デビッド・ボウイに発見されたスーパー・ギタリスト、スティーヴィー・レイ・ヴォーンの『テキサス・ハリケーン』

OKMusic

2019/5/31 18:00

テキサス・ローカルで活動していた白人ブルースマンのスティーヴィー・レイ・ヴォーン。南部音楽を世界に広めた敏腕プロデューサーとして知られるジェリー・ウェクスラーの推薦で82年の『モントルー・ジャズ・フェスティバル』に登場、そこからスティーヴィーの破竹の歴史が始まると言ってもいいだろう。そのステージを見て彼を世に出したいと動いたのがデビッド・ボウイとジャクソン・ブラウンだ。ボウイは自身最大のヒットアルバム『レッツ・ダンス』のギタリストとしてスティーヴィーを全面的に起用し、そのおかげでスティーヴィーの名前は一挙に知られることとなった。一方、ブラウンはというと、自分のスタジオをバンドのリハーサルに使わせ、その時の録音がスティーヴィーのデビュー作となる『テキサス・フラッド』につながったのである。今回はスティーヴィー・レイ・ヴォーン&ダブル・トラブルの2作目で、ジミヘンの「ブードゥー・チャイル(スライト・リターン)」のカバーを収録するなど、デビュー作と比べるとよりロック色が濃く出た『テキサス・ハリケーン(原題:Couldn’t Stand The Weather)』を取り上げる。

■様々な音楽が交錯する テキサスという風土

ブルース、カントリー、フォーク、R&B、ソウル、ジャズなど、これらはどの州でも盛んな音楽であるが、テキサス州ではそれら全てが独特の成長を遂げている。古くはメキシコ領だったこともあって人種の混合も多く、元フランス領のルイジアナ州やネイティブ・アメリカンの多いオクラホマ州と隣接していたことも、テキサスならではの芳醇な音楽が育つ土壌であったと言えよう。

例えば、ジャズではエレキギターを初めて使ったチャーリー・クリスチャン、ブルースとカントリーが得意の黒人ブルースマン、クラレンス・ゲイトマウス・ブラウン、ラグタイムやジャグバンド音楽の香りがするブラインド・レモン・ジェファーソン、ジャズとカントリーをフュージョンさせたウエスタン・スウィングの巨匠ボブ・ウィルス、テックスメックスのフレディ・フェンダー、アメリカーナ系アーティストのダグ・サーム、ロックではパンクの元祖として知られるロッキー・エリクソン率いる13thフロア・エレベーターズなどがいる。ジャニス・ジョプリン、スライ・ストーン、キング・カーティス、ビヨンセらもテキサス出身のアーティストたちだ。

■粘っこいブルースギター

スティーヴィー・レイ・ヴォーンもやはりテキサス出身だけに、王道のブルースというよりはロックやR&Bの影響を受けたサウンドである。特にギターワークに関しては、ジミ・ヘンドリクス、アルバート・キング、アルバート・コリンズの3人に大きな影響を受けたと思われる。彼らから譲り受けた「破壊性と革新性」(ジミヘン)、「粘っこさ」(キング)、「切れ味鋭いシャープさ」(コリンズ)は、スティーヴィーのプレイ上でなくてはならない要素となっている。早弾きの部分ではジョニー・ウィンター(テキサス出身)から学んだのかもしれないが、スティーヴィーの感性がウィンターよりブルース寄りであることは間違いない。白人ギタリストでスティーヴィーほどの黒っぽさを持ったプレーヤーは、彼以前には60年代から70年代はじめに活躍したマイク・ブルームフィールドぐらいしか思いつかない。それぐらい彼のギターはテクニカルでパッションに満ち、聴いているだけでパワーのお裾分けをしてもらったような気分になるのだからすごい個性である。

■デビッド・ボウイの戦略

83年にリリースされたデビッド・ボウイの『レッツ・ダンス』は、当時流行っていたディスコ音楽やシンセポップなどを取り入れ、ボウイ最大のヒットアルバムとなった。リリース当初、70年代からのボウイのファンは、このアルバムに反発を感じる者も少なくなかった。80年代初頭、音楽のデジタル化が押し寄せた時に背を向けていた頑固なロックファンは、70年代の音楽を聴き続けていた。ところが、しょっちゅうラジオや街角でオンエアされていた「レッツ・ダンス」を聴いて、多くの頑固者は驚いた経験があるに違いない。なぜなら、無機質なディスコ風リズムとチープなシンセ音の合間に、なぜか本物のブルースギターが鳴っていたからだ。この曲を聴いて、80年代のロックやポップスを受け入れられるようになったという中年は、当時かなり存在したのではないかと推測する。そして、そのブルースギターを弾いていた人物がスティーヴィー・レイ・ヴォーンというギタリストだと知ることになる。

実際、ボウイはこういう戦略で『レッツ・ダンス』をリリースしたのではないかと僕は思っている。もっと言えば、ここで聴かせるのはブルースギターでなく、ロック(例えばクラプトンやベックなど)の有名ギタリストでも十分話題性はったはずである。が、ボウイはあえてスティーヴィーのギターを使った。これはボウイの悪戯心としか考えられないのだが、アナログに固執する人間をデジタルに目を向けさせるという意味では、大きな成果を得たのである。

