新国立劇場バレエ団『アラジン』福岡雄大・小野絢子・速水渉悟に聞く ~ 一瞬たりとも見逃せない、ビントレー・マジックの冒険世界

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2019年6月15日から新国立劇場バレエ団『アラジン』の上演がはじまる。同バレエ団の元芸術監督デヴィッド・ビントレー氏が振り付け、2008年に新国立劇場で世界初演された作品だ。2016年の上演から3年振りとなる今回は、タイトルロールのアラジン役を福岡雄大、奥村康祐、そしてベテランながら初役となる福田圭吾が踊る。プリンセスやランプの精ジーン、魔法使いマグリブ人など、物語を彩る個性的なキャラクターには初役も多く、2018/2019シーズンの締めくくりからさらに次代へのステップが感じられるキャスティングも楽しみだ。

今回は主役の福岡雄大小野絢子、ジーン役の速水渉悟に話を聞いた。アラジン役の福岡は初演を除く全ての公演に、プリンセス役の小野は世界初演以来全ての公演で主演。この2人は英国バーミンガムロイヤル・バレエで当作品が初演された際、ゲストダンサーとして招かれ主演している。一方速水は米国ヒューストン・バレエを経て新国立劇場バレエ団に入団し、1年目にしてジーン役に抜擢された期待の新星だ。(文章中敬称略)

【動画】新国立劇場バレエ団 3分でわかる『アラジン』

■全力120%+αの舞台。主人公と個性豊かなキャラクターに注目


――新国で生まれた男性主人公のバレエ『アラジン』は、観客としても非常に刺激的でした。新国の男性ダンサーとして、やはりアラジンは踊ってみたい役でしょうか。

福岡 新国のダンサーに限らず、踊ってみたいと思う男性ダンサーは多いと思います。体力的な面でも踊り甲斐がありますし、振付には現代的な要素も強く、またビントレーさん独特の表現やマイムも楽しくて、アラジンは本当に好きな役の一つです。

――福岡さん自身は、その主人公アラジンをどのように捉えているのでしょう。

福岡 非常にイタズラ好きでやんちゃで好奇心旺盛。いたずらをして怒られたりもしますが、懲りてないところもあり、すごく肝が据わっていて動じない。周りも「仕方ないな」と思ってしまう、憎めないキャラクターですね。
アラジン 撮影:鹿摩隆司
アラジン 撮影:鹿摩隆司

――そこにプリンセスをはじめ、ジーン、マグリブ人、友人たちや母親など、たくさんの人たちとの関りがあり、その関係一つひとつが物語を深めています。主人公アラジンとして、多様なキャラクターとの関りを表現するために気をつけていることは。

福岡 なるべく本番の舞台上で「会話」ができるように、普段のリハーサルから目の表現だけでも会話になるようなつながりを意識していきたいと思っています。今回はアラジンの母など初役となるキャスティングも多く(※福岡アラジンの母役は中田実里。『不思議の国のアリス』では料理女を好演)、これまで様々な役をやってきた人たちも含め、その年、その時のキャストならではの表現が生まれてくる。僕も毎回新しい気持ちで、今回ならではの舞台をつくっていきたいと思います。

でももちろんコミュニケーションは大事ですが、ビントレー作品は振り付けがとても緻密で、それに合わせて踊ることで物語はきちんとついてくるんです。課題はそこにさらにダンサーの個性を上乗せして120%に持って行くこと。ビントレーさんは間もなくリハーサルに参加されますが、高い要求をされますので、こちらも全力以上で応えないといけません。

――全力120%に、さらにプラスアルファのエネルギーが働きそうですね。小野さんはプリンセス役をどのように捉えていますか。

小野 「プリンセス」は確かに育ちの良さはありますが、それ以上に好奇心が強い、茶目っ気のある普通の女の子だと思います。同じ年頃の人で、自分に対等に接してくれる人は彼女の周りには誰もいなかった。高貴な身分の姫にみんながひれ伏しているなかで、リンゴを投げてくるアラジンにびっくりして、ときめいたと思います。

