『クリムト展 ウィーンと日本 1900』レポート 初来日作品を含む25点以上のクリムトの油彩画が一挙公開!

SPICE

2019/5/2 18:05


世紀末のウィーンで活躍した画家グスタフ・クリムト。金箔を多用した装飾的な作品や官能性を帯びた女性像は、これまで多くの人々を魅了してきた。東京都美術館で開催中の『クリムト展 ウィーンと日本 1900』(会期:~2019年7月10日)は、世界屈指のクリムトのコレクションを誇るベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館の全面協力により、初期から晩年にいたるクリムトの40年間の画業をたどるもの。
会場エントランス
会場エントランス
グスタフ・クリムト 《ヌーダ・ヴェリタス(裸の真実)》 1899年 オーストリア演劇博物館蔵
グスタフ・クリムト 《ヌーダ・ヴェリタス(裸の真実)》 1899年 オーストリア演劇博物館蔵

国内では過去最多となる25点以上のクリムトの油彩画がそろうほか、クリムト最大級の作品となる《女の三世代》(ローマ国立近代美術館蔵)の初来日や、全長34メートルにおよぶ壮麗な壁画《ベートーヴェン・フリーズ》の原寸大複製展示など、見どころが満載だ。
《ベートーヴェン・フリーズ》展示風景
《ベートーヴェン・フリーズ》展示風景

全8章からなる会場には、クリムトを含む100点以上の作品が集い、世紀末ウィーンの芸術を網羅しつつ、各章にクリムトの名品を展示している。
グスタフ・クリムト 《赤子(ゆりかご)》 1917年 ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵
グスタフ・クリムト 《赤子(ゆりかご)》 1917年 ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵

本展では、クリムトを中心に結成された芸術家グループ「ウィーン分離派」の開催した展覧会ポスターや、クリムトの友人や兄弟の作品も併せて楽しむことができる。また、日本美術に関心のあったクリムトが、当時のウィーンで見た可能性のある、日本に関する書籍も紹介されている。
『日本の春画三十六選 菱川師宣、鈴木春信、喜多川歌麿』 1907年 ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館蔵
『日本の春画三十六選 菱川師宣、鈴木春信、喜多川歌麿』 1907年 ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館蔵

一般公開に先立ち催された内覧会より、学芸員の特別解説も交えつつ見どころをお伝えしよう。

クリムト自身の人生を知る展覧会


「本展では作品を通して、包括的な形でクリムトの人生をご覧いただきます」と説明したマークス・フェリンガー氏(ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館 学芸員)。第1章「クリムトとその家族」と第2章「修行時代と劇場装飾」では、クリムトの生い立ちからはじまり、画家の家族や兄弟についての情報を得ながら、ウィーンの工芸美術学校で学んでいたクリムトによる、初期の作品を見ることができる。
左:モーリッツ・ネーア 《猫を抱くグスタフ・クリムト、ヨーゼフシュテッター通り21番地のアトリエ前にて》 1911年 ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館蔵
左:モーリッツ・ネーア 《猫を抱くグスタフ・クリムト、ヨーゼフシュテッター通り21番地のアトリエ前にて》 1911年 ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館蔵
左:グスタフ・クリムト 《レース襟をつけた少女の肖像》 1880年 個人蔵
左:グスタフ・クリムト 《レース襟をつけた少女の肖像》 1880年 個人蔵

「初期のクリムトは、歴史主義にのっとったクラシカルな作品を描いていました。さらにクリムトは日本の美術から多々影響を受けており、自分でも熱心に日本の美術を研究していました」とフェリンガー氏。劇場装飾やウィーン美術史美術館の壁面装飾を手がけながら、クリムトは次第にウィーンを代表する画家となっていく。
右:グスタフ・クリムト 《音楽の寓意のための下絵(オルガン奏者)》 1885年 ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館蔵
右:グスタフ・クリムト 《音楽の寓意のための下絵(オルガン奏者)》 1885年 ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館蔵

