さすがは川崎フロンターレ。また「面白いこと」やってます!

TABILABO

2019/6/14 17:00


スポーツ観戦が最高に気持ちいい季節がやって来た。

仕事から解放された週末の夜、近所のスタジアムに出かけて指定の席にどかっと腰を下ろす。右手にビール。左手につまみ。それを交互に飲んだり食べたりしながら、時には野次なんかも飛ばしちゃったりして……。

そんな想像をするだけで癒やされちゃう人はもう少し仕事の手を緩めたほうがいいかもしれないが、いずれにしても、いよいよ始まる夏から秋にかけて、そんなスポーツ観戦のある週末を楽しみにしている人も多いに違いない。

あの“ムダな時間”さえなくなれば!



もっとも、そんな理想的なスポーツ観戦スタイルを実現するのは、実はそんなに簡単じゃない。

どの施設にも必ずと言っていいほど飲食売店があるのだが、イベントが大きいほど並ぶ列は長く、実際に購入するまでの時間があまりにも長い。例えばサッカーならキックオフに間に合わなくなってしまうこともあるし、それを避けるために売店に並ぶことを諦めざるを得なかったりする。スポーツに限らず“観戦娯楽”が好きな人なら、一度は体験したことがあるのではないだろか。

そう、人でごった返すイベントの問題は、何かを求めて並ぶ「列」にある。そこで生まれる“ムダな時間”にこそある。それさえなくなれば、スポーツ観戦はもっとずっと楽しいはず——そう思っていたところに、サッカー好きの知人から一報が飛び込んできた。

「川崎フロンターレが、また新しいこと始めたみたいよ」

新しいこととは、つまりこのムダな時間を減らそうとする試みらしい。さっそくスタジアムに足を運び、確かめてみた。

待ち時間ゼロ?
行列から解放される!?



スタジアム内のコンコース。多くの飲食売店が並ぶエリアから外れたところに、そのブースはあった。張り出されたポスターにはこう書いてある。

「座席から注文して待たずに受取!」

「待ち時間ゼロ!」

「行列から解放されよう!」

「ダイニー for 川崎フロンターレ」

最後の「ダイニー」とは、どうやらこのサービスの名称らしい。スーツを着たスタッフに声をかけた。受け取った「dinii inc.」の名刺には「代表取締役/CEO」の肩書きが添えられている。

「『店舗向けモバイルオーダー・プラットフォーム』として立ち上げたばかりなのですが、3月から川崎フロンターレさんのホームゲームで導入させていただいています」

専用アプリをダウンロードし、欲しい商品をカートに入れて注文する。クレジットカード番号を入力して注文を確定すると、受取時間の目安が表示される。説明を受けながら試してみると、このブースで5分後に受け取れるとのことだ。ブースに目を向けると伝票が発行され、商品を準備した販売員が伝票のQRコードを読み取った。するとこちらのスマホに「受取可能」の通知が届く。

話を聞いたのは山田真央さん。2018年6月に数人の仲間と株式会社diniiを立ち上げた起業家であり、実は現役東大生でもある。

「僕自身、子どもの頃から真剣にサッカーをやってきて、年間20試合ほどスタジアムで試合観戦するファンでした。サッカー観戦は楽しいし、スタグルを楽しむのも醍醐味ですよね。だけど、行列に並んで“待つこと”だけはどうしても受け入れられなくて……。それを解消して試合観戦に集中できたら、もっとサッカー観戦が楽しいだろうなと」

サービスそのものは、オフィス街で集中するランチタイムの混雑を解消する目的で開発された。しかしサッカー好きな自身のバックグラウンドからスタジアムに導入するアイデアに至り、複数クラブへの営業を試みる中で最初に「いいね!」と手を挙げてくれたのが川崎フロンターレだった。

“何か新しいこと”はいつだってウェルカム



サッカーファンなら誰もが思うだろう。「さすがは川崎フロンターレ」。2017年から2年連続でJリーグ王者に輝いている強豪クラブだが、実は、Jリーグきっての“面白いことをやるクラブ”としてもよく知られている。