■ボウイからのツアー参加要請を固辞、 レコーディングに専念

『レッツ・ダンス』に収録されたタイトル曲のアルバム・ヴァージョンは8分近い長さだが、シングルバージョンは4分強で、半分ほどの長さに編集されている。カットされているのは途中のフリージャズ的なホーンの部分で、これは理解できるのだが、エンディングのギターに関してはスティーヴィーのソロを一部差し替えるなど、相当力の入った編集作業が行なわれている。これなどは、ボウイがいかにスティーヴィーのギターに魅せられていたことがわかるエピソードだと思う。

ボウイは『レッツ・ダンス』の世界ツアーにスティーヴィーを参加させたかったのだが、自身のレコーディングに専念したいと彼は依頼を固辞している。ギャラが安かったからという理由が流布されているが、やはりスティーヴィーの中ではデビューアルバムを早くリリースしたいと考えていたというのが自然ではないだろうか。

■S.R.V&ダブル・トラブルの デビュー作『テキサス・フラッド』

ジェリー・ウェクスラーに推薦され『モントルー・ジャズフェス』でデビューしたスティーヴィー・レイ・ヴォーン&ダブル・トラブルだが、アルバムデビューの際には同じく大物プロデューサーのジョン・ハモンドに認められ、エピックレコードからのリリースが決定する。デジタルサウンドやヘヴィメタル全盛の83年に、ギター、ベース、ドラムの3人でブルースを演奏することは時代と逆行していると多くの関係者が考えていたが、彼のグループが放つエネルギーはリスナーに有無を言わさぬほどのパワーに満ちていた。

ジャクソン・ブラウンのスタジオで録音された『テキサス・フラッド』は83年の終わりにリリースされ、50万枚以上のセールスを記録した。この遅れてきたブルースアルバムは、他の人力演奏のロックグループやブルースマンに大きな希望を与えた。また、クリス・デュアーテ、ケニー・ウェイン・シェパードらのような後進のデビューを容易にさせただけでなく、後にジョン・メイヤーのようなスーパースターを生むことになったのも、このアルバムが成功したからこそである。打ち込みがもてはやされた80年代に人力演奏でデビューした彼の存在は、ポピュラー音楽界全体に相当大きな影響を及ぼしたと言える。

■本作『テキサス・ハリケーン』について

そして、84年にリリースされたのが本作『テキサス・ハリケーン』である。前作との違いは、ジミヘンの代表曲「ブードゥー・チャイル」の秀逸なカバーが収録されていることからもわかるように、本作のほうがロックやファンクの要素が強い。

収録曲は全部で8曲。冒頭のインスト「Scuttle Buttin’」から凄まじいエネルギーでリスナーに迫ってくる。短い曲であるが、これだけのキレのある演奏はそうそう味わえるものではないので、ブルースファンだけでなく、ロックファンにもぜひ聴いてもらいたい。続くタイトルトラック「Couldn’t Stand The Weather」はファンクロックっぽいナンバーで、後半のギターソロはリスナーを煽りまくるというか、まるで喧嘩を売っているような暴れぶりだ。ギター・スリムの代表曲「The Things(That)I Used To Do」でも煽りは継続、アルバート・コリンズばりの切れ味鋭いフレーズの連発だ。ここまでの2曲には、スティーヴィーの兄でテキサスではかなり有名なギタリスト、ジミー・ヴォーンがリズムギターで参加している。

8分に及ぶジミヘンのカバー「Voodoo Child」では、デビューアルバムでは見られなかったサイケデリックロックやファンクの影響をも窺わせる強烈なギターソロを披露しており、かつてロックが光り輝いていた頃を思い出させる名演となった。スティーヴィーの気怠いヴォーカルが光る「Cold Shot」、珍しくロバート・クレイのようなハーフトーンを使ったスローブルース「Tin Pan Alley」、シャッフルの「Honey Bee」と正統派ブルースを3曲続け、アルバム最後はジャズテイストが強い4ビートのインスト「Stang’s Swang」で、彼の新たな一面を覗かせて本作は終わる。

本作は前作『テキサス・フラッド』(全米チャート38位)よりも上位の31位にランクインしており、これはブルースアルバムとしては異例のことである。ましてやリリースが80年代前半(何度も言うが)ということを考えると、彼の音楽がいかにすごかったかということがわかる。

残念ながら、彼は1990年に不慮の飛行機事故によって亡くなってしまうのだが、彼の壮絶とも言えるギタープレイは永遠に生き続けていく。彼のギターを体験したことがない人は、是非この機会に聴いてみてください♪

TEXT:河崎直人

アルバム『Couldn't Stand the Weather』

1984年発表作品

\n<収録曲>
01. Scuttle Buttin'
02. Couldn't Stand The Weather
03. The Things (That) I Used To Do
04. Voodoo Child (Slight Return)
05. Cold Shot
06. Tin Pan Alley (aka Roughest Place In Town)
07. Honey Bee
08. Stang's Swang

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