「性別関係なく選べる制服」は成功したのか――導入1年で見えてきた、“矛盾”と“無意識の偏見”


 昨今、「性別に関係なく誰でも自由に選べる制服」を導入する中学校が増えているのをご存じだろうか。男子だからスラックス、女子だからスカートを着用しなければならないというわけではなく、着たい制服を本人の希望で選んでよいという、新しい試みだ。

昨年3月に、千葉県の柏市立柏の葉中学校でこの制服が導入されるというニュースがネット上で大きな話題となり、多様性を認める現代にフィットした動きとして、世間の反応はおおむね好評だった。そして現在、こうした“制服自由化”の動きは全国に広まっており、東京、千葉、埼玉、福岡、佐賀など、各地で導入の検討が進んでいる。

筆者もこの“制服自由化”は非常にうれしいニュースと受け取り、さらなる情報を求め、該当エリアの地方新聞をいろいろと読んだりもした。だが、ふと取り上げられ方に違和感を覚えた。例えば、2018年10月31日付の「静岡新聞」の記事では、静岡県内にある公立中学校が制服を自由に選べるようになった、との記事が写真つきで紹介されていたのだが、そこに掲載されていた写真は、男子のブレザー・スラックスの組み合わせ、女子のブレザー・スカートの組み合わせ、そして女子のブレザー・スラックスの組み合わせの3パターンだけだった。

また、19年2月4日付の「日本経済新聞」には、埼玉県の公立中学校が紹介されていたのだが、こちらも掲載されていた写真は、スラックスを着用した女子が写っていただけ。記事にも「女子生徒の制服を従来のブレザーとスカートに加え、スラックスを選べるようにした」とあった。

いったい何に違和感を覚えたかというと、「男子がスカートをはく」という選択肢だけ、なぜかすっぽりと抜け落ちていたのだ。「日本経済新聞」の記事には、「女子も選べるスラックス 中学校制服、LGBTに配慮」というタイトルがついていたし、「学校現場で『性別と服装の不一致』に悩む子供への配慮が進みつつある」という一文もあった。それにしては、女子のことばかりが打ち出され、男子は後回しになっている……そんな思いが拭いきれなかった。

そこで筆者は、18年4月からこの制服自由制度を実施している柏市の柏の葉中学校と、19年1月29日付の「埼玉新聞」の取材に対して「男子はズボン、女子はスカートという固定観念を捨てる」という発想で、制服自由制度を導入すると宣言していた埼玉県の戸田市立戸田東中学校、そして、19年4月から区内の全公立中学の制服自由制度の導入を始めるという、中野区・世田谷区の教育委員会に取材を申し込んだ。

まず、いち早く制服の改革に取り組んだ柏の葉中学校は、昨年4月に開校したばかりの新しい学校である。「制服・校内服検討委員会」を立ち上げ、職員や入学予定児童、保護者から意見を募り、制服に関するアンケートも実施していた。

同校の滝恒真教頭によると、制服自由化を決めた経緯は「制服等検討委員会において、機能性・経済性・洗濯可能・サイズ調整が容易・LGBTへの配慮等の多くの論点から、現在の制服が制定されました」とのこと。「『防犯や防寒のため、女子がスラックスを着用してもよいのではないか』『LGBTにも配慮できるのではないか』という意見もあり、これらを踏まえて総合的に判断した結果です」と、説明してくれた。

一方、中野区は「各校の判断で女子の標準服へのスラックス導入を進め、希望があった場合の対応についても考慮してきました」とのことで、すでに女子が制服としてスラックスを着用することについて、“学校判断で”認めているとのこと。「男子のスカート着用」について聞いてみると、「今回は女子生徒について、スカートとスラックスの選択を自由化するものです。男子生徒の取り扱いについては、学校長に協議を依頼しています」との回答だった。

なお、世田谷区からは期限内に回答を得ることができず、戸田東中学校からは「本年度より校長が変わり、制服への取材については、これまでの経緯を把握していないため、御遠慮いただく方針となりました」との返答があった。

柏の葉中学校・中野区ともに、「女子のスラックス」については「着用を認めている」と明言するが、「男子のスカート」については、曖昧な解答しか得られなかった。これはいったい、なぜなのか。

柏の葉中学校に「制服自由制度を取り入れることが決まった際の生徒や保護者、地域の方々の反応」について質問したところ、興味深い回答が得られた。なんでも、保護者から「『LGBT対応に特化した制服』という報道が先行してしまったことで、“機能性”からスラックスを選択したいと考えている生徒も、LGBTの生徒も、どちらも制服を着用しづらくなってしまったのではないか」という意見が出たというのだ。

保護者が生徒のこと、すなわち“自分の子ども”のことを心配するのは当たり前だ。しかし、「うちの子がLGBTに見られてしまうのでは」という考えが透けて見え、その裏には、“無意識の偏見”を感じざるを得ない。柏の葉中学校は、男子のスカート着用について「本人や保護者からの申し出があれば、対応します」と答えているが、まだ10代の子どもが親や先生に「スカートをはきたい」と言えるのか、“無意識の偏見”に耐えられるのかどうかは、大きな疑問が残る。

“制服自由制度”は画期的な取り組みとして大きな話題になったものの、まだ始まって日が浅いこともあり、現状では学校・自治体ともに、性的少数者および多様性のある社会への意識は「ほぼ以前と変わっていない」というのが正直な印象だ。本来なら、いち早くこの制度に着手した学校や自治体が、メディアの取材に積極的に応じ、自信を持ってこの取り組みを世に知らしめるべきだと思うのだが、どこも消極的な対応だった。これこそがまさに、今の日本が「少数派」をどう扱うのかという問いへの答えだと言えるのではないだろうか。

そしてもう一つ、非常にデリケートなこの制度が、「LGBTに配慮」「男子もスカートOK」という言葉で世間に広まったことで、現場が混乱している状況も見て取れた。“制服自由制度”は、大きな矛盾をはらんだ制度といえ、それゆえ報じる側に課題が存在するのも確かだ。

とはいえ、この取り組みに大きな意義があることは間違いない。柏の葉中学校は、18年に行われた「保護者説明会」の資料で制服を男女別に記載していたが、19年の「新入生保護者説明会」の資料では、制服について男女の区別をしていない。この点について、同校の滝教頭は「『自由に選択できる制服』としていることから、男女別で記載しないほうがいいのではないかと考え、今年度は男女の記載はやめました」と述べている。生徒の多様性を認めるべく、学校が日々模索しているのは間違いないだろう。

性的少数派に限らず、さまざまな生き方を多感な10代の子どもに教えていくことは、想像以上に大変なのだろう。しかし、教育現場に関わる人たちはもちろん、社会全体がこの取り組みを前向きに捉えることで、何かが大きく変わっていくのではないだろうか。新しい時代・令和では、「多様性を認める」ことなどごく当たり前のこととなるよう願ってやまない。
(小沢由衣子)

当記事はサイゾーウーマンの提供記事です。

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