インド仏教界1億5千万人を率いる日本人・佐々井秀嶺氏 密着同行記の著者に聞いた

しらべぇ

2019/7/12 10:40

(写真:Azusa Shiraishi)
インド仏教1億5千万人のトップとして信者を導いてきた83歳の日本男児、佐々井秀嶺氏をご存知だろうか。

若い頃、人生に絶望し3度の自殺未遂を図るものの数奇な運命に導かれ、日本から遠く離れたインドの地で仏教の復興と、差別や貧困に苦しむ不可触民を救うため、半世紀以上も命がけで闘ってきたカリスマ僧侶だ。

そんな佐々井氏がこれまで歩んできた人生とインド仏教の現状が描かれた密着同行記『世界が驚くニッポンのお坊さん 佐々井秀嶺、インドに笑う』(文藝春秋)が上梓された。

しらべぇ取材班は、著者でライターの白石あづささんに、佐々井氏の魅力や本書に込めた想いを聞いた。

■佐々井秀嶺という男


佐々井氏は、1935年に岡山県で生まれた。青年時代に異常なまでの女性への興味と性欲に苦悩し、度重なる絶望を味わって3度の自殺未遂を経験。死に場所を求めて、さまよい行き倒れていたところを一人の住職に救われ僧侶の道へと進む。

25歳にして高尾山薬王院で得度を受け、交換留学僧としてタイへ行くも、異国の地においても色恋沙汰に巻き込まれ…恥を感じ日本に帰れず逃げるようにして単身インドへと渡る。

その後1年間、日本山妙法寺の八木天摂氏の元で学び日本への帰国を考え始めたころ、「神の御告げ」を聞き、導かれるようにしてインドのど真ん中にある都市、ナグプールヘと向かった。

そこで、目にしたのは、カースト制度において最底辺のシュードラ(奴隷階級)にも入れず、「触れると穢れる」と差別を受ける、不可触民の姿だった。

■インド国籍も取得


佐々井氏は、平等主義であるインド仏教の思想を根付かせるべく熱心に布教活動を続け、次第に下層民衆の心を掴み「自分たちは人間である」と訴えた。

村や町に寺院を建て、貧しい仏教徒のための学校や無料の養護院や病院を次々と設立し、その名声は高まっていったが、1987年にビザが失効し不法滞在で一時逮捕されてしまう。しかし、佐々井氏の活動を見てきた市民たちによって、わずか1ヶ月で60万人分の署名が集まり、翌年にはインド国籍を取得する。

その後も、度重なる暗殺の危機に晒されながらも民衆とともに闘い続け、2003年にはインド政府の「少数者委員会」の仏教徒代表に任命され、いくつもの仏教組織の代表を務め、名実ともにインド仏教最高指導者となったのである。

■白石さんと佐々井氏との出会い

(写真:Azusa Shiraishi)
著者の白石さんと佐々井氏が出会ったのは日本での佐々井氏の支援団体『南天会』から「取材してみないか?」と連絡が入り、一時帰国していた佐々井氏をインタビューしたことがきっかけ。その後、少しずつ親交を深めてきたそうだ。

白石:佐々井さんを初めてインタビューした時に、「あんた、インドに来て俺の本を書きなさい」と言ってくださって…その時は、リップサービスだと思っていました(笑)。

その後、インドで年に1度、秋に100万人が一斉に改宗する「大改宗式」が行われることを知り、インド中のお坊さんが一斉に集まるので面白そうだと、2015年に初めて佐々井さんに密着取材させていただいたんです。

帰国してから最初に掲載したのは、週刊文春の見開きグラビアページ。写真のほうがインパクトが強いと思っていたんですが、佐々井さんは文章を書いてほしかったみたいで。

「あいつはこれで満足しておる」「あんなにインタビューしたのにちっとも書いてないじゃないか」って怒っていらっしゃったそうなんです(笑)。


■雑誌への記事掲載がきっかけで


グラビアと違って、ドキュメンタリーとなると、佐々井氏の壮大な人生をまとめるのに時間がかかったそうだ。ようやく周辺取材も終えた白石さんが週刊女性や日刊ゲンダイに掲載したところ、若い人たちを中心に反響があったことに驚いたという。