第1章では、クリムトの姪にあたる少女を描いた《ヘレーネ・クリムトの肖像》、第4章「ウィーンと日本 1900」では、額縁に草花が描かれた、日本美術からの影響を伺わせる《17歳のエミーリエ・フレーゲの肖像》や、浮世絵の美人画を思わせる縦長の作品《女ともだちⅠ(姉妹たち)》が展示される。
グスタフ・クリムト 《ヘレーネ・クリムトの肖像》 1898年 ベルン美術館蔵(個人から寄託)
グスタフ・クリムト 《ヘレーネ・クリムトの肖像》 1898年 ベルン美術館蔵(個人から寄託)
グスタフ・クリムト 《17歳のエミーリエ・フレーゲの肖像》 1891年 個人蔵
グスタフ・クリムト 《17歳のエミーリエ・フレーゲの肖像》 1891年 個人蔵
右:グスタフ・クリムト 《女ともだちⅠ(姉妹たち)》 1907年 クリムト財団蔵
右:グスタフ・クリムト 《女ともだちⅠ(姉妹たち)》 1907年 クリムト財団蔵

本物の金箔を用いた「黄金様式」時代の傑作《ユディトⅠ》


世紀の変わり目になり、ウィーン画壇の保守的な環境に不満を抱くようになったクリムトは、1897年に、自由な表現活動を目指した「ウィーン分離派」を結成。第5章では、その頃に描いた名作《ユディトⅠ》が紹介される。
グスタフ・クリムト 《ユディトⅠ》 1901年 ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館蔵
グスタフ・クリムト 《ユディトⅠ》 1901年 ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館蔵

クリムトは1900年以降、およそ10年間「黄金様式」の時代と称される時期に、金箔をはじめ、金の表現を洗練させたという。《ユディトⅠ》は、敵将ホロフェルネスを誘惑し、その首を取ったユダヤの女性ユディトの物語を借りて、女性のセクシュアルな魅力が放つ危険性を象徴的に描いた作品。「クリムトが今日知られている要素がすべて盛り込まれている」と話すフェリンガー氏は、本作でクリムトがはじめて本物の金箔を使用したことや、生身の身体を彩る装飾的な画面などの特徴を挙げつつ、「彼が当時置かれていた、個人的な人生の状況が現れています」と解説。
ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館 館長のステラ・ローリッグ氏(左)と、同館学芸員のマークス・フェリンガー氏(右)
ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館 館長のステラ・ローリッグ氏(左)と、同館学芸員のマークス・フェリンガー氏(右)

「クリムトは、非常に奔放な恋愛関係で知られていますが、本作が描かれた時期にも複数の女性と関係を持っていて、彼自身が抱いていた不安や、そこから生じる何かしらの不安定な気持ちといったものも、この作品には込められています」

クリムトの自己像が反映された壁画《ベートーヴェン・フリーズ》


フェリンガー氏は、クリムトの作品について以下のように説明する。

「クリムトは自分自身の人生観や、不安や望みといったものをすべて作品に反映させる画家でした。彼の作品は常に自己反映であり、自分自身がその時置かれていた人生の状況が、そのまま彼の作品になっているのです」
アルフレート・ロラー 《第14回ウィーン分離派展ポスター》 1902年 宇都宮美術館蔵
アルフレート・ロラー 《第14回ウィーン分離派展ポスター》 1902年 宇都宮美術館蔵

クリムトの「黄金様式」の時代のもうひとつの代表作として、1902年に開催された第14回ウィーン分離派展において、ベートーヴェンの交響曲第9番に着想を得て制作された《ベートーヴェン・フリーズ》が挙げられる。第5章では、ウィーン分離派会館に描かれたオリジナルの壁画を、精巧に模倣したレプリカを展示。東京都美術館学芸員の小林明子氏は「原寸大の複製を、分離派会館の空間とできるだけ近い形で展示することで、その壮麗さを体感していただきたい」とコメントした。
グスタフ・クリムト 原寸大複製の《ベートーヴェン・フリーズ》(部分) 1984年(オリジナルは1901-02年) ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館蔵
グスタフ・クリムト 原寸大複製の《ベートーヴェン・フリーズ》(部分) 1984年(オリジナルは1901-02年) ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館蔵

