中村勘九郎「匂いを感じられる深い歌舞伎を」 勘九郎・七之助兄弟の『錦秋特別公演2019』取材会レポート 

SPICE

2019/7/12 19:00



2019年10月8日(火)の埼玉・川口総合文化センターを皮切りに全国14か所で、中村勘九郎と七之助による歌舞伎公演『錦秋特別公演2019』が開催される。今年は茨城県、栃木県、三重県を巡り、47都道府県すべてを巡ることになる。季節にあわせて「春暁」「新緑」などタイトルを変えながら、2005年より毎年行われ15年目。中村勘九郎が、都内で行われた取材会で意気込みを語った。

1人でも多くの方に歌舞伎を見てほしい


かつては父・勘三郎とともに「親子会」として全国を巡っていた。勘九郎・七之助兄弟を中心とした巡業公演がはじまったのは2005年のこと。

「15年がたちました。それまでは父とともに満杯のお客様の前で舞台に立っていましたから、始めたころは七之助も私も20代前半。七之助とたった2人で全国の皆さまの元に伺い、本当にお客様が入ってくれるのだろうかととても不安でした。それから15年、毎年呼んでいただけていることが、その結果であり成果ではないでしょうか。いまでは毎年楽しみにしている公演です」

中村勘九郎
中村勘九郎

全国巡業への思いとして、浅草公会堂の浅草歌舞伎に出ていたころの、中村獅童とのエピソードを振り返る。

「若いファンの子が獅童さんにあてた手紙に『芝居が観たい。でも自分が住んでいるところからだと電車賃もかかる。昼夜公演をみるなら宿泊費もいる。私のバイト代ではみたいけれどいけない』とあったんです。それを見て『こんなにうれしいことはない。全国に1人でも観たいと言ってくれる人がいるなら』と。最初の2年は獅童さんも一緒に回ってくれました」

その後、兄弟2人を中心に全国を巡るようになるが、2人だけではできる演目も限られる。そこを支え、盛り上げてきたのが中村屋一門の役者たちだった。

「父のことが大好きで、父を慕い中村屋にきてくれた面々が年々力をつけ、私たちの戦力となってくださっています。今年『紅翫(べにかん)』という常磐津舞踊の大曲を踊れるようになったことが、それを物語っているように思います」「何度も伺った土地でも新しい土地でも、歌舞伎をまだ観たことがない方は多くいらっしゃいます。1人でも多くの方に歌舞伎を見てほしい。この思いは一生持ち続けることと思いますので、全国巡業がいいきっかけになるよう一生懸命つとめたいです」

舞台と客席の壁を取っ払う


つづいて各演目について、質疑応答のコメントとともに紹介する。
『錦秋特別公演2019』演目
一、芸談
二、艶紅曙接拙 紅翫
三、三ツ面子守
四、松廻羽衣

大都市で頻繁に歌舞伎が上演される劇場と比べ、全国巡業の客席には、はじめて歌舞伎をご覧になる方の割合が多いという。そこで本公演では、はじめに『芸談』と題したトークショーが行われる。

「一発目から踊りをおどったり、いきなり非現実的な世界をおみせするのも良いのですが、まずは『芸談』で素顔のまま皆さまの前に出て、歌舞伎のこと、プライベートのことなどお話しします。そうすることで舞台と客席の壁をとっぱらえる感じがします」

過去には歌舞伎塾というタイトルで、歌舞伎の演出の紹介や拵えの実演をしたこともあるというが、いまは質問コーナーなど、客席との交流も含めたアイスブレイクの時間となる。

常磐津の大曲を華やかに


『艶紅曙接拙(いろもみじつきぎのふつつか。通称:紅勘。べにかん)』は、前出のとおり常磐津の大曲。次々に登場する出演者にそれぞれの見せ場がある、賑やかな演目だ。中村流の演出となる今回は『紅翫』の表記が使われる。

「うちは中村屋ですが、母方は成駒屋。成駒屋にとって大事な踊りです。いてう(いちょう)が小間物屋の紅翫をおどり、皆で朝顔売りなど江戸の風物詩を踊ります」

つづく演目が『三ツ面子守』。赤ん坊を背負った娘が、ぐずる子をあやすために、お面をつけかえて踊ってみせるという設定で踊られる。

「こちらも常磐津の大曲中の大曲です。子守の踊りはたくさんありますが、3つのお面をつけ、子守として踊り分けないといけません。とても技術のいる踊りです」

出演は中村鶴松。勘九郎は、「鶴松も20代後半になって……」と切り出すも、「あれ? 後半じゃないか?」と首をかしげる。そして「24か。24なんだ! 野田秀樹さんの『鼠小僧』少年さん太役で、うちの父親を蹴っていた子どもが、いまではもう憎らしくなってね」と笑いにかえ、「彼も昨今、真面目に修行をしています。『三ツ面子守』は大変むずかしい作品ですが稽古を重ねて踊ってくれると思います」と鶴松の背中をおすようにエールを送った。