白石:日本で知られていない人なのに、こんなに若い人達が読んでくれて、佐々井さんの活動に励まされている。その後、佐々井さんが週刊女性の記事を読んで「ようやくあいつ書きやがった」と、とても喜んでくださっていたことを耳にして…

仏教やインドの歴史は詳しくはないけれど、困っている人を救おうと奮闘している佐々井さんを多くの人に知ってもらいたい、そして、佐々井さんが元気なうちに執筆して本を渡したいと思いました。


■悪魔祓いで使うのは…

(写真:Azusa Shiraishi)
インド仏教の頂点に立ち、差別や貧困に悩まされる不可触民に寄り添い半世紀以上も共に闘ってきた佐々井氏。しかし、民衆の支持が高まり、激増する仏教徒を恐れた他宗教の過激派は、佐々井氏の悪い噂を立てたり、暗殺を目論むようになった。

実際、白石さんは2度目のインドでの密着取材を実施した短い期間に、暗殺や陰謀渦巻く現場に同行することになる。サスペンスドラマさながらの緊張感の中で、特に驚かされたことは一体、何だろうか。

白石:他宗教の過激派だけではなく、同じ仏教徒の高僧も、目の上のタンコブである佐々井さんを狙っています。ですから、仏教集会といえど気が抜けません。

過去には、飲み物に毒を入れられたり、舞台を壊れるように作ってあったり、何度も死の淵をさ迷ったことがあるそうです。今回、取材で、暗殺や陰謀渦巻く場所に同行するのは怖かったんですけど、こんなおもしろいこともありました。

近所の男に呪いをかけられた娘さんを救うため、佐々井さんは悪魔払いの仕事を引き受けたんですが、普通にベッドの上であぐらをかいて座って、「なんか取り出した」と思ったら孫の手!

それでインド人の頭を木魚がわりにポコポコ叩き始めたので、びっくり。「なんで孫の手ですか?」って尋ねたら「背中もカリカリできるし、あれでインド人の頭を叩いてやると不思議と痛みが治まるらしいぞ」と。

インド人は孫の手を魔法の杖か何かに思っているらしく…中には「孫の手で叩いてくれ」と頼んでくる人もいるそうです。本当の使い道がインド人にバレたらどうするんだろうと、おかしくてたまりませんでした(笑)。


■本物のお坊さん




本作に登場する佐々井氏は、時には虎のように鋭い眼光で1億5千万人の信者を束ね、時には好物のうどんを無邪気に食べる姿を見せるなど、実に多彩な表情で描かれている。白石さんにとって佐々井氏とは、どのような人物なのだろうか。

白石:偉大な人で本当に「奇跡的に生まれた人」だと思います。佐々井さんは「宗教を問わず、すべての宗教の真理は一つで世界平和である。差別しろとも、戦争しろとも言っていない」と、ずっと訴えていてぶれない方。

もともとは、「女狂い」で向上心も強くて…すごく欲の強い方だと思うんです。でも、お坊さんになると固く決意してからは、その欲望を抑えていて。

とはいえ、現地で私が作った料理をおいしそうに食べてくださるんですが、途中でハッと気づいて「コラ! 俺の飯を作るよりもきちんとお前の使命を果たせ」と怒るんです(笑)。大好きな日本食を嬉しそうに食べている自分が食欲や欲望に負けていると感じるんでしょうね。

佐々井さんと身近に接していると、人間臭い部分や欲望と葛藤している部分もたくさん見えてきます。そこも全部ひっくるめて「本物のお坊さんだな」と思います。


■宗教はシステマチック

(写真:Azusa Shiraishi)
信頼していた弟子からの裏切りや暗殺未遂…数えきれない人から恨まれ、行く先々で命を狙われる。それでも、すべての人の幸せを願い、全身全霊をかけ、カースト制度に体当りしていく佐々井氏の姿は民衆の心を動かし、仏教復興の大きな原動力となった。

