丸山ゴンザレス × 伊藤大輔、初共演!『クレイジージャーニー』出演者が語る、むき出しのスラム街・ファベーラ

TABILABO

2019/7/10 21:00


2019年6月某日、『クレイジージャーニー』で人気のジャーナリスト・丸山ゴンザレスさんと、写真家・伊藤大輔さんによるトークイベント「スラム街の歩き方と暮らし方 ~ブラジル・ファベーラのREALとROMÂNTICO~」が開催されました。

世界各国の危険地帯を渡り歩くジャーナリストと、リオデジャネイロのファベーラ(スラム街)で10年以上生活しながら記録し続けた写真家。初対面の二人がそれぞれの立場で語るスラム街の日常。テレビじゃ語れない裏話に未公開VTRも飛び出した、濃密な60分。

会場の熱気をそのままにお届けします!


丸山ゴンザレス

1977年、宮城県生まれ。考古学者崩れのジャーナリスト・編集者。國學院大学学術資料センター共同研究員。国内外の裏社会や危険地帯の取材を続けるかたわら、TBS系『クレイジージャーニー』に出演するなど多方面で活動。著書に『GONZALES IN NEW YORK』、『アジア「罰当たり」旅行』、『世界の混沌を歩く ダークツーリスト』、『世界の危険思想 悪いやつらの頭の中』など。


伊藤大輔

1976年、宮城県生まれ。明治大学卒業後、バルセロナにて2年間写真を学ぶ。その後中南米に渡り、リオデジャネイロのスラム街にて活動を開始。2016年帰国。2019年1月に刊行した『ROMÂNTICO』が初の作品集となる。

外はドンパチやってて危ない。でも家の中ではビール飲んでます(伊藤)



丸山ゴンザレス(以下・丸山)

ジャーナリストの丸山ゴンザレスです。よろしくお願いします。

伊藤大輔(以下・伊藤)

カメラマンの伊藤大輔です。

丸山

伊藤さんと話したかったのが、実は『クレイジージャーニー』のスタッフの間で、一番ヤバかった取材に、常に伊藤さんのが1位か2位で入ってきてるんですよ。

ファベーラの取材のときって、スタッフが何人が行ったんですか?

伊藤

一人だけ来た。4日間だけ同行しますみたいな感じで。4日ぐらいだったら俺もちょっと我慢できるかなって。ブラジルにいたから全然番組のこと知らなかったし。

テレビって結構キツいよね。なんかこう……台本みたいな?ちょっとあるじゃん。ステレオタイプ的なところにはめられちゃいそうな自分がいて。なんか俺そういうのはちょっと。まあ、別に俺も大人だからわざわざケンカしないんだけどさ。

丸山

伊藤さんのときちゃんとした台本って、何か出されました?

伊藤

いや、なかったと思う。

丸山

ないですよね。あの番組すごいんですよ。僕、わりと本当に初期からやってるんですけど、始まったころは一応台本みたいなの渡されてたんです。「これ、今回のゴンザレスさんのやつです」って言って。そしたら「スラムに行く。よきところでまとめていただく」って書いてあるだけ。何もないんです。リアルにレポートするだけ(笑)。まあ、ある意味ガチな番組なんで、僕は好きでやってるんですけど。

伊藤

俺もなんか、自分が住んだところの話だから正確に情報を伝えたくて。ほっとくとすぐ何か適当なことを書く記者もいっぱいいるから。

丸山

伊藤さんがリオに住んでいたころに撮影された映像持ってきていただいたんで、せっかくなんで、ちょっとそれを見ながら話をしたいと思います。

伊藤

映像っていったって、家庭用のホームビデオだからね。手づくり感ハンパないよ。

丸山

(映像を見ながら)
早速、緊迫感ある映像ですが、これはギャングの抗争ですか?今のRPG(対戦車ロケット)?

伊藤

ロケットランチャーだね。俺も恐る恐るベランダまで這って行ってさ、ちょっと撮ってみるか、みたいな感じで。夕方7時くらいかな。友だちの家に集まってて、みんなもう怖くて外に出られないんだよ。やることがなくて俺がビデオ回してたら、一緒に住んでた奴がすごく乗り気になってさ。まあ、楽しんでるんだよ。外はドンパチやってて本当に危ないんだよ。でも、家の中では普通にビール飲んでる。

丸山

また別の映像ですが、これもギャングですね。銃持ってますね。場所はどこですか?

