「一強」と言われる安倍内閣は、一体どんな実績をあげたのか?/倉山満

日刊SPA!

2019/6/3 08:30

― 連載「倉山満の言論ストロングスタイル」―

◆比べるのは酷だが、戦後の歴代総理と比べても極端に見劣りする

新帝践祚(せんそ)。初めての国賓(外国からのお客さん)は、アメリカのドナルド・トランプ大統領となった。日ごろは「トランプ内閣の外務大臣」として忠勤に励んでいる安倍晋三首相は、かいがいしく接待に励んでいた。

ちなみに、践祚とは天皇が位に就くこと、即位とは位に就いた事実を内外に示すことである。今の法律用語では、本来の践祚が即位、即位が即位式とされているので、「即位」の意味がズラされている。占領期に勝手に用語を変えられて今に至るのだが、安倍首相もこれを本来の伝統に戻す気は無いらしい。

なお、報道では「新天皇即位」の文字がしつこいので、私は勝手に言い換えている。「新天皇」は「新帝」、「即位」は「践祚」。だから「新天皇即位」とは言わずに「新帝践祚」と勝手に使っている。政治家や官僚は内閣法制局が決めた法律用語に逆らえないが、私は気にしない。

政権に返り咲いた当初は「戦後レジームからの脱却」と勢いが良かった安倍首相も、そんな昔の話は忘れてしまったのだろう。

◆安倍内閣はいまだ何の実績もあげていない

安倍内閣は「一強」と言われながら、史上最長の政権になろうとしている。では、どんな実績があったのだろうか? 日清戦争に勝った伊藤博文や日露戦争に勝った桂太郎と比べるのは酷だが、戦後の歴代総理と比べても極端に見劣りする。吉田茂は、サンフランシスコ講和条約で占領下におかれていた日本の独立を取り戻した。佐藤栄作は、その後も占領されたままだった小笠原と沖縄を取り返した。

これから安倍内閣は、伊藤、桂、吉田、佐藤の歴代内閣を抜いて史上最長となろうとしているのだが、いまだ何の実績もあげていない。「北朝鮮拉致でも北方領土でも、なんでもいいから成果を出したい!」などと思った瞬間に相手から足元を見られるのが外交だ。そして案の定、舐められている。

経済にしても、吉田内閣は敗戦からの復興を軌道に乗せたし、佐藤内閣は戦後最高の経済成長を達成した。この面でも負けている。

◆中曽根内閣の劣化コピーと評すべきか

ちなみに、「戦後政治の総決算」を掲げた中曽根康弘は、当時のアメリカ大統領のロナルド・レーガンと「ロンヤス関係」と呼ばれる同盟関係を構築したが、ただそれだけだった。それでも、経済はバブルだったので、安倍内閣よりはマシかもしれない。

むしろ安倍内閣は中曽根内閣の劣化コピーと評すべきか。中曽根は、アメリカ・ソ連・中国・韓国と周辺諸国に気を使い、ひたすらご機嫌取りに務めた。また、防衛費1%枠撤廃を掲げて、毎年のように「1.004%だから勝利!」「0.097%だから敗北!」などと、バカ騒ぎを繰り広げていた。アメリカ以下自由主義陣営諸国が「2%など最低限度の数字」と防衛努力をしていた時に。

◆媚びとアピールの「安倍外交」の実態

今の安倍内閣も、アメリカ・中国・ロシア・北朝鮮に気を使い、ひたすらご機嫌取りに務めている。中曽根と同じだ。

何より重要なのは、防衛努力の欠如だ。トランプは政権就任当初、日本に同盟国としての義務を求めてきた。これは戦後のアメリカの対日政策の根本的な変更だ。歴代アメリカ政権は、「無視」「抑え込み」「猟犬として使う」だった。ところがトランプの対日政策は「対等の仲間」だった。すなわち、東アジアで脅威となっている中国・ロシア・北朝鮮と対抗するために、日本が地力をつけて仲間になってほしいと。

トランプは第二次大戦後の秩序を根本的に覆そうとしている。その根幹は、「人を殺してはならない」という価値観が通じない国を甘やかさないことだ。ヨーロッパをはじめ、世界中の国は中国かロシアと妥協して生きているので、トランプの行動に冷たい。

そんな中で、安倍首相はトランプにも媚びつつ、「日本は二度と大国に戻りませんよ。安心してください」とのアピールを忘れない。本気で世界の秩序を変革する側に回ろうとはしない。「安倍外交」の実態など、その程度だ。

経済だって、6年も政権を独占しながら、「2年で実現する」と公言していた景気回復がいまだに達成できない。

◆この総理大臣で我慢しろと言うのは、情けない話だ

今やよほどの安倍信者以外の衆目一致の評価だろう。安倍政権の評価など民主党よりマシ、でしかない。鳩山由紀夫・菅直人・野田佳彦の3人の民主党首相に加えて、麻生太郎も加えてよいかもしれない。その5人の中では、間違いなく安倍首相が最もマシだ。内政外交ともに。

誰も言わない点を取り上げる。災害対策は安心できる。平成末期は何度も大災害に見舞われたが、安倍内閣は無難に対処した。少なくとも、阪神大震災の村山富市や東日本大震災の菅直人のような地獄絵図はなかった。ただし、村山と菅がひどすぎたので相対評価でもち上げねばならないが、災害対策など、政治家の実力でも何でもなく、できて当たり前なのだ。その証拠に、関東大震災を77日で収拾した山本権兵衛首相を偉人と称える人はいない。

以上、現在の野党や自民党の他の政治家に比べればマシ、という点が安倍内閣の支持率が下がっていない理由だ。それに、日銀の金融緩和で景気は回復軌道にあるので、国民は安倍内閣に我慢できている。しかし、災害対策ができるのだから、この総理大臣で我慢しろと言うのは、情けない話だ。

◆悪くなる要素しかないが代わるマシな政権もない

では、このまま安倍内閣が参議院選挙を乗り切ると、どうなるか?

10月1日には消費増税が待っている。景気がどの程度悪くなるのかわからないが、よくなる見込みはゼロだ。選挙後には、皇室典範の改悪に乗り出すだろう。愛子天皇待望論に乗って、女性宮家創設や女帝復活、はたまた女系容認にまで乗り出すか。

対外関係では、アメリカのご機嫌を取りつつ、中露北の周辺諸国に気を遣い、韓国にだけは口先だけの抗議を繰り返す。自力で国防努力をする見込みなど、カケラも見えない。

法律は内閣法制局、行政(予算)は財務省主計局、選挙は創価学会に丸投げしている限り、つまり戦後レジームを脅かさない限り、安倍内閣は安泰だ。

以上、悪くなる要素しかないのだが、代わるマシな政権もない。

ならば、現状での最適解は「決められない政治」に戻すことなのか? 破滅するよりは、マシだが。

※この記事は、週刊SPA!5月28日発売号掲載のものです。

【倉山 満】

憲政史研究家 ’73年、香川県生まれ。’96年中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程を修了。在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤職員として、’15年まで同大学で日本国憲法を教える。’12年、希望日本研究所所長を務める。同年、コンテンツ配信サービス「倉山塾」を開講、翌年には「チャンネルくらら」を開局し、大日本帝国憲法や日本近現代史、政治外交について積極的に言論活動を展開。ベストセラーになった『嘘だらけシリーズ』など著書多数

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

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