例えば、地元・川崎市の相撲部屋とコラボする。例えば、市内の小学生が使用する算数ドリルをプロデュースする。例えば、西城秀樹さんがスタジアムで『YMCA』を歌う。例えば……と挙げればキリがない。このクラブのセルフプロデュース力、セルフプロモーション力は、スポーツ業界でも群を抜いている。かつてはその部分ばかりがクローズアップされて“面白いクラブ”としての印象が先行しがちだったのだが、2年連続のリーグ王者に輝いたことで鬼に金棒となった。強さも面白さも日本一だ。

ではなぜ、今回も川崎フロンターレは“新しいこと”にトライしたのか。このプロジェクトの舵取り役であるというスタッフの谷田部然輝さんに聞いた。

「昔からよく知っている人から連絡があって、現役東大生の社長さんを紹介したいという話だったんです。もともと僕らにも『プロスポーツクラブとして若い世代のビジネスマン育成にも貢献したい』という思いがあるので、『喜んで』と。そういう流れで、ダイニーの山田社長と会うことになりました」

近頃の学生は起業に対するハードルが低い。警戒心はなかったのか。

「いやいやいや、話を聞いたら面白そうだったので即決だったんですよ。山田くんは爽やかだし、サッカーも大好きだし、話を聞いた瞬間に『やろう!』と。その後も早かったですね。2月22日の夕方に打ち合わせをして、次の週の鹿島アントラーズ戦の時にはもう実現してましたから(笑)。そこからは毎試合どんどんチャレンジして、少しずつサービスとして充実させて」

チケットやグッズの事業、ファンクラブ、さらに施設の管理なども担当する“何でも屋”の谷田部さんは、川崎フロンターレ在籍19年目のベテランだ。つまり彼の体には“イズム”が染みついており、いかにも“フロンターレの人”という考え方をする。興味があるならビビらずにトライ。これが鉄則だ。

「“何か新しいこと”に対してはクラブとしてもウェルカムで、そういう姿勢をちゃんと理解している社員が多いし、それが社風みたいなものですから。とにかくやってみる。先頭を走りたいという気持ちももちろんあります。一番という響きは好き。それから、僕らには考え方としてちゃんと立ち返る場所があるんですよ。地域性と話題性、それから社会性。その3つが揃っていたら、迷うことなくチャレンジする。一番ならなお良しってね(笑)」

誰かひとりが得するビジネスは面白くない



ダイニーのチャレンジがスタートして数カ月。利用者からの評判は上々で、ダイニーはJリーグの他のクラブでもサービスを開始し、その噂はスポーツ界全体に広まりつつある。そのきっかけを作ったのが、川崎フロンターレだ。

このサービスには地域性も話題性も社会性も確かにある。試合を観戦するサポーターの満足度アップは地域性に直結するし、プロスポーツクラブとして若い世代のビジネスマンを少しでもバックアップすることには社会的な意義があり、もちろんそうした活動にはクラブの価値を高めるだけの話題性がある。

谷田部さんが言う。

「勢いで始めちゃってると思われがちなんですけれど(笑)、ちゃんと冷静な目も持っているつもりで。例えば今回なら、生まれたばかりのダイニーという企業と新しいことを始める中で、僕らにとっても大切な気付きが必ずあるんです。だから、一度始めたらちゃんと向き合ってやる。それが次につながる経験になりますから。それに、彼らのような若い世代に対しては、純粋に頑張ってほしいと思える。見守ることの楽しみもありますよね」

果たして、ダイニーと川崎フロンターレが始めた取り組みによって、ストレスなく「右手にビール。左手につまみ」を手にする理想的なスポーツ観戦スタイルは実現するだろうか。谷田部さんは笑った。

「そこまで持っていけたら、もうみんながハッピーですよね。でも、そうあるべきだと思いますよ。誰かひとりが得するビジネスは面白くないし、続かない。僕らはこれからもずっと存在していくプロスポーツクラブだから、長く続くものを作っていきたい。その可能性を、若い世代の彼らと一緒に追求できるって最高じゃないですか(笑)」

サッカー界に改革を起こし続けてきたフロンティアスピリッツに、川崎フロンターレの“中の人”が言うのだから期待してしまう。ビールとつまみ。スポーツ観戦のゴールデンコンビを並ばずにゲットできる時代は、すぐそこに迫っているのかも。

Top image: (C) Etsuo Hara/Getty Images

当記事はTABILABOの提供記事です。

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