伊藤

ここはシャペウ・マンゲイラっていって、俺が住んでたバビロニアの横のファベーラ。これは禁じ手の超望遠を付けて撮影したやつ。でもほら、別に住人がいたからって、何をするわけじゃないしね。これがよそ者だったら「お前、どっからきたんだ!」ってなるけど。

丸山

このへんのファベーラって、一応鉄筋というか、コンクリートじゃないですか。だから家の中に逃げこめますが、フィリピンのスラム街とかだとトタン屋根ですからね。流れ弾が、家の中に飛び込んできますよ。


リオデジャネイロのファベーラのひとつホシーニャ
(伊藤大輔写真集『ROMÂNTICO』より)

丸山

実際、伊藤さんの住んでたエリアって、ファベーラの中では高級ファベーラだって番組の中でも言ってたじゃないですか。あれって、行った人じゃないと意味がわからない。実際に高級ファベーラって豪邸とかじゃないですもんね。

伊藤

そう。住居としてちゃんとしているっていう意味。ファベーラの中でも高台にあって、自然があって、海が近くていいんだよ。家はそんなに立派じゃない。いわゆる郊外とはまた全然事情が違うんだよね。まあ俺は子どもを育ててたし、快適な所しか住みたくないからさ(笑)。

丸山

あれは本当に、番組を観た人は理解できたかわからないけど、伊藤さんの言ってることは、一字一句本当なんですよ。本当なんだけど、たぶん見ている人には伝わってないんだろうなと思ってました。

伊藤

そうかもね。テレビ番組の尺の限界とかもあるんだよね。だから、『クレイジージャーニー』はいいほうだっていうことだよね。

丸山

比較的、いいほうだと思う。松本人志さんたち演者のみなさんもすごいリスペクトしてくれるし。ディレクター陣も、なるべくそのままを伝えようという努力はあるので、そこは本当にいい番組だなと思います。

極限地帯にいると、目の前の現象に感情が露わになる(丸山)



丸山

伊藤さん、もう当分はブラジル行く気ないですよね。

伊藤

行かないだろうね。

丸山

行くの、超大変じゃないですか。長いんですよね、とにかく移動が。

伊藤

中米行ってもう1本あるからね。そのまだ先だから。キューバとか、あのへんに行くのはまだ楽だよね。

丸山

本当にしんどいですね。伊藤さんはやっぱり中東経由?

伊藤

そう。だからなるべくトランジットで刻むよね。なるべく刻んで、泊まって、緩やかに行くようにしてる。まあ仕事だったらそうも言ってられないけど。

丸山

一昔前だと、アメリカかカナダ経由で入るのが比較的多かったけど、今は中東になりましたよね。中東はほら、空港泊とかできるから、わざと半日空けて寝てから行くとか。そういう人結構いると思います。そう考えると、まだ行きやすくはなったんだけど、やっぱりしんどいですよ。ブラジルは本当に。でも、行った分の面白さはありますよね。それが伊藤さんの写真集『ROMÂNTICO』にまとまっていましたね。


ファベーラでおこなわれるブロックパーティー
(伊藤大輔写真集『ROMÂNTICO』より)

丸山

伊藤さん、聞きたかったんですけど、このタイトル「ロマンチコ」。

伊藤

「ホマンチコ」ね。

丸山

これ、どういう意味ですか?

伊藤

まあ“劇的”とか、英語で言ったら“ロマンチック”っていうことですよ。俺はたぶん、日本でサラリーマンをちょっとかじって、なんかそういう……やっぱりロマンを求めてブラジルに渡ったんだなって思った。振り返ったときに「そういうことだったんだな」っていう、本当にストレートなメッセージ。

丸山

ああ。やっぱり伊藤さんらしいところで付けたんですね。最初から迷いなくこのタイトルだったんですか?

伊藤

俺の友だちが「ホマンチコって、ちょっと響きが面白くね?」とか言って。響きがちょっとふざけてるし、面白いなと思って。そんな感じだよ。あとは知り合いの編集長とかが「お前の写真は劇的だなあ」とかって評してくれてたから。俺もやっぱり撮るんだったらドラマチックに撮ってやろうみたいなのがあって。

写真ってなんかゲームに似ているなって思ってて。一瞬の演出というか。光とか。ロマンチックなんだよね。精神的にもさ。自分はサラリーマンやってたから、なんかほら、大声だして怒ることとかってなかなかないじゃん。東京にいるとなおさら。

ところがこういうのを撮ってるとさ、怒りが充満してるわけ。メキシコシティの娼婦のところとかさ、空き瓶とか投げてくるんだよね。俺も本気で怒っちゃってる瞬間とかあって。それがちょっと心地よかったんだよね。タガが外れる瞬間っていうの?

