景気よくポーンと放り投げる。それを他の客が拾って持ち主に手渡すことで、ファン同士にも一体感が生じる。

客席を練り歩くうちに、手渡しの紙袋がどんどん増えていった。それを持ちながら歌い続ける光景は、ステージのみでパフォーマンスをやっていたらあり得ない。もう持ちきれないとなったところで、194cmの長身を誇るマネジャーの山本浩光がグーグル猫のように腰を低くして背後から近づいて受け取る。

もちろんメンバーは指定席だけでなく後方の立見スペースまでいった。観客も立ち上がって殺到するようなことはせず、自分のところへ来てくれるまで待っている。その間のドキドキ感がたまらないのだろう。

健康センターということで、浴衣姿で観覧するオーディエンスもたくさんいる。最前列ド真ん中にあぐらをかいて陣取る青年を見つけた小田井は「男のパンツなんか見たくねえから早くしまえよ!」といじり、ドッと沸かせる。聞けば常連ファンとして知られる存在とのこと。だからメンバーもネタにしやすい。

「よくいじってくれるんで、自分としては嬉しいですし、みんなも楽しんでくれていることで僕も楽しい。純烈を見始めたのは去年の4月、友達に連れてこられてだったんですけど、最初は撮影会に参加するのが楽しかった。でも、曲も耳馴染みがよくてあとから好きになりました。ムード歌謡って日本人だなあっていう感じがするじゃないですか。あとは、身近で触れ合えるのがいい。1列目を押さえられたのは友達が頑張って、famiポートの前でスタンバって発売が始まった瞬間に取るというやり方で協力してくれました」

25歳というその青年に純烈の魅力は? と聞くと「色気」と答えた。女性アイドルやロックバンドを追いかけた時期もあったが、その過程を経てたどり着いたのがムード歌謡グループだった。

歌詞の世界観から伝わる色気。そして男が見てカッコいいと思えるビジュアルとたたずまい。自分がいじられることでライブが盛り上がるのであれば、いくらでも股を開いてパンツを見せると言わんばかりに彼は笑った。

この日、何人かのファンに聞いて回ったところ、男女問わず総じて「色気」の二文字を口にしていた。飾ることなくぶっちゃけまくるMCと、しっとりと人の心を歌いあげる唄は落語でいうところの“緊張と緩和”のようなものであり、エンターテインメントにおいて心を揺さぶる基本フォーマットである。

本来は緊張を満たしたあとに緩和が来ることで笑いが生じるわけだが、逆も真なりでくだけた人が一転し真摯になると、グッと来てしまう。純烈という“作品”は、それが絶妙なのだ。そんな色気に導かれたファンに対し、酒井はなんの前触れもなくけっこう重要な告知をサラッと口にした。

「本日より純烈のファンの皆さんをこう呼びたいと思います。女性は『純子』、男性は『烈男』です!」

次の瞬間、客席の一角から控えめながらも「キャーッ!」という悲鳴があがった。

(つづく)※この連載は毎週土曜日に更新予定です

撮影/ヤナガワゴーッ!

【鈴木健.txt】

(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxt facebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

あなたにおすすめ

ランキング

もっとよむ

注目ニュース

もっとよむ

あなたにおすすめ