『きのう何食べた?』西島秀俊の"シロさん"が持つ、2点の魅力


主題歌「帰り道」をバックにスマホの縦長画面で撮られる西島秀俊(弁護士・筧史朗役)と内野聖陽(美容師・矢吹賢次役)が料理を作って食べるまでの映像が最高に和むオープニング。毎週金曜の夜は、ゲイカップルの日常を描いたドラマ『きのう何食べた?』(脚本:安達奈緒子)が欠かせなくなってきた。

よしながふみによる原作漫画がもともと極めて人気が高く、そうなると実写化は賛否両論になりがちだが、西島秀俊と内野聖陽のキャスティングはおおむね好意的に捉えられているように思うし、彼らによってプラスアルファの魅力が加わった部分もあると思う。そこでここでは西島秀俊と内野聖陽の俳優としての魅力について書きたいと思う。叶うならば、ジルベール磯村勇斗、小日向役山本耕史まで書きたいところだが、まずは前編として西島秀俊。

西島演じる弁護士の史朗(シロさん)は“定時で帰ります”タイプ。節約家で料理上手、日々、安く購入した食材で丁寧かつ手際よく料理をつくる。ドラマは主に西島演じるシロさん視点で彼のモノローグで進行し、シロさんがいかに賢次(ケンジ)を想い(でも、ほんとうの好みとは違うタイプというところも面白さ)、いかに料理に心血を注いでいるかが描かれている。それを美味しく食べるのがケンジ。本来、ケンジが好むがっつり系やこってり系、コレステロールが高い卵料理などではなく、太らないようにカロリーに配慮した料理が多いとはいえ、ケンジはシロさんの料理をたいていなんでも嬉しそうに食べる。
○西島のストイックさが説得力に

シロさんが西島で良かったと思う点は2点ある。ひとつは、料理上手な節約家という点。シロさんは神経質なまでに節約にこだわりとことんお店を選び抜き、1円でも安くない食品を買ってしまった日にはものすごく悔しがる。そういう妥協を許さない性格が西島のストイックな体型にぴったり。これまで、役作りのために徹底的に体を鍛えたり体重を変化させたりしてきた西島。計算しつくしてトレーニングして求める体になっていく西島の身体は、シロさんが一円までこだわるところ、己のレシピどおりにきちっと作るところ、味だけでなくカロリーなども考え抜いているところと親和性がある。調味料の量も完璧にする指先まで神経が行き届いている手付きや姿勢の良さもいい。儀式の域まで高められた真剣勝負のように料理する。刃物を使った食材の扱いが敵を仕留めるヒットマンのようでさえある。

そんなふうに思えたのは、2話で、スーパーで偶然出会った主婦・富永佳代子(田中美佐子)と節約の面で意気投合し、彼女の家にスイカを半分にしてもらいに行った際、史朗はただものではない怪しさを漂わせ、主婦に見の危険をおぼえさせるのだ。テレビを見ていて西島秀俊が持つ刃物が武器に見えてしまったのも無理はない。これまで、『MOZU』『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』『奥様は、取扱い注意』などで何度も何度も公安の刑事を演じてきた西島だからこそ醸し出してしまう、というか視聴者が勝手にバイアスをかけて見てしまうのだ。それはそれでドラマを面白くさせている。原作はここまで肉体的に強そうな人のイメージではないが、節約への執着はTHE任務という感じはして、任務遂行が似合う西島でよかったという気がする。
○人の想像をふくらませる存在

そこで、西島秀俊がシロさんで良かった点2つ目は、“秘密”めいた部分である。シロさんはごく一部の人にしかゲイであることを明かしていない。この隠し事をしているところが、繰り返すが、秘密裏に操作する公安の刑事を演じてきた西島にぴったりなのだ。明るい役もやっているとはいえ、西島秀俊には、喜怒哀楽をあまり極端に出さない寡黙な役を多く演じているというイメージがある。たとえば、刑事ドラマ『ストロベリーナイト』の台本では、彼が演じた菊田はほんとうに「……」ばかりで、ひたすら竹内結子演じる姫川をみつめていたのだ。表情をあまり変えずじいっと佇むその顔に人は秘めた想いを勝手にどんどん想像する。シロさんもまさにそんな感じで、職場の人たちは勝手にいろいろ勘違いしている。『きのう何食べた?』が面白いのは、そんな謎めいたシロさんがモノローグで本音を語り続けるところだ。6話では、新人弁護士(真魚)に惚れられたのではと勘違いして自爆。それも最高に面白かった。

西島秀俊は、『あすなろ白書』(93年)でゲイであることをひた隠しにしている役を演じてブレイクするもメジャーシーンを選ばず、シネフィル男子(マニアな域まで行くほど映画がものすごく好き)として芸術性の高い映画に多く出ていた。それが近年は幅が広がり、家電や洗剤のCMで家事男子的なイメージがつき、ドラマ『メゾン・ド・ポリス』でも家事の得意な元刑事を演じていた。様々な役を演じるだけでなく、“西島秀俊”という俳優のキャラも更新し続け、流動的。やっぱり少しミステリアスな存在だ。映画『CUT』公開時だったか、良質だが見る人を選ぶような映画を見てもらうためにテレビにも出るというようなことをどこかの媒体で語っていたことがあったような記憶があるが、いまだにそういう信念をもってキャラの更新を行っているとしたら任務に身を捧げている姿は尊い(あくまで勝手な想像です)。

そんな西島秀俊が演じるシロさん。謎めいている。調理器具の扱いがうまい。細かく計画的に動く。寡黙なようでしゃべるときはしゃべる。献身的。……とこれまでの彼のキャラの集大成のような魅力が詰まっている。シロさんは西島秀俊の代表作になるだろう。

■著者プロフィール
木俣冬
文筆業。『みんなの朝ドラ』(講談社現代新書)が発売中。ドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』、ノベライズ『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』 など。5月29日発売の蜷川幸雄『身体的物語論』を企画、構成した。

当記事はマイナビニュースの提供記事です。

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