丸山

分かりますよ。

伊藤

分かるでしょう?そういう感じ。ここじゃ言えないけど。だって道で声かけたら捕まっちゃいそうじゃない、日本だと。

丸山

本当にそういう感情の発露っていうか、感情をストレートに表に出せるっていうのは、海外を取材しているといいですよね。

伊藤

そう。本気で怒ったこととか、やっぱり意外とないんだと思うんだよね。日本にいると。

丸山

めちゃくちゃ怒ってますけどね、海外行って。よく冷静に取材しているとか言われるんですけど、感情むき出しのところは全部カットされてるだけ。

どっちかと言えば、僕の場合は怒るっていう感情ではなく、むしろ笑っちゃうんです。ときどきロケでもゲラゲラ笑ってたりする。周りもなんとなくそう見えているらしいんですけど、ディレクター陣が「カットしていないVTRをそのまま流したら、ゴンザレスさんの頭のおかしさというのは多分番組を通して視聴者に伝わるけど、それはテレビとして流せない」って言われました。

伊藤

なるほどね。もうマニアック過ぎちゃって。

丸山

そう。面白いことっていうか刺激なんでしょうね。「やべー」って笑っちゃうんです。だから、そういうので僕が怒るとかもあるし、でもどっちかというと起きた現象に対して感情がダイレクトに働くという部分で、やっぱり海外のほうが面白いというのはありますね。「こんなこと起きるかよ!」って、もう笑っちゃうのが多い。

俺、将棋の“歩”になろうと思ったのよ(伊藤)



伊藤

『GONZALES IN NEW YORK』を読んで、はじめの方に書いてあったのかな。ニューヨークのことを書くって、結構勇気いるみたいなこと書いてありますよね。ニューヨークに住んでる人って、今いっぱいいるじゃん。だけど、いろんな所を見てきたから、俺だからこそ書けるニューヨークみたいなことを書いている。ああ、なるほどなと思った。それをちゃんと明らかにして書くって。なんかほら、ニューヨークってちょっと住んでるヤツだと「そこも知らねえのかよ」とか、そういうこと言いがちじゃん?

丸山

言いがちです、はい。

伊藤

だからすごいプレッシャーもあると思うんだよね。ブラジルなんて住んでる日本人がまずもって少ないからさ。だからそこは王道のニューヨークで、あえて「住んでいないからこそ書ける」ってのを公言して書くって、結構斬新だなと思った。

丸山

いや、ありがたいですね、そう言っていただけると。書くとき本当にドキドキしましたよ。でも、なるべく行ける所は行ったし、やれることはやったつもりです。今年に入ってまた2回行ってたんですけど、それぐらい、やっぱり好きな町ではある。そういう意味では、このときよりも情報とか見方とかがアップデートされてるところもあるけど、でもこのときはこのときのまとめ方で。

なるべくウソをつかないというか、抱え込まないようにオープンにすると、意外と伝わることがあるかなと思ってたんです。そのさらけ出す作業が、このニューヨーク本を書くときに最初にやったことなんです。


ニューヨークは街全体がキャンバスのよう
(丸山ゴンザレス『GONZALES IN NEWYORK』より)

丸山

自分がいかにカッコつけないかという。このニューヨークに対して、こういうふうに思っているんだとか、こういうふうに憧れを抱いていたけど、それが自分では気恥ずかしくて出せなかった時代があったとか。

素直に憧れのまま、ニューヨークでもどこでも留学してりゃよかったのに。僕はそのとき変に意地を張って、アジアの旅にハマっていったりとか。あ、アジアの旅はそれなりに楽しかった。だからハマっていったけど、でも留学するか、旅に出るかって迷ったときに、僕は旅のほうを選んじゃったとか。そういう、とにかく自分の中にあったいろんな選択肢を書くっていうのが、この本の中で一番最初に重視したことかな。

伊藤

ピュアにね。

丸山

はい。でも、伊藤さんも、そういうところ、あるんじゃないですか。結構こういうことを、みんながこれを言ったら引くのかな?とか。そういうことをもしかしたら思っているかもしれない。でも、関係なくズバッと言うじゃないですか。それって、結構勇気いりません?

