【特集】仕事を成功に導く「すごい準備術」 第3回 ビジネスの相棒となる「準備ノート」の作り方


「ぐるぐるナインティナイン」「行列のできる法律相談所」「¥マネーの虎」など、これまでに数々の人気番組を世に送り出してきた日本テレビの演出・プロデューサーの栗原甚氏。これだけ多くのヒットコンテンツを手掛けることができた理由として、栗原氏は「周到な準備」をあげる。

「準備を制する者は、人生を制す」をモットーに、心身のタフさが求められるテレビ業界で25年以上ものキャリアを築き上げ、今なお第一線でバリバリ働く栗原氏は、一体どのような準備をして仕事に臨んできたのだろうか。本特集では同氏の新著「すごい準備」をヒントに、その秘密を紐解いていく。今回のテーマは「準備ノートの作り方」だ。

――著書「すごい準備」の中では、「準備ノート」(※1)を作ることを推奨されています。まず、どんなことから取り掛かればよいでしょうか

すごく細かいことだけど、本当にこれから自分が使いたいノートを買うことからですね。どうでもいいことに感じるかもしれないですが、「使いたい」と思えるノートを選んだ方がいいと思います。「準備ノート」って、最後まで自分の相棒になるので。

――「相棒を選ぶ」となると、確かに気に入ったものを使いたくなります

そう。バディだから、最後までボロボロになりながら一緒に行くわけです。自分のスタイルを築くつもりで、選んでみてください。やっぱり自分なりのスタイルを作った人が勝者になるんですよ。

――自分のスタイル、ですか

ええ。僕は北海道の田舎に育って、高校は通学に1時間半もかかっていたんです。往復で3時間ですよね。そうなると、学校の近くに住んでいる子の方が成績が良くて、悔しかったんですよ。そしたらウチの親父が「バカだな、机の前に座っているだけが勉強じゃない。同じ24時間しかない中で、通学の3時間をうまく使え」って言ったんですよ。

そこで、単語帳を何十個も作って通学の時間に、英語も数学もなにもかもそれで勉強していました。それこそ「すごい準備」の表紙の人みたいに学生服の内ポケットにいっぱい入れてね(笑) 別にこれをマネするといい、とかじゃなく、何を言われようと自分の築いたスタイルを貫ける人が強いんですよ。

――なるほど。勉強に関しては親に頼らず、自分でスタイルを作るしかなかったんですね

ただ、ウチの家は親父をはじめ体育会系でして……。「バス停には走って行っているのか」「電車やバスに乗るときに立って踵を上げているだけでも筋力がつくが、お前はそこまでやっているのか」など、時間の使い方も勉強よりスポーツに関することばかり親父に言われてましたが(笑)

イチローの打法だって、最初に他の球団に行っていたら変えさせられたかもしれない。でも仰木彬監督(※2)が「それで行け」と言ってくれて、スタイルを貫くことができたから今があるわけじゃないですか。自分で築いた自分のスタイルを無理に変えなくていいと思うんですよね。その人が見つけ出した勝利の方程式なんだから。

――そこに自信を持てるようになることも準備あればこそ、という気がします。栗原さんなりの「準備ノート」の書き方などはあるのでしょうか

僕は書く際に色分けをしています。最初はピンクで書いて、その次は水色で書く。それから黒、赤といき、色がなくなったらラインマーカーの黄色、緑色……とどんどん色を重ねていきます。理由は、色で書き込んだ時期が一発でわかるからです。企画によって3カ月だったり1年半かかったり、いろいろあるけど、最初の想いが最もインパクトがあって、ピークのことが多いんです。いろいろ考えていくと、「やっぱりここに問題点があるよね」といった具合にどんどん角が取れて普通の企画になっていく。そうなったときに立ち返ることができるようにしてあるんです。

――最初がピンクというのも面白い色のチョイスだと思いますが、どんな理由ですか?