全長34メートルにおよぶ壮大な壁画には、騎士が幸福を求めて敵に向かい、楽園にたどり着くまでの旅路が絵巻物のように描かれている。フェリンガー氏は、壁画に描かれた黄金の騎士が、クリムトの自己像を反映していると解説。「クリムト自身が敵対する力(病・狂気・死の擬人像、淫欲・不摂生の擬人像など)と戦っている様子が正面の壁画に描かれ、戦いを乗り越えて勝利し、最後には右側の壁画で2人の男女がきつく抱擁する場面が描かれている」と語った。
グスタフ・クリムト 原寸大複製の《ベートーヴェン・フリーズ》(部分) 1984年(オリジナルは1901-02年) ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館蔵
グスタフ・クリムト 原寸大複製の《ベートーヴェン・フリーズ》(部分) 1984年(オリジナルは1901-02年) ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館蔵

なお、本作には金がふんだんに使われていて、その上に輝石や貝殻が配されている。複製壁画にもそうした物理的に輝く素材が忠実に再現されているので、じっくり拝見してみたい。
グスタフ・クリムト 原寸大複製の《ベートーヴェン・フリーズ》(部分) 1984年(オリジナルは1901-02年) ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館蔵
グスタフ・クリムト 原寸大複製の《ベートーヴェン・フリーズ》(部分) 1984年(オリジナルは1901-02年) ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館蔵

知られざるクリムトの風景画から、日本初公開の《女の三世代》まで


第6章と第7章では、クリムトが手がけた風景画や肖像画を紹介する。
グスタフ・クリムト 《アッター湖畔のカンマー城 Ⅲ》 1909/10年  ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館蔵
グスタフ・クリムト 《アッター湖畔のカンマー城 Ⅲ》 1909/10年  ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館蔵

人物、とりわけ女性を描く画家として人気のあるクリムトだが、風景画家としての一面もあったという。本展では、クリムトの風景画が4点出品されている。フェリンガー氏は、クリムトにとって、風景画や肖像画などの絵画作品は装飾品であったとコメント。
グスタフ・クリムト 《オイゲニア・プリマフェージの肖像》 1913/14年 豊田市美術館蔵
グスタフ・クリムト 《オイゲニア・プリマフェージの肖像》 1913/14年 豊田市美術館蔵

「クリムトの風景画は、決して自然を捉える眼差しという形で描かれたものではなく、部屋を彩る装飾品としての風景画でした。同じように肖像画もある特定の人物を描くということではなくて、その人物を描いた肖像画がそのまま、装飾的なものとして扱われる。これらは、すべての作品に共通しているクリムトらしい特徴です」
右:グスタフ・クリムト 《丘の見える庭の風景》 1916年頃 ツーク美術館蔵(カム・コレクション財団から寄託)
右:グスタフ・クリムト 《丘の見える庭の風景》 1916年頃 ツーク美術館蔵(カム・コレクション財団から寄託)

第8章では、クリムトがくり返し取り上げた「生命の円環」をテーマにした作品を展示。なかでも注目したいのが、初来日となる《女の三世代》だ。本作は、現存するイーゼル画としては最大サイズの作品とのこと。幼年期、青年期、老年期をそれぞれ象徴する3人の人物が描かれた本作について、成城大学名誉教授(広島県立美術館館長)の千足伸行氏は以下のように解説した。
成城大学名誉教授の千足伸行氏とグスタフ・クリムト 《女の三世代》 1905年 ローマ国立近代美術館蔵 
成城大学名誉教授の千足伸行氏とグスタフ・クリムト 《女の三世代》 1905年 ローマ国立近代美術館蔵

「生まれた以上、誰もがたどる人間の運命といった、ともすれば暗くなりがちなテーマを、装飾的な美しさで補っている。全体的に華やかで、抽象的なモチーフをあしらうことで、色彩的にも非常に美しい効果を上げている」

さらに、銀箔を用いたと考えられる背景や装飾的な画面について、ジャポニスムの流行をはじめ、琳派や着物の文様といった日本の装飾感覚から、クリムトが影響を受けた可能性もあると補足した。

なお、本展のスペシャルサポーターには、舞台や映画批評など多方面で活躍する稲垣吾郎が就任している。稲垣による落ち着いた声でクリムトの名作を紹介する音声ガイドも、併せて楽しみたい。『クリムト展 ウィーンと日本 1900』は2019年7月10日まで。

当記事はSPICEの提供記事です。

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