伊藤

まあ俺、何も考えてないから。何も考えないフリとかしてるんじゃなくて、本当にそんなに考えてないかも。

丸山

でもそんなこと言うけど、伊藤さんは県内随一の進学校の出身なんですよ。宮城県では。

伊藤

いやそんな……もう何年前の話だよ(笑)。いやいや、それはいいんだけどさ。

丸山

伊藤さんって、大学のときからカメラやってたんですか?

伊藤

いや、日本で全然写真なんかやってなくて。さっきも言ったようにサラリーマンが嫌で、辞める理由でつい「カメラやる!」って言っちゃったんだよね(笑)。それか、何も言わないか、どっちかだと思ったの。最後にしらばっくれて辞めるか。

だけど、なんかいっぱい聞いてくるから、もう「俺、カメラやるから辞めます」って、はっきり言ったんだよね。そのときもなんとなく自分にはあったのね。ああ俺、やっぱり足使って働きたいなって。俺やっぱりブルーワーカーだわと思ったし、なんかデスクに座ってとか、あまり向いてないなと思って。

丸山

やっぱり行動するほうがいい?

伊藤

うん。暑苦しいこと言えば俺、将棋の“歩”になろうと思った。最前線で。今やってるようなこと。最前線でやっぱりほら、言葉も話せて、笑顔とこう、向こうの敵意、分かんないけど、交せたりするわけじゃない。そこの最前線感が、なんかちょっとかっこいいっていうか……ほら、自分がさらにむき出しになってくるじゃない。やっぱり大声を張り上げないと、最前線で。そこの相性が良かったのかな。

丸山

相性の良さはありますよね。

慣れてくると「この線だな」ってのが見えてくる(丸山)



丸山

ところで、なぜいっぱいある国の中でブラジルだったんですか?

伊藤

話すと長くなるけど、スペインにいるとき周りにブラジル人がいて、なんか俺、スピリットがバチンと合ったんだよね。ヨーロッパの人たちにあんまり興味ないなと思ったんだよ。

バルセロナで写真を勉強したのね。街はきれいなんだけど、でもなんかここでいいのか?みたいなのがあったのよ。会社辞めるのすげえ大変だったしさ。俺、写真でこれから生計立ててかなくちゃ!って気合い入ってるときに、なんかスペイン人たちのディスコで女の子をナンパする話とか、どうでもいいやって。俺はもっと心意気としては高いというかさ。だからお前らに興味ねえわって思ったんだよね。

いきなりブラジルに行く勇気とか、正直俺もなかったから。普通に日本で野球やってサラリーマンやって、そういう感じだったからさ。だからヨーロッパでワンステップ。まあ、言葉くらいは覚えておこうって。当時24歳くらい、もう一回言葉から覚えてやろうって思ってた。

丸山

その結果たどり着いた先がブラジルだった。ブラジルって2世、3世で日系人はいっぱいいるけど、こっちから移り住んだ日本人って、実はそんなにいないんですよね。

実際僕が行ったときも、伊藤さんのことを知ってる人、結構会ったんですよ。直接面識なくても「ファベーラに住んでる日本人でしょ?」みたいな。だから意外とね、噂になるというか、それぐらい小さい町ですよね。

伊藤

まあそうだね、すごいちっちゃい。

丸山

でもあの中で、あそこで暮らし続けて、トータル何年ファベーラにいたんですか?

伊藤

まあ引っ越しとかしてるけどね。10年。一人で5年、あと嫁さんと5年ぐらい。

丸山

奥さん、よくオッケー出しましたね。

伊藤

いやまあ、うちの嫁は意外と強いんですよ。俺と関係なくブラジル住んでたりしたし。高校のときにタイに留学してたりとかしてるし。

丸山

そういう人だったら行くかもしれないけど、やっぱり普通に日本で生まれ育ってる人を、ブラジルに連れていくのって、まだハードル高い感じがするんですけど、実際、行ってみたら楽しいじゃないですか。

伊藤

うん、楽しい。

丸山

最高に楽しいと思うんですよ。だから俺はもっとブラジルの面白さを伝えたほうがいいと思ってる。もちろん僕の立ち位置から「全然危なくないですよ」とは言いづらいし、「やっぱり危険じゃないか!」っていう、契約違反みたいな感じにはなりたくないので、全部いつも言うようにしているんです。


『クレイジージャーニー』出演時に撮影したファベーラのギャング
(伊藤大輔写真集『ROMÂNTICO』より)

丸山

住んでみた伊藤さんに聞きたかったんですけど、サンパウロはいいですよね、ほぼ大都会。リオも一部を除いてほぼ普通に楽しめますよね。そこがね、いまいち伝わってないかなっていうのもあるんですよ。実際、治安で問題になるような地域って、伊藤さんから見て、このへんだよなって、大体もう分かりますよね?