――アラジンとプリンセスとの関係は物語の大事な核の一つですが、今回はどのような感じで作っていこうと考えていますか。

福岡 それは秘密ですね。見てのお楽しみということで(笑)。

小野 私は基本的にアラジン役に任せ、その動きを受け止めようと思っています。プリンセスを冒険に連れてってくれるのはアラジンなので、彼の出方次第でプリンセスは変わっていくと思います。
プリンセス 撮影:鹿摩隆司
プリンセス 撮影:鹿摩隆司

■速水ジーンの組はフレッシュなキャストに期待


――速水さんは福田圭吾&池田理沙子の組でジーンに抜擢されました。主要な役どころ3人、日にちによってはマグリブ人の貝川鐵夫さんも初役という、フレッシュな組になります。まずはジーンの役をいただいたときの率直な感想を。

速水 とても驚き、うれしかったですが、率直な感想となると「また(身体を)塗るのかー、今度は青かー」と思いました(笑)。

――(一同爆笑)そういえば前公演の『ラ・バヤデール』では黄金の仏像でしたね(笑)。

速水 もちろん「僕にできるのか、踊り切るスタミナがあるのか」という気持ちもありましたが、全身金色に塗ったあと、顔料を落とすのがこんなに大変だとは思わなくて(笑)。

福岡 全身を塗るのって、とても大変なんですよ。あれだけ全身金色に塗ると、顔料が毛穴から身体の中に入ってしまうんです。

速水 しばらく痛痒い感じで、汗を拭くと身体から金色の粉が出てきました。

福岡 そういう意味では、完全に落とすのに数日かかります。肌が弱い人は荒れてしまう。

速水 僕も少し赤くなりました。でもジーンは塗るのは上半身だけだから大丈夫かな(笑)

――塗るのも踊るのも大変な役ですね。以前アラジン役の福田さんにお話を伺った時は、「ジーンとの関係を大事にしていきたい」と仰っていました。速水さんはどのように考えていますか。

速水 アラジンと合わせるまでリハーサルが進んでいないのですが、福田さんは踊りも演技力もすばらしく、また面白い方なので、一緒に関係をつくっていくことをすごく楽しみにしています。まだ振りを覚えている段階ですが、ジーンにとってはランプをこすった人がご主人様です。マグリブ人が主人のときはアラジンの時とは違って冷酷になるなど、その違いもしっかり出していきたいです。
ランプの精ジーン 撮影:鹿摩隆司
ランプの精ジーン 撮影:鹿摩隆司

■物語すべてがハイライト。全編を通してこそ、『アラジン』の魅力が弾ける


――『アラジン』は冒頭のアラビアの市場から砂漠、宝石の洞窟……と目まぐるしくシーンが変わり、それぞれに個性的で魅力的な踊りがちりばめられています。とくに好きな場面はありますか。

福岡 全部が好きです。ビントレー作品は振付と音楽がきっちりしっかり合うようにつくられていて、一つでも抜けたら話が通じなくなる。以前ガラ公演でアラジンとプリンセスのパ・ド・ドゥを踊る機会があったのですが、そのとき「全部を踊らないと、この作品の世界感が伝わらないな」と改めて確信しました。

何より全幕通しで踊っていると、僕自身がアラジンとして生きているような気がするんです。僕のこれまでの人生で感じてきたいろいろなことが、アラジンの中に投影され、役と一体化した感覚になる。童心に帰る、と言った方がいいのかな。男性って大人になってもどこかに子供の心があると思うのですが、『アラジン』ではそれを舞台上でいかんなく発揮できる。アラジンを踊るうえで、僕自身に足りないところがないのですよね。僕もやんちゃでいたずら好きで、外で遊ぶのが大好きな活発な子供だったので。
アラジンとプリンセス 撮影:鹿摩隆司
アラジンとプリンセス 撮影:鹿摩隆司

