『水どう』藤村Dとキャラメルボックス大内厚雄の共演ふたたび! 劇団イナダ組『刹那 ィ』インタビュー

SPICE

2019/5/29 18:00


1992年に札幌で脚本・演出家のイナダが旗揚げし、北海道を拠点に全国各地で公演を打ち続ける劇団イナダ組。「TEAM NACS」の森崎博之、大泉洋、戸次重幸、音尾琢真もかつて在籍しており、彼らが脱退した後も、全国的な人気を誇る劇団である。

2018年の劇団イナダ組公演『いつか抗い そして途惑う』では、大泉らをスターに育てた怪物番組「水曜どうでしょう」の“藤村D”こと藤村忠寿と演劇集団キャラメルボックスの大内厚雄が共演(大内は東京公演のみ出演)したことでも話題となった。

その二人が新作公演となる『刹那 でふたたび共演する。今回は藤村と大内に、共演の思い出や、劇団イナダ組とイナダの魅力、本作にかける思いなどを語ってもらった。
【『刹那ィ』あらすじ】
大手印刷会社に勤める彼は、仕事でとある田舎町に来る。仕事を終え帰ろうとしたところ大雪のため列車もバスも運休になり足どめになる。何もすることがなくただ大雪が収まるのを待つだけの彼の前に、自分は悪魔だと言う男が現れる。
悪魔だと名乗る男が彼に問う「これまでのお前が過ごした日々はどうだったのか? 皆、お前を慕い必要としていたのか?」と…。彼は考え始める。相手のためと思ってやってきたことが、本当は相手を苦しめているだけだったのかもしれない。自分自身の満足のために、愛する人を不幸にしてしまっていたのではないかと……。
そして彼は自問自答の闇の迷宮に引き込まれて行く。

——お二人のご共演は2014年の鈴井貴之さん主宰のOOPARTS『SHIP IN A BOTTLE』、劇団イナダ組の前回公演『いつか抗い そして途惑う』以来3回目となりますが、イナダ組前回公演の共演を振り返ってどうでしたか?

大内:OOPARTSからイナダ組の間に4年も経っている感覚はなかったですね。

藤村:確かになかったよね。この前も、うちの北海道テレビ開局50週年ドラマ「チャンネルはそのまま!」で共演していますからね(笑)。大内さんの役がもうハマリ役で好評で。でも、あのキャスティングだってこういう舞台でのつながりがあったからだと思います。

大内:僕は前回のイナダ組が初参加だったので、どこまで言っていいのか分からなかったんです。それにプラスして、イナダさんのいいところかもしれないんですけど、分からないことがあって「これってなんでこうなるんですかね?」と聞いた次の日に、ガラッと台本が変わってくるんです(笑)。「そんな影響ありました? この僕のたったこれだけの質問に?」って驚いちゃうくらい。だから後半は言葉を選び出しましたね(笑)。

藤村:イナダ組はずっと長いことやっていますが、大泉とかがいなくなってからも続けていくなかで、役者もいい感じで年を取って。昔の大泉たちの若い20代中心ではなくなって、これからどうしようかっていう時に大内さんに来てもらったというのは、イナダにとって非常に大きな刺激でした。

東京でバリバリやっている人が入ってきた時に、イナダも緊張するわけですよ。大泉たちがいた時から、ずっとイナダ組にいる山村素絵も大内さんが来たことによって「久しぶりにお芝居というものに刺激があって、楽しくてしょうがなかった」と言っていました。和気あいあいというよりかは緊張感があって、大内さん自身も初めて北海道に一人で来て、東京でやるのとは違う緊張感があっただろうし。そこで、我々に大きく真面目な影響を与えてくれました。前回、イナダが受けた刺激が非常に良かったから、今回も大内さんに出てもらうことになったのだと思います。

——お二人が感じる劇団イナダ組の魅力はどういったところでしょうか?

