佐野元春『グッドバイからはじめよう』を読み解く

UtaTen

2019/5/19 09:01

別離・卒業・旅立ちのシンプルイズム



ストリングスを配したスロー・ナンバー『グッドバイからはじめよう』は、1980年にメジャー・デビューした佐野元春が、1983年に10thシングルとして発表し、ベスト・アルバム『No Damage(14のありふれたチャイム達)』にも収録されたナンバーです。

ですます調で表現したナンバーや、タイトルが歌詞に出てこないナンバーは今や数多いですが、本曲もそんな1曲です。

卒業・旅立ちソングは、3月~4月のこの時期にはいわゆる定番として聴かれますが、この曲は別離もテーマの中に入っているようです。

旅立ちのポジティブなところと、別れのネガティブなところが混じり合っていて、主人公の複雑な気持ちが反映されています。

恋愛としてではない、男女2人の別れ



歌詞内容を端的に言うと、彼女と僕との別れです。でも、恋愛としての別れのイメージではありません。

どういう訳か主人公には分からないけど、彼女はこの街を出ていく。僕はそんな彼女をただ、見送る。プラットホームだったイルカの『なごり雪』(1973年)のように、どこで見送っているのかは特定されていません。

彼女はサヨナラの意味で手を振るけど、僕は見送っているだけで、両手は上着かズボンのポケットに入れています。どうして彼女は手を振っているのか、僕は不思議に思っている様子です。

グッドバイからはじめよう



いわゆるフツーの旅立ち・卒業ソングではないことが示されています。確かに、残る者と出ていく者がいることは明示されてはいます。

しかし、完璧な卒業ソングに見えないのは、例えば『仰げば尊し』を裏キーにした、森山直太朗の『さくら』(2000年)と比べてみても明らか。旅立ち・卒業といった言葉は、一切使われていないのです。使われているのは「さよなら」だけ。

そして、「終わりははじまり」という本曲の一大テーマに帰着するのです。

当時では斬新な意味を含む"さよなら"



さよならは出会いの始まりだというのは、今ではあまり目新しくはありませんが、1980年代当時は新鮮でした。さよならをポジティブに捉えたこの表現は、一部の文学小説でも使われていましたが、邦楽では本曲が初めてではないでしょうか。

当時文壇デビューした村上春樹とのシンクロナイズも、見え隠れしています。群像新人文学賞を受賞し芥川賞候補になったデビュー作『風の歌を聴け』(1978年)の主人公の「僕」が、妙に本曲の僕と重なってくるのです。

ナイーヴなところはもちろん、去る者は追わずの姿勢などがシンクロします。また、彼は波のように別れがきたなどの表現は、文学的でもあります。

そして、3分間ソングのバラードという短時間の中で、言葉少なめの歌詞を書き上げ、それに抒情性をもたらせる作りとなれば、並大抵の作曲・作詞術ではありません。

ということで、卒業ソングのリクエストには入ってこずとも、別れをシンプルに表現した、心地よいナンバーだと言えるでしょう。

TEXT 宮城正樹

当記事はUtaTenの提供記事です。

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