伊藤

治安がいいか悪いかって、究極、治安が悪いエリアでもちゃんとそこの場所を理解していたら、どこが危ないかって分かるようになるもの。ピンポイントにあそこへ行っちゃまずいとかって、ちゃんと分かっていれば大丈夫って話であって。

丸山

そうなんですよね。

伊藤

そうそう。だからメディアで紹介するような一元的な情報だけじゃなく、住民の人たちも、「きのう銃撃戦があったよ」みたいに楽しんでると言ったらちょっと表現が悪いけど。

丸山

アトラクション的な感じ?

伊藤

のときもあるんだよね。ほとぼりが冷めた次の日とかに「あそこの屋根の上にヤツらがいたんだ」とか、情勢を話してるんだよね。今あいつがやられてどうのとか、そういう話をしてて、まあ楽しんでいるところもちょっとあるよね。でも、それこそイカれた、リオでも郊外の危険なエリアとかはね。俺でももう入りたくないもん。

丸山

いやまあ、露骨にそうですからね、僕が『クレイジージャーニー』の取材で行ったような所はね。映画『シティ・オブ・ゴッド』の舞台になった場所。もう分かりやすく危ない所なんで。

伊藤

本当に戦車とか、そういうレベルだったりするんでね。番組の取材でも、いくらこっちがキャラクター作って頑張ったって、頑張りが利かないようになってんじゃん。

丸山

まあ実際問題、慣れてくると、「ああ、この線だな」っていうのは見えてくるんですよね。あ、警察の言ってるこの線がここだなっていうのは分かって、そうするとそこさえ越えなければ契約上、警察は全力で一応守ってくれるから。そこは越えない。彼らの流儀に合わせてやっていれば、僕は基本的に大丈夫だなと思っているんですよ。

伊藤

大丈夫。だって向こうもケガとかされたら困るわけだから。そこはちゃんと分かってるよね。

ファベーラには町内会のような懐かしさがある(伊藤)



丸山

あ、そういえば僕、ブラジルの刑務所に取材行こうとして、申請出したら判事のOKが出なくて、全部ひっくり返ってなしになったことがあるんです。悔しいからとりあえず行くだけ行ってみようと面会の列に並んで、その場で交渉できないかとトライしたんです。結局ダメだったんだけど、並んでいるとき、とあることに気がついたんです。女性がみな超薄着でセクシーな格好で並んでいる。旦那とか、彼氏に会いに行くからなんでしょうね。そこが日本とか他の刑務所と全然違うなって。

伊藤

口紅塗って、赤いハイヒール履いてね。

丸山

すごいがっつり胸元開けてて、ああノーブラだなと思って見てたんです。一人や二人じゃないんです。結構な比率でいる。聞けば、刑務所内で一応メークラブできる、やれる部屋というものがあるらしいんです。

伊藤

あるんだ!?お金払えば。まあ、それもホマンチコだよね。

丸山

話としてはロマンチック。だからそういうので、女の人たちもおしゃれしていくみたいなんです。

こういう女の子たちにカメラを向けると、さらっと踊ってくれたり感じもいいですよね?拒否されないというか。

伊藤

そうだね。やっぱり基本、撮られるの好きだよね。明るいし。


ビーチには貧富の差関係なく、さまざまな人が集まる
(伊藤大輔写真集『ROMÂNTICO』より)

丸山

僕の後輩で、細身の売れない芥川龍之介みたいな顔した奴が取材でリオのビーチを歩いていたら、向こうから女の子がきて「あなた日本人?」って聞かれて「そうだよって」応えたんです。そうしたら「私、日本人とキスしたことがないから、ちよっといい?」って。その場でチュッとキスされたらしいんです。なんかそういうミラクルが起きる国がブラジルなんだなって。おもしろいなあ。

伊藤

まあね。昼間は海行って、夜は女の子の口説き方自慢して。それなりにみんな楽しんでますよ。でも、そればかりじゃない。ファベーラに住む人間はね、やっぱりみんなどこかたくましい。一人一人、人生のドラマがある。「俺は田舎から出てきて、そこの林を切り開いてやった」とかさ。基本そういう強い人しか残ってないんだと思う。