大内:イナダさんの人間力もあると思うんですけど、やっぱり藤村さんがメインでいることが魅力じゃないですかね。例えば、藤村さんの演じるおじさんがまずメインにいるから、それに対してどういうお話にしようかと考えられるというのが大きいんだと思います。それによってイナダさんが書けるということが魅力ではないでしょうか。

藤村:イナダはわりと昔から家族ものとか、人情劇とかやっていて……。親父が認知症になっていくお話なんかは、直面してしまうお話なので「やっぱり書きやすい」と当人も言っていました。ちょうど年齢的に俺もイナダとも変わらないし、一番投影しやすいというのはあるでしょうね。でも、やっぱり大内さんが入ったことによって、大内さんが常に俺のことを乱そうとしますからね(笑)。

大内:藤村さんは人間力がすごすぎて、周りの役者もなかなか言えないですからね。修羅場をさんざんくぐって来た人ですから。僕は別の現場で一緒だったから藤村さんに言いやすいというのがありましたし、藤村さんだからちょっと意地悪してもいいかなって(笑)。

藤村:(笑)。前回やった時も二人のシーンに大きな比重があったので、そういう時には舞台の上で、大内さんの顔を見ますよね。どういう感じで来るのかなとか(笑)。俺なんか、ディレクターという仕事柄、演じることよりもそっちの方がとても楽しみでした。

大内:無茶しない範囲内で、毎回ちょっと芝居を変えるというね。藤村さんが言ったようにTVディレクターをなさっているので、毎回同じ芝居だと飽きるだろうなと思って楽しんでいましたね(笑)。

藤村:それがお芝居のいいところだと思いますよ。
(左から)藤村忠寿、大内厚雄
(左から)藤村忠寿、大内厚雄

——藤村さんから見たイナダさんとはどんな人物でしょうか?

藤村:昔は、あまり知らない仲だったんです。大泉が芝居をやっている時は、俺らのテレビの収録スケジュールを邪魔するやつでしかなくて、それの首謀者がイナダだから(笑)。お互い顔を合わせることもずっとなくて。きっかけは大泉の結婚式にイナダが出席して、その時にちょっと飲みましょうよというお話をしたんです。それで、人となりを見ていくと、ほんとこいつダメだなって思って(笑)。人間力がないんですよ。年上なんですけど(笑)。許容範囲が非常に狭くて、すぐ怒るし……。

だけど、それも含めて、芝居を作っていく時に彼はよくしゃべるし、みんなに何か伝えようとするし。ただ、伝え方が非常に下手なんで、言葉もよくチョイスを間違える(笑)。そのダメさぶりも、俺なんかは一緒にやっていて楽しいですけどね。周りが彼と一緒にいることを楽しむのはいいけど、彼に頼ったら絶対にダメ(笑)。カリスマ性はないですし、彼について行こうなんてサラサラないですし(笑)。それでも彼について行ってしまうのうは、彼が作ってくる物語に対して、ちょっとずつ滴が落ちるのをみんなで拾い上げる作業がとても楽しいからです。

——大内さんは初めてイナダさんとお会いした時はどんな感じでしたか?

大内:初めての時は、すごく警戒されていました。

藤村:ちっちゃい人間ですからね、警戒するんですよ(笑)。

大内:最初の日に北海道で車に乗って、一緒に写真撮影に行ったんです。それで、乗ってからずっと「こういう稽古スタイルで、あれでしょうでけど、札幌ではこういう風にやっていて……」とまだ何もやっていないのに言い訳みたいな感じでずっと言われていました(笑)。

でも、イナダさんがおもしろいなと思うのは、すごく物語に向き合っている部分ですね。イナダさんが持ってきた物語に、これはどういうことなんだろうかと話し合いができて、次の日には、その話を反映した物語に変わっているというのは楽しいです。

ーーキャラメルボックスの成井豊さんは本を変えない方なんですか?