最初がピンクなのは、なんか面白く感じるからです。テレビは面白くないと意味がないですからね。そこから、ちょっと冷静になって水色を使います。いろんな人の意見は黒で書き出し、それを聞いたうえで「俺は最初に戻るべきか、それとももっと面白い企画になっているか」という試行錯誤をして、意見やリサーチの結果を赤で記します。

その過程で絶対に忘れちゃいけないことは、ラインマーカーですね。「放送するときに絶対この言葉は入れよう」「1年半前の大事な言葉はこれ」というものに引きます。そうしないと、忘れちゃうからです。自分が作りたかったのは「面白い」なのか、「感動」なのか。面白いといっても爆笑なのか、感動モノといっても涙なのか――。そういう最初の想いを忘れずに書き留めます。

――選ぶ色ひとつとっても理由があるんですね。絶対に揺るがない、根幹となる部分を忘れないことが、ブレずに物事を進める指針になりそうです

例えば、また「¥マネーの虎」(2001年~2004年: ※3)の話になりますが、あの番組は今、いろんな国で制作されているんですよ。それでも、「テーブルの上にお金を積むのはウチの国ではちょっと……」と難色を示されたり、MCの吉田栄作さんにあたる立場の人がいなかったり。僕としては「そこが一番面白いところなんだよ!」って思うんですけどね(笑) あの番組を作るうえで、絶対に変えてほしくない部分はいくつかあって、最初はいろいろとこだわっていたんですけど、国の事情もあるので実現できない部分もあるんですよ。

――柔軟に聞き入れる部分もあるけれど、ちゃんとその都度、基本理念というか「最初に作りたかったもの」に立ち返って考えていらっしゃるんですね

細かいことだけど、セットや何気なく置いてあるものにも全部意味があるんですよ。社長が座るイスはディレクターズチェアなんですけど、「ソファがいいのかな」とか思案していろいろな家具屋を回った結果、特注したんです。高いものではないけど、映像に耐えうるデザインで長時間座っても疲れないものではあれが最適だった。

逆にプレゼンする側は、背もたれのないイスを用意しました。なんの後ろ盾もない状態でプレゼンテーションをすることに意味があるし、社長との距離も心理的に議論としてふさわしい距離を調べて模索しました。手の届きそうな位置に現金があることや、低い位置にテーブルを置くことなど、生物学的な部分とか本能とかが出てしまうようなセッティングになっています。テーブルの色も特注だし、天井の高さも、社長やプレゼンする人を撮る角度もすべて、理由があって決めているんですよ。

――そこまで緻密に準備したうえでのあの番組なんですね。それは確かに準備に時間がかかってしまいそうです

どんなに準備に時間がかかったとしても、そんなことは視聴者には関係ないし、スタッフには「こだわる点が細かすぎて、本当にちょっとおかしいんじゃないか」って言われたりするんですけど(笑)、社長の飲んでいる水の入っているグラスはバカラ社製なんですね。やっぱり社長が安っぽいグラスで飲むのは変だから。

で、グラスに氷を入れるんですけど、バーとかで使われるウイスキー用の氷を使うと、議論が盛り上がって熱くなってきた45分くらいのタイミングで『カラン』って氷が鳴るんです。僕が時間を気にしたりすると、出演者が『今の状況がつまんないのかな?』となりかねないので、時計を見ずに時間の目安をつけたかったんですよ。そんなことまで海外フォーマットには書いてあります(笑)

――まさに本のタイトルに違わぬ「すごい準備」ですね

制作した番組を翻訳して他国で放送することはあっても、番組制作のノウハウをそのまま海外に出すケースはこれまでほとんどなかったです。クイズ番組くらいじゃないでしょうか。でも、それくらい細かくノウハウをマニュアル化していたから、あの通りに作れば同じ番組が作れるんですよ。「これ、やらなきゃダメですか?」って聞かれますけどね(笑)

※1 栗原氏が交渉を円滑に進めるため、交渉相手や自分の情報などを書き込んだノート。そのノートの記載内容をもとに交渉事の戦略を練っていたという

※2 近鉄とオリックスで監督を務め、野茂英雄や長谷川滋利、イチロー、田口壮ら野球界に名だたる一流選手を育てたと言われる名伯楽

※3 一般の起業家が資金を募るため、「マネーの虎」と呼ばれる投資家の目の前で事業計画をプレゼンテーションする様子を伝える投資リアリティ番組。番組終了後、フォーマット販売され、同様の形式の番組が世界各国で制作・放映されている

○栗原甚

日本テレビのプロデューサー・ディレクター。「¥マネーの虎」「松本人志中居正広vs日本テレビ」をはじめ、最近では「踊る! さんま御殿!!」「中居正広のザ・大年表」など、多くの人気芸人とともにバラエティー番組を多数手がける。

当記事はマイナビニュースの提供記事です。

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