中村勘九郎
中村勘九郎

七之助とがっつり組むのは1年半ぶり


最後の演目が『松廻羽衣(まつのはごろも)』。天女を七之助が、漁師の伯竜を勘九郎が勤める。

「お能の『羽衣』を題材とした格式高い踊りです。天女と、天女の羽衣を拾った漁師のストーリーですが、このところ大河ドラマをつとめておりましたので、七之助とがっつり一緒に踊るのは1年半ぶりくらいでしょうか」

『松廻羽衣』も常磐津による上演となる。「最近は長唄舞踊が多かったのですが、今回は常磐津舞踊です。歌舞伎は、舞踊でもジャンルの広さが武器なので、全国の皆さまにも色々な踊りがあることを知っていただきたい」とコンセプトを明かした。

オペラ、ミュージカルをみるように


そして常磐津の魅力を次のように語った。

「常磐津では、登場人物の心情やセリフが語られます。それはオペラやミュージカルをみる感覚に近いかもしれません。台詞劇だけ、舞踊だけとなると分かりにくいこともあるのでしょうが、混ざることによって、お客様の心にすんなりと届くのではないでしょうか」「大劇場では、なかなかかからない演目です。ゆったりとした踊りをお客さんにどう見せられるかは、こちらの手腕にかかっています。その意味でチャレンジです。30代も半ばを過ぎましたので、世界観、匂いを感じてもらえるような深い作品を、しっかりと見せられるようになれたらと思います」

『いだてん』金栗四三と勘九郎のギャップ


本公演は、ほぼ日替わりで14都市を駆け抜ける。

「公演が終わったらすぐに移動です。皆で一生懸命体調管理をしながら全国の皆さまにいいものをお届したい」としつつ、楽しみは「夜に営業しているお店を探すこと。七之助はだいたいラーメンになる。それに付き合っているとぶくぶく太ってしまうから……」と苦笑いをしてみせた。

NHK大河ドラマ『いだてん』で、主人公の金栗四三役をつとめている勘九郎。撮影中は、食事制限とトレーニングで体を絞り込んでいた。それに加え、巡業のハードスケジュール。記者から体力面を心配する声があがると、覇気に満ちた笑顔で「最近は大丈夫です!(金栗氏は)現役を引退しましたので!」と、ドラマの進捗にからめて笑いを誘った。

「金栗さんは現役を引退しても死ぬまで走る方なので、ドラマでもまだまだ走ります。しかし指導者側になりましたので、選手役の方と並んだ時にレジェンド感が出せるよう、ここからはよく食べて、あつみを出せるようにしています」

『いだてん』ファンの方の中には、勘九郎が歌舞伎役者だと知らずに観てくれた方もいるという。『いだてん』をきっかけに初めて歌舞伎を見てみようと思われた方もいるだろう。

「真っ黒になって走っていた金栗さんが、歌舞伎では白塗りで出てくることになります。『羽衣』の漁師役では、『羽衣を返して』と言う美しい天女に、『踊ってくれなくちゃ返さない』という、ちょっとサディスティックな一面もある。金栗さんとギャップがあるので、しっかりついてきてほしいです」
熊本公演の際は、金栗四三のお墓まいりや金栗氏の娘さんへの挨拶も考えているという。
熊本公演の際は、金栗四三のお墓まいりや金栗氏の娘さんへの挨拶も考えているという。

あえて選ぶ渋めの演目と、その可能性


地方公演の時にあえて意識していることを聞かれ、勘九郎は次のように答えた。

「何事も最初はとても大事ですよね。地方公演では客席の6、7割の方が、初めて歌舞伎をご覧になるといいます。(歌舞伎の魅力に)引き込めるかどうかの緊張感は常にあります。でも、だからわかりやすく簡単に、とはしないように意識しています」「渋い演目も選びます。歌舞伎には、エンターテインメントに長けたものだけでなく、何をやっているか分からないけれど感動してしまうというものもたくさんあるからです。分かりやすいものだけにせず、その可能性を観ていただきたいという思いで、そこはいつも通りに演じます」

中村勘九郎
中村勘九郎

全国巡業の歌舞伎公演も15年という節目。取材会は次の言葉で締めくくられた。

「私にも中村屋にも大事な公演です。いまの時代、家から一歩も出ずになんでもできます。そんな中、チケットを買い、足を運んでくださる方一人ひとりに届く舞台をしたいです。初めての方ならば『歌舞伎なんて分かるかな?』という先入観があっていいんです。それを『観て良かった』と思わせるのは歌舞伎役者の責任です。後悔させない舞台にしたいと思います」

『中村勘九郎 中村七之助 錦秋特別公演2019』は、10月8日(火)より埼玉・川口総合文化センターを含む全国14の会場で上演される。

当記事はSPICEの提供記事です。

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