ジャパンディスプレイ、中国企業への“身売り”を招いた経産省の“無策”経営…責任を放棄


 一体、なんのための「日の丸液晶連合」だったのか。

経済産業省が音頭を取り、ソニー、日立製作所、東芝の中小型液晶事業を統合。官民ファンドのINCJ(旧産業革新機構)から2000億円の出資を受け、2012年に発足したジャパンディスプレイ(JDI)が、台湾・中国の企業連合から資本を受け入れることで最終合意した。いわば、“日の丸液晶連合の挫折”である。

出資するのは、台湾の電子部品メーカー、宸鴻光電科技(TPK)や台湾金融大手の富邦グループ、中国最大の資金運用会社の嘉実基金管理グループの3グループ。

台中連合はJDIに800億円の資金を注入する。このうち420億円は普通株で、残り380億円の新株予約権付き社債(転換社債)を引き受ける。台中連合の議決権は49.8%に達し、筆頭株主となる。転換社債を株式に転換すると、出資比率は最大6割超に拡大する。そして取締役の過半を送り込む。

JDIは7年の迷走の果てに、台中連合に事実上の“身売り”となった。日の丸液晶づくりの旗を振り続けた経産省は、どう責任をとるつもりなのか。

●アップルとの契約見直しが最大の焦点

JDIは4月12日に最終合意したと発表したが、アップルとの取引条件の緩和が焦点となり、交渉は難航した。台中連合は、JDIが白山工場(石川県)の建設のためにアップルから借りた資金の未返済分約1000億円の繰り延べや、JDIの現預金が一定額を下回るとアップルがJDIの工場を差し押さえることができる契約の見直しを求めてきた。

アップルは要求の一部を受け入れる姿勢を示し、TPKを後押ししたとされる。未返済分約1000億円について、19年度返済分の一部を20年度に繰り延べる方向だという。だが、JDIの現預金が300億円を下回った場合、白山工場を差し押さえることができる契約はそのまま残った模様だ。

アップルからの借り入れが通常の融資と違うのは、その返済原資が貸し手であるアップルからの注文次第で変動することだ。アップルがiPhone用の液晶の注文を減らせば、JDIはたちまち返済原資が減り、資金繰りに行き詰まる。タイトロープ上を歩くような経営が続くわけだ。

アップルがJDIの生殺与奪権を握っているといっても過言ではない。JDIの18年12月末時点の現預金は543億円。18年3月末と比べて265億円減った。アップルが液晶パネルを大量発注しなければ、たちまち現預金は300億円を割り込む。台中連合からの800億円のニューマネーの注入で、ひとまず工場の差し押さえは免れることができるが、先行きは不透明なままだ。

JDIは筆頭株主のINCJから「3月末までに外部資本の注入で合意しなければ、支援を継続するのは難しい」と迫られていた。そのため、台中連合は“時の氏神”となった。

台中連合の3社は4月下旬から6月にかけて順次、JDIの支援を機関決定する予定だったが5月13日、JDIは「事業の見通しを再精査した上で内部の機関決定を行う予定」との連絡を受けたと発表した。15日に予定していた共同記者会見は延期する。JDIは「日程がずれただけ」と説明し、出資は予定通り行われるとの見通しを示したが、懸念する声が多く上がっている。

台中連合の資金が入るとしても、それまでには時間がかかるため、INCJはJDI向け債権のうち750億円を、議決権のない優先株に振り替える。残りの770億円は長期格付け(シニアローン)に切り替える。これとは別にツナギ融資も行うとされている。

JDIの資本増強は台中連合の420億円の普通株の買い取りとINCJの優先株分の750億円の合計1170億円となる。

この結果、JDIの自己資本比率は18年末の15%から上昇するが、JDIが経営危機を免れることができるわけではない。まだ難関が待ち構えているのだ。

それは米国の対米外国投資委員会(CFIUS)による審査だ。CFIUSは外国企業による米企業の買収について、安全保障上の問題がないかどうかを審査する機関だ。液晶は半導体など27分野の「重要技術」に準ずる扱いとされ、CFIUSは買収審査を厳しくしている。

昨秋、LIXILグループはイタリア子会社のペルマスティリーザを中国企業に売却する案件が断念に追い込まれた。ペルマスティリーザはビルの外壁を手掛けるメーカーで、安全保障に抵触しないが、米国での売り上げが4割を占めるため、中国企業への売却を承認しなかった。

JDIの主力製品である液晶ディスプレーの最大顧客は米アップル。米国企業に密接に関連するビジネスと判断されれば、中国企業の出資に待ったがかかる可能性が高い。米トランプ政権は、中国企業が先端技術の分野でM&A(合併・買収)することを警戒しており、“米中貿易戦争”がJDIの資本増強策に影を落としている。資本増強がすんなり進むかどうかは見通せない。