大内:基本的には変えないです。10年ぐらい前からは、新作の場合に稽古をやっていきながら多少は質問で変わることがありますけど、基本的には変えないです。そういう意味ではイナダさんとは真逆のタイプですね。だから、イナダさんのような作家さんはもしかしたら初かもしれないです。物語自体がどんどん変わっていくので、前回公演も最初にもらった台本ではそんなに出番がなかったんですけど、札幌で稽古に入って話をしていくと、どんどんセリフが増えて、シーンも増えました(笑)。

藤村:ビビりだから、大内さんがどれぐらいやってくれるのか、遠慮が先にあるんです。でも、やっていくうちにもったいなくてどんどん増やしていく。俺の最初の時もそうでしたもん。根本的なラストシーンにしても「こうしたほうがいいんじゃないの?」とか言って変えたりするんだけど、そういう意味では非常にいいディスカッションができるんです。最終的な決定権はイナダにあるんで、曲げないところは曲げないで、これはこうなんだというのはちゃんと言うし、だからこそ、こちらも意見を言いやすいところがあります。

——今回の新作公演『刹那 ィ』は、初期のあらすじだと4人家族の物語でしたが、ガラリと変わって“男”と“悪魔だと名乗る男”の二人によるダークなファンタジー作品という趣がありますね。

藤村:イナダの作品は基本的に暗いんです。もちろん、笑いもありますけど、最近は「笑いもあんまり入れなくていいんじゃないかな」と言っているぐらいで。イナダと飲んでいて、次回作どうするのか話していた時に「生きながらえる医療とかあるけど、このぐらいの年になったら最後に死ぬという権利ってあっていいんじゃないの」みたいな話をしていたんです。

この前、奥さんと話して、俺の65歳の誕生日以降は、救急車を呼ばないという契約を交わしたんです(笑)。長引いちゃうから。そういう話をイナダにしていたら、「それおもしろい!」ということになって。それもあって悪魔が出てくるんじゃないですかね。本当に生きていて価値があるのか、生きていることは逆に悪じゃないのか……とか。

大内:藤村さんの話から、イナダさんはかなりインスピレーションもらっているんじゃないですか。最初に考えていたあらすじがあったけど、藤村さんと飲んで、「それだ!」と思ったんでしょうね(笑)。それが、イナダさんのすごいところですよね。ずっと考えていたストーリーがあるのに「それだ!」と思ったら、その道を進んでしまうというのは。一度出した内容を全部捨てるというのは、なかなかできないですよ。
(左から)藤村忠寿、大内厚雄
(左から)藤村忠寿、大内厚雄

——今回はタイトルからして意味深なのですが、藤村さんが出演されていた作品は『わりと激しくゆっくりと』や『いつか抗い そして途惑う』のような少し長めのタイトルでしたね。

藤村:長いのに飽きたんじゃないかな(笑)。みんな覚えてくれないし、イナダも自分が作ったタイトルなのに長くて言えないんです(笑)。

大内:どうですかね。「切ない」の変換ミスかもしれないですよね(笑)。

藤村:あるかもね(笑)。

大内:変換ミスしたけど「これいいな……」と思ったのかも。なんだか、意味ありげなタイトルですよね。

藤村:特に意味はなくて、「ちょっとカッコイイでしょ」と、ただ自慢するだけだと思いますよ(笑)。

——今作で共演される他の出演者の方々の印象は?