丸山

そうなんですよね。ブラジルはね、本当に遺伝子強いと思いますよ。弱い人だとどんどん淘汰されますからね。筋肉パキパキでしなやかな奴が多い。絶対ケンカなんかしたくない。

伊藤

そのくせ結構マザコンでね。ラテン系はマザコンが多い。夜9時くらいで「ママが心配してるから」って言って帰ってくんですから。いい年になっても家を出ていかなくていいもんだから、ママのご飯食べて、結構幸せなんだよ。海もあるし、辛そうに見えて楽しくやってんだよね。

親と友だち、こういうコミュニティがなんかすごいいいなと思った。俺がガキのころってまだ町内会とかあったしさ。なんか、そういう昔の日本に戻ったような感覚?すごい居心地いいコミュニティだったんだよね。

丸山

(再びファベーラの映像を観ながら)
近所の夏祭り開催直前の集会所みたいな雰囲気がいっぱい残ってますよね。みんな酒持ってきて、地元のサッカーチームの応援をする感じとか。

伊藤

やっぱほら、単純なんだよ。だから欲望のはけ口もストレートで。でも、それだけで割り切れないところもあるよ、いくらでも。本音を言わないとかもあるしね。やっぱりお金のこととか絡むととくにね。まあ、同じスラムで同じ土俵に立って生活していたって、お金となるとシビアだよね。

でも、基本気持ちいい奴らですよ。日曜日の午後とかに、みんなで集まってビール飲んで、ああでもねえこうでもねえくっちゃべって、肉焼いて、なんか楽しくやってるんですよ。

丸山

ファベーラに暮らす人たちはスタジアムにはいかないんですか?

伊藤

結構入場料高いしね。ファベーラは階段ばっかりだからみんな出不精なんだよ。家でビール片手に肉焼いてテレビで観戦。ラクだし楽しい。で、贔屓のチームが勝てば外に出てチャントの大合唱。

丸山

めっちゃカメラ近っ!

伊藤

でしょう?俺はこういう距離感が気持ちよくて。なかなかスラム街で、こういう距離感では話してくれないと思うよ。

丸山

これを観ると「伊藤さん、ちょっとヤベー人だな」と思います。

伊藤

いやいや。

丸山

僕、あの番組の伊藤さんの回で記憶に残っているのが「お前、アキレス腱伸ばしとけよ!」っていう。あのシーンがすごい好きなんですよね。体育会だなあと思った。でもなんか、ここにいたらそういう感じわかりますよ。「いつ走るかわかんねえぞ」みたいな。

伊藤

伝える内容もまたぜんぜん違うしさ。俺たまに急に真逆のことやりたくなるんだよね、こういう。これを記録しておいてやっぱりよかったなって最近思うもん。でも、このときは悩んだの。「自分が撮りたい場面の写真、撮れねえじゃん」みたいな。結局、相手も気を悪くすると、撮らしてくれないわけだ。それでずっとフラストレーションがたまってて。

そんなとき、動画だったら、自分の友だちなら撮らしてくれる。じゃあもうありのままを撮ろうって。なんか絵がキレイだとか、そんなの一切抜きでさ。

丸山

そこはやっぱり伊藤さんのこだわりでもあるから、撮れなかったら悔しいわけじゃないですか。撮りたいところはきわどいし、危険と隣り合わせだったりもする。

伊藤

仮に俺がライターだったら、銃撃戦を抑揚つけて書いたりできると思うんだよね。でも俺、やっぱり写真家だから。辛かろうが、なんだろうがやっぱり写真に残してナンボだからさ。いちばん絵になる強いシーンが撮れなかったりしてるんだよね。だから、少なくとも動画で撮ろう、とね。まあさ、自己満足なんだけどね。

丸山

いいなあ、そういう感じ。いいですねえ、やっぱり。写真を見れば迫っているのわかるけど、動画でもそれが伝わってきますもん。町の人たちのこういう日常が、本当におもしろい。だからファベーラっておもしろいんですよね。日常のひとつひとつが本当にドラマチックだから。本当に「ロマンチコ」なんですよね。

伊藤

「ホマンチコ」ね。

でも、そういうことなんだと思う。やっぱり、エネルギーってことなのかもしれないね、簡単に言ったら。

Top image: (C) DAISUKE ITO

当記事はTABILABOの提供記事です。

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