――役になり切れるということですね。小野さんはとくに好きなシーンはありますか。

小野 私もどの場面も好きです。この作品は綿密に計算されていて、主人公のみならず、どの役も場面も隙がなく一瞬たりとも見逃せないのです。それはビントレー作品の特徴でもあり、物語性を追求していく英国バレエの特徴でもあるかもしれません。一瞬一瞬全てのシーンがとても魅力的です。たとえば1幕の宝石のシーンはバレエの美しさを存分に堪能いただける場面ですし、2幕のジーンが群舞と踊るシーンはミュージカルのような楽しさや高揚感を味わっていただける。舞台装置や衣裳もゴージャスで、見ているだけでワクワクするような世界です。踊りの部分はもちろん見応え十分ですが、芝居の部分も見逃せません。色とりどりですべてがハイライトです。
プリンセスとマグリブ人 撮影:鹿摩隆司
プリンセスとマグリブ人 撮影:鹿摩隆司

――音楽も台詞のように雄弁なところもあり、魅力的ですね。速水さんは今回初めてこの作品に出演されますが、早く踊ってみたいシーンなどはありますか。

速水 まだ場面ごとの振付を覚えている段階なので、まずは通しで踊って流れを掴みたいと思っています。

――見る側としては最大の盛り上がりの一つでもある、2幕のジーンの群舞が楽しみです。

速水 そのシーンは神が世界を支配するかのように踊るシーンなので、どれだけエネルギッシュな踊りをお客様にお見せできるかを大事にしていきたい。踊り切る体力作りも含め「場を支配する」という勉強にもつなげていきたいし、僕の踊りで劇場中に魔法をかけられればいいなと思います。

――初演時は、ジーン役のコンセプトは「小柄だがすばしっこい」と伺っていましたが、速水さんは身長もあり動きも俊敏で、「大柄ですばしっこい」、新たな歴史を刻むジーンになりそうですね。そういえば速水さんはヒューストン・バレエ団から新国に移籍されましたが、新国に入ろうと思ったのはなぜですか。

速水 僕は「日本で踊りたい」という希望がありましたが、外国で勉強もしてみたかった。それでシュツットガルトのバレエ学校に入り、2015年にYAGPで賞(Youth America Grand Prix男性シニア部門金賞、審査員特別賞)をいただいた際、海外のバレエ団を経験したいと思いヒューストン・バレエに入団しました。新国に入りたいと思ったきっかけの一つは、テレビで新国の『眠れる森の美女』のグラン・パ・ド・ドゥを見て「こんなに素晴らしい踊りをする人がいるんだ!」と大感動したからです。その時のダンサーが、まさに小野さんと福岡さんでした(笑)。

――今お隣にいる先輩方ですね。

■新国生まれの作品。ビントレー・マジックの世界を存分に楽しんでほしい


――では最後にお客様にメッセージを。

福岡 映画やミュージカルで有名な『アラジン』ですが、ぜひバレエのビントレー振付『アラジン』も見ていただきたいです。見ている間は心が躍るような、そして見終わった後はまるで魔法のひと時を過ごしたかのような「ビントレー・マジック」の世界を、ぜひ体験してください。僕らダンサー達もその世界に誘えるよう、がんばっていきたいと思います。

小野 世界で初めて新国立劇場バレエ団のために振り付けられ、上演された『アラジン』ですから、このバレエ団に合っていないはずがない作品です。その作品が再演を重ね、さらに育っています。男性女性、大人も子供もどんな人でも楽しめるのがこの演目のすごさでもありますので、ぜひ一度見に来てください。そして見ていただけたら、きっとまた見たくなると思います。

速水 踊っている僕らがすごく楽しいので、見てくださるお客様も絶対楽しんでいただけると思います。僕に与えられた役が僕の踊るべき役だと思い、これからも一つひとつ役に向き合っていこうと思っています。世界に一つだけの僕のジーンをお見せできるようがんばりますので、瞬きしないで見てください。

――ありがとうございました。
アラジンとプリンセス 撮影:鹿摩隆司
アラジンとプリンセス 撮影:鹿摩隆司

経験豊富な福岡アラジン組に、速水を含めフレッシュな福田アラジン組。そしてもう一組の奥村アラジンにはプリンセスに米沢唯、ジーンに渡邊峻郁、マグリブ人に菅野英男と、バレエ団の中でもひときわ演技力の抜きん出た個性的な存在感を放つ面々が配され、濃厚な化学反応が期待できる。3人のアラジンが繰り広げるビントレー・マジックの世界を、ぜひ楽しんでいただきたい。

当記事はSPICEの提供記事です。

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