佐々井氏の生き方に触れ、その姿を追い続けた白石さんもまた、心境の変化があったという。

白石: 佐々井さんと出会って「宗教って意外とシステム的でおもしろいな」と思い始めました。最初は、お寺をあちこちに建てるのは仏教の勢力を拡大するためだと思っていたんですが、実はそれだけではなかったようです。

毎日たくさんの人がお寺に祈りにきますが、毎日顔を合わせていれば「あの人は大丈夫だろうか」「こんなひどい目にあった」と悩みを打ち明けるようになります。そして「みんなで団結して戦おう」と話し合える、そんな場所をお寺が提供しているのです。

私自身は、相変わらず信仰心はあまりないんですが…家に佐々井さんからいただいた仏像の「みのる仏」がいるので、一日に一度は、声をかけるようにはしています(笑)。


■本書に込めた願いとは?




本書では、波乱万丈な半生を織り込みながら、仏教復興のため陰謀渦巻く世界に挑む佐々井氏の姿が、ユーモアな筆致で描かれている。白石さんの「佐々井氏の活動を多くの人に知ってもらいたい」という情熱も随所に感じられるが、どのような願いを込めて執筆したのだろうか。

白石:日本の私たちの生活は、お坊さんがいなくても成り立っていて、お坊さんと接する機会や話したことがない人もいます。

でも、昔の日本には「駆け込み寺」という言葉があるように「最後はお寺に駆け込めばなんとかなる」と思って、就活だったり結婚だったり生活の困ったことは、なんでもお坊さんに相談していたのではないでしょうか。

年に一度、一時帰国する佐々井さんの元には、若いネット世代の子達がたくさんやって来て、目の前で泣く人もいます。「この人ならわかってくれる」という直感みたいなのが働くのかもしれません。

この本を読んで少しでも佐々井さんの生き方に触れ「おもしろい」と思っていただけたら。佐々井さんのようなお坊さんも増えてほしいと思っています。


■仏教の聖地のために活動


御歳83歳になる佐々井氏は、現在ユネスコの世界遺産にも登録されている、仏跡第一の聖地「ブッタガヤの大菩提寺」をヒンドゥー教徒の管理から仏教徒の手に取り戻すべく、活動に心血を注いでいる。

白石:何度も自殺未遂をした佐々井さんですが、今は「まだ俺は死ねない」っておっしゃってて。それは、ブッタガヤをヒンドゥー教徒の管理から、仏教徒の手に取り戻したいからなんです。

その使命を背負って生きているから「まだ死ねない」。「人は誰でも使命がある。それを早く見つけられたほうがいい」と語る姿が、すごく印象に残っています。

日本の方はあまり関心がないかもしれませんが、佐々井さんは「日本の人にも奪還運動を応援してほしい」と思っているようなので、これを機に少しでも関心を持っていただけたら嬉しいです。


義理と人情を大切にする武士道精神を持ち、老体にムチ打って、インドのため、すべての人の幸せのため、満身創痍になりながらも闘い続ける男…佐々井秀嶺氏。

どんな困難にぶつかっても「わっはっは」と豪快に笑いとばし、果敢に挑戦し続ける佐々井氏の生き様や言葉が、きっと多くの人たちの指針となるにちがいない。この本を手に取り、人生に躓いた時、生き方に悩んだ時…そっと背中を押してもらってはいかがだろうか。

■直筆サイン入り著書をプレゼント


今回、取材した白石あづささんの直筆サイン入り書籍『世界が驚くニッポンのお坊さん 佐々井秀嶺、インドに笑う』を抽選で1名様にプレゼント。

応募方法はしらべぇのツイッターアカウントをフォローして、サイン書籍プレゼントのツイートをリツイートするだけ。当選された方には、編集部から直接DMでご連絡させていただきます。楽しみにお待ちください!



白石あづさ『世界が驚くニッポンのお坊さん 佐々井秀嶺、インドに笑う』(文芸春秋)

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(文/しらべぇ編集部・松野 佳奈

当記事はしらべぇの提供記事です。

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