ライザップ、営業赤字94億円…大物経営者招聘の裏に、瀬戸社長の“経営家庭教師”の存在


 RIZAP GROUP(ライザップグループ、以下RIZAP)が5月15日に決算発表(2019年3月期通年)を行った。

年間売上は2225億円で対前年比82.3%増となった。通常の単一事業会社の決算としたら、すばらしい進捗である。しかし、RIZAPの場合、今回の発表で注目されていたのが、利益のほうである。前年の18年3月期は136億円の営業利益をたたき出し、年度初めの19年3月期利益予想額は230億円と野心的なものだった。

ところが、昨年11月に修正予想として33億円の営業損失と大幅な減額が実施された。今回の発表前には100億円の赤字になるとの予想も報道されていたのである。正式発表された営業赤字は94億円で、100億円まではいっていなかったものの、1年前の大躍進感が打って変わって株式市場では「墜ちた偶像」的な銘柄と成り果てた。

RIZAPにとって最大の興味は、この「底を打った」と評することもできる状況から、未来に向けてどのようにターンアラウンドを実現していけるかだろう。

創業経営者である瀬戸健社長は報酬の全額返上をすでに表明してその決意を表していたが、今回は中井戸信英(のぶひで)氏を取締役会議長として招聘し、多くを委任したかたちである。中井戸氏は6月の株主総会で正式に着任する。

瀬戸社長は、昨年は「プロ経営者」としてその名も高い松本晃氏をCOO(最高執行責任者)として招聘した。ところが昨年6月に就任した松本氏は10月には早くもCOOを退任し、6月の株主総会では取締役からも離任するという。いわば助っ人のエース経営者が交代するわけだ。

期待を集めた松本氏の早期退任と、入れ替わるかたちとなる中井戸氏の登場の背景を分析する。本稿ではまず、中井戸氏着任の事情から検証したい。

●またも大物経営者、中井戸氏の登板

前COOの松本氏がカルビーというよく知られた食品会社を立て直して抜群の知名度を持っていたことに比べると、中井戸氏はそれほど知られていない。しかし、経営者としての「大物感」とその経営実績は赫々たるものがある。中井戸氏は総合商社の住友商事で代表取締役副社長まで勤め上げ、09年からSCSKの代表取締役会長兼社長だった。

SCSKは法人向けのITサービス会社なので一般的な知名度は高くないが、年商3000億円超で従業員数1万人以上、業界第6位の大企業だ。住商情報システムと業界の草分け的存在だったCSKが11年に合併してSCSKに商号変更した。合併当時から住商出身の中井戸氏がトップを務め、任期中に同業界のBest of CEOに選出されたこともある。16年からは相談役として同社では非常勤となっていた。

中井戸氏を迎えることになったRIZAP側の業容はというと、連結では従業員数こそ7000人超でその年商は1360億円(18年3月期、以下同じ)だが、それらの数字には2年半で60社以上を傘下に入れたといわれる子会社群のものが含まれる。いわば水ぶくれした連結数字である。本業ともいえるボディメイク事業を行っているRIZAP株式会社の年商は約329億円にすぎない。

いってみれば、新興の上場企業に1桁上の大企業から大経営者が舞い降りた、というのが中井戸氏の着任なのだ。

●中井戸氏登板の背景には大物最高顧問の存在が

危急存亡の秋(とき)を迎えているようなRIZAPの瀬戸社長が、ここでなぜ中井戸氏を招聘できたのだろうか。まさか中井戸氏がRIZAPでボディメイクに励んでいたわけでもないだろう。

中井戸氏を瀬戸社長に推挙したのは、著名な経営評論家の新将命(あたらしまさみ)氏だった。新氏は自身がジョンソン&ジョンソン日本法人など大手外資数社で社長を務めてきた「伝説の外資経営者」で、『経営の教科書』(ダイヤモンド社)など多くの経営書を通じてのファンが多い。

新氏が11年にとあるところで経営セミナーを行っていたところ、聴講していた瀬戸社長が感心して、その場でRIZAPでの経営指導を懇請した。新氏はRIZAPで社外取締役でもあったが、松本氏が着任した昨年の株主総会で取締役を退任した。現在はRIZAPの最高顧問という肩書きである。いってみれば、瀬戸社長の経営家庭教師のような存在だと私はみている。

瀬戸社長は創業オーナー経営者にありがちな直情径行的な、よくいえば率直で果断なところがある。新氏を招聘したときもそうだが、昨年松本氏のカルビー退任が報じられるや、即日に直接電話を入れてRIZAPへの助力を求めたと報じられている。松本氏は瀬戸氏の即応性と意気に感じてその招聘を受けたとされた。

さて、新氏は03年から11年まで、住友商事でアドバイザリーボードメンバーとして経営幹部の指導の任に当たっていた。この期間、住友商事で要職にあった中井戸氏の知遇を受け、両氏は肝胆相照らす信頼関係を構築し、中井戸氏がSCSKに転出した後もその関係は続いていた。

松本氏がCOOの退任を発表したのが昨年の10月だった。瀬戸社長としては、松本氏を失った後に残るRIZAPの惨状をどう舵取りしていくか、自分だけでやっていくことに自信が持てなかったに違いない。経営家庭教師である新顧問に相談したところ、新氏自身は高齢なこともあり現場復帰に興味がないこともあり、知友の中井戸氏を推挙した、といういきさつである。

中井戸氏は16年にSCSKでは相談役に退いていたところでもあり、要請に応じられる状況だった。同氏は今年72歳で、経営者として現場復帰にまったく問題がない年齢であり、経営意欲も十分なことだったろう。

私のこの推定についてRIZAPの広報に確認したところ、「瀬戸社長が10年来師事を仰いできた方が、20年来のお知り合いというかたちで中井戸氏を推挙された」と、実質的に肯定された。

●大会社の経営者がRIZAPで直面するチャレンジとは

住友商事、そしてSCSKで名声をほしいままにした中井戸氏が、瀬戸社長の要請に応えてRIZAPをV字回復させることができるのか。大いに注目されるところだ。

中井戸氏は、しかしRIZAPで大いに戸惑うことになるのではないか。少なくともその着任当初は。

ひとつめの理由は、組織規模の違いである。住友商事やSCSKは大手で、業界で先達的な企業だった。一方、RIZAPは創業社長に率いられて上場してきた、まだまだ新興の会社で、中井戸氏が在任した2社と比べて企業成熟度が大きく遅れている。大会社、大組織を率いてきた中井戸氏がその違いにうまく、そして素早く対応できるかということだ。

2つめの理由は、RIZAPが拡大しきってしまった子会社群をどう統治していくか、ということだ。住友商事のような総合商社には、事業部門も子会社も無数にあり、一見構造的に類似する構成のように見える。しかし、決定的に異なるのは、それらの多数の会社を経営していくための経営者人材のプールだろう。

RIZAPが買い集めてしまった企業群は不調にあえいでいたところが多い。つまり、それらの経営者の資質には疑問点が残るだろう。一方、住友商事のような一流商社は、人材の宝庫といっていい。任せられる経営者人材の不足に直面する中井戸氏に、新しい挑戦が待ち受けている。

●プロ経営者、松本氏はなぜ逃げ出したのか

今回のトップ人事に至った、松本氏のCOO半年辞任、私は評論としてそれを「逃亡」と呼ばせてもらう。次稿ではプロ経営者の名声が高い松本氏をしてRIZAP経営から逃亡するに至った事由を検証する。
(文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント)

当記事はビジネスジャーナルの提供記事です。

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