大内:僕は戸澤亮さんとは今回が初めてなんです。

藤村:戸澤は鈴井さんのところのOFFICE CUEのNEXTAGEとして札幌で活動していて、イナダ作品には何回も出演していますし、俺も何回も共演していますね。前回のOOPARTSの『天国への階段』にも出ていました。

大内:イナダ組の山村さんと吉田諒希さんはレギュラーメンバーですから、やりやすいし、話しやすいですね。

——山村さんはイナダ組の前回公演『いつか抗い そして途惑う』では魔性の女的なイメージがありましたが。

藤村:当人が一番できない役です。イナダは一番できない役をやらせていましたね。

大内:イナダさんがお手本を自分でやっていましたね。

藤村:イナダのほうが上手い(笑)。イナダに手を握られたほうが、ちょっとドキッとする(笑)。山村さんは男っぽくて昔からそういうキャラクターだし。本人は2度とやりたくないと悩んでいたけど、イナダはそういうところにキャスティングしてくる。俺なんかにも必ず普段の俺ではない物を求めてくるし。

大内:前回の『いつか抗い そして途惑う』の藤村さんの役も、気弱でハッキリとものを言えないという、藤村さんと真逆な性格でした。やっぱりイナダさんの中では、そういう普段出しているものじゃないところに負荷をかけることによって、出るものがいいんじゃないのかと思っているんでしょうね。

藤村:あると思う。

大内:やりやすいだけじゃないほうが、なんでこうなるのかということにアプローチしていくために考えられる。やりやすい役だと共感しやすいから、深くいけないというのはあるかもしれないです。自分と似ている役で台本を読んでいると、分かるという気持ちになってしまって、でも、その役と自分の人生は絶対に違うはずなので、共感性がある部分は細かいところを考えられなくて、ついつい自分のいいように考えているほうに行っちゃう。

藤村:イナダは大泉についても、「絶対にやりやすい役をやらせなかった。なるべく本人とは違う役をやらせていた」と言っていました。なるべく大泉が嫌がるような役をやらせていた。だから、イナダの性格は曲がっているんでしょうね(笑)。もちろん、良さとしてだけど、根本的にそういうことを考えるのはひねくれているからですよね(笑)。

大内:でも、演じる上では役者にとってはいいと思うんです。僕らは常にキャラクターを演じるわけで、役作りという意味ではなくその役をやるにおいて、その役はなぜこういう人生を歩んできたのかを考えていくべきなので。だけど、自分と近いキャラクターだと、それをすっ飛ばしちゃう可能性があるなと。なぜ、その役を自分がやるのか、役者として役を演じるとは何か、という問いの答えに近づいていける一歩を、イナダさんは役者に踏ませているんじゃないでしょうか。
(左から)藤村忠寿、大内厚雄
(左から)藤村忠寿、大内厚雄

——稽古に入る時にどんな台本が出てくるのか楽しみですね。

藤村:本当に、今回は楽しみですね。人数もギュッとしているし、あらすじを見るとちょっと密室のような感じの閉ざされた空間の中で……。そこで、大内さんとまたがっぷりと芝居ができるんでしょうから、大内さんに乱されるがままに悩むのは本当に楽しみです。

大内:「悪魔だと言う男が現れる」ですから、悪魔じゃない可能性もありますからね。にもかかわらず、悪魔だということは何かあるんでしょうね。まず、イナダさんはどういう結論を出しているのか。それに対して話し合いによってどう変わっていくのか(笑)。そういう楽しみもあります。

——最後に、インタビュー記事を読まれる方へメッセージをいただけますでしょうか。

藤村:札幌の劇団が東京で公演をするという機会はほとんどなくて、でもイナダはなんとかギリギリのところで踏ん張って弱音を吐きながらも東京公演をやっています(笑)。大内さんが来て今年で2回目になりますが、おもしろい方向に行く予感はすごくあるので、ぜひ東京の人にたくさん観に来てほしいです。

大内:ありがたいことに去年から参加させてもらい、新しいイナダ組になるということで、その場で生きている感がすごく感じられるんじゃないかなと思います。劇場のシアターグリーン「BOX in BOX THEATER」はどこの客席からでもステージが近いし、表情も見られて、息づかいも大事な舞台だと思うので、ぜひ劇場で観てほしいなと思います。

取材・文・撮影=櫻井宏充

当記事はSPICEの提供記事です。

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