●新体制のCEOは誰になるのか

JDIは12年、経産省が主導し「日の丸液晶連合」を目指した。官民ファンドの産業革新機構(現INCJ)が議決権の70%を握るかたちでスタートを切った。革新機構は14年にJDIが株式を上場して1600億円超を回収した後も関与を深め、16年12月に韓国勢に比べて商品化が遅れていた有機ELパネルの開発資金として、750億円の金融支援を決めた。18年3月末にはアップル向け液晶パネルの増産に向け200億円を支援した。

過剰設備を抱える原因となった15年3月の白山工場(石川県)の建設の決定を主導したのは、革新機構出身の取締役だった。ただ、今回、INCJは新規資金を出さなかったため、18年9月末で25.3%あった議決権比率は12.7%にまで低下する。

産業革新機構による事業再建の実は、まったく上がらなかった。中国のパネルメーカーが政府の手厚い支援を背景に急成長したことで価格競争が激化し、採算が悪化した。

とどめを刺したのが、主要顧客であるアップルの不振だ。JDIのアップルへの依存度は55%弱である。アップルは17年、一部のスマホで有機ELを採用したが、JDIは有機ELで韓国サムスン電子などに大きく後れを取った。液晶パネルの納入量が減少し、従業員や工場のリストラに追い込まれた。構造改革に1400億円以上をかけざるを得なくなった。

月崎義幸社長兼最高執行責任者(COO)は4月12日の記者会見で「国内拠点の統廃合を視野に入れている」と語り、追加リストラを示唆した。

19年3月期の業績予想は再び下方修正した。売上高は前期(7175億円)に比べ10%の減少を見込む。5~15%の増収としていた従来予想を引き下げた。営業損益は200億円超の赤字(18年3月期は617億円の赤字)の見込み。最終損益は具体的な数字を示していないが、5期連続の赤字となるのは確実だ。年度後半からアップルのスマホ「iPhone XR」の出荷拡大を見込んでいたが、XRの失速で最終損益の黒字化達成は困難となった。

「19年3月期の黒字転換」を公約していた東入来信博会長兼最高経営責任者(CEO)は、アップル、台中連合、INCJの利害調整に追われ、過労で緊急入院した。3月26日、月崎社長が会長兼CEOの業務を代行すると発表した。

今後の焦点は、6月の株主総会で発足する新体制で誰が経営トップに就くのかだ。経産省が主導したトップの人選は、これまでことごとく失敗に終わっている。

●株価は公開価格のおよそ20分の1

JDIは14年3月にIPO(新規株式公開)した。公開価格は「高すぎる」とされたが、日本興業銀行出身で革新機構から送り込まれた上場担当役員(白山工場の建設を主導した人物)と、幹事証券会社の野村證券が強引に900円に決めた。その株価は18年12月、50円の上場来安値の“倒産株価”をつけた。公開価格の、およそ20分の1の水準にまで崩落した。

その後、資本注入の思惑から株価は反転。19年1月23日に96円の年初来高値をつけた。最安値から倍増に近い株価になったのだから皮肉だ。5月10日の終値は73円で材料出尽くしとなった。年初来高値(96円)から24%の下落だ。

JDIは投資家を再三再四、裏切ってきた。上場1カ月後に業績予想を下方修正し、その後は業績見通しの下方修正の常習企業に成り下がった。14年の836円が上場後の最高値。公開価格を一度も上回ったことがない。その後、株価は下落の一途をたどっている。市場関係者は“ゾンビ企業”と酷評する。

株価面で見れば、もはや“倒産企業”である。小手先の資本注入を繰り返すのではなく、法的措置(会社更生法など)を申請して、一から出直したほうがいいと冷ややかに見る向きも多い。

だが、そうしないのは、倒産させたら経産省が自らの産業政策の過ちを認めることになり、批判の矢面に立たなければならなくなるからだ。アベノミクスの失敗例とされることを経産省は警戒している。

JDIの歴代経営者は、ことごとく“敵前逃亡”した。経産省は「ゾンビ企業をいつまで助けるのか」と厳しく批判されているが、実際に、JDIの経営に関して1から10まで口出ししてきた。そして、最終局面で再建のカジ取りを断念して台中連合に経営を丸投げした。それにもかかわらず、経産省は責任取ろうとしない。

「先端技術の液晶は守らなければならない」と主張してきた経産省が、「液晶はもはやコモディティ(汎用品)になった」と言を翻した。経営放棄の責任を回避するような発言を繰り返している。
(文=編集部)

当記事はビジネスジャーナルの提供記事です。

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